紙の本
良心という言葉がこれほど当てはまる人たちもいないでしょう。
2017/12/27 22:11
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:たけぞう - この投稿者のレビュー一覧を見る
しびれました。一人あたり十通ずつの書簡集です。
書簡体小説を読んだことはあるのですが、作家どうしの
書簡集は初めてでした。あまりの素晴らしさで癖になりそうです。
いいからとにかく読んでと書評をここで切り上げたいくらいです。
岩波書店の雑誌「図書」から梨木さんに連載依頼がありました。
イスラムのことを学びたい、どうせならムスリムの方と往復書簡の
形でと編集者に相談したら、「イスラームから考える」という本を
紹介されました。
その縁で師岡カリーマ・エルサムニーさんを知り、何度か会って
この書簡集が生まれたのです。
NHKラジオでアラビア語放送のアナウンサーや、
TVのアラビア語講座の先生をしたり、翻訳なども務める
カリーマさん。写真がありますがとても綺麗な人です。
さらに、おそらく初公開だと思いますが梨木香歩さんの
近影もありますよ。
そんな二人のやり取りは、イスラムという異文化思想を
入口にしたことから、ぎこちなく始まります。
相手の言葉を丹念にひろい、謙遜する姿勢を持ち上げたりなど
面はゆい文章も目につきます。しかしそれは前半の数通までです。
書簡集というのは深く伝わるものですね。
対談だと、頭の回転の早さが大事になってきますし、言語化の
当意即妙さも必要になってきます。
それが一カ月に一通の書簡の場合は、考えを徹底的に
練り込むことができるのです。
対談には切り口の目新しさや価値観のぶつかり合いの魅力が
ありますが、書簡集はそれが何倍にも膨らんだ状態だと
思うのです。
数々の例や、思いもよらない視点、体験談。
多くの事例を通して展開される文章は、珠玉の金言集で
こころが揺さぶられっぱなしになります。
知性と良心の掛け算が、書簡のやり取りで相乗効果を生んで
昇華していくのです。
宗教という入口から、価値観の認め合い、寛容さという人間力へ
どんどん話が展開していきます。
すぐさま再読しました。文庫になって欲しいです。
切に、切に願います。
例えば梨木さんのこんな考え方。
>日本はすごいという本の多さ、やっぱり日本人は
>素晴らしいんだという論調に対する違和感。
わたしなどは素直に日本人賛辞の言葉を受け入れていました。
梨木さんは、そんなにも日本人は自信を失い、コンプレックスに
打ちひしがれているのかと書きます。
わたしたち日本人のアイデンティティを、自分自身を浸食されず、
歪んだナショナリズムにも陥らない「世界への向きあい方」の
ようなものが何かあるはずだと言います。
カリーマさんはエジプト人と日本人のハーフで、二つの立ち位置を
持ちます。本人は境界にまたがる根無し草と考えていますが、
だからこそ梨木さんが相手に選んだのです。尊敬をもって。
自分の不寛容さが見抜かれたようで、頭の中をすかんと
突き抜けていきました。これが教養であり、人間力であると
思わずにはいられませんでした。
画一的にこうだと決めつける愚かさに対して、あらゆる価値観を
受け止める寛容さを知りました。
先に美しい人と書きましたが、お二人とも写真に人柄が
あふれています。まずはそこから、この本に会いに行っても
いいかもしれません。
きっとページをめくりたくなるはずですから。
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2015年から1年半に渡る20通の往復書簡。岩波書店のPR誌『図書』に連載されていた(2016年1月号〜2017年8月号)のを部分的に目にしていた。民族や国家、群れと個人、自分らしさ、自由、そして宗教や信仰のことなど、タイムリーに考えさせる簡単ではないテーマが多いものの、往復書簡という対話スタイルのお陰か思いの外読みやすく、するすると読了した。自分でももやもやと抱いていた気持ちにちょうどいい言葉を与えてもらったな、と思う箇所も少なからず、あちこちに栞を挟みながら読み終えた。ときどき読み返す本になりそう。
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ひとめ表紙を見たときの予感を外さず、いい本だった。往復書簡という体裁をとって梨木香歩さんと諸岡カリーマ・エルサムニーさんが交わした対談。梨木香歩さんは「家守綺譚」「西の魔女が死んだ」などの文学作品や、自然と人の暮らしを語るみずみずしいエッセイを綴る作家。諸岡さんはエジプトと日本のダブルで、幼少時には日本で暮らし、高等教育をカイロとロンドンで受けて、現在は日本でアラビア語教師をされつつ、翻訳やコラムを手がけておられる方。個人と集団への帰属意識、アイデンティティの問題、歴史と異文化同士の衝突と融合、信仰と暮らしといったテーマを扱いながらも、そこで語られているのは常に、ひとりひとりの人と人との関わりのあり方について。”それぞれの「寛容」を鍛え抜き、洗練された寛容にしていくこと。””その人の信仰故にあるべき姿を基準にその人の行いを裁くのは、必ずしもフェアではないということ。”自分がいま持っていない視点、に触れてものを考えることが好きな方には、ぜひおすすめしたい。
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お二人の柔らかな思考。
こんな時代だからこそ、この2人のような感性と知性と思考を学びたい。
これまたうまく言語化できないけれど、お二人の往復書簡を読んで感じたことを自分なりに言葉にしたい。
これももう一度じっくりじっくり読み返そう。
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個が確立するってこういうことなんだろうな。師岡氏と梨木さんのやり取りから浮かび上がるもの。
大人ってこういうことだろうな。
お二人の世界観、好き。
縦社会と横社会、うまく織りなしていくといいな、ということ。梨木さんと会社経営者や国家の首相と話し合ってほしい…。国家とか民族という概念が古いものになる時代も来るのかもしれない。
現実はシビアだけど、ワクワクする。
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初読。図書館。往復書簡。選び抜かれた言葉で心の底にある思いを真っ直ぐに届けあう幸福。そしてそれが読者にも開かれている幸運。この時代を生きていくためにどのような個人であるべきなのか。示唆に富むやり取りの中から勇気づけられる光の道筋を探し当てることができる気がする。
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往復書簡という形を初めて読みました。
そういう形式よりも、二人の視点の高さや
柔らかさが非常にいいと思いました。
世界的に・世間的にいろいろな問題があるなかで
極端な端のほうに寄って行こうとする人々に
読んでほしい内容だと思います。
こういうこころの持ちようで常にいたいと思います。
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著者2人が、イスラム教や今の日本の状況、世界で触れ合った人々について、わかりやすく率直に表現している往復書簡本。
とてもポジティブな気持ちになれます。
お互いの気持ちを思い合いながら書かれているので、読んでいるこちらまで、とても素直な気持ちになり、2人の言葉が心にスッと入ってきます。
読むごとに、私の考えや想像力も、空を舞うように、土に水が染み込んでいくように、豊かに広がっていく感じがして、とても素晴らしい読書体験が出来ました。
宗教ってどうなんだろう?と漠然と考えている人や、世界のこれからに悲観的な思いがある人に、それ以外の全ての人にも、是非オススメの一冊です。
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2018.1月。
往復書簡。広く複雑な世界。知らないことだらけの異文化や宗教。大きなことはわからない。それでも個と個のつながりやコミュニケーションから新しいことは生まれるんだと思う。知ろうとすること、繋がろうとすることから。
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梨木さんとカリーマさん、お友達ではなかったのですね。あとがきを読むまでお友達だと思って読んでいました。
でも、お二人とも視野が広くなんと柔軟な感性を持っていらっしゃる事か。
お二人の様にとまでは行かなくとも、私ももう少し柔らかでありたい。
梨木さんの本にはいつも「こうありたい」と思える女性が出てきますが、梨木さんご本人がそういう方だからなのでしょう。この本を読んで納得しました。
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富士の山のうたの歌詞についての記述は
共感した。
富士山は別に他の山を
見下ろしてるわけではないだろう、と。
このあたりの表現に敏感なのが、
現代なんだなーと思う。
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石牟礼道子さんを
想い起してしまった
人も
海も
山も
自然も
それはそれとして
すんなり受け止めて
自分も自然の一部分に
過ぎない
だからこそ
唯一無二の存在として
人も我も
大事にされなければならない
人種だとか
民族だとか
宗教だとか
国だとか
そんなものを
遥かに超える
ものが確かに在る
梨木香歩さん
師岡カリーマ・エルサムニーさん
のお二人の間の
やり取りであるからこそ
自ずと
滲み出てくるもの
なのでしょう
梨木香歩さんの「あとがき」の中の一節で
ー(心を震わせるような出来事があった時)
あのひとがなんというか聞きたい、
と思える大切な友人が増えることは、
なんとひとを豊かな思いにすることだろう。
と綴っておられることに心震えました。
追記
〽あたまを雲の 上に出し
四方の山を 見守りて
かみなりさまは 下で鳴る
富士は 日本晴れの山
上でも下でもない
右でも左でもない
一人の個人として
立っておられる
梨木香歩さんの替え歌には
まったく そのとおーり
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イスラム教、キリスト教、仏教…
西欧人、東洋人、アフリカ人…
人類は地球が丸いということを、紀元前から知っていた。
それなのに、人類は分化を続け、互いを排他するようになっていった。
文明の発達により、今、急速に地球は小さくなりつつある。
文明が縮めた距離に比べ、人間同士の見えざる距離は、そう簡単に縮まらない。
実は1対1の対話では、その距離が一気になくなる。
ということは、人間同士の距離とは、人間の集団と集団の距離なのか。
人類同士が排他し合う世の中を、終わりにできるような希望を感じる二人の書簡のやり取りでした。
また二人の美しい日本語も、必見です。
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私は、というか大部分の日本人はおそらく、政治や宗教の話題をはっきりと語るのを苦手としていて、そこには、あまり理解していない恥ずかしさのようなものもある。それでも梨木香歩さんのエッセイを読むのは好きで、それは彼女の言葉が未知の世界に人間性や日常性を与えて、読んだ私も半歩くらいは歩みだした気にさせてくれるからかもしれない。まるでパッチワークのように多様性に富んだ、美しい私たちの星。その星を愛する2人の女性の美しい言葉。読んでいる数日間、本当に気分が晴れていて、そういう本があることに感謝したくなった。
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梨木さん、悪い意味でリベラルだったんだ。彼女の小説もエッセイも大好きだけど、これはちょっとダメだった。文学としてのすごみはあるのに、文学者としてのすごみが感じられない。政争ではなく、政治と権力をもっと深くえぐって欲しい。
師岡カリーマ・エルサムニーさんは、初めて。梨木さんにおもねるところはあったが、事柄におもねりがなかったこと、自己を冷静に捉えていることに好感を持った。こういう生き方もあるのだと思った。