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リズム感がよく、とても読みやすい文体。最後まで心地よく読めます。
そんなに派手な展開はありませんが、物語に惹き込まれてしまいました。面白かったです。
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もし自分が夏子のように
セックスは苦痛でしかない
38歳の女性で、でも子どもは欲しい。
そんな立場やったらどうするんやろ。
前作「乳と卵」の続編である今作は
子どもを産むということは
どういうことなのか?
を考えさせられる物語でした。
編集者の仙川、作家仲間の遊佐、
そして逢沢の彼女(であった)善。
それぞれの「生」「性」に対する思いに触れ.、
悩み苦しみながら、夏子がとった結論・・・
この世に生まれることの意味。
めちゃくちゃ重いテーマやったなあ。
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女性性についての複雑さを
かゆいところに手が届くって感じで
清々しいくらい
よくここまで書いてくれました。
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1部では、子供は産まれたくて産まれてきたのではないという事がテーマに対して、2部では、母性の子供に会いたいという本能が、AIDを使ってまで子供を産もうとしている事を描いている。
そこにはAIDによって産まれた人の苦しみや葛藤に翻弄されながら、最終的には最も望ましい形で子供を産む。
これだけの気持ちで産むんであれば、子育ても愛情深いのだと思う。
昨今の幼児虐待のニュースを聞くにつけ、どんな形であれ子を成し育てる事は大切なことである。
動物でも一所懸命に子育てをするのに、ネグレクトする親が多い事が非常に悲しいね。
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数ページ読んで、ん、これは!?となりましたね。
乳と卵がそのまんま(多分)挿入されていまして、そこはちょっと驚きました。
夏子が踏み入った領域は、とても深くて、今もまだ咀嚼している。
生まれてくることと産むことは、近くて遠いのか。
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現代において、産むか産まないかは、愛でも運命でもなく意思決定の為せるわざだと、知らなかったわけではないけれど、直視してはこなかった。
なぜ産むのか、という問いに対して本書は答えを提示しない。できない、のかもしれない。意思決定であるからには、そこになんらかの理由があって然るべきだと思うのだけど。
善さんの発言に、なにひとつ否定できるところがない。子どもは生まれてくることを選べないから、親は産んだ責任をとろうとすることが多いけれど、自分のことは自分で責任をとるしかなく、人は生まれてきた時点で生を受け入れるしかない。
人が人を生み育てることの、怖さが立ち現れてくる。
貧困家庭で育った夏子の半生記としても、おもしろく読めた。
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小説家の夏子に芽生えた子どもが欲しいという思い。一人で産むことはできるのか。様々なことを調べてたどり着いたもの。命という大きなものへと展開されそこで語られるとこと意味、価値観、肯定、否定。それらは当然のようにある。そして生まれた子どもはどう思うのかというところに行き着き、生じる葛藤。人が生まれること、生み育てること。貧しい中で、女性一人で育て生活していくこと。夏子が選んだ道、そこに至るまでの思いに圧倒されるような大きな物語。
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3.5
色んな出産や、人の死についての話などだけど、
後半の恩田が印象的すぎて恩田に全部もっていかれた感。笑
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女性性の物語。
どのように生きるかを真剣に、まっすぐ考えさせる。
貧困の世代間連鎖、孤独感、死と出産。
『乳と卵』に重厚さが増し、再び厭な予感、救いのない円環をぐるぐる回っているような感覚に陥る。
『乳と卵』で感じた女性特有の血の匂いは少しだけ鳴りを潜め、代わりに時間の経過や「老い」が重くのしかかる。
貧困地域に住んでいた親世代の人たちは体も衰え、もともとなかった余裕が損なわれてゆく。
そして、そんな親世代に囲まれ、孤独に生まれて生きてきた彼女たちは将来誰かを愛せるのだろうか、と重たい気分になる。
P.190『「たとえば、言葉って、通じますよね。でも、話しが通じることってじつはなかなかないんです。』
案の定、主人公夏子は「本当に」誰かを愛するという事が難しくなっている。それは、性的なものと愛するということがどう頑張っても結びつかず、アセクシュアル的な傾向をもつ。
P.224『でも、じゃあ、相手のことを本当にわかるって、いったいどういうことなのだ?』
そこで、恋愛を諦め、結婚を諦め、出産を諦める。
しかし、年齢が上がり、ある程度仕事の見通しが立って生活に少しだけ余裕がうまれると自らの孤独に打ちひしがれる。
P.286『わたしから街や人は見えるけども、どこからもわたしは見えないような気がした』
夏子は孤独を感じると、旧い思い出に浸る。どれも暖かくて楽しい良い思い出だが、その全てが、完膚なきまで完璧にみすぼらしく惨めである。
それでも、どんなに惨めでみすぼらしくともこの女性にとっては孤独を癒す大切な思い出なのである。
夏子と対照的に、日本的血縁主義的家族神話に生きた女性が用いられる。
p.347『自分の人生を犠牲にして家を守ってきたという自負と恨みがあるんだと』
男性と男性的社会への痛烈な批判。「なんで女だけが痛いんだ」という叫びは、結婚・出産を経た女性にも等しく孤独を感じさせていることの現れだ。
ここで『乳と卵』を読んだ時のような感覚を思い出し、恐ろしいような、申し訳ないような、おっしゃる通りでおます、とまたぷるぷる震えてしまう。
出産、子育て、女性。
子供を産めるのは女性だけの特権であり、呪い。その特別な権利と痛みは男性には絶対理解できないだろう。
さらに追い討ちをかけるように見せかけの尊敬・理解を示す男性に対して「-知らねえよ」(p.388)と一蹴される。
そうですよね、理解して欲しくもないだろうし、理解してますオーラを出されるの嫌悪、また嫌悪ですよね、これは本当に申し訳なく頭が下がる一方で、下がり続ける頭の先をぷるぷるさせて井戸でも掘って冷たい水を飲んで頂ければご機嫌少しは戻られるでしょうか、いやそんな水くらいでご機嫌とろうという浅はかさこそ愚かなオトコという生き物でして頭で井戸なんてほれませんし、僕ったら本当に申し訳ござりません、とぷるぷるが止まらない。
物語が終盤に差し掛かると、より孤独感を感じるようになる。
誰もがどうやら等しく有している���される子供を持つという能力。「自分の子供」という存在に会いたい。この痛切な願いを責めることは誰にもできない。
しかし、そこで反出生主義の女性と出会う事になる。
生まれてきたばっかりに、生まれてこなければよかった、どうしてわたしを生んだのか。
こうした怒りや哀しさは、この本の登場人物たちにとっては当然の感情でもある。むしろ、主人公夏子、巻子、そして緑子も反出生主義に与しても不思議ではない。
それでも、夏子には巻子がいて、緑子がいた。そして思い出の中には母がいて、コミばぁがいて、九ちゃんもいた。完璧にみすぼらしく惨めだが暖かい思い出があった。
夏子にとって、思い出の中の人たちにもう一度会いたいという願いこそ、自分の子供に会いたいという願いの起源だったのではないか。それが、この物語の最後のページの言葉に現れたのではないか。
最後のページでまた再び、ぷるぷる震える。
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貧困で育った夏子、年の離れたシングルマザーの姉、姉の子供。夏子は小説家を目指し、賞を受賞し貧困から少し抜け出すのですが、その後は姉妹中心だった話から夏子自身の将来の話題に切り替わる。子供が欲しい、と。独身で相手がいなくても子供を産む事を考えセミナーや本、身近な人の生い立ちなどを参考に、子供を産む事を強く望むようになる。父親が不明のまま出産をし、将来その子供にどう出生の事を伝えるのか。人工的に出産する事に対しまだまだ不安も多い。色々な選択をし、出産できる世の中ではある。あるが、しかし、モラルや費用の問題などで多くの人が出産を諦める。自分の子供に会いたいと願う夏子の選択は、、、。出産する事に対し、これからは何かが変わるような気がする作品でした。
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夏の間になんとか読み終わりたかったが、まとまった時間が取れず読了は秋の半ばになってしまった。
そう、まとまった時間を取って集中して読むことが必要な小説だった。
社会人になって、日々まぁまぁ忙しなく生きている中で小説を読んでいると
小説内の時間感覚と現実世界の時間感覚がずれすぎて、ついていけないことがある。
本作を読んでいる中では特にそれを感じて、
例えば駅から家まで歩く中で、この作品はどれだけの風景描写と思考展開を
繰り広げてるんだとイライラする場面が多かった。
ページをめくってもめくってもなかなか話が動かない場面が多く、
これを今の僕がいいものとして受け入れるにはちょっと心の余裕がなさすぎるんだろうなと思った。
最後まで読んだが、やっぱりほぼ「乳と卵」だった第一部が今回の小説に本当に必要だったのかが腑に落ちず、
全然違う作品として第二部だけでまとめてくれた方がAIDという題材が自然に入ってきた気がするし、
始まりが第二部からだったらもっとスムーズに、最後まで過剰描写に嫌気がささずにたどり着けたかもしれない。
第二部に関しては、題材を丁寧に取り扱っていたし、そのために必要な登場人物も適切だったように思う。
僕自身AIDという知識ゼロでこの本に入ったが、彼らのおかげでこのシステムが抱える問題やそれに振り回される
人々のことがよく理解することができた。(なんか、自己啓発本の感想みたいだ。)
特に、善さんの出産に対する考え方はこの問題への潜り込みの深さを感じた。
主人公の身勝手さと、第一部、過剰描写を抜きにすれば良作だと思う。
これからが気になる終わり方もよかった。
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・「たとえば、言葉って通じますよね。でも、話が通じるってことはじつはなかなかないんです。言葉は通じても、話が通じない。だいたいの問題はこれだと思います。わたしたち、言葉は通じても話が通じない世界に生きてるんです、みんな。」
・「……わたしのこんな気持ちは、何にもつながらないんです。逢沢さんがわたしに会いたいとか、そんなふうに思ってくれても、そんな夢みたいなことを言ってくれても、わたしはそれを、なにもかたちにすることができないと思う」
「かたち?」
「そういうことにかかわる資格が、わたしにはないと思う」わたしは言った。「普通のことが、できない」
わたしは首をふった。
「わたしには、できないから」
それは、と逢沢さんが言おうとするのを遮って、わたしは言葉をつづけた。
・どれも簡潔な内容で、数行のものばっかりだった。でも、そうかもしれない、とわたしは思った。考えてみればわたしは仙川さんと正確な意味で一緒に仕事をしていたわけではなくて、そのまえの段階の、何もかたちにならないようなあいまいなやりとりをしていただけなのだ。これまでたくさん会って、いろんな話をしたように思うのに、その跡はどこにも残されてはいなかった。
そしてわたしは自分が仙川さんの写真を一枚も持っていないことに気がついた。それだけじゃなかった。彼女がどんな文字を書くのかー届いた郵便物や宅急便に書かれた文字は見たことがあったけれど、それらはもう残っておらず、筆跡のイメージさえ思いだすことはできなかった。わたしと仙川さんはあんなにたくさん会って話をしたのに、わたしの数少ないー本当に数少ない友人といえるかもしれない大事な人だったのに、わたしは彼女のことを、何も知らないままだった。何も残っていないし、もう何も確かめることもできないのだ。
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夏物語 川上未映子著 新しい時代の生殖倫理映す
2019/8/17付日本経済新聞 朝刊
産婦人科で先生に「男の子ですね」と告げられたとき、私は膨らみはじめたお腹(なか)をさすりながら、少しホッとしてしまったのを覚えている。この子は女をやらなくていい。私を繰り返さなくていい。
しかし、この小説では女ばかりが再生産されてゆく。場末のホステスを続ける姉・巻子が一人で育てる子も娘。シングルマザーの女性作家の子も娘。主人公の夏子が生んだのも、女の子だった。
そう、男(夫や父や恋人)から解放されても、私自身の生からは逃げられない。絶望、連帯、孤独。痛みを抱えながら生きる女たちの、ときに激しく、ときに消え入りそうな声。その重なりを重なりのまま、どの生き方も否定することなく、多声的に編み上げる筆致は、一滴の声も零(こぼ)すまいとする気迫にあふれる。
そもそも女の場合、なぜ人は生まれて死ぬのかという根源的な問いが、なぜ私は生む/生まないのか、という主体的な問いと不可分ではいられない。巻子の娘・緑子は、働く辛(つら)さをいう母に「わたしを生んだ自分の責任やろ」と投げつけるが、日記には「お母さんが生まれてきたんは、おかあさんの責任じゃない」と気づきを記す。
生まれるから苦しいのだという緑子の主張を突き詰めると、AID=精子提供で生まれ性的虐待を受けて育った善百合子の反出生主義へ行き着く。生む理由を「会いたい」からと答える夏子に、百合子は「生まれてきたことを後悔する子どもは、あなたではない」のになぜ「暴力的」にこの世界に引きずりこめるのか、身勝手だと問いかける。夏子は、自分は間違っているのかもと自問しつつ、それでも「忘れるよりも、間違うことを選ぼう」と、出産を決意する。
『夏物語』は、芥川賞受賞作『乳と卵』のリライトを第1部とし、第2部として約10年後の女たちを描いた長編小説だ。「女が決めて、女が生む」新しい時代の生殖倫理。川上は、当事者として苦悩する夏子の姿を一つの仮の答えとし、生の肯定を形にしてみせた。新しい命にとって、世界は生まれてくるに値するのか。3歳になった息子の寝顔を見つめていると、女たちの葛藤の海から、小さくやさしいあぶくのように、姉の巻子の声が浮かんで消える。「なんでも、ぜったいだいじょうぶやで」。
《評》俳人
神野 紗希
(文芸春秋・1800円)
かわかみ・みえこ 76年大阪府生まれ。著書に『乳と卵』(芥川賞)、『ヘヴン』『ウィステリアと三人の女たち』など。
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38歳の夏子がAIDで出産するという決断に至るまでの物語。
夏子という少し控えめな小説家の人生を通して、生殖医療の倫理を中心に貧困、LGBT、膝器提供などの社会問題も描いている。
てんこ盛りの内容に圧倒されるけど、どの登場人物の主張にも納得できる自分がいる。彼らの言葉を自分の中で時間をかけて消化していきたい。
特に、終盤の夏子と善百合子が主義主張のぶつけ合う場面の緊張感が凄かった。
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これを読んで、はるか昔、乳と卵を読んだときの衝撃を思い出した。これやこれや・・・!なんて読みやすい、スッと入ってくる語り口なんやろか。大阪のもんにとっては、こうなんやけど、よその人にとってはかなり読みにくい?
しかり内容はかなりディープで、普段あんま考えへんようなことをこんなけ掘り下げて、しかし面白いストーリーに仕立ててしまう川上未映子が、好き。
男の人が、読んだら、まったく理解でけへんやろか?