紙の本
女性達のおかれた過酷な情勢があらわになる
2019/04/02 07:09
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投稿者:くりくり - この投稿者のレビュー一覧を見る
「国境なき」と活動している人たちに感動を与えられる。人は、どこの国でも変わらない人権を持ち尊重されるべきであり、命が守られるべきだが、人権・命の重さが、国境があるが故に違っているのが現実だ。しかも国情によって多くの人たちが困難を抱えている。日本での学校教育で、「現代世界」というべき教科がないので、国境を海に囲まれている日本人は他国の人々に思いをはせることが、あまりないのではと感じている。
国境なき助産師の著者が派遣される国々は、紛争や経済的困難を抱える国々だ。本書でもパキスタン、イラクやレバノンのシリア難民キャンプ、地中海での難民ボートの救助活動、南スーダンでの活動が報告される。
パキスタンでは、多産が女性の価値であるなかで、ある出産では、母体が危険な状態に陥るなかでも子宮の摘出を拒否する夫。「子どもが産めない女性に価値はない」と思われている文化によるものだ。
レバノンの男尊女卑、職業のヒエラルキーがつよい中で男性薬剤師との確執も。
難民船救助では、ゴムボートに300人近い人がすし詰めで救命胴衣もつけずに漂流している様と救助後の船上の様子など、実際の見たままが語られる。アフリカからの難民船上の女性達の少なくない人が、レイプや売春の強要に合っていたことに心が痛む。南スーダンでは、出産で死亡する女性に「自然淘汰」という言葉が使われる。「病院で出産できれば違ったかも知れない。『仕方がない』で終わらせば前に進めない」という言葉は重い。助産師という仕事上、また本人も女性であることから、世界の女性達のおかれた過酷な情勢があらわになる。
著者は、医療者の大事な活動は「声を上げられない人の代わりにその現状を世間に伝える仕事が重要だ」「海外に行って援助してきました。はい終わり」ではなく、個人から聞いた話を世間に発信し、関心を高めてもらう、時には政府にも訴えると言う。人命に国境などなく、すべての人の命が大切にされるための大事な活動だ。
大事な活動だが、そこには多くの国の人々、個人が関わっている。人間社会にある些細なぶつかり合いも、ユーモラスに、明るく記述され、本書が本音で語られているのは、救いであった。高潔な人だけが行っている活動ではないといっているように感じるからだ。
しかし、驚きは初任給の記述だ。手取りで11万円。あまりに低すぎるだろう。やはり、高潔な人々であったか・・・
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文章はうまいわけじゃないが、等身大の感じがよかった。
実際経験したひとの言葉とあって考えさせられることもあった。
自然淘汰される命に、蘇生しない指示をだしたり、救えない命と判断したら緊急搬送や輸血は控えるなど、びっくりするような現場の話に、自分はとてもそんな責任や判断できないな、という気持ちもあれば、ひどいなぁ、と思う気持ち色々な思いがでてきた。
ただこういう活動をするには自分のスタンスや考えをしっかりもつものであるから、作者の考え・ポリシーを織り込まれるのはいいことであると思う。
それをいいか、悪いかは読む側では決められない。
現場で活躍する人たりはこうやって体験し考えて、こういうポリシーを形成していくんだな、と読みながら思った。
多国籍のひとたちと一緒にやる難しさ、現場がおもったものとちがう、レベルの低さや国民性のちがいなど、これは精神的な疲労もかなりあるなぁと、志願して行く人たちに脱帽。
日本という国で豊かに生まれたのに自殺したり、ちいさなことで悩んだり、これを読んだら、とんでもないな、と反省した。今あることに感謝する気持ち、伝えることはちゃんと言葉にはっきりと思いをのせることを、私も見習おう。
こどもたくさん産まないといけない、女性の価値の決まり方に心苦しくなる。たくさん産んでもトラブルあって母体死亡になれば残されたこどもたちは?
なにか変えたいと思うがなにができるだろう。ただなにができるわけじゃないけど海の向こうでおこっていることに少しでも心を向けたいと思った。
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日本ではどちらかというと、はみ出しもの的な,元気で意思が強く,そしてちょっぴり怠け者だった小島毬奈さんは、昔から「国境なき医師団」の参加を夢見ていた。そして募集があるとしるやいないなや、グイグイと突っ走る実行力で応募。パキスタン,イラクシリア,レバノン,南スーダンと、回を追うごとに厳しく大変な環境の現場へ赴く。
最初の派遣では,自分の英語のコミニュケーションの拙さを思い知り,次回へ準備をする。
劣悪な環境は回数を追うごとに厳しい現場に。
そこで、難民や迫害された女子を主に、助産師として働く。
現場の厳しさ、頭で考えた以上に微力な自分との葛藤。
自分の失敗もあからさまに隠さず、現場を伝える。
実際の待遇,賃金、応募の方法など,情報も。
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この本を読み国境なき医師団の実務の過酷さを知ることができた。僕のようにあこがれる者が多い理由もわかってきたように思う。
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海外で働くことの大変さ、また、海外で働くということは自分を変えてくれるというもの。
実体験を元に書かれたこの小説にとても感動した。
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国境なき医師団について、私の読んだ2冊目の本。
前回は看護師の方の本でしたが今回は助産師さんの書かれた本です。
発展途上国や紛争地域で女性の地位が低いのは何となくしっていましたが、思っていたより悲惨な状況だということを知りました。
難民の問題についても日本では対岸の火事というか、どうしても自分たちの身近な問題とは考えられない傾向にあると思います。
けれどSDGsを目標にするならば、日本ももっとそういう問題を考えなければなりません。治安悪化などの問題もあるとは思いますが、欧米だけに負担を強いるのは無責任だと感じました。
これから主に、難民受け入れに対する問題を考えていきたいと思います。
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「国境なき医師団」の存在は知っていたが、看護師や助産師をはじめその他の医療従事者も派遣要員だったとは知らなかった。
本書では、助産師として「国境なき医師団」に飛び込んだ著者が、8回にわたる活動のなかで感じたことを平易な文章で率直に語っている。
著者は初めから固い信念や使命感を持っていたわけではなく、活動の中で少しずつ自分なりのポリシーを作り上げていくのだが、それも気負ったり押し付けたりすることなく言葉にしていて、読み手にすっと入ってくる。実際の現場からのメッセージはそれだけで重みがある。
著者を苦しめたのが途上国の過酷な環境そのものではなく、多種多様な文化の同僚や現地の人間とのコミュニケーションだというところに活動の難しさが表れていた。
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国境なき医師団に、助産師として登録し、中近東やアフリカや難民キャンプや難民救助船など勤務を行った著者による「難民救助の活動から見えてきたこと」について。
これは大人にも、中高生にもお勧めです。
著者は、国境なき医師団の活動、その中でも助産師としての活動を通して、各国の特徴や、援助する側とされる側の関係も考えてゆく。
援助する側が上から目線や「与えてやる」になってはいけない。
しかし現地国の情勢によっては一生懸命働くことが評価されないためできることが限られたり、医師の地位が高すぎる国では医師が何もせずに威張っていることもある。
著者から見た各国のスタッフの違いも興味深かった。派遣という制度だと、数ヶ月から数年だけの仕事中もも多いので、どうしても合わないスタッフと、お互い攻撃!反撃!になったり、無意味な書類がたくさんでウキーッとなったり、助産師としての仕事だけに集中できない(それはどんな仕事でもそうだけど)事が多い様子は受けたストレスが感じられるようだ。
その中でも日本人の勤勉さ、チームワークの良さは大変評価しているのは嬉しかった。著者にとってコミュニケーションが難しい人たちであっても、いいところ明るい所もたくさん書いていて、どんなに過酷な環境でも、普段は威張りくさってる嫌は人でも、みんなで歌って踊るよ!という生命への明るさ、力強さも感じられる。
派遣されたのが中近東や難民キャンプのため、住居もかなり過酷だ。トイレからはウジ虫とウン◯が溢れてるし、蚊帳の中にいても虫がいるし、冷房のない病院で泥の味のする水を飲みながらの勤務となる。それを著者は仲の良い女性スタッフと一緒に「私たちは牛ですか〜♪」と歌いながら憂さ晴らしという、この力強さや女の団結力が素敵だ。
そして国境なき椎団が派遣される国ではどこも女性の立場が低い低い低い。
「女の価値はたくさん子供を生むこと」のため、母体が危険になっても帝王切開や子宮摘出などは夫たちからの同意を取り付けにくい。そして命の危険にある女性本人も「手術をしてもよいかどうかは男たちが決めるので、自分では決められない」という。
戦争や難民についても、現場の様子がわかりやすい。難民キャンプの内情、そもそもちゃんとした難民キャンプが無い場合、そして難民キャンプがかつて戦争していた国にあったり、同じ国の病院でも民族により入れる病室に格差があったり、地元の戦場を離れたところで差別や格差はなくならない。
戦争により教育が受けられない国で働くことは、現地の人たちと日本人としてのモラルの差もあったようだ。著者の文具を「落ちてたから」といって他の人に売るのは当たり前だったり、時間通りに働くことができなかったり、モラルといっていられるのも、最低限の生活と教育がないと難しく、戦争の後遺症を感じさせられる。
著者は難民ボートの救助活動にも参加している。救助した女性のうち一割から二割が妊娠していて、そのうち半分以上は売春強要やレイプからの妊娠だという。難民たち聞いた話の章では、奴隷として売買されたり、拷問���レイプは日常、なんとか難民ボートに乗っても圧死や水死、なんとか外国にたどり着いても難民として受け入れられた上社会に受け入れられることは少なく、その国でまた奴隷売買されることも多い。
著者はあくまでも「ボート」のことだけしか関われないため、その後難民たちがどうなったかは、遠くから幸運を祈るしか無い。
しかしそんな過酷な女性の出産育児状況で、時には母体や赤ちゃんが命を失うこともあるが、著者は患者や家族たちから非難されたことは一度もないし、自殺者も圧倒的に少ないという。あまりにも過酷な環境で生きると、死ぬ命はすべては神様の思し召しであり、自然淘汰として前に進むしか無い。それを悲壮なものとしてではなく、前に進む命の強さを感じられる。
非情に読みやすいし、出産を通して世界情勢も分かり、生命の強さも感じられる、とても良い本です。
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中村哲さんの『アフガニスタンの診療所から』や、漫画『コウノドリ』などとの併せ読み推奨。いとうせいこうさんの著書も気になるところ(未読)。
命を守るのも、命を看取るのも命懸け。
自分のお産の時も、微弱陣痛からの胎盤用手剥離やら吸引分娩やらで大変だったけど、もしもそれが難民ボートの上だったり、泥んこまみれの難民キャンプ内だったりしたら、と想像すると恐ろしい。そして、赤ちゃんの腕を骨折させても一切責められないなんて!日本や欧米の医療訴訟のヒステリックな様子と思い合わせると、何という違いかと驚かされる。
本来、産と死は予測不能で、全てをコントロール下に置くことは不可能な出来事のはずだけれど、たぶん、いわゆる「先進諸国」には、それらをコントロールしたいという強い欲望とできるはずだという驕りからくる、できないことへの苛立ちがあるんだろう。それが医療訴訟の過激化と産科医・小児科医不足を引き起こしている。
日本や欧米の都市部では出産がイベント化していく傾向が強いと聞くけれども、そういうのどうでもいいなぁ、と改めて感じさせられた。そして、世界の紛争地帯で活躍している著者さんと、私のお産を二度にわたって救ってくれた助産師さんに対する深く感謝。
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