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ベートーヴェン伝説の捏造者シンドラーの視点。ベートーヴェンの会話帳を現代のSNSに見立てたアイデアがとても面白かったです。「運命は、つくれる」「19世紀のポスト・トゥルース」のキャッチコピーにも心をつかまれました。芳崎せいむさんのカバーイラストも好き(『金魚屋古書店』も好き)。
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ベートーヴェンの「秘書」だったアントン・フェリクス・シンドラー。あれこれ奔走して第九の初演を成功に導く手助けをするなど、本人はめいっぱいベートーヴェンに尽くしているつもりなのだが、当のベートーヴェンからはウザいやつだと思われていて、演奏会の収益を着服した、などといういいがかりとともに追い出されてしまう。追い打ちをかけるようにベートーヴェンから届く非難の手紙。しかし、その末尾には、次回公演の根回しのため、警察にポスターを届けてくれまいか、と依頼の言葉が。ここまで読んで思わず「えーっ!」と声に出して言ってしまった。さらに、その依頼を受け入れるシンドラー。「えーっ、えーっ!」。少し先には「あんな言葉をぶつけておいて、平然と仕事を頼み続けるベートーヴェンも、それに応えるシンドラーもどうかしている。狂気と狂気のぶつかりあいだ」との言葉が。「だよねえ!」と思わず相づち(笑)。
ベートーヴェンが死んだあとのシンドラーの妄執もまたすごいんだけど、それやこれやひっくるめて、なんだかんだ人間は「物語」が好きなんだなあと思ってしまった。嘘であろうとまことであろうと、きれいな物語のあるところに大半の人はひかれる。ポストモダンなんかくそくらえなのだ。ベートーヴェンもシンドラーも、どちらも友だちにはなりたくないタイプだけど、遠くから見る限り、どこか人間的な弱さの塊みたいなものを持っていて、憎めないところがある。近親者だったらたまらないだろうとも思うけれど。
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ベートーヴェンの「会話帳」なるものがあることも、ましてや、それが書き換えられていたことも知らなかった。
現代人的な感覚に寄せて、
シンドラーの行動の真意を読み解いているので
真実かどうかは定かではないが、
面白く、引き込まれる。
だいそれたことをやらかして
しまうときの人間の心理って、
部分的に説明がつくところもあるけど
結局、よく分からないことが多い
(本人にも分からないことも)
よなー、といろいろ考えさせられた。
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1977年のベートーヴェン没後150年のアニヴァーサリー・イヤーに、ベートーヴェンの「会話帳」― 聴覚を失ったベートーヴェンがコミュニケーションを取るために使っていた筆談用のノート ― に、改竄があり、話題になったなんて話は、とんと知らなかったな~。
ベートーベンの私設秘書であったアントン・フェリックス・シンドラーによる加筆や削除による改竄。その事実、および改竄部分がどこで、どれがオリジナルの書き込みかの検証は専門家によってなされている。その検証をいちいちなぞるのではなく、シンドラーが、なぜそんな書き込みをしたくなったのか、そうすることで覆そうとした、あるいは隠蔽しようとした事実はなになのかを、オリジナルの書き込みをもとに、当時のベートヴェン、シンドラーに成りきって、会話にならない会話、書ききれなかった心情をモノローグのように記して、面白み、味わいを加味しつつ考察していく。
「会話帳」を、現代におけるSNSでの会話のやりとりと見立てたところに、著者の慧眼があったか。楽聖ベートーヴェンが血肉のある人物として甦り、ウィーンの街並みを、ブツブツぼやきながら歩いている様が目に浮かぶようである。
改竄に至った内容や、それによって作り上げられた虚像や、後世に与える事実誤認の部分よりも、会話の内容から汲み取った人物造形の妙が本書の読みどころなのかもしれない。
文字を書くとなると、手間も時間もかかる。必要最低限の記述となる。文字にならなかった部分、あえて文書にしなかったこと、行間の思い等が当然ある。それを、ベートヴェンや、シンドラーのモノローグとして時折再現している部分が秀逸なのだった。
これは、官九郎脚本ドラマ『マンハッタン・ラブストーリー』の喫茶店マスター(松岡昌宏)の心の声であり、『清州会議』(三谷幸喜著)の各武将のモノローグと同質であり、不思議と、“本音”感が漂って可笑しみがある。すべて、著者による創作にすぎないのにだ。会話帳=LINEなどのSNSとした今風の見立てが、軽妙な、人間味のある、本音めいた心情の吐露となって、絶妙な信憑性を付加してる気がする。
シンドラーを稀代の詐欺師、歴史の改竄者として描くが、言ってないだろうセリフ(言ったかも知れないが)を、書き連ねる著者も、シンドラーに劣らない、虚像の創造主であるなと、感嘆して読んだ。
そのカラクリが見えたところで、後半の、特にベートヴェンと会話がなくなってくると、あまり興味はなくなり、流し読みしたくなる(クラシックファン、ベートヴェンファンなら、違うかもしれないが)。
前半の面白さが、秀逸だ。
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ベートーヴェンの存在を確かめるのは本人の作った曲と、書いたとされる書物、そして関わる人たちの言葉を同じく残した書物。しかし耳が聞こえなかったベートーヴェンにとって会話帳は、僕らでは考えられなかった事実だ。それをうまく使い、人を騙すことは、目的とすることは、今の時代なら考えられることだが、その当時はそこまではできるものではない気がする。
人の性を感じさせる本だった。
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著者の修士論文を小説風に書き直した本。新聞に紹介されていたので予約して読んだ。クラッシックの知識はほとんどないが面白く読めた。ベートーベンの
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力作。面白かった。
天才とそうでない自分。シンドラーの気持ちも分からんでもないなぁ…嘘が年月を重ね本当の事のように思えてくる。イタイけど憎めない。シンドラー。あぁ…笑
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鬼滅の刃で盛り上がっている昨今。
私は、密かにベートーベン生誕250周年の記念イヤーで盛り上がっている。
現在、NHKのEテレで、さまざまな番組でベートーベンを取り上げている。
私はベートーベンが好きです。
一昨年、稲垣吾郎さんがベートーベンを演じた舞台「No9不滅の旋律」を観たことも大きい。
大好きな曲、沢山あるけれど、
「悲愴第二楽章」は本当に美しい曲。一番好きです。ピアノはまだ初心者だけど、以前、易しくアレンジされたバージョンを課題曲で練習しました。
ピアノソナタは全ていつか、オリジナルで弾いてみたい…。(テンペストは無理だな…)
そんな誰もが知る名曲を数多く残したベートーベンは、その個性的な人物像も有名。
神経質な性格。コーヒー豆はいつも60粒というこだわり気質。傍若無人で唯我独尊…
本著は、そんな彼に数年間秘書としてついて回ったシンドラーなる人物が、ベートーベンの伝記を「でっち上げた」ことをつまびらかにしていくという一冊。
ほぼ物語は当時のシンドラーの視点で進む。彼のことは知らなかったのだが、ベートーベンに疎まれ振り回されつつも彼の才能に惚れ込み付き合いを続けた人物。
ベートーベンは聴覚難に苦しみ、会話にはメモを使った。シンドラーはその会話帳をもとに伝記を書き記したという。
面白い題材だと思った。
ベートーベンとその音楽生活、友人や弟子、弟、そして自殺未遂を計った甥のカール。
断片的には知っているものの、秘書目線でそのエピソードを知っていくのも面白い。
チェルニーやフランツリストなど、有名な音楽家も登場し、天才たちの共演を想像し、ワクワクした。
小説も良いけど、たまにはこういった、自分の好きな人物の伝記を読み解いていくのも良いな。
ベートーベン、ますます知りたくなる人物だ。
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運命のモチーフだとかテンペストを読めだとかメルツェルと交響曲8番の第二楽章とか人って話は怪しいってよく聞く、その根拠の怪しさを説明してくれているのがこの本。
シンドラーというちょっと空気読めない系の人物が、会話帳を改竄したり、エピソードを捏造したり。それを現代の音楽業界の話風に面白く書いている。ベートーヴェンの伝記を巡ってこれだけ揉めてた話とか知らなかった。
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『ベートーヴェンの弟子』を名乗る男アントン・フェリックス・シンドラーが、いかにベートーヴェンのイメージを浄化し、捏造し、現代の時点からベートーヴェンを観る我々の目を欺いたのかを語ったもの。文体がフランクなので、アカデミックな論文や評論ではないが、少なくとも事実を扱っており、詳細な資料に基づいているので小説とも言い難い。シンドラーの伝記、と言ったほうが近いのかも知れない。
シンドラーの生い立ちから当時の時代背景、師匠と崇めるベートーヴェンとの出会い、弟子仲間と呼べるか分からない知人たちとの軋轢、ベートーヴェン親子の家庭崩壊と師匠の死を経て、崇拝するベートーヴェンの伝記執筆という名の闘争に発展していく様は手に汗握った。
しかし「全ては崇拝してやまない師匠のため」という名目で対話記録を捏造し、「ぼくのかんがえた最高のベートーヴェン」を伝記という形に仕上げていくシンドラーの手法には理解出来ないと考える一方で、そうしたことをやりたくなる心境に同情している自分もいた。なぜなら、わたしも漫画やアニメの登場人物、歴史上に類を見ない事業を成し遂げた英雄、更にはアイドルたちに対して「ぼくのかんがえた最高の○○」的なイメージを持ち、妄想している側面があるからだ。
そういう意味では、シンドラーはベートーヴェンに対する執着が過ぎた、平々凡々な人間だったのだと思う。シンドラー的な捏造や嘘は、誰でもやってしまうのだ。この本は〝鏡〟みたいなものだと思う。
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面白かったぁ、なんでもっと早く読まなかったんだろ
以前にTBSラジオのアトロクで紹介された直後に
購入するも、積ん読図書館に寄贈状態だった本書
読み出すと驚きと面白さが同時に押し寄せてくる
そしてそのまま読みきってしまったのでした
この歴史的出来事とこの文体の相性の良さ!それを
実現させた著者の筆力と、もとは修士論文だったと
いう経緯を含めてまさに「へえ~」である
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なんだこの本は!めちゃくちゃ面白いじゃないか!!
あまり詳しいことはわからないけれど、クラシックは嫌いじゃないです。交響曲何番、とか言われてもパッと曲がわかるほどの知識は残念ながら持ち合わせていません
なので
ベートーヴェンに秘書がいた、なんてこともこの本で初耳
最初は秘書、シンドラーの生い立ちが書かれていていまいち…でしたがベートーヴェンと出会ってからが面白い
みんな、自分の尊敬する人には輝いていて欲しいですよね
黒い部分なんて、見なかった、知らなかった
そんなことにしてしまいたいですよね…
気持ち、わからなくもない
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積読をしていたら、何と文庫化されてしまった。というわけで、読み始めたのだが、これが滅法おもしろかった。
ベートーヴェンといえば、いかつい目つきにモジャモジャ頭…。小学校の音楽室に必ずといっていいほど飾られた肖像画を連想する。そして、授業や書籍で語られてきた印象的な数々のエピソード。「運命はこうして扉を叩く」という台詞は、音楽に疎い私でも知っている。ところが、そうしたエピソードは、ベートーヴェンの秘書アントン・シンドラーによる伝記に由来し、実はそのほとんどが捏造されたものだった。
ベートーヴェンが若くから難聴を抱えていたことは有名で、コミュニケーションはノートへの筆談に頼っていた。ベートーヴェンは失語ではないので、書くのは相手側のみである。そのノート約400冊は全て保管されていたのだが、シンドラーは伝記を書くにあたり都合のいい部分だけを残し、他は燃やしてしまったという。しかも、残した約140冊の至るところに改ざん処理を施した。
こうして書き上げられた伝記は1840年に初版が刊行され、2度大幅改訂されている。当時から内容に疑義が寄せられていたもの、その後の楽聖ベートーヴェン像の確立に大きな影響を与えることになった。
ところが、1977年の国際ベートーヴェン学会で、シンドラーの捏造が改めて大々的に指摘され、一大騒動に発展するのである。ある研究家はシンドラーが関わった情報は一切信用できないと述べ、今後正確なベートーヴェンの伝記を書くことは不可能だとまで言う。
作者はシンドラーを“プロデューサー”だと評する(決して褒めてはいない。ここ重要)。天才作曲家ベートーヴェンは、人間的にはなかなか厄介な方だったらしい。シンドラーはそれらの醜聞をもみ消した。そして、自分とベートーヴェンとの関係性を「盛った」のである。
本書はかなり砕けた文体で、面白おかしく書かれている。スラスラ読める徹夜本である。シンドラーさん、なかなかにゲスい。すると妙な気になってくる。大筋はこの通りなんだろう。捏造も間違いなくしたのだろう。でもこの本に書かれていることを、正確にシンドラーが言ったり考えたりしたかはわからない。では、これ「捏造」なのでは?
シンドラーの嘘は綺麗さっぱり淘汰されたのかといえば、そんなことはない。「運命」のエピソードのように、捏造報道があった後も多くのテキストで紹介されている。我々は今なおシンドラーの描いたベートーヴェンを見ているのである。