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安楽死という一見重そうなテーマだけれど、男女の会話がメインで軽やかで読みやすかったです。現代社会が細かく描写されていて、作品の風景を自分の視点に置き換えて想像しながら読むことができました。
平成くんと著者の古市さんが重なって見えました笑。
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話題の社会学者・古市憲寿さんの処女小説にして芥川賞候補作ということで、これは読まねばと手に取った次第。小説としての完成度が高いのはもちろん、平成という時代の空気感が非常にうまく描かれている。安楽死が合法化されたifの世界の思考実験も面白く、著者のやりたいことがすごく明確な1冊だなと思った。特に印象的だった3点について、思いついたことを書いてみる。
《平成という時代の空気感》
ファッションブランドや店舗名など、頻出する固有名詞が時代感を作り上げているといろんな批評で書かれていた。登場人物としても旬の人々が取り上げられており、そもそも主人公である平成くん自体、古市さんが自分自身を描いているとしか思えないほど「リアル」に寄せてある。政情についても「この国では、人が死んだ時だけは、あっさり物事が動くからね」などとシニカルな視点で語られ、平成という時代自体を舞台装置として遊んでしまう斜に構えたスタイルにこそ「さとり感」が溢れている気がして、すごくいい。
最新ガジェットを当然のように使いこなす生活描写は、SFとまではいかない程度の近未来的なリアリティがある。「グーグルは僕そのもの」と語る平成くんがグーグルアカウントのパスワードを愛ちゃんに渡すシーンも、平成を描く物語だからこそ究極の愛情表現として機能している。そんなフィクションとノンフィクションの境界が絶妙な世界がしっかりと作られているので「時代の代弁者である平成くんが、平成という時代の終わりとともに自分を終了させる」という突飛なストーリー設定も、ありえなくはないかも…と思わせられた。
《安楽死にまつわるifの世界》
「安楽死」はこの小説の重要なテーマだと思われる。実際に、ある女性の安楽葬の光景やエンターテインメント型安楽施設など、安楽死が合法化された世界という舞台設定で様々なフィクションが描かれる。さらに社会学者である著者の豊富な知識によって、今現在行われている安楽死にまつわる論点がそのまま物語の肉付けとしてうまく機能している。ただ、安楽死そのものの是非を問うことにこの小説の焦点があるわけではない。
本文中に「人間はまだ少しも死を克服できていない。不慮の事故ならわかるけど、寿命や本人が決めたはずの安楽死でさえ、その死に人は嘆き、苦しむ。」とあるように、平成という時代における「死」についての空気感は、近代までの日本の死生観からそれほど大きくは変わっていない。ただ、確実に延命技術や医療環境は進化しており、いわゆるパラダイムシフトの真っ只中にある平成という時代を描くため、道具立てのひとつとして「安楽死」が扱われているような気がした。
取材を重ね、様々なデータを元に合理的な観点から「死」と向き合おうとする平成くんに対し、「私は平成くんのことをずっと忘れたくない。だって私の一部はもうすでに君なんだから」と、どこまでも人間的・感情的に「死」の悲しさを訴えていく愛ちゃん。それぞれの死生観をぶつけ合ったあとで生まれる物語のエンディングは、意外性もあって新しいなぁと思った。
《どこまでもチャーミングな平成くん》
物語は一貫して愛ちゃんの視点から語ら���ている。その目線を通すからかもしれないが、平成くんがとてもかわいく思えてくる。本来なら、聡明で、合理主義的で、シニカルな男など憎たらしくて仕方がないだろう。実際、飼い猫のミライを愛ちゃんの許可を得ずに勝手に安楽死させてしまう平成くんはサイコパスと言ってもいいし、合理主義を完璧に実践してしまうと、こういった描写ばかりになる気がする。
それでもなお平成くんがチャーミングなのは、平成くんが完璧ではないからだ。彼の中で筋が通っているはずの考えも、社会一般で通用するかといえばそうではない。むしろ、主張を重ねれば重ねるほど、屁理屈ばかりを言うダメな子のように見られがちだ。さらに、旧友の牛来くんによれば、平成くんは「ああ見えて、彼は直感と五感に左右される人間」なのだと語られる。確かに、合理主義に徹しきれない人間らしさが、物語の随所でポロポロとこぼれている。平成くんが死のうと思った本当の理由が終盤に明かされるが、そこすらも臆病さが先に立っていて、非常に人間くさい。そもそも、愛ちゃんを残して死ぬなどと一貫して頑なであるところや、最終的な(ある意味身勝手に思える提案による)落としどころなども、かなり独りよがりでわがままで、人間らしいといえば人間らしい。
そんな平成くんも、愛ちゃんとのパワーゲームにおいては、彼女の感情のごり押しによって度々流されてしまうことがある。温泉で混浴を迫られると、文句を言いながらも結局愛ちゃんに負けてしまうし、タワーキングの部屋でのベッドシーンなどは、完全に補食される側に収まっている(おそらく、セックス描写に関しては肉食女子と草食男子という構図や、女性主導の行為によって現代的な性の解放を描きたかったのかな、と思う)。
また、(スマートスピーカー的なキーワード効果を狙っているのだろうが)「ねぇ、愛ちゃん」「ねぇ、平成くん」とお互いに語りかける台詞も頻繁に出てくるように、平成くんの口調は穏やかで優しい。決して乱暴をしないし、汚い言葉は使わない。かといって、デートでエスコートをするわけでもない。旧時代的なジェンダーロールはおそらく意図的に排除されていて、「男らしさ」のようなキャラ付けから自由である平成くんにかわいらしさが付与されるのは、それほど不自然なことではない。
ある意味こじらせ男子とも言える平成くんのキュートさこそ、この小説のいちばんの魅力だと思う。
固有名詞やテクノロジーで平成という時代のアウトラインをなぞり、普遍的な「死」をテーマに平成を生きる人々の価値観を探り、平成くんと愛ちゃんという平成代表人物の生態をシニカルに描き出したこの小説は、一貫して「平成を描く」ことを念頭に書かれている。一方、2019年4月という平成の終わりも着実に近づいている。
作中には、「殯(もがり)」という葬儀儀礼についての言及があった。「死者の復活を願いつつも遺体の腐敗、白骨化などの物理的変化を確認することにより、死者の最終的な「死」を確認すること」だそうだ。
平成という時代が終わるこのタイミングでこの小説が読まれることは、平成を看取る僕らにとっての「殯」となるのかもしれない。
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涙するとは思わなかった。最初は平成くんって古市さんみたいだなぁ〜これ仲良しの千秋と城田優でしょ?面白いなぁ〜くらいの気持ちで読んでたけど、読み進めたら考えさせられることが多い作品でした。安楽死もそうだけど、人との付き合い方やAIの使い方なんかも考えさせられた。古市さん、小説家としても素敵。
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炎上を恐れず?率直すぎるコメントをメディアでされている著書がどんな小説を書くのかすごく興味があって読んだ。
平成元年生まれの平成くん、こんな人いるかな…いるよなーと思いながら最後は愛同様、平成くんに生きてほしい!って願いながら読まずにいられなかった。
でも、
「生きてほしいって思うのは残される者のエゴ」みたいな平成くんの台詞、私も考えたことがあった。癌で亡くなった母の闘病中、私はどんな姿であっても母に生きていてほしいって強く願っていたけれど、母はそうじゃなかったと思う。私は母がこの世にいるってだけで、それだけでよかった。母は、苦しくて苦しくて痛くて、周りにも迷惑をかけて…早く楽になりたいって弱音を父にはこぼしてたと聞いた。弱っていく姿を家族に見せるよりも、元気だった明るい私を覚えていてほしいって。
生きてほしいって願うこと、遺されるもののエゴなんかな…って当時考えて涙したことがあったっけ。
そんなことを思い出しながら…
ところどころ涙がこぼれた一冊だった。
平成くんはどこで、今ごろ何してるのかな。
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平成が終わる今だからこそ、1番読んでいておもしろい作品であると感じた。だがまた、何年後かにこの作品を読んでも、平成を思い出すことができ、またおもしろいとも感じた。そして、最後に平成くんがどうなったのか、読む人の感性で様々な想像ができるところも、非常に面白いと感じた。
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著者本人をモデルにしているだろうけど、自意識の塊というか最後まで読むのが辛かった。さらに彼女の目線で進むというのもちょっと、、、
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古市さんの本は読んだことがあったので、小説が出たと聞き、読んでみたくなった。
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この本は哀しく寂しく、虚無感を産んだ。考えさせられるところは沢山あったけれど、途中もう辛すぎて読むのを辞めようかと思ったところがあった。
そこから平成くんがなぜ安楽死を選ぼうとするのか、描かれてあったので気持ちが安定したけど、
理由がわからないまま安楽死を求める若者という人物像は読んでいて怖かった。
・
愛ちゃんが安楽死を止めようとして奮闘する姿が平成くんと対比されてその人間味がなんとか読むのを止めないでいられた理由だと思う。
・
今にはないフィクションとリアリティ溢れるノンフィクションが入り交じっているので、フィクションも物語の中でリアリティを増してきて、独特の世界観を生み出していた。このあたりは、さすが古市さんって感じでした。
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どうか、平成くんが、平成くんの思い出を背負った愛ちゃんが、楽になれますように。
・
読んで経験値として良かったな、とは思うけど、わたしは人には勧めないかなと思う。
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人生の絶頂期、敢えて自殺という道を選ぶことによって
強い印象を世間に残す売名がある
日本の文学では
大江健三郎「万延元年のフットボール」あたりを元祖に
多くのフォロワーを生み出した方法である
しかし、ちゃんと人々は「わたし」のことを神格化して
拝んでくれるのだろうか?
死んだ後ではそれを確認することができない
ならばとりあえず身を隠して、様子を窺いましょう
そんな印象ですね
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正直、テレビで普段見ている古市さんの印象からすると、意外な小説だった。実在する人物、サービス名称も出てきて、仮想世界なんだけど、どこか「もしかしたら、いつか…」と思わせる。私は安楽死自体について、あまり深く考えたことがないけど、本人だけではなく、周り(遺族はもちろん、友人も)の問題でもあるから、難しい。
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【見送る人、見送られる人】平成と名付けられた青年と生活を共にする愛は、ある日彼から安楽死をしたいと告白を受ける。その突然の申し出に戸惑う愛であったが、次第に平成はその結論に至る理由を明らかにし始め......。著者は、社会学者として活躍する古市憲寿。
発言が反響を呼ぶことの多い著者の初の小説作品ということで手にとってみましたが、とても印象深かったのは、本作の世界観が非常に閉じたものであり、「外部の他者」の存在が極めて気迫であること。タイトルがタイトルだけに、本書を基に平成とは何かについて考えを巡らせてみるのも一興かもしれません。
〜「僕にもうこれ以上、欲を持たせないでよ」〜
表紙も印象的です☆5つ
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『平成が始まった日に生まれた、29歳。
時代の終わりと共に、死にたいと思った。』
安楽死を望む平成くんと、振り回される愛ちゃん。(そして猫のミライ)
賢いのに人の感情に無頓着な人いるよね…と思いながら読み進めてるうちに、平成くんに愛着がわいてしまう。
死なないで欲しいと願いながら読み進めていくと、熱海以降の展開に込み上げてくるものがある。つらい。語彙力。
最後の彼が平成くんじゃないと気づくのが遅くて、2回も読み直してしまった。
そうだよね、セックスしないもんね、変だと思った……。
平成の終わりに面白い作品に出会えて良かった。
意図的に平成らしいものを入れてくれていた。
これで平成世代にはその内起きる出来事のように感じて読めるし、平成以前世代には煩わしく感じることがあっただろう。
作者は相当ひねくれてる。(褒め言葉)
【追記】
ミライの安楽死は平成くんの勝手な判断によるものなんだけど、それが最初の方に出てきた娘に安楽死の内容を決められる老婆と重なってしまった。
結局、なんだかんだ言って平成くんも平凡な思考(苦しませたくないから安楽死!)を持っているんだなーと感じた。
ここで平成くんがグッと身近に感じる気がする。
【追記の追記】
感想に世代差があって、それもまた良い。
平成には平成の感じ方があると実感した。
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安楽死について考える作品なのだが、ストーリーの随所に、今時のアイテムが散りばめられている。
それが自慢のようで、少し鼻についてしまい、肝心のストーリーに対して関心がいかなかった。
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テレビをあまり見ないので作者の方はよく知りませんが、とても頭の良い方なんだろうなと思いました。その頭の良さを見せびらかす感じは読んでいて感じられなかったです。
ただ、自分が頭の良い事を理解した上でその意見や思想を表現しているだけの本に感じられました。独りよがりというか、自己完結しているものを押し付けられている気がします。
文章が悪いわけでも下手な訳でもないのですが、引き込まれるところが全くありませんでした。
平成くんの台詞や考え方など、考えさせられたり気づかされる部分は多いのは確かです。しかし、物語として読んだ時に魅力が感じられませんでした。
読んだ後に嫌な気分になったり、読まなければよかったと思うことはありません。時間があればもう一度読んでみても良いと思っています。ただ、人に勧めることはないと思います。
内容に関していえば、安楽死制度がある世界というアイデアは素晴らしいのでもっと掘り下げて欲しかったのと、主人公たちの生活が浮世離れしていたこと、平成くんが平成の象徴として描かれているが実際の平成に生きた人間の象徴とは思い難い部分が気になりました。
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平成くんは平成元年生まれ。学部論文の出版を始め、映画脚本など手がけ、TVに出るほどの売れっ子さん。彼女・愛の目線で物語は語られる。ある日、平成くんより安楽死を望んでいることを伝えられ…。安楽死をめぐる物語。
平成にちなんだ出来事や物事が語られ、本人たちは、合理的であり。なんというか、小説というより、形というか標本を見ている感じ。深い感情描写があるわけでもなし。安楽死についても、何にしても全体的に先に突っ走ってしまっている感じ。平成を感じつつ、元号が変わるときに読んでみてもいいのでは。
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時代の最先端を生きるような若者「平成くん」が安楽死をしたいという告白から始まる、彼と彼の恋人?とのストーリー。登場人物は「普通の人」とはかけ離れているが、主題が死であることからストーリーは頭に入ってきやすい。
著者の描く「平成くん」はまさに「平成の上流階級の若者像」の典型であるだろう。安楽死が認められた時代であれば、こういう若者もそれなりの数いたであろう。
自分の死までも自分でコントロールできる、全てが「割り切れる」時代に「割り切れないもの」は何かということを考えさせられる。ストーリーから単純に考えるとそれは「感情」や遺される「他者」なのだろう。このような自分では「割り切れないもの」に対して、ウジウジ悩んでいるのもまた平成の若者なのかもしれない。
著者はコメンテーターとしてテレビではよく見かけており、胡散臭さも感じていたが、文章は一級品だと思う。ただ、平成末期の文化(UBER、スマートスピーカーなど)の描写が多すぎて、ワザとらしさを感じないわけではない。