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中東における宗教的な少数派についてのノンフィクション。
各章とも非常に興味深く読んだ。大半が現在も紛争地帯なだけに、序文にある『中東の多様な宗教が、まだその母国に存続している姿を見ることができるのは、おそらく、私たちが最後の世代になるだろう』という文章が重い。
余談だが、帯にある『レタスを食べるのを拒否する』理由は結局解らないままだった。著者本人も明確な答を得られなかったらしい。何故、レタスなのだろう……?
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本書は、中東の宗教的少数派コミュニティを訪ねた著者が、現代に生きる彼らの姿をまとめあげたものである。
中東はイスラム一色だと思いがちだが、実は多様な宗教の宝庫である。中東はユダヤ教、キリスト教、イスラーム教の誕生の地であるだけでなく、他の数々のマイナーな宗教の生まれた場所でもある。
古代からほとんどその姿を変えずに伝統を守ってきた宗教もある。中東の宗教が現代の西洋に与えた影響もある、善行により天国に入るという考え方はもとはゾロアスター教のものだし、握手の習慣はミトラ教からローマに伝わったものだ。
そんな少数派宗教が危機を迎えている。ムスリムとの対立や内戦によって激しい迫害を受け、信者は国外へ脱出していった。
身の安全のためには仕方ないことではあるが、一方で彼らの国外への脱出を促すものであり、すなわち本国でのコミュニティ消滅を加速するものである。
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"私は、中東に恋をした。"
この本のうまみを一言で表すには、プロローグで登場するこの言葉だけで充分であろう。
筆者はイギリスの元外交官。中東各国へ駐在する度に出会う、社会の隙間でかろうじて生きることを余儀なくされている宗教の信者たちを、外務省退職後に改めて追跡取材した本書。
その教義一つ一つが門外漢にとっては分かりづらいのと同様、そのそれぞれがたどってきた歴史も一筋縄とはいかず、読み進めるのには少し苦労した。宮本常一さんのような、今目の前にあるものをそのまま書き出すというスタイルではなく、インタビュー、文献研究、周囲の状況を織り込みつつ筆を進める筆者のスタイルも、それに拍車をかけているのかもしれない。
それでも、邦訳のタイトルにあるような「失われゆく」宗教を信仰する人々から、何かを学び取ろうとする筆者の姿勢は見習うべきものだ。またこの本の翻訳版を出版した亜紀書房は、専門家の解説、表記チェックなどをおこない、翻訳以上の付加価値を生んでいる。一読者として、とても感謝している。