紙の本
歴史とは人間の生き方
2018/05/18 13:08
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ぴんさん - この投稿者のレビュー一覧を見る
待望の塩野七生さん最新作!これが「最後の歴史長編」とのこと。ペロポネソス戦争後のポリスの凋落からアレクサンダー大王の死までをみっちりこってり著している。夢見るように生き、燃え尽きるように死んだ若き天才、アレクサンダー大王。その生涯、ここに閉じる―。
紙の本
先駆者アレクサンドロス
2017/12/22 22:00
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ぽんた - この投稿者のレビュー一覧を見る
世界史で言うとペロポネソス戦争後からアレクサンドロス大王がペルシャを征服して間もなく死んでしまい、後継者戦争が終わるまでの部分を書いてます。
アレクサンダー大王の帝国は一代で分裂したけど、東西の交易はその後も続きます。
ローマと同じように敗者の同化とか似た話も出てきます。
ローマ帝国と比べると短いけど、アレクサンドロス大王がカッコイイし、まさに短い人生を全力で駆け抜けたという表現がピッタリきます。
筆者の「なぜアレクサンドロスはこうも人々から愛され続けているのか」という問いに対する答えがこの本のような気がします。
リーダー論としても歴史の本としても面白いです。
筆者最後の歴史エッセイだそうです。間違いなく一読の価値ありです。
投稿元:
レビューを見る
ギリシア人の物語の第III巻はペロポネソス戦役の後に続くギリシアの都市国家時代の終焉と,そのあとのアレクサンドロスの物語です。
ペロポネソス戦役の後のアテネ,スパルタ,テーベの凋落の話は,一度糸が切れてしまい坂を転げ落ちはじめた組織に対して,その転がりを止めて元通りに持ち上げることの難しさを感じました。自らの持てる資源をいかに上手く活用するか,そして活用できずに浪費することがどのような結果を招くのかを痛感する記述だったと思います。「そして誰もいなくなった」という一節が塩野さんらしいと思います。
その後に続くマケドニアのフィリッポスと息子のアレクサンドロスの物語は,タイトルの「新しき力」に相応しい内容だったと思います。
塩野さんが最後の対戦相手として,「若いアレクサンドロス」を選んだこともあってか,戦闘シーンの叙述やスピード感のある書き口は,ヘレニズム時代を創り出した若い「新しき力」に引っ張られたものだったのかもしれません。このギリシア人の物語のI巻からIII巻を通じて,やはり塩野さんは戦争の描写が上手だとも改めて思いました。
アレクサンドロスが駆け抜けることで,ギリシア人の時代が終わり,ヘレニズム時代に続いていくと言う描写が塩野さんの「歴史エッセイ」の最後になるのは残念で,まだまだ塩野さんの作品を読みたいと思います。ただ,個人的には,塩野さんのアレクサンドロスを読んでみたいと長年思っていたこともあり,彼の物語が塩野さんの最後の「歴史エッセイ」になるというのは,嬉しさも感じます。
次に塩野さんはどのような作品を執筆なさるのでしょうか。今から楽しみです。
投稿元:
レビューを見る
パズルの最後のピースがはまった。
著者が「歴史エッセイ」と呼ぶ、地中海世界を舞台とした長編作品群。本書の巻末に全作品の一覧が掲載されているが、そのカバーする範囲は実に2500年におよぶ。本書によって、その最後の空白が埋まったのだ。
本書が「最後のピース」であるのは、単に空白を埋めたことだけが理由ではない。ギリシアからローマへ、『ギリシア人の物語』から『ローマ人の物語』へとつながる作品となっているのだ。
二つの時代の橋渡し役を演じたのは、フィリッポス二世とその息子・アレクサンドロスの二人のマケドニア王である。特に後者は、政略・戦略・戦術のあらゆる面で、のちのローマを予感させる要素に事欠かない。
例えば、騎兵の活用。兵站の重視。小隊によって組織された軍隊。征服地の支配層の温存。拠点となる都市の建設。そしてなんといっても、「敗者同化とそれによる民族融和」をめざしたこと。
ただ、めざすものは同じでも、やり方には大きな違いがあった。民族融和のためにアレクサンドロスが採った策は、一万組の男女の合同結婚式という奇想天外なもの。一方ローマのほうは、属州の軍団兵と現地の女の結婚を奨励するという、堅実だが持続的な方法を選んだ。アレクサンドロスの帝国が一代で終わったのに対し、ローマが長期にわたる繁栄を維持したのは、このあたりにも理由がありそうだ。
だが、芸術家にも、強烈な個性ゆえに一代限りの「作風」で終わる人もいれば、次代へ継承されていくような「様式」を新たに打ち建てる人もいるが、その優劣は一概には論ずることができない。アレクサンドロスは前者のタイプなのだろうが、だからこその破天荒な愉しさがある。
歴史上の人物とは結局のところ、歴史という大きなパズルの一片にすぎないようにも見える。だが顔を近づけてよくよく見れば、それほど簡単には割り切れない複雑な魅力を持っていることがわかる。アレクサンドロスは特にそうだが、塩野七生が描いたのは皆、そうした男たちであった。
投稿元:
レビューを見る
ギリシャが没落し、隣国のマケドニアが勃興する。
アレクサンドロスの父フィリップスから受け継いだ兵力とアレクサンドロスの戦略が全てペルシャに対して全て当てはまり果てはインドまで版図を広げて、結局ペルシャで病死する。ほんの30代でここまで広げれたのは本人の才覚と、一緒に育った悪友達。ただ アレクサンドロスの後継者は抜き出たものがおらず、数十年かけて仲間内での内乱で、プトレマイオスとセレウコスの二人に収斂して、次のローマ人の世界に引き継がれる。ローマ人ものがりにまたくるっと一廻りして戻ってきた感じ。
投稿元:
レビューを見る
ギリシア人の物語もついに完結。対象範囲はテーベの時代からアレクサンドロス大王が死ぬまで。ディアドコイ戦争にも触れてはいるけど、内輪もめは気が滅入るだけ、ということでオマケみたいな程度。
アレクサンドロスというとやはりその自ら突っ込む戦術や、無謀とも言える冒険的な要素が挙げられることが多い。本作ではその辺に加えて、兵站についても触れられているのが塩野さんらしい。アレクサンドロスのキャラ敵に兵站を気にしていないイメージを持っていたが、そんなことは無かった。やはり戦争に勝ち続ける将はちゃんとしているのだ。
今回の範囲は『ヒストリエ』の時代ともろかぶりである。この本では総括の代わりにアレクサンドロスの年表を載せいてるのだが、それを見て笑ってしまった。『ヒストリエ』の最新巻はまだ3行目までしか進んでいない。そしてエウメネスが真に活躍するのはアレクサンドロスが死んだ後なのだ。
投稿元:
レビューを見る
古代ギリシアを描く歴史エッセイの最終巻。
アレクサンドロスの父、アレクサンドロスときて混乱のうちに終焉しました。
著者がアレクサンドロスが書きたかったためにこの物語を執筆したことが犇々と伝わってきました。
特にアレクサンドロス後がとってつけたような端折った終わり方だったのが驚きでした。
さらに、歴史エッセイはこれで終了するという宣言も驚きでした。
これまでの感謝も込めて満点評価です。
投稿元:
レビューを見る
ギリシアは迷走の時期に入る。
この混乱期に現れた、たった一人の英雄の名前は今でも歴史に燦然と輝く。
アレキサンダー大王、歴史上たった一人「大王」の称号をつくマケドニア王の三十二年間の生涯を描く。
ペルシアからの軍勢を退けた後、ギリシアでは都市国家アテネ、スパルタ、テーベと覇権国家が目まぐるしく変わる。
凋落と没落を繰り返し、ギリシア全体の力が低迷する。
そこに現れたのは、ギリシア北部オリンポス山の北のマケドニア王国だった。
ギリシアでは都市国家ともみなされなかった田舎では、マケドニア王フィリッポス二世が新しい戦術を編み出しギリシア北部に攻め入っていた。
重装歩兵「ファランクス」は、二つの長槍を一本にして通常の二倍の長さの槍を持つハリネズミの陣形で敵を攻める。
フィリッポス二世は息子にはレオニダスによるスパルタ教育と、アリストテレスによる哲学を叩き込んでいた。
息子の初陣は、当時覇権国家のテーベ、それとアテネに続くほかのポリス連合との戦いとなるカイロネアの会戦だった。
息子は待機するよう言明されていたが、一瞬の隙をついて騎馬隊を突撃させ、隙をつかれたテーベ軍は総崩れとなる。
当時18才、フィリッポス二世の息子こそアレクサンドロス。
その三年後に渡って小アジアでのグラニコスの会戦を皮切りに、イッソス、ガウガメラの会戦を経てアケメネス朝ペルシアを滅ぼし、ヒダスペスの会戦でインドまでを攻め込む。
この間、たったの10年。
アレクサンドロスが駆け抜けた激動の十年は歴史に刻まれ、今でも大王の名が燦然と光り輝く。
速攻に次ぐ速攻。自らが先頭を走り敵に猛進していく。その兜にたなびく純白の羽飾り。
男も惚れる、連戦連勝負け知らずの最強の王のが華々しくも、その裏で悩み苦しんだ人間臭さが短い生涯という運命と相まって深く印象に残る。
人間、人生に一度は負けられない大事業を成し遂げてみたいものだ。
投稿元:
レビューを見る
500ページ近い大著ですが読みやすいです。僕はいつも就寝前の時間をこの本にあてていました。著者の作品の多くは国家のあり方、そしてリーダーのあり方を述べています。今回のギリシア人シリーズもそうでした。どうしても現代に生きる私たちは、民主的なことイコール善という考えをもってしまいがちですが、必ずしもそうではないことを塩野さんの著作全般から学ばせてもらいました。今回の主人公アレクサンダー大王も独裁者といえばそのとおりで、ある事件の際には、哲学者たちから大きな批判を受けたそうです。しかし、彼らの言論の自由は、独裁者であるアレクサンダーが亡くなった後に失われたというところなどは思わず「うーん」と考えずにはいられませんでした。歴史長編はこれで最後ということで本当にお疲れ様でした。僕は、ローマ人の物語があと2巻残っているのと中世を書いたものの多くが未読なので、もう少し塩野ワールドを楽しめそうです。
投稿元:
レビューを見る
面白い!
結構厚い本でしたが一気に読み終わりました。紀元前の古代世界にこんなダイナミックな歴史があったとは!
小生はコミック「ヒストリエ」も愛読していますが、その登場人物のキャラが本書を読書中に行間から頭に浮かんで実に楽しかった。
しかしアレクサンドロスは凄い。イランにしろアフガニスタンにしろ現代でも難治の国である。これらの広大な大地を制覇するとは。
現代のリアル世界にこの様な英雄がいれば、中東問題も一気に解決するのにと思わず夢を見てしまった。
本書は楽しみながら歴史を学ぶことができる本であると思う。塩バアには「これで最後」などと言わずまだまだ著作を続けて欲しいものである。
2018年1月9日 読了。
投稿元:
レビューを見る
塩野節の集大成。カエサルが大好きなのは明白だが、アレキサンダーは2番めに好きなのだろう。いつもと同じく歴史書ではなく、彼女の主観に基づいた歴史小説だが、アレキサンダーが主役かつ、最新刊の本書は特に色濃い。だが、ファンならそれも含めて楽しめる。おまけのあとがきで、珍しくファンへの感謝も綴られている。私は最近は図書館ですませているが、それでも文庫100冊近く買っているので、ちょっと嬉しい。とはいえ、塩野ファンでなくても歴史好きなら間違いなく面白い。イタリア版司馬遼太郎、だと思ってる。
投稿元:
レビューを見る
ペロポネソス戦争でアテネを破り勝者となった筈のスパルタの早々の没落(それは今も続く)はなぜだったのか?そして次の覇者テーベも早々と没落し、テーベに人質でとらわれていたというマケドニアのフィリッポスが次の時代のチャンピオンへ。そしてアレクサンドルの登場。アレクサンドルがなぜ連戦連勝の英雄になったのか、なぜ長期間のペルシや遠征を行うことになったのか、ペルシャはなぜ敗れることになったのか、なぜアレクサンドルは長期間の長征を行ったのか、永年スッキリしなかった疑問が全て明らかになったような明快な解説!著者はローマの歴史、十字軍の歴史その他から一貫して戦闘の分析に長けていると思っていたが、今回もまた、レウクトラ会戦(テーベ対スパルタ)、マンティノア会戦(テーベ対アテネ・スパルタ等連合軍)、カイロネイア会戦(マケドニア対テーベ・アテネ等連合軍)、グラニコス、イッソス、ガウガメラの各会戦(全ギリシャ対ペルシャ)、ヒビスぺス会戦(全ギリシャ対インド)などが詳細に地図の配置図とともに説明され、リアルに戦闘場面を再現している。勝敗の理由が明確に記述されている。よほど兵法が好きなのでは!そしてアレクサンドルの戦闘での強さと人望の厚さの理由が著者の熱意とともに伝わってくる。いよいよ著者が最後に永年の執筆を終えたことを宣言。これで紀元前約1000年~紀元後約1600年に至る長い叙事詩の完結なのだ。本当にお疲れ様。ありがとう!という気持ちである。
投稿元:
レビューを見る
ペロポネソス戦争終結後から始まり、父フィリッポス王のことを物語ってから始まる、アレクサンドロスの物語。
「古代ローマから現代ヨーロッパに至るまで,多くの人がなぜカエサルではなくアレクサンドロス大王の伝説に憧れるのか」。
塩野七生氏が、最後の歴史エッセイに選んだ人物がアレクサンドロス大王というのも頷ける。
「王」ではなく「大王」と呼ばれるアレクサンドロス。その一生を巧みな筆致で描く。まさに「その場で見てきたかのように」会戦や人物のエピソードを描く。
投稿元:
レビューを見る
「いやいや、参りました」が読後感。圧倒的な筆力で惹きつけます。終盤の「アレクサドロス、怒る」に至ってはもう圧巻です。
スパルタに鍛えられ、アリストテレスに師事したとは言え、いまから2,300年も前に、32歳でこれほどの大業をなし、民心をとらえたとは...、馬齢を重ねただけの自分を鑑みると、「畏れ入りました」とか言いようがありません。
著者も(恐らくカエサルに次いで)ぞっこん惚れ込んで書いているのだと思います。そして、最後に、「考えてほしい。なぜ、彼だけが後の人々から、『大王』と呼ばれるようになったのか」と、著者は問いかけます。その答えが、全編に亘って凝縮された名作です。
投稿元:
レビューを見る
塩野七生最後の長編歴史エッセイ。
塩野さんの著作との付き合いはもう数十年の長きにわたる。
始まりは、学生時代に読んだ「ローマ人の物語」であった。
この本により初めて本当の意味で歴史が面白くエキサイティングであると知った。
それからずっと彼女の歴史長編は欠かさず購入し読んできた。
それも今回で最後になるというのは、少し悲しい気がする。
「ギリシア人の物語Ⅲ 新しき力」は、西洋史においてもっとも著名な将軍であり君主であるアレキサンダー大王の生涯を扱っている。
前回の「ギリシア人の物語Ⅱ 民主政の成熟と崩壊」では、古代ギリシア史に燦然と輝く都市国家アテネの衰退の話で、全体として暗く悲惨な雰囲気が漂っていて読後感も余り良くなかった。(本としては面白かったのだが)
本書の雰囲気は前回とはガラッと変わって非常に明るい。
ぺロポンネソス戦争の勝者となったスパルタの覇権も長く続かず、エパミノンダスの率いるテーベがギリシアの次の盟主になるかと思われたが、あえなく戦死してしまう。
その後、フィリッポス率いるマケドニアがその力を伸ばし始める。
そしてついにアレキサンダーの時代が始まる。
素直にアレキサンダーは、戦闘の天才なのだとな感じた。
彼が弱冠18才で初陣を飾ったカイロネイアの会戦での活躍が凄まじい。
2千の騎兵を与えられ、待機の命を受けていたアレキサンダーは、戦いの最中、敵中央と右翼の間に生じた間隙を見逃さず、そこを騎馬で走り抜け右翼の後方に回り込み当時最強の部隊と考えられていたテーベの神聖部隊を後方から襲撃し壊滅させる。
この攻撃が戦いの帰趨を決しマケドニアは大勝する。
この事実を知ると後のいくつもの会戦の大勝 グラニコス、イッソス、ガウガメラ、ヒュダペスも当然の帰結なのだろうと納得させられる。
アレキサンダーの東征の様子を見ているとどうしても衰退期のアテナの指導者たちが率いたそれと比べてしまい「勇将の下に弱卒無し」は確かに至言だなと実感させられた。
塩野さんのアレキサンダー大王を語る口調は楽しげで、まるで自分のお気に入りの孫の事でも語っているかのようであった。
彼女の最後の長編歴史エッセイという事で、最後に塩野さんから読者に向けての感謝のメッセージが綴られていた。
人によっていろんな受け止め方があると思うが、私は彼女の作家としての誠意を感じた。