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テレビ報道の危うさ
1.事実の豊かさを、削ぎ落としてしまうという危うさ 2. 視聴者に感情の共有化、一体化を促してしまうという危うさ 3. 視聴者の情緒や人々の風向きに、テレビの側が寄り添ってしまうという危うさ
是枝裕和 わかりにくいことを、わかりやすくするものではなく、わかりやすいと思われていることをの背景に潜むわかりにくさを描くことの先に知は芽生える
無知は恐怖を生み、恐怖は怒りに変わる。やがてその怒りは殺意につながるからです
井上ひさし 風向きの法則
風向きがメディアによって広められていくうちに、その風が次第に大きくなり、誰も逆らえないほどに大きくなると、「みんながそういっている」ということになってしまう。風向きの法則が起こるのだ
村上龍 日本は自信を失いかけているときに、より一体感を欲する。それは非常に危険だ。
流れに逆らうことなく多数に同調しなさい、同調するのが当たり前といった同調圧力は、日本では様々な場面で登場してくる。ここ数年は、その圧力が強まっているとさえ感じる
柳田邦男 危機的な日本で生きる若者たちに八ヶ条
1. 自分で考える習慣をつける。立ち止まって考える時間をもつ。感情に流されずに論理的に考える力をつける 2. 政治問題、社会問題に関する情報(報道)の根底にある問題を読み解く力をつける 3. 他者の心情や考えを理解するように努める 4.多様な考え方があることを知る 5. 適切な表現を身につける。自分の考えを他者に正確に理解してもらう努力 56. 小さなことでも自分から行動を起こし、いろいろな人と会うことが自分の内面を耕し、人生を豊かにする最善の道であることを心得、実践する。特にボランティア活動など、他者のためになることを実践する。社会の隠された底辺の現実が見えてくる。 7. 現場、現実、現人間(経験者、関係者)こそ自分の思考力を活性化する最高の教科書であることを胸に刻み、自分の足でそれらにアクセスすることを心がける 8. 失敗や壁にぶつかって失望しても絶望することもなく、自分の考えを大切にして地道に行動を続ける
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NHKで夜7時半より放送していた「クローズアップ現代」は毎回見ていた。社会問題を扱う硬派の番組としていつも興味深く視聴していたのだが、唐突に終わってしまった。
番組終了の理由などわかるはずもないが、その後安倍官邸との軋轢が世に流れた。番組内の菅官房長官へのインタビューが逆鱗に触れたというのである。
その菅官房長官との集団的自衛権についてのインタビューも小生は見ていた。国谷裕子キャスターの鋭いツッコミ、菅官房長官の反論、そこまで聞くかとつぶやきがでるようなさらなる質問。ヒリヒリするような緊張感が張り詰める。エンドテーマが流れる、残り時間が無い! さらに質問をたたみかけるキャスター。菅官房長官の発言途中で番組はブツッと終わった。
官房長官の発言内容の評価は人によって違うだろうが、この終わり方はやはり菅官房長官の醜態に見えた。当然安倍官邸は怒っただろう。
まさにジャーナリズムの原点は権力の監視にあることを国谷キャスターは教えてくれている。この迫力はどんなドラマよりも勝る。
その国谷キャスターが書いた「キャスターという仕事」が面白くないわけがない。本書は夢中で読み終えることができる本である。
2017年6月読了。
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「クローズアップ現代」のキャスターとして23年間、鋭い視点から社会に切り込んできた著者の総括ともいうべき書。NHKアナウンサーとしての失敗から始まり、代表する顔になったこの方自身にも興味があるが、書の中で紹介されているインタビュー経験の裏話の数々は珠玉の記録だ。高倉健の17秒間の沈黙とその後の言葉、そして爾後の高倉健からのお礼の連絡。また石原都知事の際には中途で怒って帰ってしまうことまで想定した準備。倉本聰とのクリスマスを巡る憤り、フジモリ・ペルー大統領、田中康夫長野県知事、菅官房長官らへの厳しい質問。この方が自分自身の立ち位置に真剣に悩みながらゲストに質問で斬り込んでいく様子が、この番組の魅力をいまさらながら教えられる。15年3月の降板の経緯は十分に語られていないが、柳田邦夫氏を最終ゲストに招き、著者が語った言葉が引用されている。正に、著者の遺した遺言のような重みを感じた。3784本目(最終回)番組名サブタイトル「痛みを越えて~若者たち未来への風」の締めくくりの言葉。「社会に貢献することで充足感を得たいという若者が増えていることを示しています。とはいえ、激しい競争、管理の強化、横並びに従わざるをえない同調圧力といったプレッシャーによって、けっして声を上げたり行動がしやすいとは言えない社会。今夜はそうした中で自ら声を上げ、痛みを乗り越えていくために行動を始めた姿を通して若者たちの志を見つめます。」感動的な言葉だ。この方の子ども、若者への視線が優しい。東北大震災の子どもたちへの重松清氏の言葉の紹介もそうだ。なお、引用されている是枝裕和氏の言葉、「わかりにくいことを、わかりやすくするのではなく、わかりやすいと思われていることの背景に潜むわかりにくさを描くことの先に知は芽生える。」が著者のバックボーンだったことがよく分かった。
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政権にぶっこみ過ぎたことでクローズアップ現代のキャスター降板となったと巷では言われている国谷さんが、テレビの仕事に携わり始めてから、クローズアップ現代のキャスターとして番組が終わるまでを振り返った本。
結局、現政権にだけ批判的だったというわけではなく、聞くべきことを聞くという彼女のスタンスを貫いたっていうことだけだよな。忖度せずに。
「聞く」と「聴く」のスタンスは、キャスターだけでなく、我々も人の話をきく際には意識するべき点だと思った。
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長きにわたり継続した「クロ現」の舞台裏話を中心に構成された自叙伝。
クロ現の終了の意味や裏面の開陳はないので、昨今のNHKの体質に切り込んだ書ではない。すなわち、限界は当然に存する一方、長所も持ち合わせているテレビ報道の意味と価値に言及する点を買うべきなんだろう。
つまり、私のようにクロ現の内輪話や著者の履歴に関心がなければ、テレビ報道をマクロ的に見たエッセイという意味で、第1、9〜10、終章の読破で充分か。
もっとも、真面目な意味で、「クロ現」におけるインタビューその他の失敗談を開陳する点は好感度高し。
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私はキャスターとして、「想像力」「常に全体から俯瞰する力」「ものごとの後ろに隠れている事実を洞察する力」、そうした力を持つことの大切さ、映像では見えない部分への想像力を言葉の力で喚起することを大事にしながら、日々番組を伝え続けることになった。(p.12)
「わかりにくいことを、わかりやすくするのではなく、わかりやすいと思われていることの背景に潜むわかりにくさを描くことの先に知は芽生える」(是枝裕和、p.15)
結論をすぐ求めるのではなく、出来れば課題の提起、そしてその課題解決へ向けた多角的な思考のプロセス、課題の持つ深さの理解、解決の方向性の検討、といった流れを一緒に追体験してほしい。そんな思いで私は、番組に、そして視聴者に向き合ってきた気がする。(p.15)
テーマのすべてを知る必要はない。むしろ最初に抱いた疑問を忘れないようにする。もの知りになってしまうと視聴者との距離が離れる。そうすることで初めて、取材者と視聴者を結びつける橋渡し役が可能になる。(p.69)
報道の言葉は、新しい事実や、不確かなこと、不明瞭なものを明確に言い表すことが求められる。つまり新しい事象から新しいコンセプトを取り出し、新しい言葉を生み出さなければならないのだ。(p.76)
言葉の持つ力は絶大だ。いったん流通し始めてしまえば、誰にも止められない。メディアは、そして私たちは、そのことにどこまで自覚的だったのか。一言でわかりやすくするための、いわば造語や言い換え言葉の持つ危うさが、「ねじれ国会」という言葉には象徴的に表れていると思えた。(p.103)
準備は徹底的にするが、あらかじめ想定したシナリオは捨てること。言葉だけでなく、その人全体から発せられているメッセージをしっかりと受け止めること。そして大事なことは、きちんとした答えを求めて、しつこくこだわること。長い間、インタビューを続けてきて、たどり着いた結論は、このことに尽きると思っている。(p.150)
23年間、〈クローズアップ現代〉のキャスターとしての仕事の核は、問いを出し続けることであったように思う。それはインタビューの相手にだけでなく、視聴者への問いかけであり、そして絶えず自らへの問いかけでもあった。言葉による伝達ではなく、「言葉による問いかけ」。これが23年前に抱いた、キャスターは何をする仕事かという疑問に対する、私なりの答えかもしれない。(p.175)
1. 自分で考える習慣をつける。立ち止まって考える時間をもつ。感情に流されずに論理的に考える力をつける。
2. 政治問題、社会問題に関する情報(報道)の根底にある問題を読み解く力をつける。
3. 他者の心情や考えを理解するように努める。
4. 多様な考え方があることを知る。
5. 適切な表現を身につける。自分の考えを他者に正確に理解してもらう努力。
6. 小さなことでも自分から行動を起こし、いろいろな人と会うことが自分の内面を耕し、人生を豊かにする最善の道であることを心得、実践する。特にボランティア活動など、他者のためになることを実践する。社会の隠された底辺の現実が見えてくる。
7. 現場、現実、現人間��経験者、関係者)こそ自分の思考力を活性化する最高の教科書であることを胸に刻み、自分の足でそれらにアクセスすることを心がける。
8. 失敗や壁にぶつかって失望しても絶望することもなく、自分の考えを大切にして地道に行動を続ける。(柳田邦男、pp.233-234)
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・テレビ報道の危うさ
1 事実の豊かさを、削ぎ落としてしまう
2 視聴者の感情の共有化、一体化をうながしてしまう
3 視聴者の情緒や人々の風向きに、テレビの側が寄り添ってしまう
・わかりにくいことをわかりやすくするのではなく、わかりやすいと思われていることの背景に潜むわかりにくさを描くことの先に知は芽生える
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国谷キャスターの半生記。クローズアップ現代以前から以降まで。よく見る番組だったので面白く読んだ。
1990年の国谷さんは,地上波を一年で降ろされて,挫折の後の衛星放送時代。やはり死ぬほど働いてた模様…。
“睡眠時間が三時間という日もざらで、五時間寝たら今日は本当によく寝たと思える日々”p.42
クロ現の仕事が長くなり「女性が活躍できる社会を」って風潮になって,自分の体験を苦々しく思い返すそうだ。
“無我夢中で仕事をし、キャスターとして認められたかった私は、体の具合が悪く、熱があっても、吐き気を催しても決して休まなかった。バケツを席の下に置きながら放送したことも”p.43
聞くべきことをきちんと聞くというインタビューの基本について。これは適切な例でないと感じた。
(田舎のアップルパイコンテストで優勝した)“おばあちゃんに、「添加物を使っていないか?」とあえて尋ねる、まさにジャーナリズムとしてのインタビュー機能が失われてもよいのだろうか。”p.174
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2017年後半は怒涛の日々で、本と向き合う時間がまるでなかった・・・というより本と向き合う心の余裕がなかった。そんな日々も終わり、2018年は取り戻すぞー!な気分で手にしたのがこれ。
同業というのはおこがましいけど、放送の現場を知る人間にとって、読み応えのある内容で付箋だらけの1冊となりました。
放送開始が平成5年のクローズアップ現代。私の入社が平成4年。報道に関わる人間としてリアルタイムで放送を見てきた。いつも泰然としてしなやかに切り込んでいく、そんな印象を持っていたけど、キャスターとして挑んだ国谷さんの強い思いを知り、その姿勢を知り、勉強になることばかりだった・・今さらだけど(笑)
〇インタビューは自分の能力と準備の深さが試されるものであり、それがさらけ出されるもの。入念に準備して、その準備とおりインタビューしようとすると大失敗につながりかねない。実際のインタビューの場になったら、準備してきたものをすべて捨てなければならない。
〇キャスターの役割は自分の言葉で語ること。それは個性を打ち出すことや、「個人の主観」「私見」を語るということではない。
〇テレビ報道の3つの危うさ
①事実の豊かさをそぎ落としてしまう
②視聴者に感情の共有化、一体化を促してしまう
③視聴者の情緒や人々の風向きに、テレビの側が寄り添ってしまう
なんとなくぼんやり感じていたことを言葉にしてもらえるスッキリ感・・・天童荒太さんにも感じた感覚で読了。
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真摯さ、真面目に取り組む姿勢は、どんなときでも良い印象を受ける。『もしドラ』で「真摯さ」が大事だと書いてあったのを思い出した。クロ現やクロ現+が終了時間ギリギリになったり、途中で切れてしまったりしたのを観たことがある。原則ゲストを呼んでの生放送であって、流れによって司会者がゲストから言葉を引き出していくためそういうことが置きうるのだなと、現場のギリギリ感がよく分かった。
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2018.12.16読了(図書館)
☆3.3
著者の仕事に対する向き合い方に触れ、同じ女性としてすごく尊敬した。
インタビューに臨む姿勢などはビジネスにも通ずるところがあるので、男性が読んでも十分参考になると思う。
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積極的にテレビを見なくなって10年、もっぱら朝は「ラジオ」。
朝からワイドショーやニュースを見てしまうと、ついつい映像に取り込まれて手が止まってしまうのが嫌だから。
でも、ラジオなら耳から入ってくるし、言葉から情景を想像することができるので、自分で考える余地がある。でも、テレビは映像という圧倒的インパクトにより、想像力が欠落してしまう。
これは「本」も同じ!映画やドラマは好きだけど、どうしても映像の力に頼ってしまう。でも、活字は自分の想像力(時には間違ってしまうこともあるけど)を養うこともできるから楽しい!
NHK「クローズアップ現代」のキャスターを23年務めた著者も映像の力に頼るジャーナリズムは時として事実を捻じ曲げたり、誤認させたりすると警鐘を鳴らしています。社会問題は、一人または一側面だけで捉えようとすると事実を間違って捉えてしまいます。(または偏った考え)なので、いろんな側面から捉えて、自分なりの考えを持つことが大事ですね!
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テレビが世間に与える影響力はインターネットが普及してもなお大きい。本書の中で語られる国内外の情勢を報道する者の姿勢は、報道関係者だけでなく、他の業界にも適用できると感じた。
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面白い。23年間キャスターとして努めてきた著者の熱量が凄い。キャスターとは、報道とはどうあるべきか。常に自問自答し続けて、突っ走って来たのだろう。惜しむらくは一つ一つのエピソードが、単発で突っ込んでいないために没入感があまりないことか。恐らく番組を見ていた人ならばわかるのかも知れないが、、、、
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実家に住んでいた頃は、
よく見ていた番組、「クローズアップ現代」。
キャスターの国谷さん、カッコいい女性だなあと思っていました。
本書を読んで、相当な覚悟で挑んでいた番組だったことがよく分かりました。
私事ですが、
ちょうどこちらを読んだ時期、
この先、無謀と思われる大きな仕事が待ち受けています。
ときどき、
「引き受けなければよかったなあ」と不安に思う時があり、そんな最中に、本書を読みました。
勇気づけられました。
「真正面から取り組み覚悟」
「ひたむきに」
「全身で」
「真剣勝負」
このような言葉が、私のプレッシャーを心地よいチャレンジ精神に変化させてくれました。
また、国谷さんの「フェアへのこだわり」が強く感じられました。見習おうと思います。とても強い方です。
真似できないかもしれませんが、真似したいです。