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1984年、社会思想社より刊行された同名図書の増補版。巻末の紹介によれば、著者は元東京放送、南博の社会心理研究所で研究活動を行ったとある。NHK放送博物館の資料が積極的に活用されていたことも個人的には勉強になった。
ラジオは日本政府が重視し、情報の「通路」と見なしたメディアだった。それだけに、ラジオで何が伝えられ、何が伝えられなかったかは戦時下の日本政府・軍の対社会認識、対内・対外的な情勢判断の端的な表現と言える。
全体としてたいへん勉強になったが、個人的にはとくに第3章・第4章が重要。第3章では、NHKが従事していた連合国側の通信・放送傍受から、米英が原爆投下後の日本政府発表を踏まえつつ、それに合わせて内容を調整していた可能性が示唆されている。第4章では、8月10日の第1回御前会議を受けて、「原爆」という記号が国民に敗北を受け入れさせる「切り札」的に活用されていたことが明らかにされる。また、8月15日のニュース原稿と情報局の世論指導方針(8月14日17時通達)の分析から、支配層が天皇というシンボルをフル活用しつつ、戦争責任・政治責任を曖昧化しようと躍起になっていた様子が剔抉されていく。読みごたえ十分だし、自分の勉強にも参考になった。