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単行本版「冷血」の上巻を読み終えたのが昨年の1月24日だった。昨年は50冊くらいしか本が読めなかったのだが、それを差し引いても「冷血」の存在感は際立っていた。それから一年も経っていないなか、文庫版を読んだらどう感じるのか。まったく想像できないでいた。ただ、おそらく単行本時よりも4人が殺されたことに憤り、子どもが無惨な姿で発見されたことに強く悲しみとやりきれなさを感じていたとおもう。この理不尽にも余りある理不尽に、わたしは言い表せないほどのつらさに直面した。下巻を読めば、このつらさの行き場が現れるだろうか。
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事件を起こすまでの道行きを、ここまで丁寧に描いているとは思わなかった。そして、事件の部分はあえて警察への入電という形で描かれるところに痺れてしまった。
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第一章を読み終えるのに、毎日義務の様に読んで実に一週間かかった。読んでも、読んでも、ページを捲るのが身毒なって已めて終う。歯科医師一家四人殺害事件。犯人は2人の男。それだけは、嫌でも事前に情報が入る。
高村薫なのだ。始まりは、事件一週間前の被害者の娘の一人称の述懐。そして、2人の犯人の夫々の述懐と続く。ここまで読んだならば、何が待っているかは容易に想像がつく。一般のミステリーではない。高村薫なのだ。一人称述懐タイプの描写は詳細を極める。被害者の娘、中学一年生の歩(あゆむ)は徒らに純粋で生意気で聡明だ。実際、数学オリンピックをを目指す子供はそうなのかもしれない。犯人たちは、あまりにも短絡的に犯行を繰り返す。次第と運命の日に近づいてゆく。最近のゲーム世代の小説家のように、大量猟奇殺人鬼をキャラとして描いたりはしないのだ。
高村薫の粘菌のような描写が続く。読んでいられない。もう止めろ、と私の中の臆病が叫ぶ。もう辛抱が切れかけていた頃、突如スイッチが切り替わるように第二章「警察」に変わった。
久しぶりの合田雄一郎。私は単行本の「太陽を曳く馬」も読んでいない。「新リア王」から「太陽を曳く馬」に続き合田雄一郎も登場するこれらの文庫本化を飛び越えて、高村薫は何故こちらの文庫本化を急いだのか?本書を読んだところで、雄一郎の捜査のように「答」がひとつ出てくる見通しは何一つ無いが、また何故この物語が2002年に設定されているのかも、何一つ見通しは立たないけれども、ひとつ事実としてあるのは、第一章にきっちり7日掛かった私は、第二章はきっちり1日で済ませたということだ。もちろん、雄一郎の因縁の元妻が2001年の9.11で亡くなっていたことなどを見逃す粗い読書はしなかった。義兄との関係は、進んでいるのか?いないのか?それはわからなかった。
事件は、想定内の経過を経て犯人逮捕に向かう。これでやっと物語の半分。一切見通しは立たない。合田雄一郎シリーズ、いったい何処に向かうのか。
2018年11月12日読了
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細切れの時間で読むには向かない。読むのに時間がかかってしまった。
事件の発生いたるまでの、二人の男の行動と気分が克明に描かれる。
向かっていく方向が分からない。
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クリスマスの楽しみを控えた医師の子供でもある13歳の少女と、苛立ちと虚無を抱えて犯罪を繰り返す二人の男の物語が感覚的に語られ、事件発生後はそれを捜査する合田雄一郎の立場から物語が綴られる。二人逮捕まで話はいったが、あと1冊分話は続く。掴みきれない男たちのことと、事件のこと、どう話は進んでいくのだろうか。
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高村さんの小説結構読んでいるけれど、どれも湿気が強く感じられる。
何故なんだろうか、皮膚感覚の様に纏わりついてくる。
快感でもあり、逃れられない。
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前半の150ページが大変。頑張って読むとその後の展開につながってくる。
最初は未解決の世田谷区の一家の事件のことだと思ったけど、違う内容。
感想は下巻にて
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2019年読んだ本が300冊ぐらいになるなか、最も印象的だったタイトルここに落ち着きそうなんですけど、まずカポーティの財産を受けて書かれていること。
そして、たぶんどんな時代に読んでも現実と作品の虚構がシンクロすること。
って意味で、いま自分がどういうフィクションを欲しているのか、正月早々あからさまになってたんだねえ。てなこと思う師走かな。
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とある事情で最新刊を読みたいと思ったので。
読む順番を間違えたらしい。
どおりで、合田刑事の元妻の死が唐突に語られたわけだ。
といっても、多分、順序はあまり関係ないはず。
求人サイトで出会い、犯罪を重ね、家族四人を惨殺した二人組。
それぞれ逮捕され、取り調べをうける。
被害者、犯人、警察と構成要素が単純化されており、
詳細不明の警察の内部抗争や医療過誤の捜査が何のために加えられているのか不明だが、
今までになく警察小説に近い。
とはいえ、特に逮捕されて以降は、
取り調べの記述が詳細を極めているが、何を意図されているのかわからない。
貧困を原因としない、現代の犯罪の理不尽さだろうか。
(下巻へ)
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救いもなにもない。小説なのだが、これが真実ではないかと勘違いしそうだ。
聡明な文章に毎回シビれる。
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文庫化されてすぐのころ、まだアメリカにいたので定価の倍近い値段で買ったのだが、ほんの最初のほうを読んだだけで投げだしていた。南カリフォルニアの抜けるような青空とはどうにも相性が合わなかったか。
2002年とはだいぶ昔を舞台にしている。世田谷一家殺害事件にあわせているのかと思ったが、そちらは2000年だった。おそらく合田雄一郎の年齢・キャリアからの逆算で年代を決めたのだろう。携帯でゲームとかGPSとかこの頃から一般的だったかな?
(オリジナルの雑誌連載は2010年だったのですな)
髙村薫の作品をそれほどまで熱心に追いかけなくてしばし経つのだが、これは「クセ」が少し弱まったというかドストエフスキー的独白成分が薄まり読みやすくなった。とは言ってもどこをどう読んでも髙村薫が描いたものでしかありえないのだが。。。初動捜査の描写なんかは「マークスの山」を初めて読んだときの興奮を思い出させた。ただ下巻はひたすら内省的になっていくが、そこは上巻との緩急のバランスでいい感じ。勢いでつっきれた。
第一章は多視点になっており、髙村薫が13歳の声を借りて語っている。決してそういうの器用なタイプじゃないと思うのだが面白く読んだ。また、個人的に馴染みのある土地が多く登場し、戸田や井上の視線で語られる様子には「こんなに荒んだところだったかなあ」と思ったのだが、池袋で被害者家族側の視線と交差するあたりで「ああ、これは三人称で語られているがあくまで登場人物のフィルターを通しているのか」と納得した次第。
本家カポーティの「冷血」も読んでみてズシリとしたさすがの名作と思ったが、一方でこう刺さってこない感じもあった。そこは髙村版は東京が舞台だからかリアリティをもって迫ってくるものがあり、久しぶりに小説を堪能した。
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合田雄一郎シリーズ。事件そのものにドラマチックな展開があるわけでもなく、これまでのミステリ小説と比較すると盛り上がりに欠けるストーリー展開ではある印象はあるが、この作品の見せ場は警察や犯人のそれぞれの捜査・犯行道程の緻密な描写に見所があり、まるで現実の話のようなリアリティが一つの見所なのかもしれない。(現在下巻を拝読中で)上巻を読んでいる限りは少し忍耐がいるかもしれないが、下巻からこの小説の本来のテーマが見えてきそうな気がしている。
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嘘であってくれと常に思い続けていた。
この世には理屈では決して説明できないことがある、という残虐かつ確実な事実を暴力的に突きつけられたようだった。同時に、どれほど我々が心理学やら弁論術やらを身につけた所で、人の気持ちなど他者による言葉に置き換える事は決してできないのだと思い知らされた。
犯人(特に井上の方)の感覚が刑事らとズレているわけではない。精神病などの類でもない。単に「そういう考え方をする人」であるだけなのだ。そしてそれは「良い」とか「悪い」とかの次元を遥かに超えており、当人以外にはどうしようもないことなのだ、恐らく。
前半は主に女子中学生「あゆみ」の日常と、新聞配達人で前科持ちの戸田、同じく前科者で彼と行動を共にする井上、この三人の視点から展開されていく。
冒頭、あゆみは13歳を迎えた朝、子供と大人の境目である新たな年の始まりを自覚し、未熟で庇護対象である弟や必要以上に「家族」の雰囲気を構成しようと薄っぺらい会話を続ける両親を醒めた目で観察する。「私たち子供が大人に合わせている」という想いを常に心の奥底に抱いており、スタンダールの『赤と黒』を読むやや早熟な子ではあるが、それ以外に引っかかる点はない、ただ背伸び気味の女の子だ。が、読み進めるうちに殺人事件の被害者の一人になることは明白になっていき、あぁ、この家族は壊れるんだ、ディズニーシーお泊まり計画や父親のアメリカ移住は叶わないんだ、と肌で感じる度に、何とも言えぬ悪寒が背筋を走る。
あゆみ一家を残虐非道なやり方で殺害するのは、もう二人の語り手、井上と戸田。ネットの掲示板で出会った二人は、息をするように車泥棒やATM襲撃、コンビニ強盗を繰り返す。そして挙げ句の果てにその延長で、たまたま入った歯科医を襲撃し、「目が合ったから」「ムカついたから」、全員を殴り殺した。
全体の感想は後半を読んでから一気に書きたいが、読んだ後にとても心が重苦しくなる。高村薫氏のずっしりとしたハードボイルドな世界の後には、月並みな言葉しか並べ立てられない自分の文章が嫌になる。ただ重苦しい、としか言えない。常識って一体何なんだろうな、司法はどの程度まで他者の「心奥」に介入できるのだろうか、と言うか果たしてそこまでする意味はあるのか、など、日常では考え付かないところまで色々と考察してしまう。
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歯科医一家を殺害した事件を描いた作品である。高村薫氏の作品を読むのは二作目であるが、合田雄一郎が登場する作品は初めて読んだ。物語は下巻に続くので、上巻のみでこの物語について言及するのは難しい。何せ、上巻の前半は被害者である歯科医一家の長女と加害者二名のモノローグが交互に語られているのみだからだ。緻密に、静謐に、しかし内容はかなり過激な、高村薫節とも言うべき筆致は本作でもいかんなく発揮されており、それゆえ物語の進行はどうしても遅滞気味となる。
後半は一転、殺人事件に対する警察の捜査プロセス、すなわち加害者二名の逮捕とそこに至るまでの捜査、そして容疑者の取り調べが描かれる。前半のモノローグですでに加害者は明かされているので、「誰が犯行を行ったのか?」といった謎解きに類いする興趣はない。すべてを読み終えてわかることかもしれないが、加害者(二人の加害者のそれぞれ)の犯行に至るまでの心の移ろいや主人公たる合田雄一郎の考えや心理を掘り下げていく物語であろう、と予感している。
警察小説、推理小説といった、いわば謎解きに軸足を置くいわゆるミステリー小説を望む人には、この作品を読み続けるモチベーションの維持は困難ではなかろうか。幸い、私は『晴子情歌』で高村薫の語りは体験しており、かつ魅せられているので、大きな違和感はなかった。警察小説を望んで合田雄一郎との邂逅を果たしていたならば、いささか期待外れで、本作品を上巻読了時点で投げ出してしまった可能性もあるのではないかと思う。ミステリー小説にしばしば備わっているスピード感のある展開を望む者には、繰り返すが本作はお勧めできない。
高村女史の描く作品は、氏の美学に基づく表現で、ひたすら人間を描きだす。人間の持つ一筋縄では言い得ないものを、氏は緻密な言葉を費やして紡ぎだし、具現化しているのだと思う。
とまれ、本作品はまだ半ばまでしか読んでいない。下巻ではもっと高村節を読むことができるであろうと期待を込めて、作品自体への言及はすべてを読了したときにあらためて書いてみたい。
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重い、内容ももちろんだが、情報量が多すぎて重い。
私の処理能力では、ギリギリの部分が多く苦労した。
しかし、悪い気はしない。むしろ、集中して読書に臨まなければならないことに喜びを感じる。
前半は、ひたすらに登場人物ごとの行動や日常が、描かれる。何も起こらない中で、起こっている何かしらが物語を進めている。
そして事件は起こる。
あまりに理不尽な出来事に、言葉が出てこない。
世間はクリスマス雰囲気の中、歯科医一家4人殺害事件が発生した。
警察の内部事情や、犯人捜索の活動は、特に詳細に書かれてはいるが、どこか読者を置いてけぼりにする感は否めない。
しかし、虱潰しに行われると捜索の、気の遠くなるような努力には感心する。
登場人物の一人である、雄一郎の考察は興味深く、有意義な読書時間を体感できた。
上巻では判断できないので下巻へ進む。