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イラストレーターの朔、ライターの登紀子、OLをやめて専業主婦となった鈴子。昭和から平成、3人の女性はそれぞれの道を突き進む。彼女たちが望むものは、そして、選んだもの、手に入れたものは何か、そしてその先は…。
男か、仕事か結婚か、そして子供か。女は岐路に立たされる(ましてやこの小説では60年代よりが舞台だ、今以上に壁はあるであろう)。才能を持ったイラストレーター、ライターが登場し、新しい生き方を求め、人生をゆく。そして、若者へバトンを渡す時、必ずやってくる老い。喜びも悲しみも三者三様見事に描き切れている。私も若くない部類だし、要所要所で同感するところがありました(彼女たちのようなクリエイティブな才能はないけどね)。そしてモデルとなった方もいらっしゃるだろうし、時代を語るものでもあり、実に読み応えがある物語でした。女の悔しさや貪欲さ、逞しさ、それでも輝きがありました。時代に流れも味わえて良かったです。
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「男、仕事、結婚、子ども」のうち、たった三つしか選べないとしたら――。どんなに強欲と謗られようと、三つとも手に入れたかった――。50年前、出版社で出会った三人の女たちが半生をかけ、何を代償にしても手に入れようとした〈トリニティ=かけがえのない三つのもの〉とは?
30年前ぐらいに読んでいたら感想は違っていたかもと本を閉じた。東京の下町に生まれ育ったお茶くみOL、親子三代物書きのライター、母に捨てられた過去を持つ売れっ子イラストレーター。昭和時代に東京の出版社で巡り合い、50年にわたりつながりを持つ3人の女たちの紡ぐテーマは何十回も繰り返された物語で、残念ながら新鮮味が感じられない。
その上に、還暦を過ぎた3人の主人公・女たちが沈んでいるのだ。三人三様が違う人生をたどったのに、後悔と悲しみがまとわりついているように思えた。確かに女をとりまく環境は厳しい。私も場面場面で痛いほど感じて来た。だけど、それだけではなかったはず。彼女らのその後を後ろ向きな面ばかりでなく、明るい面も描いて欲しかった。そうでなければ後に続く後輩たちに背中を見せられないではないか。
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仕事、結婚、子ども。
これら全てを手に入れたい、と思うことはそんなにも欲深いことなのだろうか。
昭和から平成にかけての50年、激動の時代と闘った女達の物語。
出版社で出逢った三人の女性。
新進気鋭のイラストレーター・妙子
流行の一歩先を行き時代を読み抜くフリーライターの先駆者・登紀子
そして事務職を寿退社し専業主婦となった鈴子。
出自も職業も生き方も異なる三人の来し方を交差させながら、この時代の女の生き方を探る。
新しい女、進んだ女、自由な女を常に追い続けてきた。
なのに社会により阻まれる「女の自由」。
三人それぞれが思い描く「自由」の枠組みは自身の結婚、出産、子育て等を経て、めくるめく時代の急速な流れに導かれるようにくるくる変わる。
「男の社員にだって淹れなくていいのよ。自分で淹れればいいの。日本だってね、そのうちお茶くみなんて女子だってやらなくなるのよ」
昭和の時代に若かりし頃の登紀子が鈴子に言ったセリフ。
平成を経て新しい世となった令和の時代の、働く女性が今なお「お茶くみ」をしていると知ったら、登紀子はどう思うだろう。
長編だったけれど夢中になってほぼ一気読みだった。
出版業界の女性達が自分の信念のもと、生き生きと仕事に取り組む様はとてもカッコ良くて素敵。
「女だって自由に生きていいのよ」
登紀子が繰り返し言ってきたこのセリフは、今なお社会の柵にもまれ悩む女性達へのエールにもなる。
「ほら、あれ見て。できたときから、夜になると、ちかちかしてるの、あの赤い灯。鼓動と同じだよね。ビルの鼓動。あのビルもまだある。私たちもまだ生きてる。まだまだずっとこのあとも続くんだよ。やりたいことやろう。やりたいことやって、やりつくそうよ」
令和の時代でもなお、ビルの鼓動と共に三人の魂は生き続ける。
大島さんの『渦』も良かったけれど、直木賞はこの作品にとって欲しかった。
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出版業界をメインに、60年代の先端のファッション・カルチャー・女性の生き様が浮かび上がるロングストーリー。ライターの登紀子・イラストレーターの妙子・出版社勤務の鈴子の三人の女性達の生い立ちを追いながら、現在までを駆け抜けていく仕立てになっている。とりあえず題材は自分のどツボ。そして美澄成分が薄目なので、ビギナーの私にも読み易い。面白かった..しかしグッと引き込む何かが足りない。そのせいか結構読むのに時間がかかった。しかし巻末の参考文献を見ながら、ああ~あの人が、あの雑誌がモデルだったのね、などと興味深い。
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トリニティとは三位一体と言う意味があるとか。ここで描かれる女性3人が三位一体と言う意味もあるのだろうけど、昭和の時代に女性が自らの才能で「仕事」も「結婚」も「子供」って大切なものをどれも得ようすると必死にならないといけない時代だったということなんだろうなあ。
東京五輪の1964年に創刊された伝説の雑誌「潮汐ライズ」の表紙を飾ったのは無名のイラストレーター「早川朔」でデビューした藤田妙子、その雑誌のフリーライターが三代続くモノ書きの家に育った佐竹登紀子、そしてその出版社の事務職だったのが宮野鈴子。
この三人はこの時に出会って、三位一体と言う意味で言うと、学生運動が激化して1968年10月に起きた新宿騒乱事件に3人で出かけたシーンに強調される。学生たちデモ隊の行動に触発されたのか、「ふざけるな! 男どもふざけるな! 女を下に置くな!」「男の絵なんか描きたくない! 好きな絵を好きなだけ描きたい!」と叫ぶシーンは印象的だ。
現在は72歳から78歳になる彼女たち、私よりもやや上の年代だけど、激動の昭和平成を女性として悩みながらも生き抜き、その結果がどうであれ、その必死に生きたことが今の時代につながっているのだろうと感じた。
前半は妙子の生い立ちシーンが面白いと思っただけで、他はなかなか読み進めなかったけど、新宿騒乱事件からそれぞれの家庭での悩みに行くあたりから徹夜読みになりました(^^
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書店で見かけた話題本。
手にしたときはまったく興味を持たなかったが、図書館で予約件数が多かったことから興味を引き、借りてみた。
冒頭、初老のおばあさんの話?って思っていたが、読んでいくと2020年東京オリンピック予定から50数年前の1964年東京オリンピック時代、3人のそれぞれの時代を歩んだ女性の物語が語られ始める。
ライターとイラストレータ、そして寿退社を夢見るOL。
それぞれの物語があり、交わり、そして未来へ。
自分も昔ライターを夢見たことがあり、面白く読んだ。
出版社との関わりや時代の変動で、それぞれ3人の女性がどう立ち向かっていくのかが生々しく描かれているのが良かった。
栄枯盛衰、そして本のタイトルとなった「トリニティ」、巻末までじっくり読めた。こうれは星5つでしょ!
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トリニティ。三位一体。
仕事、結婚、子育て。
夫、恋人、息子。
友人、子供、母親。
いたるところに散らばる、三つの要素。
絡まって、バラバラになって、また繋がって、ひとりぼっちにされたような気がするのに、気がつけば誰かが寄り添っている。
窪さんにしては珍しい空気感の作品だなと感じました。
でも、妙子も鈴子も登紀子も、わたしは大好き。
あの時代にこうやって生きてきた人がいるから、私たちは今もこうして女として生きていられる。ありがとう、こっちも負けてられないね。
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メディアでこの本を初めて知った時、”「男、仕事、結婚、子ども」のうち、たった三つしか選べないとしたら”という部分がとても強調されていて、私自身はそこに惹かれて読もうと思った本ではあるけれど、そういう期待値で読む本ではなかったように感じています。
奈帆の目を通じて描かれている鈴子、妙子、登紀子の人生の物語はとても面白かったけれども、主題がまるで究極の選択のように表現されていることには首を傾げてしまいます。むしろ男、仕事、結婚、子どもからの三つの選択を主題として読むと、鈴子が一番幸せのように見えてしまい、男と結婚と子供を選んだことが正解だったように読めてしまうことが悲しい。鈴子の話を読むと、彼女は仕事を捨て結婚を選んだように見えて、生活を支えることを社会貢献の方法として捉えている意味合いで、彼女が仕事を”捨てた”とは私は表現したくないですし、鈴子と妙子・登紀子をもし分けたものがあるとするならば、周りとの関係性構築の仕方に依る部分が大きくて、その背景には、自らが望むこと・感じていることを正しく認識して素直に生きることなのかなと感じました。例えば、終始妙子が望んでいたことは子供時代に感じていた親からの愛に対する渇望を満たされることで、仕事や男や結婚や子供というのはただの手段で表層的なものであったように感じます。登紀子にしても、お嬢さん育ちだからこそ、 “情熱を持って取り組めるような何か“が本当に欲しかったもので、自分自身で成し得ることを諦め、他者を通じて実現しようとしたことの手段として、男や結婚や仕事や、最後に少し触れられる子供への意識があったように受け止めました。
女性が働きながら子供を産み育て家庭を維持し続けることはほんとうに難しい。今の時代でもそうなのだから、この本の舞台である時代背景を考えればなおのことそうだったのでしょう。けれども、今の時代でもそうだからこそ、すべてを望んですべてを同じときに実現することが難しいということは、悲しいことにごくごく普通の人生の一部でしかありません。この本は、出版業界を舞台に活躍した二人の女性の人生を二人の友人であった鈴子の娘・奈帆の取材を通じて紐解いていく点や、その活動による鈴子・奈帆への影響が描かれている点こそが、登紀子が妙子の評伝を作ろうとしていたように、評伝を作っていく過程を追体験できるという意味で、とても面白かったです。
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どんなに強欲と謗られようと、三つとも手に入れたかったー。
「男、仕事、結婚、子ども」のうち、たった三つしか選べないとしたらー。
《トリニティ=かけがえのない三つのもの》
✳︎
〝どこに生まれても、どういう育ちでも、世に出る人は出るのよ”
〝仕事をすることに男も女もない。女性が男性の後ろに隠れている必要もない。言いたいこともはっきりと言い合う。”
〝まるで偶然と思える人との出会いが、決して偶然ではないこと、出会いから生まれる何かがつながって続いていくことに気づいて。”
✳︎
いや〜久しぶりに読み応えのある長編でした。
まだ女性が働くことが当たり前でなかった時代に、こんなに苦労しながらも強く生きてきた女性たちがいたんだな〜と思いながら、胸を打たれるシーンも多々あり、何度も涙を流しながら読んだ。
昭和、平成から未来へと時代を超えて繋ぐ物語。
是非女性の皆さんに読んでほしい1冊です。
2020年読了、26冊目。
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モデルであろう、三宅菊子さんって全然知らなかった。女性3人の生き様が、それぞれ全く違っていて面白かった。
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フリーランスって、俺らみたいに終生の宮仕えにとって一度は憧れたけど、まあよほどの才と運でもなけりゃやってけない。同級生のカメラマンも、バブル期の羽振りは夢物語となり、日々をしのいでる。ライターの登紀子、イラストレーターの朔にあっては、戦後間もない社会や家庭の中で、女性がここまで自立して生きることの困難は計り知れない。そして、時は移ろい、女性を取り巻く環境が大きく変わった現在とてその困難さは継がれていることを伝えてくれる。もはや、男女関係ないけど。朔のイラストを想像すると、丹地陽子さんのイラストが浮かんできた。
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デビュー時の2・3編を読み、するどい描写はなかなかだが、扱ってるテーマが今一つでこの先どうなるのだろう、と思っていた作家さん。直木賞候補になったのを機に読んでみた。題材もテーマも言うこと無しの傑作だと思う。
70年代からの記憶しかないので、平凡パンチもアンアンも持って歩くことがオシャレという時代は終わっており、後追い雑誌に部数も負けていた頃からしか実体験はないが、黎明期を支えたイラストレーター・大橋歩、ライター・三宅菊子ぐらいは知っていたので、半分懐かしさも感じながら読んだ。
タイトル通り、戦後の3人の女性の3者3様の生き方とその時代の世相も反映しながらの感じ方を通して、人生を考えることができる。勿論正解など無いし、感じ方・捉え方も人それぞれだろうが、間違いなく一生懸命生きる「人間」がしっかりと生き生きと描かれている。「愚か者たちのタブロー」共々、何故受賞できなかったのか不思議なぐらいの作品。絶対読んで損はない。勿論私のような男性でも。
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3人の女性が歩んだ各々の道を当時の時代背景にトレースしながら展開させて行く。大規模雑誌社の職場で出逢った3人だが時代の先端を行くイラストレーター妙子とエッセイスト登紀子とOL(懐かしい響き)鈴子の3人。男 仕事 結婚 子供 いずれを選択するのか、したいのか、出来るのか、その難しさや壁を三者三様の歩みに絡ませて語る。
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1965年生まれの窪さんが東京五輪から現代までの約50年間を描いたこの小説は、ほぼ同年代の僕にとってはうまく刺さった感じで、(モデルとされている)イラストレーターの大橋歩さんやライターの三宅菊子さんは全く知らない人でしたが、リアリティたっぷりな展開にワクワクしながら読めました!
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高度経済成長期、出版社で出会った新進気鋭のイラストレーター朔、フリーのライター登紀子、事務員の鈴子。
違った環境で育ち、出会った後に選んだ道も三者三様。
それでも、それぞれが一生懸命生きてきた姿が気持ち良くカッコ良い。
潮汐ライズの全盛期のころのシーンが好き。
ブラック企業ですり減らされた鈴子の孫が3人の過去を辿り、そこから自分の新たな道を見つけるという展開に唸りました。
男、仕事、結婚、子供の中から3つを選ぶとしたら、と言う解釈には違和感を感じます。
昭和を駆け抜けた3人の女たち、でいいかなと思いました。
大好きな作品になりました。