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「いやいや、参りました」が読後感。圧倒的な筆力で惹きつけます。終盤の「アレクサドロス、怒る」に至ってはもう圧巻です。
スパルタに鍛えられ、アリストテレスに師事したとは言え、いまから2,300年も前に、32歳でこれほどの大業をなし、民心をとらえたとは...、馬齢を重ねただけの自分を鑑みると、「畏れ入りました」とか言いようがありません。
著者も(恐らくカエサルに次いで)ぞっこん惚れ込んで書いているのだと思います。そして、最後に、「考えてほしい。なぜ、彼だけが後の人々から、『大王』と呼ばれるようになったのか」と、著者は問いかけます。その答えが、全編に亘って凝縮された名作です。
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塩野七生最後の長編歴史エッセイ。
塩野さんの著作との付き合いはもう数十年の長きにわたる。
始まりは、学生時代に読んだ「ローマ人の物語」であった。
この本により初めて本当の意味で歴史が面白くエキサイティングであると知った。
それからずっと彼女の歴史長編は欠かさず購入し読んできた。
それも今回で最後になるというのは、少し悲しい気がする。
「ギリシア人の物語Ⅲ 新しき力」は、西洋史においてもっとも著名な将軍であり君主であるアレキサンダー大王の生涯を扱っている。
前回の「ギリシア人の物語Ⅱ 民主政の成熟と崩壊」では、古代ギリシア史に燦然と輝く都市国家アテネの衰退の話で、全体として暗く悲惨な雰囲気が漂っていて読後感も余り良くなかった。(本としては面白かったのだが)
本書の雰囲気は前回とはガラッと変わって非常に明るい。
ぺロポンネソス戦争の勝者となったスパルタの覇権も長く続かず、エパミノンダスの率いるテーベがギリシアの次の盟主になるかと思われたが、あえなく戦死してしまう。
その後、フィリッポス率いるマケドニアがその力を伸ばし始める。
そしてついにアレキサンダーの時代が始まる。
素直にアレキサンダーは、戦闘の天才なのだとな感じた。
彼が弱冠18才で初陣を飾ったカイロネイアの会戦での活躍が凄まじい。
2千の騎兵を与えられ、待機の命を受けていたアレキサンダーは、戦いの最中、敵中央と右翼の間に生じた間隙を見逃さず、そこを騎馬で走り抜け右翼の後方に回り込み当時最強の部隊と考えられていたテーベの神聖部隊を後方から襲撃し壊滅させる。
この攻撃が戦いの帰趨を決しマケドニアは大勝する。
この事実を知ると後のいくつもの会戦の大勝 グラニコス、イッソス、ガウガメラ、ヒュダペスも当然の帰結なのだろうと納得させられる。
アレキサンダーの東征の様子を見ているとどうしても衰退期のアテナの指導者たちが率いたそれと比べてしまい「勇将の下に弱卒無し」は確かに至言だなと実感させられた。
塩野さんのアレキサンダー大王を語る口調は楽しげで、まるで自分のお気に入りの孫の事でも語っているかのようであった。
彼女の最後の長編歴史エッセイという事で、最後に塩野さんから読者に向けての感謝のメッセージが綴られていた。
人によっていろんな受け止め方があると思うが、私は彼女の作家としての誠意を感じた。
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「ギリシア人の物語Ⅲ」
ギリシア世界の最後の大物アレキサンダー大王の物語である。
アテネという覇権国家が没落して小競り合いばかりが続く不安定なギリシアに、マケドニアからフィリッポス、そしてそれに続くアレキサンダーがギリシアを制覇しペルシャ、インドまで遠征した物語である。
アレキサンダーは卓越した軍事的才能のはもちろんのこと、若く冒険好きだったように思える。ローマ人の物語では会戦の状況はかなり詳しく書かれていたが、さすがに資料が少ないのか、かなりあっさり書かれているように感じた。
それでも、著者が言いたかったことが随所に現れている。
アテネの混乱を評して「ただ多くの民衆が集まって多くの人の頭脳を集結すれば民主主義はうまくいくほど甘くはなく、多くの人の頭脳を誘導できる人が必要だ。」
アテネを下したスパルタが覇権国になれないことを評して「覇権国であり続けるには、覇権下にある国々が、その状態でも納得する何らかの理由がなければならず、単純にしても、魅力がなければならない。」
アリストテレスがアレキサンダーに教えたことは「第一に先人たちが何を考え、どのように行動したかを知ること。第二は日々もたらされる情報から偏見なく冷静に受け止める姿勢の確立。そして、第一と第二について自分の頭で考え自分の意志で冷徹に判断した上で実行に持っていく能力の向上だと言うこと。」
会戦でペルシャ王に勝ったアレクサンダーに対しては「ペルシャ王は数さえ多ければ勝てると思っていたが、アレクサンダーは量より質で勝つと考え基本戦略を立てたこと。」と評している。
どれも、著者が歴史からくみ取った考え方がよくわかる。そして、著者からの日本に向けての最後のメッセージのように思える。
本書の最後に著者は、長編「歴史エッセイ」これで終わりと言い、ここまで書き続けてこられたのは読者がいてくれたからだと感謝の言葉を述べている。
著者も80歳なので仕方がないかと思いながらも、なんともさみしい。
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歴史エッセイは終わりだって~第1部都市国家ギリシアの終焉第1章アテネの凋落・自信の喪失・人材の喪失・ソクラテス裁判第2章脱皮できないスパルタ・勝者の内実・格差の固定化・護憲一筋・市民兵が傭兵に・スパルタブランド・ギリシアをペルシアに売り渡す第3章テーベの限界・テーベの二人・打倒スパルタ・少数精鋭の限界・全ギリシア二分・そして誰もいなくなった第2部新しき力第1章父フィリッポス・神々に背を向けられて・脱皮するマケドニア・新生マケドニア・近隣対策・経済の向上・オリンポスの南へ・「憂国の士」デモステネス・ギリシアの覇者に・父親の息子への罰の与え方・離婚再婚・暗殺第2章息子アレクサンドロス・生涯の書・生涯の友・命を託す馬・スパルタ教育・師アリストテレス・初陣・二十歳で王に・東征・その内実・アジアへの第一歩・「グラスニコスの会戦」・勝利の活用・「ゴルディオンの結び目」・イッソスへの道・行きちがい・「イッソスの会戦」・「シーレーン」の確立・ティロス攻防戦・エジプト領有・「ガウガメラ」への道・大河ユーフラテス、そしてティグリス・「ガウガメラの会戦」・「ダイヤの切っ先」・バビロン、スーザ、そしてペルセポリス・スパルタの最終的な退場・中央アジアへ・人より先に進む者の悲劇・東征再開・ゲリラ戦の苦労・インドへの道・最後の大会戦「ヒダスペス」・従軍を拒否されて・インダス河・未知の地への探検行・敗者同化とそれによる民族融和の夢・アレクサンドロス、怒る・心の友の死・征西を夢見ながら・最後の別れ第3章ヘレニズム世界・「より優れた者に」・後継者争い・アレクサンドロスが遺したもの~終わった感がありますねぇ~はぁ。本当は4.5だけど,仕方ない・5!
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「ローマ人の物語」から始まった、歴史エッセイ(本人が後書きで記す)もとうとう終結を迎えたようだ。
最終回は、英雄礼賛の著者にふさわしくアレクサンドロス大王。歴史学者が書いた本ではないので、史的事実に基づいたフィクションと考えるべきなのだろうが、あけすけな英雄礼賛に少し苦笑。
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塩野さんの最後のシリーズになるとのこと、非常にさみしい。ローマ人の物語からこの世界に入りましたので、ローマ人の時代になっていくというところで終わるこのシリーズを読み終え、ローマ人を再読したくなりました。リキニウス法の成立は、ギリシア人の混迷を横目に見ての流れなんだよなあ……って、訳知り顔で読み返したい。
そして待ってましたのアレクサンドロス編。マケドニア人もギリシア科に属していたのですね。東征の物語、改めてとんでもなくて楽しい。先陣の先頭で突っ込み続ける王って、漫画みたいが過ぎます。アレクサンドロスとヘーファイスティオンの特別な仲っぷりも、それだけで一冊読みたいくらい気になりました。
塩野七生さんありがとうございます。これからも読み返しながら、楽しみに待っています。
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面白い!
日本ではアレキサンダー大王の名前で通るアレキサンドロスの生涯を描く本書は、スペクタルな展開の連続で読む楽しみを久し振りに感じる事が出来た。
漫画ヒストリエを読んでいたので、エウネメスの活躍も期待していたのだが、本書では数行程度しか触れておらず少し悲しい気持ちにもなった。
アレキサンドロス亡き後の後継者争いも描いて欲しかったが、それは筆者の興味の外にあるのか、体力的に限界だったのだろうか。
しかしローマ人の物語におけるハンニバル、スキピオ、カエサルの戦いよりも、戦いがシンプルであるがために戦闘の描写が面白い。忘れた頃に再読することになりそうだ、三巻のみ。
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ギリシア人の物語三部作の完結編は、アレクサンドロス大王。今まで名前は知ってても(昭和40年代生まれの教科書ではアレキサンダー大王だったけど)、その人となりについて、興味も持たなかったアレクサンドロス大王。この物語を読むと、なんとも人間アレクサンドロスの姿が目に浮かぶように感じられて、今までその登場から終幕まで唐突感がありまくりで、ぼんやりしていたアレクサンドロス大王の足跡が腑に落ちた。ところで、アレクサンドロス大王の帝国には名前は?マケドニア帝国とは聞かないし、やっぱりアレクサンドロス帝国?名前も付けられないほど、アレクサンドロスの輝きは一瞬だったということか。
ところで、塩野七生さんが、歴史エッセイはこの作品を最後にされるとあとがきで読んで、残念であると共に、感謝の気持ちでいっぱいになった。巻末の作品一覧を見て、私はローマにはあまり興味がなく、「ローマ人の物語」は一冊も読んでないけど、その他はほとんど読んでいたことを知った。
海の都の物語のヴェネツィア、コンスタンティノープルの陥落、ロードス島攻防記、レパントの海戦、十字軍物語、フリードリッヒ二世の生涯などなど、塩野さんのエッセイは、歴史の事実ではなく、塩野さんが噛み砕いた人間ドラマを見せてくれるエンターテイメントだ。こんな上質な物語の新作がもう読めなくなると思うと、本当にもったいない気持ちでいっぱいだ。。。
塩野さん、ありがとうございました。
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ギリシア人の物語の最後はアレクサンドロス大王。
そして塩野さんの歴史エッセイもこれが最後。寂しい限りですが、塩野さんに感謝!!!
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ギリシア世界が最も華やかだった頃の歴史小説の最終巻。
マケドニアのアレクサンドロス大王の活躍がメインになっている。
少し引いた視点で史実を忠実に描写しながらも、著者お得意の創造力を働かせて登場人物の心理に迫るところは相変わらず面白い。
歴史の教科書レベルのことしか知らなかったので、歴史ロマンに浸るにはとても良かった。
塩野七海ファンにおススメです。
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・・・・・・・っということで、塩野七生女史のギリシャ人の物語シリーズ第3巻。
ギリシャ人の物語なのでペロポネソス戦争でデロス同盟が崩壊したところで終わりかと勝手に思っていたけれど、マケドニアもギリシャ語圏でしたね。
遠征にギリシャ人も連れて行きましたから当然物語に入るのですが、アレクサンドロスまで書いてくれるとは嬉しい誤算。
もちろんアレクサンドロスについては興味があって、別に本も読んだし、コリン・ファレル演ずる映画も観ました。
塩野女史の「・・・物語」シリーズは歴史書として認めない専門家が多いようですが、彼女は「歴史エッセイ」と認識しているようですね。
あくまでも物語なんだと。
歴史の専門家に負けないくらい造詣が深いのですが、読み物として実に面白い。
この450ページあまりの本も一気に読んでしまいました。
彼女の書く歴史は特徴があってあくまでも人間に焦点を絞って書かれていることです。(だから「・・・物語」なのですが。)
彼女は哲学出身なので、ソクラテスに強い思い入れがあるはずなのですが、哲学にはあまり触れず、あくまでソクラテスという人間性に絞って書いている。
なのに、アレクサンドロスについて必ず触れられる「ゲイ」と「マザコン」については一言も書いていない。
(ちなみに、映画はゲイの部分を強調したから後味の悪いものとなってしまった。)
彼の人間性を描くのに邪魔になると判断しているからでしょう。
これに限らず取捨選択が実に小気味良く、それが彼女の書く歴史の人気の理由となっています。
他の特徴として、戦闘を描くのが実に上手い。
アレクサンドロスの生涯は戦闘に次ぐ戦闘に終始したけれど、一つ一つを丁寧に描いている。(コリン・ファレルは赤色羽飾りを付けていたけれど、実際は白色だったのですね。)
戦闘ほど人間性が強く現れるものはないからでしょう。
塩野女史もついに今年で81歳?
本作をもって「歴史エッセイ」から卒業するらしいけれど、まだまだ書き続けて欲しいとファンなら誰でも願うでしょう。(^^)/
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塩野七生さんの「ギリシア人の物語」3部作が完結した。3部作の完結というだけでなく、「チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷」をはじめとする歴史絵巻の完結編となるという。振り返れば1993年の「ローマ人の物語」の開始から四半世紀。地中海世界の興亡を、あるときは俯瞰的に、あるときは微視的に塩野さんという稀有な案内人に連れられて、私たち読者は、歴史を読む楽しさを堪能できたのであった。本作は、アレクサンドロスが主人公で、記録の少なさからか、彼女の十八番である会戦の記述も薄口なのは否めないが、そのことはあえて問うまい。国の統治にはある種の技術(アルテ)が必要であり、あるときは、善より悪のほうが効果的である、という彼女の洞察に私たち日本人の「政治家は清廉潔癖であるべし」といううぶな政治意識がどれほど鍛えてもらったか。今はただ、「ありがとう。おつかれさまでした」と感謝を伝えたい気持ちばかりだ。
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見知った人名が出てくるたびに、思わずヒストリエを読み返してしまい、なかなか読むのに手間取ってしまった。
アレクサンドロスが、自身の半身とも言える親友が死んだ後、病気で弱って死んでいくのは銀英伝を彷彿とさせた。きっとネタ元なんだろうな。
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ギリシア人の物語最終巻は、ペロポネソス戦役後からヘレニズム世界確立までが綴られています。
アテネの敗戦によりデロス同盟が崩壊、ギリシア世界はバランスを失います。
覇権ポリスのスパルタとテーベは、ギリシア世界を盛り返すつもりが自ら凋落していくのです。
さて、マケドニアが頭角を現すことになります。
父王に続き子アレクサンドロスは、後にも先にも無い偉業を成そうと立ち上がります。
ギリシア全体の栄枯盛衰が、彼の時代に集中しているように思えます。
楽しく読みやすい歴史エッセイでした。
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(史上最強の)東征ウェーーーイwwww
これが意外と冗談でもないという話。楽しい。
かつては帝国ペルシャを跳ねのけた先進地域ギリシャは、内乱を経て、大計を持たない軍事国スパルタが覇権を握った挙句、煮詰まり行き詰まった。
そこに一石を投じたテーベの2人のリーダーは、奔走するもその基盤が足りない。しかし彼らはその間に、ヘレニズム時代の幕を開けるゲストを受け入れていた。
後進国マケドニアの王子であったゲスト、フィリッポスは、抜け目なく王位を手中に収め、馬や金属を産する地理的メリットを拡大し、かつての先進ポリスを凌ぐ陸軍国としての地位を確かなものにした。テーベの軍制を参照しつつ発展させたファランクスと騎馬部隊を国民が組織するマケドニア軍は、帰属意識に欠く傭兵からなる旧式重装歩兵のギリシャ主要ポリス軍をカイロネイアで破り、全ギリシャの盟主となる。
ここでフィリッポスは詳細不明の暗殺によって倒れ、王位は、既にカイロネイアで異色の働きを見せた混血の後継者アレクサンドロスへと移る。フィリッポスとは何かと衝突しながらも、スパルタの軍事教育とアリストテレスの学校という現在でも夢としか思えないような最高の(半分は死にそうな)教育を与えられていた彼は、同じ教育を受けた仲間が率いる騎馬部隊とハリネズミ(フィリッポスの片腕パルメニオンの担当)を連れて、(資金もないのに)とんでもなく大胆な東征に突っ込んでいく...!忍耐専門のハリネズミが固まって粘ってるのに敵が気を取られてる間に、ダイヤの切っ先こと突出するアレクサンドロス(とブーケファロス)が隙間を切り裂き、学友と配下の騎馬部隊がそれを孤立させないように必死でついていく、で怖くなって逃げて逃げるダレイオス。。
もうここまでで既に最高です。
ペルシャを跳ねのけたスパルタをはじめとするギリシャ人傭兵がブランド化して各地で買われ、それが各地でたびたびギリシャ(マケドニア)軍の相手になる皮肉。
ペルシャの征服と統治が成功するほど、ペルシャ人とペルシャ文化の取り込みが進む。マケドニアの一体感が薄まるにつれ、アレクサンドロスの力の源であった同門ウェーーーイ部隊がほころび、いわば父であるパルメニオンとも別れ、、東征の中盤からは悲しいことも増えた。
アレクサンドロスの悲しい死までの時間も短くなってくる。。
なお、技術と文化の最盛期を謳歌した地域のすぐ近くから、その影響を受けて革新的な集団が現れ、より広いエリアを席巻する、とはW.H.マクニール先生が言う世界史あるあるだったと思うけど、古代の頂点であるギリシャが煮詰まり、それを喰う形で後進国マケドニアが台頭してインドまで至ってヘレニズム時代を作るというのは、まさにこのあるあるの代表例。結局、ギリシャが打ち立てた黄金期は、制度、文化芸術、軍事や技術などのミックスとして、ギリシャ内部で収まりきらない"過度な優位性"を内包してたみたい。この優位性を炸裂させたのが、スパルタとアリストテレスが育てたチームであり、その根底にはテーベのゲストがいたことは、このことを実証しているようにみえる。