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著者から献本いただいた。
江戸期の幕府・藩校の文庫や市井の読書状況・図書共有慣行を中心に、一部を割いて古代・中世の日本の図書館っぽいものについても触れた本。
タイトル通り、江戸期の話は具体的なエピソード・例を盛り込みつつ書かれていて、これは来年度以降、担当授業(図書・図書館史)に反映しようかと思う。幕府の御文庫の話とか退屈だしあんまり触れないでいたんだけど、将軍が何を借りていた、みたいな話があればぐっと学生の親しみも湧くだろうし。
ただ、ときどき出てくる、当時の営みが現代の図書館のサービスにもつながっていますね、みたいな話は余計に感じた。それがないと読者の関心を引き付けられないだろう、という意図によるんだろうけれど、大半は江戸から現代まで日本の図書共有文化の中で引き継がれてきた・・・というよりは、単に図書を共有する営みで普遍的・必然的に発生する慣行である気がする(要検証)。
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江戸時代の、とあるが、古代からの図書館の日本史。江戸時代の蔵書の家の話が面白かった。迷子、重複本の処理、などなど。図書館で起きることはどの時代も変わらないのだなあ。
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日本における図書館(のようなもの)の歴史で、
江戸時代の図書館・出版事情に焦点を当てている。
第一章 古代・中世の図書館
第二章 将軍専用の図書館・紅葉山文庫
第三章 藩校の図書館
第四章 庶民の読書ネットワークー蔵書家・貸本屋・蔵書の家
自分が図書館通論を学んだときに、この本があったらなぁ
と、思いました。
各時代での蔵書管理や納められてた本の内容、
貸出管理、対象者等が詳しく書かれており、わかりやすい。
江戸時代における、徳川吉宗の読書状況や藩校での貸出の
様子、都市や地方での個人蔵書の貸出は興味深いものでした。
残念なのは、庶民についてがもう少し欲しかったこと。
もう少し詳しい貸本屋事情と,
庶民の子どもが学ぶ寺小屋では、どのような本を
扱っていたのか、貸出はあったのかが、
知りたかったです。む~、史料自体、少ないのかなぁ。
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すごく面白かった。また読むと思う。
ライブラリアン、本スキー、歴史スキーの皆さまはぜひ。
明治に「ビブリオテーク」「ライブラリー」として、輸入されたのが現在まで続く図書館。
それ以前からあった、図書館にあたるものを見ていく。
●古代の図書館
「図書」= 文字だけでなく、図も含む概念。『易経』の一節が語源。
漢書と仏書が最初の日本の資料。
・大宝律令の中で、「図書寮」が制度化。
→書司職。尚書、典書、女孺
・宮廷文庫、公家文庫、経蔵
●中世の図書館
閲覧可能なものが、多かった。
武家
・武家文庫(金沢文庫・名越文庫が有名)
・学校文庫(足利学校が有名)
寺社や公家
・寺院文庫(東福寺の普門院書庫・海蔵院書庫が有名)
・五山版(禅寺。出版社の役割)
・朝廷文庫→中国由来
・朝廷文庫(蓮華王院宝蔵(三十三間堂))
・日記の家(レファレンスセンター)
→現在の図書館活動に近い。貸し出しや取り寄せなども。
・室町時代後期。庶民にも徐々に読書に親しむようになる。
●将軍専用の図書館
家康は学問好き。
→詩歌ではなく、実用書が好み
→出版事業も行う
・駿河文庫、富士見亭文庫
→戦国時代に焼失した書籍を惜しみ、残存しているものを収集した
・紅葉山文庫
→家光により、富士見亭から紅葉山文庫へ。
→将軍個人のものから、書物奉行創設へ。
→漢籍(経部・史部・集部・子部・付在部・彙刻類)・御家部・国書部に大別。
…中国:四部分類の紅葉山文庫オリジナル
図書収集
…献上本:貴重書、献上者の編集・出版した本
…輸入本:漢籍(輸入唐本)
→検閲。初期・長崎春徳寺の住職。のち、「書物改」医師・向井元升
→「見計らい」
…謄写本:写本。写本作成。焼失のたびに行われる
…没収本:罪人が蔵書家だった場合、本を没収。
…洋書:出島を通して輸入。渡辺崋山などから、没収たものも含む。
…幕府編纂物・幕府記録:歴史・系譜・伝記・地誌・医書・暦法・教訓・法制・類書・地図など、多岐に渡る。公文書類も所蔵。
「収集方針」「除籍基準」を設ける。
→除籍したものは、贈与・払い下げられた。
書物奉行→司書
…約233年で約90名
…「三十日伺」→督促。将軍といえども例外無し!吉宗はブラックリスト人物。
…字が上手く、本に興味があるものを取り立ててほしいとの上申。←時代を経ても変わってないなあ。
吉宗と紅葉山文庫
…吉宗は本オタク。
将軍としての知識。仕事のための資料
家康大好きなので、その事績。
…目録の改革
当時の司書の愚痴が残っている。夜中の仕事の持ち込みが結構あった。
…「三十日伺」施行直後に吉宗に。12年間借りっぱもあった。→在任中に三十日伺廃止
●藩校
四書五経を徹底的に学ぶ。
ディスカッションが盛ん。
→暗記・自学自習・討論
昌平坂学問所
→幕府からの図��費、諸大名からの寄贈書
検閲→「納本制度」
「多く本を借りても何が重要なのかわからなくなり、却って心も乱れてしまう」ため、貸し出し制限
→多読よりも熟読・精読…吉田松陰は多読派
よく利用される資料は別置。貸出禁止
東京書籍→帝国図書館→国立国会図書館
旧藩校蔵書→ほったらかし→公立図書館の創設運動
司書の起源
藩校文庫の管理
→先生や書記が担っていたが、片手間にできる仕事ではなく、専門職に。
→掌書、司籍、書持方勤番、典籍、学校書物頭、司書…などと様々に呼ばれていた。
…司書を使っていた藩。亀田藩、庄内藩、紀州藩、岸和田藩、佐賀藩。
佐倉藩校成徳書院
→館外貸出、夜間開館も行っていた
米沢藩校興譲館
→鷹山が復興。
→廃校後、蔵書散逸。米沢図書館、上杉博物館、山形大学、国立国会図書館なとに。
長州藩校明倫館
→荻と山口、二カ所。
→紛失が多いので、出納が厳重に。ただ、利用を重視し、貸出禁止にはならなかった。
藩校文庫=大学図書館、学校図書館の役割。
…保存主体ではなく、利用主体
…自学自習の気風
●庶民の読書ネットワーク
初期:古活字版の時代
…写本主体
…朝鮮より銅製活字もたらされる→古活字本
…寺院での仏教関連本、医師による医学書の印刷・出版
…次第に木版印刷が取って代わる。
盛期:出版業の確立
…商業出版「売れる本」の刊行
菱川師宣「絵本」
漢籍には訓点が書き込まれ、読みやすく。
中期:江戸での出版の隆盛
…大衆化・商業化がすすむ
吉宗の出版条目
→異説の禁止、性的な内容の禁止、誤説流布の禁止、作者・出版社の実名記入、徳川将軍家に関する出版物の禁止
→本屋仲間(組合)の結成の公認 享保の改革
…硬い本の書物問屋、娯楽本の地本問屋
…幕府からの絶版処分をおそれ、内容点検の自己規制を行う。→公権力による検閲とは別だが…
…著作権はないが、版権の侵害に対し厳正なルールを作る。
…以上は写本は適用外。際どいのは写本
草双紙
末期:学術書刊行の隆盛
…幕府による「官版」寛政の改革
木版だけでなく、木活字印刷も。
…色恋小説などへの弾圧。京伝と春町。蔦谷って、TSUTAYA?
…藩校版の隆盛
出版の裾野がひろがる。
識字率
…地域によって、ばらつきがある。都市部の識字率は高かった。
読者の増大
…十返舎一九、方言の間違いを指摘されたことをきっかけに、松本に住む読者と交流をはじめる。地方にも読者!
←現在のネット小説ぽいね。
庶民の読書スタイル
→自分で本を読む。音読も、黙読も。
…見台に気の草臥れる書の歩み
…寝ころんで見てこそ栄花物語
…武蔵野を寝てみる今が太平記
…火燵にて裾舐めらるる太平記
…浄瑠璃の本は昼寝のかぶり物
→講談・講釈で聞く…講釈師。小屋で
→太平記読み…路傍などで読む芸人
都市の書物ネッ��ワーク
…貸本屋(本の行商人も)
大野屋惣八←図書館のような貸本屋。見料もあまり取らなかった
…蔵書家
小山田与清「擁書楼」→家業を傾けるぐらい
学者も利用していた。
村落の情報ネットワーク
受け継がれてきた情報の文書化。
自村や周辺だけを気にかけていたのが、幕府・朝廷の動向の情報も収集するようになる。
→蔵書家のネットワークがひろがる「蔵書の家」
…茨城県の一農村の名主がペリー来航の極秘情報まで掴んでいた。
…他、各地で、私設図書館の構想