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著者は海上保安庁元長官。現場からの叩き上げということで、この回顧録はが数々の大事件に接した記録となっている。海保の現場の実際が実感とともに記してあり、驚くことが多く、いろいろと知ることができ読んで良かった。
実を言うと冒頭のほうは若い頃の想い出など個人的な話が多く、つまらなくて読むのを止めようかと思ったのだが、後ろへ行くほど現状にも関わる事実になっていく。
読んだ感想は本当にご苦労さま、という気持ちとともになんて恵まれない組織なんだろうという国に対する憤慨だった。
「海猿」が人気になってなお、特救隊に予算が割かれず、中国への対応など様々な任務が増えているのに海保全体への予算が一向に増えないなど。
また、武器が必要な職務であるのに運用マニュアルがなく、1999年時点でマニュアルをようやく作っていたがまだ普及していなかった。
こういう不遇は日本の武器嫌い、また武器を使う場面はないはずだ なんていう現実逃避が原因なのか? 武器による威嚇などが必要な場面はたしかにあるのに、実際そんな場面では「想定外」と言い放つ日本の悪い癖があるように思った。
武器の運用が決まっていないと、本庁は現場に「よきにはからえ」と無責任に言うだけ。現場ではどのように運用すれば良いか根拠なく悩む。結果間違えて不法に運用してしまう危険も……。
なんかどっかで聞いた話だがこれは自衛隊と同じなんだろう。あらゆる事態を広い視野で検討し、法律を整備すること・それに基づくマニュアル・訓練。これらが日本には足りないようだ。
著者が重大任務の前に、射撃訓練が十分にできず、現場で役に立つか不安なので、海外へ自費で練習に行った話などお粗末すぎて涙が出る。
近年だいぶ良くなっているらしいけれど、やっぱり日本は現実逃避的平和主義のせいなのか、まだまだ法律の整備がなっていないんだなと思う。
フランスへプルトニウムを取りに行くのも海保が行ったのだが、なぜか使用した船が故障でエンジン停止するような古い船……。
海保は意外に海外へ出ていっているんだなという話がいろいろあった。現在もペルシア湾の海自の船に海保の人間が同乗しているそうだ。
しかし、本当に日本は海外へ出ていく人たちへのサポートをせず、過酷な扱いをする国だ。また、武器を扱う海保の扱いも非常に雑に便利使いをしていると思う。
著者が終わりのほうに書いているが、海保も有事の際は海自の下に入って軍事行動をする などというのはうまくいかないだろう。有事に役立つような武器を装備していないし、有事に動けるような訓練をしていない。また、海自に警察のようなことをさせていいのかという問題もある。
今後、日本近海の緊張はさらに高まっていくので、本当によく運用を考えて、海保の人たちが理不尽な目に合わないように手当してほしいと思った。