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まだ下巻読み終わってない時点の感想です。
被害者側、加害者側の人間像、事件当日までの描写に重きを置いていた。
特に加害者側の救いのない心理描写が重た過ぎて読む手が進まなくて困った。
そこから突然、事件後まで時間が飛び、特段のトリックやミスリードもなく、ほどなく犯人が捕まるところまで到達。ここまて上巻で書いちゃって、下巻何書くの?
多少の伏線を感じているものの、下巻でどう話を展開して、閉めて行くのか、に期待。
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久しぶりの高村作品。久しぶりの合田雄一郎。ひんやり、ざらざら、ぬるぬるするような感情たち、薄ら寒さを覚える内面たち。下巻が気になる!
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『マークスの山』、『レディ・ジョーカー』など、読者に迫ってくるような“重い”作品を発表している高村薫。
これら「合田雄一郎刑事シリーズ」の続編が文庫化されていると知り、久しぶりにこの作家さんの作品を読むことにしました。
13歳の女子中学生、そして2人の、刑務所生活の経験がある男たち。
彼女と彼らの、ある日の朝の描写から始まります。
見ず知らずの男2人は、求人サイトで連絡を取り合い、合流します。
彼らの共通の目的は、“暴れること”、“金を奪うこと”、すなわち犯罪をすること。
それぞれが抱え込む熱量を、放出させるための行動が描写されていきます。
上巻は、事件に至る経緯と、事件発生後の警察の動きという、二部構成になっています。
前半を読んでいて、小説の世界だとはわかっているのですが(行動・心理ともに細部がリアルに描写されているので)、「自分の身の回りには、犯罪することを前提に行動している人がいるかもしれないのだなあ」と、怖くなってしまいました。
事件調査の描写については、グロテスクに感じる部分もあるので、苦手な人は注意が必要かもしれません。
ただそのような状況の中で、捜査をする人たちは、膨大で地道な作業を続けているのだと、理解することができました。
想像していたよりも、早いペースで話が進んでいるように感じました。
下巻ではどのような展開が待っているのか。
続けて読みたいと思います。
『晴子情歌(下)』高村薫
https://booklog.jp/users/makabe38/archives/1/4101347247
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子供二人を含む家族全員殺害という犯罪に被疑者を駆り立てたものは何か、逮捕後の警察の取り調べとともにその理由を私たちも探ろうとする
しかしなかなかその答えは見えてこない
金銭目的、粗暴さ、精神疾患、幼少時代の劣悪な家庭環境、社会への不満、女性嫌悪、裕福な家庭へのコンプレックス
どれもが当てはまるように感じる、が、どれもが犯行の残虐性を裏付けるほどの根拠にはならない(少なくとも警察はそう考えている)
実際読み進めていく中で被疑者から動機になりそうな発言、描写が出てくるとホッとする自分に気づく。そうか、これが原因なのか、と
しかし次の供述では前と矛盾する発言が飛び出し、二転三転してしまう
。そのたび読んでる側は不安になっていってしまう
襲いかかって倒れた被害者の頭部にスキを二度振り下ろしているにもかかわらず殺意自体は否定する。盗んだ貴金属類も捨ててしまう。相方に責任をなすりつけたりもしない。どうせ死刑になると投げやりな態度をとっているというわけでもない。そして実際に死刑が確定しても態度や感情に変化が見られない。「反省しているのか?」と問われても「してるわけないじゃん。意味がわかんね」と言う。その発言は幼稚な反発心からのものではなく、「本当に、反省するという言葉の意味が分からない」というものだ。そこで私たち読者もまた考え込んでしまう
あくまで殺害の理由としては「なんとなく」「気が付けば」「かっとなった」だ
理解できる動機を発見できないままの状態が続くと私たちは完全な異常者による犯行であり理解することなど不可能、だと思い込みたくなる。その欲求から逃れることはできない
しかしこの被疑者達がもついわゆる「人間性」というものが、私達を縛り付けていく。
主人公の合田は聴取が終わった後も被疑者二人に会いに行く。手紙を書く
彼らの頭脳の明晰さや詩的感受性に感銘を受ける、と同時にそんな感想をもつ自分に嫌悪感も抱く
ならばなぜ会いに行くのか、それは自分でもわからない
聴取を行った警察の人間としての建前、つまり被害者の死を無駄にしないためにも、死刑が決まった被疑者の死も無駄にしてはならない、という考えをもってはいるが、同時にその考えの傲慢さに対しても不快感をもってしまう。めんどくさい男である
1番壮絶なシーンとして
合田が会いに行った被疑者の一人が逮捕後歯病をこじらせ癌となり死亡する
その葬儀が終わり帰宅後、生前に被疑者出していたであろう葉書が合田のもとに届く
「子供を二人殺した私ですが、生きよ、生きよという声が聞こえるのです」
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めちゃくちゃ面白いです。髙村 薫、おそるべし。流石すぎる。いやもう、めちゃくちゃ面白いです。面白い、と言ってしまうのは語弊があるほどに、凄惨な内容なのですが、、、便宜上すみません。面白い、という表現になってしまいます。
まさに重戦車。始動は遅く鈍重だが、走り出したら最後、「そいつ」は全てをなぎ倒し突き進み、もはや誰にも止められない、という読書感。本当にもう、圧倒的です。あまりにも緻密な描写。あまりにもゆっくりと進む物語進行。読み進めるのが、最初は苦痛なくらいでした。全然ページが進みませんでした。ホンマに細かいんだもん。
でも、その世界観に慣れてくると、もうね、圧倒的に浸れちゃうんですよね。唯一無二、です、まさに。
ま、唯一無二、とか言った直ぐ後に、こう思っちゃってるんですが、髙村 薫の存在感って、なんだか、ドストエフスキーと、めっちゃ似てる気がするんですよね。自分、ドストエフスキーの作品、ちゃんと読んだものって殆ど無いのに、こんな事いって申し訳ないのですが。
あくまでも、あくまでも、世間一般における、その存在感の認識が、自分が感じるだけでの表現なのですが、「髙村 薫と、ドストエフスキーは、存在感が似ている」というね、印象です。あくまでも自分の中での印象。ま、それくらいね、なんというか「屹立している」って感じがね、するんですよ。
あと、2021年現在の日本文学界で言いますと、もう10年くらい前から?毎年、「今年こそ村上春樹がノーベル文学賞を獲るか!?」っていうのが、風物詩みたいなものになってる気がしますが、自分としては、村上春樹は、めっちゃんこ好きなんです。めっちゃんこ好きなうえで、実は、もし次のノーベル文学賞受賞者が日本人から、というか日本文学から出るとしたら、髙村 薫に、一番ね、受賞して欲しいんですよね。ってくらいに思ってるくらいに、髙村 薫、好きです。
好きです、って軽々しく言えないくらいでもある。畏怖。ですね、どっちかゆうと。あらゆる作家が、その個人という存在に於いて唯一無二であることは間違いないでしょうが、髙村 薫こそが、本当にホンマに、唯一無二の存在感を感じますね、僕は。「圧倒的にどこにも属していない」感を、バンバンに感じちゃう。いやもうねえ、凄いよねえホンマ。
第一章 事件
高梨あゆみ(歩)。戸田吉生。井上克美。この3人それぞれの視点からで、話が進んでいく。それぞれの一人称視点で、それぞれの物語が描かれる、感じ?ですかね。ま、不穏です。不気味です。焦燥です。あゆみの視点は、いわばマセている感じ?トダヨシオとイノウエカツミの視点は、ま、無軌道なワルのそれ、と言いますか、うーん苛立ちと狂気だね、って感じ。
トダヨシオの、あっこまで歯が痛いのにあっこまで頑なに歯医者に行かない感じ、すげえ狂ってる感ヒシヒシで凄くこう、凄い。いやでもなんか、分かる。なんか分かる。自分で自分を勝手に苦しめて勝手にそれが苛立ちの快感になってるあの感じ。マジ狂ってるな。どマゾだな、って感じ。でもなんか、分かる。分かる俺が嫌だ。
第二章 警察
ココでいきなり、もう事件後。すげえ悲惨な事件がいきなり発生している。惨い。惨すぎる。で、まさか合田雄一郎刑事が登場するとは!?ビックリしました。合田シリーズだという事を、全く知らないまま読み始めたので。そうか~。合田シリーズだったのか。もうね、ほぼほぼ、髙村 薫の、ライフワークになってるんでしょうね。合田雄一郎シリーズ。
この章の、警察内部の描写がもう、とにかく凄い。いやもう凄い。一つの殺人事件が起こる、ということは、これほどに、警察の人員を、動かすのか。これほどに様々な、細かな細かな手続きが、発生するのか。犯人を捕らえるためだけに。事件を解決するためだけに。
「だけに」という言いかたは、あまりにも失礼にあたる気がするので申し訳ないという思いが大いにあるのですが、いやでもあえて「ただ単に殺人事件が起きただけで」という言いかたを、させてください。本当にすみません。毎日毎日、この日本で。いやもういうならば世界で。どれほど沢山の事件が起こり、どれほど沢山の殺人が起こり、どれほど沢山の殺人事件が明らかとなっているか?途轍もない数であろうことは間違いないでしょう。
その、一つ一つの事件が、これほどまでに当事者以外に影響を及ぼしているのだ!という驚愕。これはもう、とんでもないことですよ。で、とんでもないことであるのだが、それはもう、恐ろしいことに「日常の風景」なのだ。これは、自分の勝手な予想なのですが、この日本ですら、一年のうちで「一日も殺人事件が起きなかった日」って、一日もないんじゃないでしょうかね。今この瞬間でも、日本の何処かで、誰かが殺されているんですよ、きっと。で、その度に、これほどに沢山の、主に警察ですけど、関係のない人々が、それに巻き込まれるんだ。という。おっとろしいことですよ、うん。
ああ、俺、できるだけ、犯罪起こさないようにしよう。ましてや人殺しはしないぞ、ってね、思いましたね。だって、誰かが誰かを殺さなければ、というか犯罪しなければ、なんですけども、こんなに警察の人に無理に動いてもらう必要、ないですやん?たった一つの殺人が、これほどまでに、無関係な人々を動かすのだ。という驚愕の事実を、イヤという程理解しました。いやもう、髙村 薫、凄いです。
で、この上巻だけを読んだ限りでは、この小説、トルーマン・カポーティの「冷血」を、明らかに下地にしている、と思っております。題名も一緒だし。で、カポーティの「冷血」を読んだのはかなり昔なんで、もう結構な記憶のうろ覚えモードになってしまっていますが、あの一家殺しへと向かう犯罪者二人の意識の流れ、とかも、ほぼ一緒だった、気がする。いや実は全然違っていたらホンマすみません、なのですが。
下巻で、どう、物語は、進むのか?髙村 薫の書いたこの物語から、自分は、なにを感じるのか?全ては下巻を読み終えた後の気持ちが全てを知っている、のだろう。下巻、心して、読みます。ま、これぞ読書の愉悦です。髙村 薫、ホンマに凄い人です。
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これまで読んできた高村薫さんの合田雄一郎シリーズは、硬質な文体と徹底して描かれる、果てのない巨大な組織や権力の闇が印象的。この『冷血』もそんな合田雄一郎シリーズの一作。そして今回描かれるのは、個人の内に潜む言葉にできない闇。
第一章で描かれるのは闇サイトで出会った二人の男が、犯罪を重ねていく様子。ただこの描き方が普通のサスペンスとは大きく違う。
会話文からもかぎ括弧を排した独特の文体。執拗で詳細な描写。そして男たちの内面。
ATMを襲撃したり、コンビニ強盗をしたりと二人は罪を重ねていくものの、その場面に興奮の要素は薄い。
金、スリル、社会への恨み……
思うところはいくらでもありそうなものなのに、二人ともそれらの執着がまったく感じられない。さしたる考えもなく、野放図に流れに身を任せ、どこか気だるげに罪を重ねる二人。時代設定は2002年から2003年の話なのですが、言葉にしがたい現代の閉塞感、行き詰まり感というものを今の時代に読むと余計に感じます。
そして人間関係の希薄さというものも感じます。一緒に罪を犯すというのは運命共同体のようなものなのに、二人は互いに相手への興味や執着がとにかく薄い。
お互いの心理描写のとき相手の名前が常にカタカナで書かれるところや、会話でもかぎ括弧が使われないところなんかは、関係の希薄さ、相手への興味のなさが表れているように思いました。
その他人への執着のなさは、二人が盗みに入ることに決めた家族に対しても見られます。これから盗みに入る家の人間を目の当たりにしても、感情が揺れるどころか、彼らをまったく別世界の顔のない人間だと思ってしまう。他人への余裕のなさ、無関心、自己主義、ここにも今の社会の病巣が表れているようにも感じてしまう。
そして第2章からは合田をはじめとした警察の捜査の章に。ここの細かい描写も見どころですが、何より警察の捜査から改めて明らかになる、犯人たちの行き当たりばったりの行動にどこか末恐ろしいものも感じてくる。
目撃者や監視カメラのことも全く気にする様子もなく、罪を重ねていく男たち。その不可解さと自覚のない破滅衝動が、混沌とした社会と、人間の情感の闇を示しているように思えてくる。
1章で二人の内面はさんざん描かれたのに、それでも彼らの真の犯行の動機が、まったく見えないのがあまりに特異。下巻でその闇が明かされるかどうか。
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序盤,男二人の部分がものすごく不快で,読むのしんどいな止めたいなと思ったけど,止めずに読んでよかった。モデルがあるのかと思ったけどそうではないみたいで,高村さんは本当にスゴいと思う。
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クリスマスイブの日に起こった一家4人皆殺し事件。
歯科医の夫婦、いい学校に通う2人の子供たち
人に憎まれることとは無縁の幸せな家族が殺された。
犯人は2人の男。
ネットで知り合った井上と戸田。
後先考えないような杜撰な犯行と凶悪性
なぜ2人は幸せな家族を皆殺しにするに至ったのか?
うむむ…読むのに時間がかかってしまった。
じわじわと描かれる家族の姿と井上と戸田の人生
井上と戸田の行動と思考と人生の描写が、高速道路を走る車の中から風景を眺めているような感覚の描き方で、なんというか「自分ではない全く関係のない人の知らない人生」を覗き見るようなスピード感のある不思議な描き方でひやっとしながら読む。
それがまた、人が自分の人生を捨てているような…
どうでもいいような投げやり感
がじわじわと怖さを増す。
下巻、読みたいけど…
珍しく読むのに躊躇してしまっている。
どうしようか…
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正直とても面白くなかった。他の高村薫さんの小説同様に犯人を追いかけて行くことを期待して、物語の力に引っ張られることを期待していたら、とんでもなかった。淡々と犯人2人組の状況や心理描写が続いて、長くて、読みづらい。そして面白くない。救いもない。
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2023.03.31
精緻な書き込みで人間を考えさせる髙村作品を感じさせる。
犯罪者はどうして犯罪者になるのかを改めて考えている。
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上巻を読んでの感想です。
犯人側パートと被害者側パートの交互に進む、第一章が面白かったです。犯人の井上と戸田、両方のキャラが立っています。正反対のようで、似たものの同士という感じ。被害者側パートの最後が、希望に満ち溢れすぎていて哀しい。
第二章は警察パート。犯人を追い詰めていく過程は、なかなか進まないように見えて、実は確実に包囲網が狭まっている様子は、結構なサスペンスを感じました。倒叙推理小説の趣ですね。
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唯一読むハードボイルド系の小説が高村薫さん。
久しぶりに手に取った合田警部補シリーズ。
第一章「事件」
語り手がシーンによって変わるのだが、後に被害者家族になるであろう一家の語り手は高梨家の長女歩(あゆみ)。
と言ってもまだ13歳になったばかりの、私立中学生だ。
元気だし、日によってコロコロ変わる気分は年頃の女の子だ。
でももうただ走って遊んで…な年頃は過ぎていて、女性としてのおませな一面も覗かせる。
親に気を遣う時もあれば、我が家は幸せなのだろうかと考えたり、急に大人びてゆく近所の男子を意識したり。
父親と母親の会話の内容も、殆どは理解している。
自問自答するときにも「ううん」なんて使わない、「いいえ」だ。
それでもディズニーシー行きは楽しみ。
友達とはしゃいだりもする。
一方、今後事件の捜査線上にあがってくる男二人のシーン。
こちらは戸田吉生、井上克美、それぞれの男が語り手となる。
ネットの掲示板募集で知り合ったが故に、それぞれの目線で相手を語る時はトダでありイノウエだ。
やっぱり高村薫さんは上手いな、と思う。
何かを言い表す時の言葉のチョイスが、あゆみのシーンと、戸田・井上のシーンで、別人かと思う程に違う。
例えば朝の学校。
登校のシーン。
「……あゆみが歩きだしてすぐ、後ろから勢いよく追いかけてきたユキとアリサがそうだった。おはよう!おはよう!おはよう!三つの声が重なり、半分は笑い声になってリーフパイのようにさらさらと壊れた」
かと思えば井上の心の声。
「克美は一瞬血管が切れそうになり、次の瞬間にはそれに反転して笑い出したくなり、予定になかった混乱を感じたと同時に予備のエンジンがもう一つドカンと爆発して、勢いがつくのを感じた。そら、この感じだ。欲しかったのはこの感じなのだ」
不気味だ。危ういったらない。
他にも、その手の改造車の車種や仕様、スロットの機種や仕様も事細かだ。
こんな方向に残酷な文章もあった。
首を吊った女性の半ミイラを見たという井上の回想。
「切ないほど静かで、利根川の川霧の底でひとり、誰にも聞こえない歌をさわさわと歌っているようだった」
背表紙を読んでから本書を開いたので戸田と井上が何かやらかすとは思っていたが、読み始めて直ぐに感じる戸田のヤバさ。
戸田は歯がボロボロだ。
しかも今現在も患った歯が痛い。
雑踏ですら頭蓋骨に響き、それが歯の神経に響く。
音叉を用いて表現された歯痛は、高村薫さん、流石だ。
歯痛をのど飴で紛らわす戸田。
いよいよ耐えられなくなると鎮痛剤を服用するが、歯痛と鎮痛剤のぼんやりした状態で世の中を仰ぎ眺める苛立ちのような、諦めのような、淡々とした視線が怖い。
どんどん悪化してゆく歯痛の行き着く先、のたうち回る痛みで自分の世界が変わるだろうかと思う、その危うさ。
一方井上は不器用で潔癖、そして気分が鬱へ躁へとコロコロ変わる。
金属バットを振り回しても硬球には当てられないが、人の頭くらいならスイカ割り(と本人は思っている)。
ナイフを持ったが最後、人の腹を切りそうで直感的に避けてきたと、これもまた本人曰く。
頭の中で、スロットのリールの映像と共にそれらを思い返すシーンは、気分が不安定な井上を上手く表現していて怖い。
勿論、戸田も井上も狂っているわけではないから、普通に日常を過ごしたり、昔の出来事を思い返したりもする。
たとえば戸田は、国立近代美術館の工芸展へ行くような男。
木工にきょうみがあり、街路樹を見上げて、この木はなんだっけ?と思ったりする。
たとえば井上は、落ち着くから水辺が好きだという男。
印象的に利根川が出てくる。
「事件発生。前の晩からぐらぐらしていた渉の乳歯が一本、朝一番に抜け落ちた」
第一章「事件」であるし、戸田・井上が何かするぞ!と読者が思いながら読んでいるところへ、あゆみからの一声。
著者の、この翻し方は上手いなと思った。
第二章「警察」
ここからの展開はスピード感が変わる。
すでに事件は起きていた。
分刻みの表記がなされ、緊迫感が張り詰める。
そして、合田雄一郎が登場する。
事件は私が想像していたよりも酷くいたましいものだった。
え?あの二人ここまでやったの?という思いだ。
あまりにも容赦なくて不快感でいっぱいになる。
と同時に、"いかにも"な杜撰で無計画な有り様が、確かに第一章のあの二人の印象のままだとも思った。
杜撰な為か、合田たち警視庁の捜査は逸れること無く、トントン拍子で犯人二人に迫ってゆく。
途中に挟まれる合田の心の声でも、二人の動きは読まれているように思えた。
次第に明らかになるにつれ、第一章からより鮮明になる井上の"静"と"動"の二面性。
家族の有り様。
戸田の抑圧された子供時代と、得てしまった解放感。
長く患っている歯痛。
そして、「……二人合わせて16号線の全域をカバーしていたことになる」との何気ない文章が不思議と印象に残った。
で、上巻で呆気なく二人は捕まる。
え?
これって下巻はどっち方向に進むんだろ。
読み始める前は『冷血』とは事件の惨状だと思っていたけれど、違うのだろうか。
そんな表面的なものだけではなくて、もっと底深い、根深い何かも含んでのタイトルなんだろうか。
「機械が強盗に及んだような無機質な現場の様子と、事件前後のホシ二人の様子の間の距離が、捜査が進むにつれてどんどん開いてくる感じ…………それが一段と顕著になった」
本当だよねぇ。。。
「海岸の風景に引き寄せられて神戸まで来たか」
「使用された形跡のない、播州三本打刃物のハイス鋼彫刻刀各種十本」
これらには、僅かに人間らしい一面が悲しく見え隠れして、胸がきゅうっとしてしまった。
さぁ、下巻読もう!
☆仕舞屋…商売をやめた店
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髙村さんの作品は最初全然読み進められないのですが、気がつくとハマってる。
今回もそんな感じになりそうな予感。
最初半分以上は読むのが辛かった。
やっと動き始めた感じ。下が楽しみ。