紙の本
太平洋戦争が残した混血の狐児たち
2017/11/07 08:46
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投稿者:ミニョンの真珠 - この投稿者のレビュー一覧を見る
太平洋戦争の敗戦後、邦人の母親に棄てられた混血の子どもたち。とある私設の孤児院で育てられるものの、彼らはすべからく、多くの邦人から白眼視される。時として身に覚えのない殺人事件の嫌疑をかけられる子どもも。個々の温度差はあるが、成人を前にこの国に居場所がないことをさとる。かといって海外に居を移せば東洋人扱いをされるのが関の山だ。彼らは私達が生涯臨むことのない国境を生きている。がしかし、作中、そんな彼らの生は所謂“運命に翻弄された”的な脆弱なものとして扱われてはいない。私はそこに、人間の強さ、換言すれば美しさを見た。
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混血児のミキちゃんが池に落ちて死んだ
オレンジ色の鮮やかなスカートをつけて浮かんでいた
不審な少年が一緒にいるところを、他の混血児たちは目撃していたが
大人の機転で、事故死として処理された
ミキちゃんが池に落ちる瞬間は誰も見てなかったし
取調べで子供たちを傷つけたくもなかったから
しかしそれから数年後
あの池の近くで
オレンジ色を身につけた女の死体が、時々発見されていることに
成長した混血児たちは気づいてしまう
それらの女の死が、あの少年のしわざによるものか
もちろん誰にもわからない
学校では低脳あつかいでいつも孤独だったその少年への偏見を
混血児たちは認めたくなかったが
一方には、あのとき蓋をすべきではなかったという後悔もたしかにあった
しかしいずれにせよ
いまさら蒸し返すこともできやしない
なぜなら、ミキちゃんを突き落としたのが自分たちではないと
証明することもできないのだから
それが戦後まもなく…といっても昭和30年代半ば頃?の話
その後、混血児たちは不安を抱えながらも大人になって
それぞれの道を歩んでいく
そして時は流れ2011年、東日本大震災が発生した
かつての子供たちも、既に死者の声を聞く年齢だったが
煮凝りのように充満した放射性物質を幻視して
生と死が交じり合う世界への確信を得ると
ようやく過去との和解を果たすこともできたのだった
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著者:津島佑子(1947-2016、三鷹市、小説家)
解説:石原燃(劇作家)、安藤礼二(1967-、東京都、文芸評論家)、与那覇恵子(1952-、那覇市、日本文学)
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登場人物が多すぎて何度も読み返さないと分からなくなるけれど、読むたびに何とも言葉にし難い感情が湧いてくる。
その理由としては登場人物の負い立ちや、事件、災害等、たくさんの悲しい出来事が激しく絡まりあっているからだと思われる。
読みやすい本ではないと思うけれど、今のコロナや世界のどこかで起こっている戦争など、平和が簡単に崩れてしまいそうな今だからこそ、沢山の人に読んで欲しいと思う。
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敗戦から3.11まで。米兵との間に生まれた混血孤児等の苦悩の人生が、幼少時の忌まわしい出来事を核に描かれる。読了後、放心状態に陥った。争いも災害も後を立たず疫病の流行もあった。平和も安全も脆く崩れる。都合の悪いものから目を背け蓋をすることへの警笛にも感じた。いとうせいこう『想像ラジオ』が読みたくなった。