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以前、著者をテレビで拝見してこの人どんな歌を詠むのだろうと興味を持っていた。
金髪で若々しく、頭の回転が早そうなやや早口のイケメンだった。
なのでこのデビュー歌集の、旧仮名遣いにちょっと面食らう。
イメージと違ったのだ。
初っ端から偏見ゴリゴリで恥ずかしい。
私には難しい歌も多い。
が、むせ返るような濃厚な相聞歌(恋の歌)多し。
ゲイとして生きている彼の言葉にならない思いまで伝わってくるような気がしてしまう。
冒頭の短歌研究新人賞受賞の連作『無垢な日本で』が特に好き。
何首か抜粋。
[家々を追われ抱きあふ赤鬼と青鬼だつたわれらふたりは]
[革命を夢見たひとの食卓に同性婚のニュースは流れ]
[ママレモン香る朝焼け性別は柑橘類としておく いまは]
[ほんたうの差別について語らへば徐々に湿つてゆく白いシャツ]
[ぬばたまのソファに触れ合ふお互ひの決して細くはない骨と骨]
[赤鬼になりたい それもこの国の硝子を全部壊せるような]
[東京はやつぱりいいね人間が赤や黄色の羽根持つてゐて]
[どれほどの量の酸素に包まれて眠るふたりか 無垢な日本で]
解説の歌人・水原紫苑さんが偏愛する歌が私もいちばんのお気に入り。
[むらさきの性もてあます僕だから次は蝸牛(くわぎう)として生まれたい]
カタツムリはオスとメスの区別はなく、一個体がオスでありメスである。
もしかしたら、人間より「完璧」で「自由」な存在かもしれない。
一度見たら忘れられないインパクトのある装丁は鈴木成一さん。