紙の本
圧倒的臨場感
2019/08/04 19:45
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投稿者:むらま - この投稿者のレビュー一覧を見る
その場その場の雰囲気がよく描かれていると感心しながら読みました。
秀吉の誇大妄想に振り回される将兵、民草の恨みに共感し、主人公の臨機応変な生き方にも感銘を受けました。
歴史小説の鑑のような作品です!
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冒頭の衝撃ボディブローがじわじわ攻め立て、自分の読解力と処理能力をはるかに超える情報量の波に溺れそうになりながら追い立てられるように読み進む。
圧巻はその浸透度。ずんずん侵食され心は遠き彼の地へ。
読み終えて覚える安堵感は言わずものがな。
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いただきもののプルーフ読んでました。飯嶋和一、オモロいよ、それは知ってんねん。ただ、雷電にせよ始祖鳥にせよ、ヒーローがかっこ良過ぎ、話全体のトーンが明る過ぎてちょっとね。神無き月の後半、絶望的な結末へ一直線なんだけど読むの止められないあの昏さが好きなんよね、Qとかにもつながるか。
と思って読むとなぁ、権力の暗い圧迫みたいな面はあるけど、やっぱり主人公がかっこ良過ぎてひねくれものには眩しいのよ。
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大作『星夜航行』の下巻である。秀吉の野望による朝鮮出兵は、泥沼の様相を呈してくる。小西行長らによる工作を、秀吉は都合よく解釈してしまった。策が裏目に出て、出兵を回避するどころか、混乱は深まるばかり。
そんな中でも、家康など兵を送らずに済んだ武将もいる。おとなしく秀吉に従うつもりなど、最初からない。秀吉による中央集権の目をかいくぐり、虎視眈々と力を蓄えていたのだ。その裏で、商人たちも密かに動いていた。
武将たちが秀吉に従わざるを得ない一方、商人たちは強かだった。時流を巧みに読み、身軽に拠点を移す。海に生きる男たちの存在は欠かせない。甚五郎もまた、彼らに交じり、琉球や呂宋にまで足を伸ばす。秀吉が支配する日本を見限るかのように。
しかし、秀吉の野望は呂宋の日本人社会にも影響を及ぼしていた。さらには、日本国内での権益を巡り、ポルトガル人とイスパニア人が対立する。海千山千の商人たちも、秀吉の影響下から逃れる術はない。文章から虚無感が漂ってくるようだ。
朝鮮の戦線はといえば、大勝と大敗を繰り返し、支配は進まない。秀吉の病状が伝わり、武将たちも秀吉の死を願う有様である。秀吉が生きている限り、勝者のいない戦は終わらない。そうして両国の兵だけでなく、罪のない民の犠牲が増えていく。朝鮮はさらに、明からの援軍にも国を荒らされる。
厭戦気分が漂い、もはや誇りのかけらもない日本の武将。キリシタンの小西行長も、保身しか考えていない始末。とはいえ、武将たちは、そもそもそれぞれの領国を守るために出兵した。結果、農民もいなくなり、領国は荒れ果てた。収穫は何もない。
一方、朝鮮には誇り高き海将がいた。明の武将さえも感じ入ったほどである。祖国を蹂躙した者どもを、易々と帰国させはしない。ただの意地だったかもしれないが、救いのない本作にあって、その海将が残した印象は、あまりにも鮮烈だった。
この大作に描かれたのは、人間というものの業の深さ。秀吉や武将たちだけではなく、甚五郎たち商人もである。第二次大戦に突入していった大日本帝国の姿と、重なる点が多い。こんな馬鹿げた歴史が、繰り返されないことを願うのみ。
最後に甚五郎が選んだ道については、触れずにおこう。正解のない物語にあって、これが彼にとっての正解だったのだ。
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長い長い物語、1100ページを一気に読み通してしまった。飯島氏の小説はいつもと感心しながらその世界に浸りながら読み終えてしまう。
秀吉の朝鮮出兵の出来事を物語の中心に据え、その周辺に登場する様々な群像を冷徹な目を思って眺めていく。人はその時代その状況の中で生きていき、死んでいく以外に方法は無い。これは現代に置き換えてみても、私たちの生活状況に置き換えてみても、何も違わないのかもしれない。
降倭軍通して秀吉軍と戦う人々は、何を思い、何を目指して、何のために戦うのであろうか?人はいつの時代も戦争を止める事はできない、殺し合うことをを続けなければいけない、
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圧倒的な詳しさで秀吉の朝鮮出兵を語る.ここまで詳しくなくてもと少し煩わしくなるほどの記述.欠点は添付されていた地図がとても見にくく,分かりづらかったこと.また,小西行長の正義は手前勝手な正義で,そのために死屍累々の荒野が残されたと言っても過言ではない.それに比べて甚五郎の清々しさが光る.元三郎信康の小姓衆がどの人物を取っても素晴らしく,もし信康が生きていたらどうだったのかと想像してしまう.装丁も良かったです.
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労作にして大作。
秀吉の朝鮮出兵を時系列(日付つき)で描いている。
ここまで朝鮮出兵を徹底的に描いた作品は知らない。
戦場の場面に圧倒されるのだが、なぜか草深い岡崎が舞台の第1部が心に残る。
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この小説から読み取ることは、
一つ、部下は正しく事実を上司に伝えなければいけない。
小西行長と宗義智は戦を回避しようと、秀吉には朝鮮国が日本に服従するといい、朝鮮には日本への友好の使者を送ってくれと依頼した。
結果として秀吉が朝鮮は属国になったと勘違いするに至る。
部下が正しく上司に報告しないと、上司は正しい判断ができなくなるのだ。
二つ、目的と目標を取り違えない。
始まってしまった戦を終わらせるために、奔走した小西行長だが、最後には秀吉が死んで戦が終わってあとは日本に逃げ帰るという段階で、朝鮮に対して人質と貢物を日本に送るようにと最後まで無理を突き付ける。狂気の末に壊れてしまったのだ。
明国を服従させる目的が、いつの間にか朝鮮から人質と貢物を送らせることが戦争の目的になってしまっていた。
あくまで、目的はパリ、目標はフランス軍、である。
三つ、苛政は虎よりも猛し。
島津征伐、小田原征伐の末に天下統一した豊臣秀吉だったが、日本の盟主が誇大妄想化して世界の盟主たらんとするようになる。
冊封体制の頂点を目指した秀吉は朝鮮を通って明の皇帝になろうとし、果てはルソンのイスパニア提督にさえ脅しをかける。
狂気の沙汰である。トップが頭おかしくなったら末端の被害が拡大する。末端は狂人の死を待つしかなくなるのだ。
二度目の渡海進軍の慶長の役のさなか、沢瀬甚五郎は朝鮮に下った日本人の軍、降倭に捕らえられる。
降倭を率いていたのは、かつて阿蘇の土豪で文禄の役では加藤清正軍として戦った、岡本越後だった。
終わりの見えない戦の末に、何がある。
しっかし、明も朝鮮も日本もみんなグダグダでひどい。
明は朝鮮を助ける気もなく、むしろ略奪目当ての大群で城に数で寄せては鉄砲で撃たれて逃げ帰る消耗戦を繰り返す。
朝鮮は明の属国ゆえに、やる気のない明の指令のままに、やっぱり消耗戦。ゲリラ義民団が日本軍の補給路を断つ好プレー。
そして日本は人足と船をかき集めて朝鮮に送り込むも補給なし。最後は船が足りずに百姓人夫は置き去りにして逃げ帰る。
誰も何も得しない戦争が朝鮮征伐でした。
唯一、秀吉軍一人残らず殺すマンの朝鮮水軍、李瞬臣が活躍したくらい。
朝鮮征伐の歴史がよくわかりました。
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甚五郎は時々出てくるが、要は秀吉の朝鮮戦役の結末までの話が詳細に書かれている。あまりに細かく書かれているため。読む速度が非常に遅くなってしまう。内容は濃いが読むのに非常に力がかかってしまう。でも読後は爽やかな気持ちになるかなあ。
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豊臣秀吉の朝鮮出兵(文禄・慶長の役)で、日本と朝鮮、明国(中国)の三国が朝鮮半島周辺で繰り広げる戦闘を中心に描かれる。三国のパワーバランスや取っている戦術が生々しい。
歴史は様々な解釈がなされるものの、秀吉の悪人ぶりが目に余る。海戦の描写は、緊張感はあるがのどかに感じるものもあり、美しいと感じた。夜のシーンはあまり出てこないが、読んでいるうちに、船の上から見る夜空を想像することがあり、当時の夜空は満天の星で、天の川なんかもきれいに見えたのだろうなと感じた。小説としては長い(上下巻で約1100ページ)し登場人物も多いが、読みにくくはなかった。長い期間を描く大河ドラマではないが、秀吉の朝鮮出兵前後の出来事を深く楽しめたと思う。
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文禄・慶長の役を小説で読むのは初めてで、かつて学校で「朝鮮出兵」と習ったこの戦の虚しさを痛感する。秀吉の蛮行に憤りつつ、それを妨げる術なく、太閤を裸の王様に仕立ててしまった取り巻きたち。権勢に与せず、抗う気骨を備えた漢のひとりもおらなかったのかと歯痒いが、安寧の世からは何とでも言える。そうした中で、主人公・沢瀬甚五郎は才覚に恵まれ、機知に富んだ傑物であるのだけれど、彼を降倭に導いた岡本慶次郎もまた日本人としての誇りを我われに保たせてくれる。そして、ある意味で本当の主人公は朝鮮水軍総司令官・李舜臣であったように思うのだ。
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いや~苦戦しました。読めども読めども進まない。なんと読了まで2週間以上かかりました。
もっとも「久しぶりに飯島和一さんを読もう!」と考えた時から覚悟はしていたのです。非常に良い歴史小説を書く作家さんですが、ともかく重い。ましてこの『星夜航行』上下2巻、1100ページを超える大作ですから。
織田信長から豊臣秀吉にかけて。秀吉による朝鮮出兵を中心に、ルソンなどの南海貿易やそれに絡むキリシタンの物語を織り交ぜ、無名だが実在の人物・沢瀬甚五郎を描いた作品です。
と、書いたものの主人公の沢瀬甚五郎の登場枚数は全体の1/10以下ではないだろうか。物語の中盤など、ルソンとの貿易に携わる甚五郎をさておいて、朝鮮での秀吉軍の動きがひたすらこれでもかと書き込まれる。とにかくやたらと地名人名が出て来る。フルネームできっちり記述されるため、今後も物語に絡む人かと思ったら、その場面のみに登場する通行人的人物でしかないのがほとんどです。記憶すべきかどうか見分けがつかなくて困ってしまう。
自己の名声や子孫の安寧のみを願う誇大妄想的独裁者と化した秀吉による禍害。秀吉を抑えられずかえって弥縫策により混乱と惨禍の拡大を招く小西行長などの武将たち。侵略と言う民衆の危機を前になお政争に明け暮れる朝鮮の官僚たち。高慢で無能力、負けてはその原因を朝鮮軍に押し付ける明国の将軍たち。意外に朝鮮民衆の被害の悲惨さの記述は少なく、支配階級のわが身可愛さの戦いの無意味さをとにかくクドいくらい綿密に描きます。全体の史観として珍しいものではありませんが、脱走や捕虜となった後、降倭軍として朝鮮兵と協力して働く数千の日本人の存在など、これまで知らなかった史実も有りました。
主人公が活躍するのは最初と最後。しかしその領域は物語として生き生きとしており、見事です。
とは言え余りに物語り領域が少なすぎました。
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徳川信康の小姓沢瀬甚五郎がたどる数奇な人生の物語なんだけど、信長・秀吉・家康と権力者が移り変わる歴史のうねりが主人公かと思うほど政治的国際的な叙述が中核にあり、甚五郎の虫瞰図的な人生とは一体化しづらかったですね。2つの話をうまく1つにできてない印象です。あまり知らない秀吉の朝鮮出兵の内実がわかって良かったです。でも、甚五郎には貿易商になってルソンやシャムとか国際的に活躍して欲しかったなぁ。でも、これが史実なんですね。
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飯嶋和一の「星夜航行」を読み終えました。
ハードカバーの本をベッドで読むのは難しいですね。
でも、読み進めるうち、そんなこと言ってられないくらいひきづりこまれました。
会話部分も極端に少なく、硬い文章で森鷗外の読んでいるような気がしました。
舞台は戦国、徳川家康の長男・信康の小姓として側そばに仕えた沢瀬甚五郎は
罪無くして故郷を追われ、堺、薩摩、博多、呂宋の地を転々とする。
海商人として一家を成した頃、秀吉の朝鮮・明国への無謀な侵略に否応なく巻き込まれる。
この本ではかなりの部分をさいて小西行長、加藤清正ら秀吉軍の
傍若無人な侵略も様子が丁寧に描かれている。
『この戦乱で最も苦しんでいるのは、衆生、下々の民である。この朝鮮でも、日本でも、
恐らく明国でも、最も厄災をこうむるのは、いずこによらず民草なのだ。
この秀吉が起こした戦乱によって、親兄弟を殺され、夫や妻や子をうしない、
疫病は蔓延して皆飢餓に瀕している。』
九年の歳月を費やして書かれたこの小説は飯嶋和一の代表作になったことに間違いない。
近年の作家の中では出色の作家だと思う。
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激化し泥沼と化す朝鮮の役は、商人をしていた甚五郎も巻き込む。秀吉の死で役が終わるかと思いきや、思いがけない方向に進んでしまう。李舜臣も登場し、これまで知ることのなかった朝鮮出兵の顛末を読めたのはいいが、情報量と文章のボリュームがありすぎて読み進めるのには難儀した。時代小説を読み慣れていない故なのかもしれないが、人間の運命の不思議さや愚かさ、戦国時代のアジア情勢を知ることができるなど、この長編小説から得られたものは多かったから読んでよかった。