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FBI捜査官のヴィクターが取調室で対峙しているのは、マヤと自称する10代後半とおぼしい少女。ある事件の被害者である彼女は、実は共犯者なのではないかという疑いをかけられていた。やがてマヤが語りだしたのは、〈庭師〉と呼ばれる男が創りだした理想の庭に集められ、彼の手で背中に刺青を彫られ、名前を剥奪され尊厳を踏みにじられ、〈蝶〉にされた少女たちの物語だった。おぞましい〈男の夢〉と、拉致された少女同士の絆を描いたサスペンス。
耽美主義のシリアルキラーものとして読むと、〈ガーデン〉のアイデアやダミアン・ハーストじみた死体の保存法には既視感がよぎったが、マヤ=イナーラという独自の価値観を持つ語り手の設定は新鮮だった。彼女を中心に、気が強い粘土アーティストのブリス、マヤの前に少女たちのメンターを務めていたリオネットら、被害者少女たちの絶望とささやかな希望を描くシスターフッド小説としての面はすごくいい。ジーラの最後の一日が奇妙な幸福感に包まれる一連のくだりなど、涙ぐみもした。
〈庭師〉と二人の息子を通じて、女性を所有物扱いする男の典型例を見せているのも上手い。特に、父親を告発しない代わりに少女たちを攻撃もしないデズモンドを、諦めと共に受け入れていく〈蝶〉たちのやるせなさとか、どんな現実も自身の理想どおりに見ようとする〈庭師〉の認知の歪みなど、日常生活でも遭遇する種類のリアルなイヤさがある。〈庭師〉の紳士的な物腰は『侍女の物語』の司令官を思いださせる。自分が散々レイプした少女を息子に"相続"させることができて興奮する〈庭師〉のキモさにうっかり笑ってしまったが、当然笑う場面ではない。
だが、FBIの描写には違和感をおぼえた。容疑者に含まれているとはいえ、この境遇の女の子の話を聞くのに男二人でやるかなぁ。エディソンの直情的なキャラクターは読者がイナーラの供述に感じる苛立ちの受け皿として配置されているとはわかっても、最後まで好きになれなかった。ヴィクターもキャリアが30年もあるわりに尋問が上手いように思えない。彼らをもマッキントッシュ父子と同じくテンプレ的に描写することで、イナーラの口から個性豊かに語られる〈ガーデン〉や〈イヴニング・スター〉の女性たちと対比させる狙いなのかもしれないが。
深く傷つき、一度は社会との接続を絶たれた女性同士の新しい家族のあり方を書いたラストも良いことは良いのだが、なんとなく最後まで作者を信頼しきれない気持ちが残る。男性が読んでも気を悪くしないように、というところに特別心を配って書かれたシスターフッド小説という感じがするからだろうか。なんだか釈然としない。
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拉致誘拐してきた女性の背中に蝶の入れ墨を刺して美しい庭に閉じ込める男……
いくらでも耽美にできそうな題材だけども、あくまで現実主義です
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数年前の「このミス」にランクインしていた本。
グロテスクでおぞましく、でも美しい「箱庭」で暮らす蝶……少女たちの話。
時系列を前後しつつ、少しずつ明らかになっていく真相にぞっとします。
事情聴取を受けている女性が、またしたたかで美しく、素敵。ほかの少女たちもそれぞれ美しさや強さ、弱さを持っていて可愛らしい。
グロテスクで残酷、そしておぞましい話ながら、文章や情景は耽美で綺麗です。
だからこそ、「庭師」の歪さや恐ろしさが際立つのだとも言えますが。
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蝶が飛び交う美しい庭園で一体何があったのか… 凄惨な事件の影で美しくも勇ましい蝶 #蝶のいた庭
人は極限の状態になってこそ、その人の強さや優しさが試されます。
人生において様々な重要な場面はありますが、本作の主人公のような究極の立場におかれてしまった人は少ないでしょう。
本作は主人公である女性マヤが、終始警察の取り調べシーンで物語が展開されていきます。考えられないような陰惨な事件に巻き込まれてしまった彼女でしたが、持ち前の頭脳と勇気で極限の環境を生き抜いていたのです。
おそらくほとんどの人間は、生命の危機に瀕した際、混乱せずにはいられない。そして合理的な選択や決断、さらに困っている人を助けることなどできないでしょう。
まるでナイフを喉元に突きつけられたリアルな恐ろしさと、いかに厳しい精神力が必要だったかを読者に伝えてきます。
それに対して、安定した場所や安全な立場の意見がいかに薄っぺらいか…
自身の娘の無事や自身の立場にしか価値を持たない政治家、ジャーナリズムのかけらもない低レベルな質問を投げかける記者たち。
現代にはびこる低レベルな政治家や、つるし上げ大好きなネット社会を見ているようで、あまりにも卑怯さが目に余る。
そして何も判断しない、中立性についての罪についての解釈も正当性が強く、読み手に強烈なメッセージを突きつけてきます。
また支配欲の恐ろしさ、権力の持った側の価値観の狂気性についても注目。
非道な人であるのは間違いないが、庭師本人の愛情や美徳、またその家族の関係性がさっぱり理解できないんです。単なる経済的な犯罪よりも、圧倒的にタチが悪い。
いかに狭い世界での自分勝手な理屈が怖いか、ひいては世界をも滅ぼしてしまうだろうと容易に想像がついてしまう。一番怖いのは力をもつ人間で、そういった人間こそ自らを犠牲にし、愛情を分け与えるべきなのに。
本作、陰惨な事件で女性に対して辛い描写が多いのですが、ただ汚い文書や言葉はなく、美しく切々と語られていく文学的な価値が高いミステリーです。
蝶たちの心情があまりに痛いですが、読了後は主人公の静かなる勇ましさがそっと胸に残る作品でした。
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はしばみ色の瞳
じわじわ怖い不気味可愛い儚い
径〈みち〉
デズモンドの愛がEggs'n Thingsのホイップクリームみたいで笑える。アメリカのブラウニーみたいな愛じゃなきゃイヤ。
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ローズ・マコーリー『その他もろもろ ーある予言譚ー』と並ぶくらいの傑作、今年ベストだった。
凄惨でありながら美しすぎる〈ガーデン〉の幻想描写から、現実への怒涛の着地を描く最終章が、力強く未来に目を向けさせる強烈な癒しになっていた。
〈ガーデン〉の3人の男性の望む「愛」は嗜好品的で一方的で、対照的なのがマヤがラストで見つけるソフィアとの血のかよった関係性だった。
それらが鮮やかなコントラストで描かれていたのがとても素晴らしかった。
マヤの家族観の変化をじっくり冒頭から追うために、また読み返したい。
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この本に送る私からの最大の賛辞は、
「超絶胸糞悪かったけど読み切ってしまった」
である
ああよくもまあこんなに微妙に異なるイカれた連中を描き分けられたものだなぁと感心しつつ、
胸糞悪すぎて途中で本を閉じること数回。
それでも、読み切ってしまったのは、
FBIに取り調べを受けてる「マヤ」と呼ばれる謎の少女の語りに引き込まれてしまったからだ。
どこか飄々としていて掴みどころのないマヤ。
でも、彼女には、絶望の淵を覗き込んでなおしたたかな強さと他の者を勇気づける生命力が備わっている。
マヤの存在が、この暗く深い絶望の物語のひとすじの清涼剤となって、読み進めてしまうこと間違いなしだ。
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とんでもないお金持ちが自分の趣味と実益を兼ねて、少女という名の蝶を愛でるお話。家族ぐるみで変態なことに、何も知らなかった奥さんだけが可哀想な案件。結局、犯人である庭師がどんな仕事でどれ程の裕福さで、周りからどんな風に思われてるかは分からない。彼が作り上げた庭と少女、彼女達の生活の様子に視点を置いたお話。犯人側の視点が見たいな、と思う人には肩透かし。とりあえず、勝手に誘拐監禁からのタトゥーして、セックスをしたいだけの変態男とその息子達。次男はマシなようでいて、個人的には一番人でなしだと思われる。そして、綺麗なままでいて欲しいからって勝手に殺される少女達。マヤが来てからは大分マシな気もしなくもない。かなり歪な日常だけど。だけどまぁ、巡り巡って一番哀れを誘う存在は誰なのか、となれば料理人兼看護師のロレインさんでしょうか。ある程度の年齢を重ねた私からすると、やっと愛されて必要とされたと思ったら今度は捨てられ、少女達からも蔑まれる。どれだけ頑張っても相手にされず、死んだ少女を妬むまで壊れてしまうとは、一体どれだけの状況で彼女は生きてきたのか。下手したらマヤより酷い環境だったのかもしれない、と思うとそれはそれで切なくなってしまう。マヤがあれだけ逞しいから皆が支えられた所は大きいのだが、個人的には苦手な側の性格なので、読み進めるのが途中から嫌になる。かなり個人的な見解です。