紙の本
読破した奴全員 ヤイトスエッド
2023/10/25 21:43
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投稿者:狂ったチワワ - この投稿者のレビュー一覧を見る
良くも悪くもそんな作品である
私は好きである
吉村ファンなら読むべき作品である
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短編集が文庫化されていたのを全く気づかなかった……。
『臣女』のグロテスクさを短編に凝縮したような読後感だった。読む人を選びそうではあるが、私個人はけっこう好きである。ボーナストラック的に収録された『三つ編み腋毛(抄)』、全編読みたいと思うのだが、少数派かなw
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清潔と不潔。
浄と不浄。
きれいはきたない、きたないはきれい。
下種は聖。
これらはつまり極端は対極に転じ得るということだ。
(中島らもと通ずると思うが、ふたりを並べた論は見たことがない。)
男は女を犯すとき、女になって男に犯されたいと夢想する。
女はマゾヒスティックな殉教を夢見る。
すなわち男とは別文脈で受け容れる(ように見える)。
男も女も、対する女と男に、過剰な願望を押し付けて、それが裏切られては怒り失望するしかないのだ。
「B39」と「B39-Ⅱ」の関係は連作の極北。
大げさではなく世界が反転するんだもの。びっくりした。
ところでかつて「ハリガネムシ」でウンコを握り潰す場面を読んだ私は、「小説の描写とはこれだ!」と教えられたものだが、
「不浄道」ではなんと、ウンコを壁に投げつける!!
狂気すれすれだが一ミリだけあちらがわに行ってしまっ(て皮一枚をたよりになんとかぎりぎり戻ってき)たようで感慨深い。
(連想される「はだしのゲン」の糞垂れ流す将校は、ミリ単位ではなくあちらがわ)
芥川賞は功罪両面を併せ持つが、この作家をフックアップしたのだから、やっぱり偉大なのだ。
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裏表紙の紹介文「淫靡な芳香を放つ狂気」は伊達ではなく、結構強烈な描写が多くて耐性がないとまともに読めないであろう本。というか多分まともに読めてない。
どいつもこいつも考え(思い込み?)が極端で、その極端な考えが、例えば不浄なものに聖性を見出したりするのでわからない。汚くてもいいじゃん、ならまだ分かるのだが、汚いものを貴ぶのは何だかよくわからない。「絶対にあり得ない」(p.154)。
それでも、当の本人からすればそれが正常なわけで、その切実さを前にどうすればよいのかもさっぱり分からない。人は人、自分は自分ではあるけど、活動の幅が重なってきたらそんな正論を言っている場合ではない。この小説に出てきた「常識人」と同じく、彼らを隅に追いやるしかない。
常識を疑ったところで、得るものよりも失うものの方がずっと多いと思ってしまう。「常識を疑う」という言葉にむなしい響きを感じてしまうのは、それが理由なんじゃないかな。齢を重ねるごとに、どんどん私は臆病になってゆく。
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この作者の書いた文章を読んでいると、自分が一週間以上風呂に入っていないような、垢と泥で皮膚がべたべたとしていて頭からは皮脂の臭いがいるような感覚を味わうことができて、シャワーを浴びたくなる。
どの作品も面白いから皆に薦めたいけれど、村八分にあうかもしれないので職場の人とかには言えない。
表題作の『ヤイトスエッド』は、これまで読んできた吉村萬壱作品とは毛色が違って面白かった。少し、町田康を思わせる。
『B39-Ⅱ』のラストが衝撃的だったが、『ボラード病』と通じるところがある。
「坂下宙ぅ吉」を描いた作品があるそうだが、単行本は絶版になっており、文庫化もされていないとのこと。残念。
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文庫化おめでとうおめでとう。
本編は以前単行本で読んでるので、出てすぐ文庫を買っておいてそのままになってたんだけど、書き下ろしの三つ編み腋毛を読みました。
本文は案の定気持ち悪かったし、選評がめちゃくちゃ面白かった。イナセ一戸建てを読み返そうかな。あと独居45の文庫化早よ。
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以前つくったブックリスト:私が食べたい本2022
村田沙耶香さんの書評集の中から3冊を厳選して作成し、2022年、そのうちの1冊すら手に取ることはなく、2023年の年末になって、やっとそのうちの1冊である本作品を手に取った。
こんな構成の作品は始めてで、最初の短編である『イナセ一戸建て』に出てくる作家、坂下宙ぅ吉の受賞作品『三つ編み腋毛』がこの短編集の最後に描かれており、さらに受賞時の書評や作者である坂下宙ぅ吉のコメントまでが、一つの作品として収録されている。その書評の中で、受賞作品である『三つ編み腋毛』がかなり酷評されているというのも、なかなか斬新な作りだなと感心した次第。
最初の短編集を読み終わった時点で異変を感じたわたしは、村田沙耶香さんの『私が食べた本』を再度引っ張りだして、改めてこの短編集についての書評部分を読んでみたのだ。
ここから先は、「男女の目線での世界の見え方の違い」「潔癖と不潔」に注目をしていくといいらしい。
二番目に収録されている『B39』は男性目線で描かれ、三番目に収録されている『B39-Ⅱ』では女性目線で描かれている。
なので、『彼女は頭が悪いから』のような、例えば男性側から見た「ノリ」の描写が、女性側から見たら性被害だった、的な、そういった見え方の違いかと思ったら、全然違う!
自分が見たい・聞きたいことだけの精神世界の話で、だから傷つくポイントも的外れだったり傷ついてなかったりで、だけど、もしその傷つきを麻痺させるための精神世界の構築だとすると、それはそれで本当に悲しい。『B39』は特に女性に対する扱いがひどくて不愉快な描写が多め。
そして表題作『ヤイトスエッド』
この潔癖性や、ひとつの悪をも許さない健全性は、今の社会にも通ずるものがある。インターネットをはじめ、最近は不埒を叩いて健全性を示す、みたいな空気が充満している感じがする。
この作品は、その思考の成れの果てのようなものを描いているような印象で、最近のたとえで言うと、不倫をバッシングすればするほど、不倫をしているその人だけでなく、不倫をしている人自体を嫌いになり、そのうちに人と話すことすら不倫になりえる、といった感じに近い。
まあいいか、がない世界で生きていくことはしんどくて、社会も、そこで生きる我々の気持ちも、そんなに白と黒とにはっきりと分けられるわけがないのだ。
『不浄道』
こちらも潔癖と不潔がテーマになっていて、それらが共存していることのアンビバレンスさを、ものすごく極端に描いている。
そして、この「アンビバレンス」こそが、この短編集のテーマなのかもしれない。
相容れない両方の気持ちが混在していることや、自分が持ち合わせていないものや気持ちの方向に心が突き動かされる感じは、よく体験する。でも、そこには反動もつきもので、ともすると自分を深く傷つけてしまう。結局大事なのってバランスで、でもみんなそのバランスをうまく取れなくて苦しんでるんだよね。この作品集に出てくる人たちほど、極端ではないにせよ。
ちなみに、タイトルの『ヤイトスエッド』というのは、関西弁で「やいと(お灸)据えっど」という意味らしい。
方言をカタカナ表記にすることで、意味不明な言葉の羅列に見えるこの不気味さが、さらにこの短編集全体を引き立てているように思う。
帯に「この本は変人に利く処方箋です」とあり、裏表紙にも「淫靡な芳香を放つ狂気を描く」とある。
お読みになる方、気を付けてくださいね。責任は取りません。