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塩野七海先生の最後の歴史エッセイ
この人の著作であるローマ人の物語を読んで、ギリシア・ローマ文化に大きく興味を持つことが出来た自分としては、最後の著者の後書きが心に沁みわたる。
本作以外も含め、素敵な作家と同時代を生きる事が出来てよかったと思わせる本だと思う。
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20180826読了。
マケドニアの話。フィリッポスからアレクサンダー大王までの一連の歴史。
アレクサンダー大王はハンニバルやカエサル、ナポレオンも評価する武将だけど、具体的な話をあまり知らなかったので新鮮に読めた。
マケドニアから3万の軍勢で20万のペルシャに挑むときの軍の配置図を見るだけだとどうやっても勝てそうにないのに、自陣側は数百人の被害だけで圧勝。
その後も数倍の戦力の相手に対して圧倒的な勝利を繰り返す。
ただ、王政ということと後継者がいないことによって死後は大帝国は続かない。
一方で文化的にはヘレニズム〜ローマへと引き継がれる大きなきっかけにはなっており、アレクサンダー大王の影響力の大きさを非常に感じた。
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180901 中央図書館 塩野七生の作品は数あれど、筆が乗っていて面白く読めるのは結局「英雄」ものだ。歴史というよりもエンターテインメントの読み物という評もある。最後はアレクサンダーで〆る。塩野の遺言か。
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アテネの覇権体制が崩れギリシア国内が混沌とする中、マケドニアからアレクサンダー大王が現れ東征していくところがメインに描かれている。古代の話であるのに、よく調べて分析していると思う。興味深く、とても勉強になる。塩野七生氏のこれが最後の作品かと思うと寂しい。
「敗退した覇権国家に代わって別の国家が覇権をにぎるのであれば、人間世界にもたらす弊害は相当な程度に避けることができる。問題は、そのようにならなかった場合なのだ。多極化などと言ってこのような状態こそが理想的な形であるとする人もいるが、実際は、混乱以外の何ものでもない」p9
「「覇権」とは、政治・軍事・経済・文明文化のすべての面で、一国が他の国々に対して強い影響力をふるう状態を意味する」p9
「弾圧には、意識していようがいまいが、対象が自然に広がってしまうという性質がある。民主派支持ではなくても積極的に寡頭派に賛同しなかったという理由だけで、有力な市民が次々と告発され死刑に処される例が増えていった。恐怖政治がアテネをおおうようになったのだ」p15
「不安、それが他者に転嫁された結果である怒りは、人間を盲目にする。冷静な判断力を狂わせてしまうのだ」p17
「西洋哲学はギリシアにはじまってギリシアで終わる、とは思っているが、その世界での最大スターがソクラテスなのであった」p31
「覇権国でありつづけるには、覇権下にある国々が、その状態でも納得する何らかの理由がなければならない。また、魅力もなければならない」p71
「スパルタには、他国の人々を引き付ける魅力がなかったのだ。軍事力以外は、何も創造しなかったからである」p71
「2400年以上も過ぎた今でも、アテネに行けば見るものは山ほどある。だが、スパルタにはない。文字どおり、何も無い」p72
「(アポロン神殿にお金を置いていた)ギリシア人にとっては、貸し金庫の役割も果たしていた。神様が見ている前で盗みを働く不届き者はいないだろうと思われていたからだが、これがけっこう効果があった。デルフォイの神殿に預けられていたカネが盗まれたと記した史料はない」p132
「プラトンの(物乞い増加をもたらした兵役忌避に対する)批判は正しい。働いてもいないのに報酬だけもらうのでは、国に対する詐欺でしかない」p138
「有力者の間でのバトンタッチは、両人ともの能力が高ければ高いほど、実にむずかしいバトンタッチになる」p173
「(アレクサンダーの)父王フィリッポスが偉かったのは、息子に「スパルタ教育」を授けただけでは充分でないと考えたところにあった。頭脳の強化と向上には、哲学者のアリストテレスを招聘している。(アリストテレスはマケドニア人で、プラトンが創設したアカデミアで20年も学んだ)」p184
「アレクサンドロスが生きた古代という時代は、さしたる勢力ではなかったユダヤ教を除けば、圧倒的に多神教の世界であった。一神教を代表するキリスト教やイスラム教は、この古代が終焉した後に出てくる宗教であることを忘れてはならない」p289
「広大な国の統治は、軍事力や警察力だけでは絶対に長続きはしない。その地域の特殊事情にほ配慮しない限り、大国の統治はできないのである」p291
���他の人より成長するということは、ますます孤独になっていく」p358
「後にローマ人は「ローマ軍団は兵站で勝つ」と言い切った」p366
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ギリシア人の物語3部作の第3作目。ギリシアの中では辺境にあたるマケドニアで優秀な王が現れ、その子供がアレキサンダー大王として帝国を築いていく様子が描かれる。やはりこのような英雄がいると物語が盛り上がるし、私は3部作の中ではこの巻がいちばんワクワクとして楽しかった。
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第III巻は世に言うアレクサンダー大王(アレクサンドロス3世)が主人公である。
ヘレニズム文化の種をまいたといっても過言ではない彼の一生を追う。
歴史的、大王と呼ばれる人間はそうはたくさんいない。
彼は一生涯のうちに大きな戦に一度も負けることなく領地を拡大するのに成功したため大王という綽名を得ているのだと思われる。
彼それ以前にはない騎兵の活用、速攻を好み戦に活用した初めての司令官であったという。
33歳で死んだのがおしい人間である。歴史にタラレバはないけれど、もし彼がもう少し長生きできたら南アフリカ、イタリア、スペインもマケドニア王国の一部になっていただろうか?そうなるとカルタゴやローマとの対戦になり、歴史は大きく変わっていただろうとも思ってしまう。
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塩野七生氏の最後の歴史エッセイ(調べて、考えて、歴史を再構築する作品)。最後はアレクサンダー大王(以下アレクサンドロスと標記)。少年期、スパルタの教官から体・心を鍛えられ、家庭教師はアリストテレス。その後、混迷するギリシャ世界の中で、若干20歳でマケドニアの王となり、ペルシャ帝国制覇へと向かったアレクサンドロス。トルコ、中東、中央アジアを次々と征服し、ついにはインドに至るまでの大帝国を築きあげたが、32歳で夭逝。夢見るように生き、燃え尽きるように死んだ若き天才、その短く華々しい生涯を描く。
5つの会戦を詳述。まるでその場に居て観てきたかのような筆致で、戦記のおもしろさが溢れている。古代の名将と言われるハンニバル、スキピオ・アフリカヌス、ユリウス・カエサルから「武将NO1」と評価を受けるアレクサンドロス。当然、戦略・戦術に長けていたが、「美しい」のは「ダイヤの切っ先」。誰よりも先にリスクを負って飛び出していく、だから部下は後を追い、強引ではあったが誰よりも愛された。リスクをとらないリーダー、常に自分の身の安全を図ろうとするリーダーには誰もついていかない。
塩野氏の著作には、リーダーのあり方について示唆に富んだ記述が多い。塩野氏の本が政治家・経営者に人気があるのはそのため。本著でもいくつか記述が。「①この結び目を解くことができた者だけがオリエントの支配者になれると言われるが、結び目が尋常でなく手でほどけそうにない(ゴルディオンの結び目)。その時、アレクサンドロスは長剣を降りおろし一気に断ち切った=『複雑な問題の解決には、断固とした意志と、明快で単純で果断に対処するのが最も有効な方法』。②暗殺未遂事件があり、最終的には苦渋のすえ腹心を処分=『情報とは全てでなければ情報にならない。偽の疑いがあろうと情報はすべて上に上げるのが、下にある者の義務。上がってきた情報にどう対処するかは、上に立つ者が判断することである』」……。
450ページを超える大作も、戦記部分がおもしろく、一気に読める。塩野氏の多くの著作の中でも、三冊のうちの一つに推薦できる1冊。読んでよかったという人には、「ローマ人の物語」(新潮学芸賞全19巻・新潮文庫だと全43巻)がお薦め。全てはとてもと言う人は、カエサル、アウグストゥス部分だけでも。まずは1冊という人は「チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なら冷酷」(新潮文庫・毎日出版文化賞)。
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著者最後の歴史エッセイ、ギリシア人の物語「新しき力」は、ギリシア都市国家の衰退状況とマケドニアアレクサンダー大王の歴史の物語。アテネの敗退以降スパスタからテーベに至る都市国家の移移り変わりとマケドニア フィリッポス王とその息子アレクサンダーによるアケメネス朝ペルシャ制服のための大遠征紀行をローマ人の物語同様の熱情でありつつ冷静な視点で俯瞰した大歴史エッセイ。
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アテネ、スパルタの終焉、都市国家ギリシアは何故滅びてしまうのか。
そのとき登場するマケドニアの若きリーダー、アレクサンドリア。なんて魅力的で、強いリーダーなんでしょう。自らが、ダイヤの切っ先として突入していく武将は、あとにもさきにも、彼以外いないでしょう。
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アレキサンダーが長生きしていればきっと強固な帝国を作っただろうなあ
意外と連戦連勝の歴史は読んでいてつまらない…
塩野七生さんがこれで歴史エッセイ(エッセイだったのか?)を終わりにするというのをこの本をよんで初めて知った
ローマ人の物語を読んだものとして寂しい
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アレクサンダー大王、そしてヘレニズム時代、この時代の話、初めて読みました。アレクサンドロスの若さ、行き急ぐ、いや、生き急ぐスピード、そしてこの広大な距離を、砂漠から山岳から、大河から渡った、ホント冒険探険物語ですね。このアレクサンドロスのお陰で、今、素晴らしいヘレニズム時代の芸術が見られる、幸運です。最後に大ファンの塩野さんが、これで歴史エッセーは最後だと宣言されて、今、ショックです。自分は、これからの人生で、どういう計画で塩野作品を読み直すかワクワクしながら考えます。塩野さん、ありがとうございました。
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塩野女史の歴史シリーズを踏破してしまうのが惜しくて、最後の最後まで取っておいたギリシア人の物語。
ギリシャの栄光と民主制の光と影をあますところなく描いた一、二巻。
そして最終巻である本作ではアレクサンダー大王の快進撃を楽しみつつ、少しでも読了を遅らせたくて、文字通りチビチビと読んだ。
そうかあ、塩野女史の手による歴史物は本作で終わりなのか。
無理もないよなあ、いかにも労力と体力を要する仕事だもの。
ルネサンスの女たち以降、たくさん楽しませてもらった。
狭い範囲の研究に没する頭と目を、塩野さんの紡ぐ物語がいにしえの世界、ひろい世界に開いてくれた。
塩野さん、ありがとう。繰り返し読む楽しみはまだ残っていますものね。