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虐待をするのはひどい親、と言うのは簡単だが、実はそう単純ではない。DV、貧困、両親との不仲、社会的孤立、非行、幼少期の虐待経験、軽度知的障害など、重なりに重なって親を苦しめている現実がある。
読んでいると、目を覆いたくなるような悲惨な状況があり、何の罪もなく亡くなった子供達が本当に哀れだと感じた。
満州女塾の話と、現代の児童虐待の状況が似ているという見方がなるほどと思った。追い詰められた人間のしわ寄せが、一番弱い者へ向かう。
考えさせられる箇所が多々あったが、著者の取材を元に書かれた文章は非常に具体的で、読むのに辛い部分もあった。
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「完璧な」子育てを求める社会とその社会規範を内面化した親たち。能力や環境によってそれが不可能になると虐待となってしまう場合がある。
困った人が気軽に助けを求めることができない社会。
支援する制度があってもそれに頼ることを知らない、知っていても頼ろうとはしない社会不信の親たち。
弱さを見せても大丈夫だという信頼をもてる社会にする。
第1章 ルポ 厚木男児遺体放置事件
1 作られた「残酷な父親」像
2 助けを求めることを知らない親たち
第2章 「近代家族」という呪縛
――二つの虐待事件を追って
第3章 国家と家族のあいだで
――「満州女塾」再考
第4章 社会につながれない「ニューカマー」たち
――川崎中1殺害事件の深層にあるもの
第5章 育児は母親だけの義務か?
――母性から降りる、共同体で支援する
付録 誤解される「子どもの精神障害」
――児童精神科医・滝川一廣さんとの対話
終章 家族はどこへ向かうのか
――虐待予防の現在、そして新しい家族の形のために
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数々の児童虐待の事例から国家の"小さい穴"を見つけていくような本。虐待の連鎖を誰かが切って終わるというより、連鎖を切った後のリスクを誰も取ろうとしないという、近代社会的な閉鎖感を強く感じた。その上で度々出てくる筆者の「この制度、国民意識が当時存在していれば」という語り方は、実感のない自分に強い当事者意識を持たせてくれる。
「新ビジョン」に掲げる理想と滝川さんとのインタビュー記事からは、現場に長年立っていたからこその痛々しい説得力と、強い願いあり、全体としていち人間ながらに"家族"について考えさせられた。
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読了しました。
著者の新聞掲載を昔に見てからのファンで手にした本です。
著者は「児童虐待」を追いかけるフリーライター。
大阪で2児がが置き去りになった事件から、児童虐待なんかが起こるのか知りたいと思っていました。その中、出会ったのが著者です。
「児童虐待」は話しを聞くたびに、目を耳をそらしたくなるようなものです。
一般的な報道では、直接の加害者(父、母など)のみ断罪して終わります。
それで本当に、失われて命が報われるのか、心にモヤモヤが消えませんでした。
著者は、その問いに答えてくれます。
相当な時間をかけての調査、加害者・関係者との接見。外見だけで語りません、その本質を抉ります。
目をそらさず、丁寧かつ誠実で、そしてシャープな視座で語ります。
なぜ加害者はそこ至ったか。原罪はどこにあるのか。さらなる提言本を読むと正直つらくなります。涙が止まらない事もあります。
加害者が特殊ではありません。誰しもその心は持ち合わせます。
最近は児童虐待の報道が少なくなりましたが、決して減っているわけではない。
本書は著者の活動をまとめたものです。
貧困、格差がもたらす負の連鎖。
普通に暮らしていたら、全く見えません。報道もされません。思う事から始まることがある事を得ました。
小さくて私にできることは何かを考える気持ちにさせてくれる本です。
また、自分の子どもを抱きしめたくなる本です。
誰でもできる、児童虐待ダイヤル189(いちはやく)
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国家の方針が基盤にあることを実感した。戦時中も現在も法律によって大きく変わる。法律の中で動いていることを思うと、子どもの権利条約や改正された法律を学ぶ必要がある。
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当時5歳の男の子を置き去りにして餓死させた、ネグレクトの事件。冒頭に出てきた報道の文章は記憶していた。そんなことがありうるのか、と胸が傷み、父親に対して強く憤ったことも覚えている。その報道がウソ、とはいわないまでも、事実はいくぶん違っていたのではないか、といわれると「え?」となる。父親には知的な障害があり、系列だてた証言ができなかったことによる誤解だったというのだ。生きたまま閉じ込められたというのも、果たして事実だったのか。男の子が亡くなった後、父親はしばらくいっしょに過ごしていたという証言もあるという。う~ん、なんとも考えさせられる。IQ69で、運転免許をとり運送の仕事ができるのかなぁ、という疑問はあるものの、数値では計り知れない部分があることも知っている。
虐待と一口にいっても、それをした親をただ悪いと責めて終わるものではない。そういう面について、深く考えさせてくれる本だったと思う。
5歳の男の子が、飢えながら閉じ込められて寂しく亡くなった、そういう事例ではなかっただけでも、少し気持ちが軽くなった気がする。軽くなってもいけないのかもしれないけど。
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児童虐待のニュースを目にするたび、自分のことのように感じる。逮捕される親を映像で見るたびに、違和感を感じていた。
私も3児の母だが、虐待をして逮捕される親と、自分との違いは何なのか。そんな疑問に答えてくれた本だった。
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TV番組で杉山春さんを知り、読みました。
虐待ニュースを見聞きするたびに感じた何で?どうして?に答えてくれた本。
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ルポ虐待を読んでからすぐ拝読。
苦しい話だが、ただただ感情的な個人の悲しい 目を背けたい事件 で終わらせず、背景や物語を丁寧に伝えてくれる。
いま、自分が生きるために食事の準備をしたり栄養を考えたり運動したり、誰かと一緒にいきようとしたり、ペットのお世話をしたり、保育士になったり。それらは"普通のレール"かもしれない。けどそのこちら側の普通は、向こうにとっての"知らなかった生活"な場合もあるのだと。そうした若者が、小さい時にアタッチメントのなかった子どもが歳を重ね性に出会い親になっていく。
社会の仕組みや戦争時代のレポートを含めた聴取や、何より孤児を出さないことが虐待防止になると知った。フィリピンの在留孤児についても学びになった。
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2章までは稠密な取材、調査を経た内容で納得しました。しかし、3章から突如満蒙開拓団の話になり、日本の家族観が虐待の要因になっているという展開は唐突観が否めません。
他の国でも虐待は起こっているのに、要員をそこに求めるのは無理があるかと思いました。
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タイトル通り、虐待に詳しいルポライター杉山春の考察がまとめられた本書。子どもを死なせてしまった親の実像から社会のあり方まで様々な考察が収録されている。先日読み終わった森達也著『U』と同じテーマが含まれている偶然に驚いた。
あるシングルファザーはアパートに子どもを閉じ込めて働いていた。その末に死なせてしまうが、その後7年間家賃を払い続けていた。彼には知的障害があった。IQ69は境界知能より低いが、仕事はこなしていた。それを根拠に「子どもの死を予想できたはず」として長い懲役刑の判決が下った。
そこにはマスコミと裁判員制度の問題が絡んでいる。マスコミが虐待に対する市民感情を煽る。虐待死させた親は「鬼畜」(石井光太著『「鬼畜」の家』)とされる。それを背景に、虐待に対する厳罰化が進んでいる。それを加速させているのが裁判員制度だ。裁判員にはレッテルを貼った説明が分かりやすい。「残酷な親」というレッテルが裁判員の感情を揺さぶる。
虐待は親子という最小単位の問題だが、家族の問題でもある。そしてそれは、地域の問題であり社会の問題でもある。ゆえに、本書は様々な話題に展開していく。大変勉強になる良書であった。