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ある一つの事件が報道された。世間は何を、どれだけ知った気になっているのだろう。ネットに拡散される情報、善意の形で押されてしまった可哀相というスタンプ。自分でも手の届かない場所についた傷は、治すこともできずにいつまでも疼く。世間の枠は思った以上に狭いのだ。彼女視点で語られる中で、ある言葉に気づき泣きそうになった。BLで圧倒的な人の心の機微を描く作者は、一般小説でも息苦しいほどの熱で私を圧倒した。途中で別作家のある作品を思い浮かべる方が多いと思う。括ってしまっては勿体ない。是非最後まで読んで感じ取ってほしい。
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これも東京創元社のメルマガでチェックしていたもの。著者のことは何も知らなかったけれど、所謂ボーイズラブジャンルで有名な人……なのかな?(全く解らない)。
本書は男女2人のストーリーだが、主人公2人の関係性の描き出し方が独特で、独特のジャンル出身という特徴が出ているのかもしれない。
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女児誘拐監禁事件。この文字面の暴力性たるや。全身の産毛が逆立つ。だけど、その加害者と被害者の間に何があったのか、なんて、2人にしかわからないものなのだ。ストックホルム症候群、なんて言葉で一面的に判断できるようなものだけではない。
性的目的での「誘拐監禁事件」は弁解の余地もないほど、叩きのめしてよいと思う。加害者はGPSをつけるなり去勢するなりしてよしだ。
だけどもしかすると、文と更紗のような関係も、あったのかもしれない…いや、これはそうであって欲しいという単なる願望か…
正しいってなんだろう。正しく生きること。正しく生活すること。正しく人を愛すること。それって、誰が決めた事?
文と更紗の関係は、決して正しいものではない。周りから見れば異常なのかもしれない、いや、異常だろう。でも2人がその関係をどうしても必要としていて、その関係でしかお互いに自由に生きていられなくて、その関係でかろうじてお互いを支えあっているとしたら、それを誰がどうして、非難できようか。
2人の、名前のつけられない関係の、その歪さと純粋さにめまいがしそうだ。誰にもわかってもらえなくてもいい、理解も共感も必要ない。親切という騒音から解放された気高い関係をなぜ、だれもかれもが邪魔しようとするのか。お願いだ、2人をそっとしておいてくれ。何度もそう思いながらページをめくった。
頭をよぎる最悪の展開におののきながら、祈るような気持ちでページをめくった。
傷つきやすさのために鈍感になり、絶望から逃れるため冷徹になる。そうすることでようやく壊れずに、自分を守って生きてきた2人の今までの時間を思う。
文と更紗の再会を神に感謝したい。たとえどこに流れていくとしても、2人で生きていくことができれば、それでいい。
尊い。こんなに尊い関係を、私は知らない。
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初めての作家さん。
久しぶりに心揺さぶられた作品でした。
読み進めるうちにどんどんこの物語の世界に引き込まれていきました。
・どれだけ心や言葉を尽くしても、わかり合えないことはたくさんある。
・文とはただ一緒にいたいだけだ。そういう気持ちにつけられる名前がみつからない。
とても印象に残った言葉でした。
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面白かった。更紗の気持ちで読んでしまったけれどモヤモヤ感、理不尽感、亮に対する苛立ち等生々しく感じた。
本当だよね、他人には真実なんてわからないなと思う。
愛のかたちは言葉では表せられないんだなと思った。先入観持って決めつけていたら気をつけようと思った。
お話として面白かったです。
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家庭環境の不和による癒えない痛み×同性愛者であるが故の「社会からつまはじきにされた孤独」を抱えた人物が互いの傷を癒せる唯一無二の相手に出会い、傷を乗り越えていく──息苦しさと孤独を抱えたキャラクターたちがあらかじめ用意されたハッピーエンドに向かう物語をボーイズラブ小説の中で多数描いてきた凪良ゆうという作家が「ボーイズラブ」の枠を離れたら? 「社会」から置き去りにされた、定義することの出来ない愛に生きる人たちを描いた大傑作がここに。
作品テーマは一般レーベルデビュー作だった「神さまのビオトープ」に続くもの。
美しく情熱的で軽やかに、常識に囚われずに愛に生きる両親の元に生まれ育った更紗の幸福な日々はある日突然終わりを告げ、憐れみと暴力に支配されることに。
互いに似た「息苦しさ」を抱えていたことをきっかけに自然と心を通わせ合う文と更紗の逃避は世間では「小児性愛者による監禁事件」と処理されてしまう──
誘拐事件にロマンスを見出してしまうことは危険なことではありますが、本当のことはふたりにしかわからないのもまた事実。
「犯人」とされた文を強く求め、呼び続ける更紗の言動はストックホルム症候群として処理され、彼女は「性的暴行を受けたかわいそうな女の子」として人々の中で生きることを余儀なくされる。
「被害者」として見られながら必死で生き延びるほかなかった更紗が受ける憐れみという名の暴力、そこで生まれる歪みに読み手のこちらもどんどん深く飲み込まれてしまう。
唯一の希望であり救いだった文との再会が彼女の望んだ結果をそう簡単には導いてくれないこと、現在の恋人との絵に描いたような幸福で平穏な時間が彼の無理解と偏見の上に成り立ち、そのまま「彼の描いた物語」の登場人物にされてしまったことが明らかになるにつにれ、物語は一気に加速し始める。
更紗と文だけでなく、周囲の人物みなが社会の軋轢や他者からの暴力の被害であること。「社会」から定義された物語に押しつぶされそうになりながらもがき、彼らもまた「他者」を消費することでどうにか生きながらえていることがぐいぐいと迫るような描写で読み手の息を詰まらせる。
凪良ゆうの文章はとにかく読みやすい。人々の心の軋みや影を描きながら、その中で紡がれる日々の平穏であたたかな暮らしを切り取る筆致はやわらかで心地よく読み手の肌身にしみる。
しかしそれは、猛烈に甘美な毒だ。
彼らの望む平穏は社会からの断絶の上に築かれ、誰にも理解されず、だからこそ自らの意思で守り続けなければいけないという悲しい決意の上に成り立っている。
不幸な物語のヒロインにされてしまった更紗の「彼女にしかわからない」真相、そこで争い続ける人生のとなりには唯一の手をとりあえる相手、文がいる。
そして文もまた、「更紗の作り上げた物語」の中で生きることを余儀なくされ、打ち明けられずにいる孤独と歪みを抱えている。
誰からも理解されずとも、共に生きること以外にこの世界に居場所を見つけられないふたりの悲壮なまでの決意と絆の美しさに胸を打たれる。
「定義できない、許されない」愛がここには確かにある。
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「正しさ」ってなんだろうって考えさせられる。世間のニュース的には誘拐犯とストックホルム症候群からまだかかっている女性。起こった事象を外側からみてあーだこーだ決めつけ批判したり、むしろ善意で的はずれな「優しさ」を押し付けてくる人々。だけど、同じ事象をくるんと裏返して内側から見ると全く違う景色が見えてくる。
お互いがお互いの救いだった。最初の成り立ちが『正しく』なかった?更紗は、男に着いていってはいけなかった。文は、少女を置いていてはいけなかった。
そうだけど、じゃあ『正しさ』の中で誰が彼女達を助けてくれた?正しさや善意という暴力が、無責任な好奇心が、いつまでもいつまでもひとを傷つけ直す。
お互い、相手のことをよく知っているわけではない。打ち明けてないことがある。諸手を挙げて「周りが何と言おうとお互いが良ければオッケー」「愛があれば最強」みたいなお話じゃないところがすごい。不安定で静かで透明な水に少し絵の具を垂らした時のような感じ。だけど更紗達が望んでいるのは本当にささやかなもの。
愛って言うけど、愛はなにも恋愛的なものばかりじゃない。そのレッテルを貼ろうとしていた読み始めの自分もやっぱり、他人を枠に嵌めようとする無責任な野次馬のひとりだった。恋愛じゃない。だけど相手の存在が無二であり救いであり世界であった。
すごい作品を読ませていただいた。
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以前、文芸編集の子に推されて読んだら本当に面白かった作品。しかも作者はBL出身の作家で本書が初の一般作。
本屋大賞取った時はすごく嬉しかった!!
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とある誘拐事件の加害者青年と被害者少女の複雑な心の交流のお話。
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人間の真実は本人にしかわからない。善意であれ悪意であれ、結局は想像でしか人のことを見られていない。
それが例え本人からの言葉であっても、結局のところ真実を知っているのは本人のみだけだ。
そんな当たり前のことに改めて気付かされた。
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理解できない事柄なんて何もなく、きっとそれは「自分が」理解できないだけなんだろうな。逆に理解していると思っていることも、本当のところ、わからない。
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私は名前のつけられない関係を描いた作品に心惹かれがちで、本作もまさにそう。この2人に世間が納得する名前は何もない。
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「その判定は、どうか、わたしたち以外の人がしてほしい。わたしたちは、もうそこにはいないので。」という結びの余韻が最高。
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好みは分かれるかもですが、私は好きでした。
装丁も帯キャッチもまた最高なんですよ…世界観表してて……
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この世界は果てしなく恐くて、つらくて、苦しい。生きていく意味があるのだろうかとさえ思う。社会のいろんな理不尽さが描かれてるなと感じた。理不尽さもだけど、嫌だと思うもの、異質だと思うものを排除しようとすること、それも人間、はたまた生物の本能なのかも。違ったもの嫌だと感じて、それを受け入れようとか、認めようとか、そんなことは思わなくていい。だってそれもその人の感情だし、どうしようもないものだから。そこを否定すると、また新たな排除が始まる。必要以上に干渉しないで、ほっておくぐらいの社会になればいい。無関心ではなく。
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幼女誘拐事件として報道された内容と、実際にあったことの違い。当事者の二人しか知らない事実が、他の人には分かってもらえない辛さ。そして、更紗にも共有されていない、文の秘密があった。
二人は、世間の目によって引き離されていて、自由になれない。でも、二人以外に、事実を理解してくれる人が現れたことが、この物語の救いだと思う。
どうか、二人の世界をこれ以上邪魔することがないように、と祈るばかりの気持ちで読み終えた。
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小学生の頃、家族と別れることになりおばの家に住むことになった更紗。更紗が遊ぶ公園でロリコンと噂されていたいつも読書している一人暮らしの大学生・文。おばの家での生活にたえきれなくなった更紗はある日、文の家に行くことにする。世間は誘拐事件として報道されてゆくが、事実と真実は違うものであった。大人になった更紗はフミと再会する。そこで二人が待ち受けるものも過去と同じであった。
予想以上に入り込み、一気読みしてしまった。恋でもなく家族でもなく…しかし、二人互い互いに居場所があるという二人の関係。周りは非難するが、一緒にいたいという切実なる思い。こういった二人を今まで見たことがなかったかな…奇跡的な二人の出会い、あり方でした。孤独感、苦しさ、真実とか差別とか心に突き刺さったなあ。誰にも理解されない、思うままに生きれない、更紗と文。その様子、凄まじい筆力。程度はあるにせよ生きづらい世の中になっているのかな。孤独は嫌だとか、弱さである証拠としての一方的な暴力が多い世界。二人の苦しみは誰にでもふりかかるものかもしれない。圧倒的な一冊であった。今後もこの作家さんからは目が離せない。
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フォローさせていただいている方のレビューで知った作品。
はじめましての作家さんでしたがすごく良かったです。
カテゴライズできない、したくない二人の関係。
でもふたりにとってはお互いが替わりのきかない存在。
それが痛いほど伝わってきた。
読み進めるほどにページをめくる手が止まらず、ふたりが最終的にどうなるか知りたくてたまらなかった。
文章は読みやすく、比喩もストンと解った。
凪良ゆうさんはデビュー10年以上の中堅の作家さん。
BL作品を精力的に書かれてきたそうだ。
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あなたと共にいることを、世界中の誰もが反対し、批判するはずだ。わたしを心配するからこそ、誰もがわたしの話に耳を傾けないだろう。それでも文、わたしはあなたのそばにいたい――。再会すべきではなかったかもしれない男女がもう一度出会ったとき、運命は周囲の人間を巻き込みながら疾走を始める
「更紗と文君、もう2度と手を離したら駄目だよ。いつまでもしっかり手を繋いでいて」と、呟いて本を閉じた。
色んな求めあい方があっても良い!
1日で読み終えるほど惹きつけられた本でした。
立続けに当地・長崎が関連しているのも不思議。当面、更紗と文君が安住の地となっているのが長崎でした。追われ追われて最果ての街、長崎に流れ着いた・・・。
みんなで温かく2人を見守ってあげようよ。
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狂おしいなにかが胸のうちに渦巻いて叫び出したいような泣きたいようなそんな気持ちでいっぱいになり動悸がおさまらない。苦しい、でもどこか幸福感もある。帯に書かれている「息をのむ傑作小説」という言葉に嘘はない。
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仲良しの書店さんに教えてもらった『流浪の月』。
界隈での評価が高く、今年はコレ!とのことだけど、
本当今年はコレだったーー!
まず、表紙のアイスクリームがいい。
そして、ただひたすら文章が美しい。
周りの意見なんてどうでもいいし、好意とかもいらない。
2人がわかっていればそれでいい。
愛する人と求め合うカタチは、人それぞれなんだ。
帯の「せっかくの善意を、わたしは捨てていく。
そんなものでは、わたしはかけらも救われない。」
という言葉。
読むまでは正直そんなに刺さらなかったんだけど、
本文で出てきたとき、鳥肌がたった。
この一文を読むためにここまできたのか、と思うほどに。まさに息をのむ傑作。