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最近の道尾秀介作品の安定感は、際立っている。かつてのようなダークな作風は、すっかり鳴りを潜めつつある一方、これぞ道尾作品という安心感はある。過去の作風との比較に意味はないのだろう。本作こそが、道尾秀介の「今」なのだから。
舞台は、鮎の伝統漁が行われている、川沿いの町。モデルがあるのかわからないが、そんな町には特異な写真館が存在していた。川と写真館と町が、数奇な運命を紡ぐ。視点が異なる物語の繋がりが、最後に明らかになるという趣向である。
趣向自体に目新しさはないが、自分の知る限り、道尾作品としては珍しい。一時期、自らの作品を、頑なにミステリーではないと主張していた道尾さんだが、本作は謎の要素も読みどころであり、いい意味で角が取れてきた印象を受ける。
事情により、町から引越すことが決まっていた女子高生と、事情により、夢を諦め町に戻っていた漁師の青年との恋。引越し直前に起きた出来事とは…。おいおいおいおい、最初の章から先が思いやられるじゃないかと、この時点では思っていた。
続く章では、小学5年生の少年2人を中心に進む。先の章と共通するキーワードはあるものの、この時点では繋がりがわからない。あまりに危険な少年たちの冒険譚。昭和の頃なのだろうが、ここまで付き合える友情は、なかなかないのでは。
雰囲気が異なる2編に続き、次の章へ。……。そんなの聞いてないよという告白の連続に、複雑な反応を見せる、「当事者」2人。確かに、「過去」があって「現在」がある。しかし、その「過去」が作られた原因は…。簡単に咀嚼はできない。
とはいえ、様々な運命のいたずらがあったけれど、「現在」は悪くはない。全体的にはハッピーエンドと言える。だが逆に、「過去」の運命のいたずらのせいで、「現在」が不幸だと感じるケースもあるはずだ。現実にはそちらの方が多いだろう。
人間は弱い生き物だから、苦境を外的要因のせいにしがちであり、そこに「過去」も含まれるだろう。本作の登場人物たちも、解釈に悩みつつ、最後には前を向いた。それは簡単なことではない。だからこそ、本作に安心感を抱くのかもしれない。
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最近の道尾さん作品はそこまでハマらなかったけど、今作は良かった!
とある街を舞台にした連作短編かと思いきや、世代を超えてひとつの大きな物語が紡がれて行く。
よく出来ているなぁとも思うし、実際私たちの身の回りでもひとつの事柄がきっかけで人生が変わったり、それがまた他の人に影響を及ぼしてたりするんだよね。
その事柄っていうのも意図したものじゃなかったり、ほんの些細なことだったりして、まさに「風神の手」なんだなって思う。
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1章でぐいっと引き込まれ、何がどう繋がるのかわくわく。
過去、現在がどんどん繋がって読みやすかった。
誰が得をしたのか、損をしたのか…
皆、それぞれに事情をかかえ、行動した結果、自分が幸せになれた人は誰もいないのでは。
誰かのために隠蔽したり、罪を犯したり、結果、富を得たりしても結局因果応報。
最後、若い二人は幸せになってくれたらいいな。
遺影写真館っていうのもよかった。
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人間万事塞翁が馬。読みながらその言葉が思い浮かんだ。各章でのオチとは別に全体として話が繋がる構成は非常に丁寧に練られていてパズル感覚で面白かった。ミステリと聞いていたのでもっと事件事件した感じかと思ってたらこういうのもミステリに分類されるのですね。あまり最近のミステリは読まなかったのでちょっとした発見でした。
あとふと気がついたけど第一刷の目次、第3章とエピローグが2pずつズレてました…
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遺影写真館に関わる人を中心に数十年にわたるつながりの物語。恋人、友人、そして秘密を抱える老人、最後まで読み終えて、大きな物語になる。細かいところまでうまくつなげてるし、こういうの好き。一つ一つでいえば、「心中花」は気に入りました、恋する二人、よく書けていました。全てのつながりは風の神様によるものかしら。道尾さんは月が好きなのかな。
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図書館で借りた本。なぜこのタイトルなのか?最後まで読めば分かる。遺影写真館を訪れる人達の過去の出来事がクロスして今になってるのだが、あの日あの時あの場所でとった行動や言葉がそれぞれの人生を変える。それは運命と言ってしまえばそれまでだが、運命を決めるきっかけにはなっている。なかなか良い作品だと思った。
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風神の手が起こした気まぐれな風によって、多くの人の人生が良くも悪くも変わっていく。出会いや別れを生み、それぞれがまた思わぬところで繋がっていた。
運命とか巡り会わせとか、もし~だったら、あの時~れば…とか思いはいろいろあるけれど、今を生きていこう。
道尾さんのこういう話、好きだなぁ。
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2018.3.5.読了とても前評判が高い作品だったので期待しながらワクワクして読みました。あれ?連作短編集?そこはちょっと期待ハズレ。けれど、最終的には色々な伏線が一つになる道尾秀介さん独特の凝った構成。でも、最初の死期が迫ったお母さんの話、現在のところをもう少し丁寧に描いて欲しかった…気がします。これでは、遺影専門の写真館を出さんがための小道具?のような印象を受けました
。死を取り上げるならば、深く丁寧に描いて欲しいと思いました。凝りに凝った構成、そこは脱帽です。
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道尾秀介はつくづく映像の作家だと思う。心象のイメージと、切り取られた光景が見事につながっている。だからふとした瞬間にその光景が突然よみがえることがある。稀有な才能だ。
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少しずつ繋がっている短編集。
あの時のあの出来事が今に繋がっている…
悲しい出来事も反転すれば意味あっての事だったり。
この人の物語はいつも、情景がすんなり浮かぶ。
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巡り合わせの妙を柔らかく伝えてくれました。
タイトルへの導きもすんなりと入り、久々の道尾作品に、いつのまにか引き込まれてしまいました。
遺影専門の写真館が舞台というのも、時の移ろい、過去の思いを投げかけてくれたと思います。
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説明
内容紹介
遺影専門の写真館「鏡影館」がある街を舞台にした、 朝日新聞連載の「口笛鳥」を含む長編小説。
読み進めるごとに出来事の〈意味〉が反転しながらつながっていき、 数十年の歳月が流れていく──。
道尾秀介にしか描けない世界観の傑作ミステリー。
ささいな嘘が、女子高校生と若き漁師の運命を変える――心中花
まめ&でっかち、小学5年生の2人が遭遇した“事件"――口笛鳥
死を前にして、老女は自らの“罪"を打ち明ける ――無常風
各章の登場人物たちが、意外なかたちで集う ――待宵月
久しぶりに道尾秀介さんの作品を読みました。
3話の各章の登場人物たちが意外な繋がりがあって面白かったです。ラストの章では登場人物たちが集まります。
人は皆、心の中になにかしらの荷物を抱え生きているという事と人の繋がりをとても実感しました。
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ちょっとしたことが次々と影響していくということはあるんだろうね。いちいち考えていないから、ハッキリとこれとこれが因果関係アリということがわかっていないだけで。
となると、「〜でなかったら」と考えても仕方がないということだね。すでに起こってしまったことだもん。
重要な事柄はよーく考えてから実行する? でも、考えすると逆に行動に移せなくなるんだけどね。
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彼/彼女らの人生は重なり、つながる。
隠された“因果律(めぐりあわせ)"の鍵を握るのは、一体誰なのかーー
遺影専門の写真館「鏡影館」がある街を舞台にした、
朝日新聞連載の「口笛鳥」を含む長編小説。
読み進めるごとに出来事の〈意味〉が反転しながらつながっていき、
数十年の歳月が流れていく──。
道尾秀介にしか描けない世界観の傑作ミステリー。
ささいな嘘が、女子高校生と若き漁師の運命を変える――心中花
まめ&でっかち、小学5年生の2人が遭遇した“事件"――口笛鳥
死を前にして、老女は自らの“罪"を打ち明ける ――無常風
各章の登場人物たちが、意外なかたちで集う ――待宵月
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登場人物ひとりひとり、エピソードのひとつひとつにまったく無駄がない。力士が塩をまくようにばらまかれた要素が、見事なまでに拾い集められ、知りたかったことがすべて明らかにされる。だからと言って窮屈さはまったくなく、ストーリー展開も興味津々で読む手が止まらない。風が生まれるところを見たような心地にさせてくれる一冊である。
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三つの短編とそれに続くエピローグからなる作品。それぞれ別の物語としても成立し、一作品としても楽しめるが、登場人物やストーリーはそれぞれ絡み合い次へと繋がっていく。
若い二人のぎこちない恋を描いた最初の作品、小学生の少年二人の冒険を通して描かれる友情の第二作品、そして死を眼の前にした老女の痛恨の過去を描く作品。それぞれ全く違った設定ながら、著者の著す登場人物の行動での心情表現は秀逸である。
悲恋や死、犯罪を扱って暗く重くなりそうなテーマを第二作品の少年たちのユーモラスな行動や友情、悪人と思われた人物が実は…といったどんでん返しで作者は登場人物全てが愛すべき人格の持ち主達だと表現している。作品は暖かく穏やかなハッピーエンドをもたらす。心が温まる作品である。