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1886年から1899年までに発表された、中短編集ですが、今読んでも全く色褪せず、瑞々しい作品集だと思いました。アメリカのニューイングランドの自然豊かな地方を舞台に、主に人生経験豊富な女性たちが織り成す日常の物語は、孤独感を抱えながらも、優しく暖かい人と人との交流を丁寧に描かれていて、読んでいる私も心が暖かくなりました。特に印象に残った物語は、友人の通夜のため、二人の女性がその友人の家で思い出などをあれこれ話しながら過ごす「ミス・テンピーの通夜」です。切ない中にも明るく厳かな雰囲気が満ちていて、湿っぽい感じにならないのが新鮮でした。また、唯一の若い女の子が主人公の「シラサギ」の大一番のシーンも見逃せません。思わず、想像してしまうような美しさ、爽快さが、素敵な文章で書かれております。これを読むまで、作者のことを全く知らなかったのですが、他の作品も読んでみたくなりました。
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筆者は19C末のロマンス小説作家・・とでも言おうか。アメリカには珍しいノベルではないヒューマニティ作品である。「とんがりモミの木の郷」は筆者と思われる中年の婦人が港町に住む67歳の女性の家に下宿したひと夏を描く。「何にもない」時間を描いた内容は退屈、嫌いと言えばそれまで。帯に有るようなギャザーやキプリングの言葉は過大褒めデマとが外れていると感じた。好きな人はこの自然の織りなす情景とかわす言葉が醸すニュアンスに酔いしれるのかも。
ほか「ベッティーの失踪」「シンシ―おばさん」は100年以上前にいた時間を切り取って「そのイキイキぶりを今の私達に見せてくれる」素敵な小品。怒りも、暴力も、嫉妬も何もない善意と笑顔の溢れた時間。「シラサギ」は登場するのが少女。本能で愛する道を選ばず、自立した人間として自然・・シラサギを選んだ。
訳は好き嫌いが解れる感じ・・柔らかいけれど、手触りがふわふわしているのでつかみどころ無い語彙が多いかな。
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ひと夏を片田舎で過ごす
著者をモデルにしたっぽい作家。
民間療法に詳しい大家さんと
近くの島に住むその親族をはじめ
近所のおじいさん、おばあさんらとの
ささいな交流の日記のような話。
他の4つの短編もだいたい
似たようなテイストでしたが
『ベッツィーの失踪』に描かれている
アメリカの万博みたいなイベントが
楽しそうでした〜。
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お屋敷に仕える女中のマーサが主人公。不器用だったが、屋敷に訪れたヘレナという令嬢の教えにより改善する。ヘレナという魅力的な少女とマーサは初夏の間共に過ごす。絆を深めてゆく過程がとても丁寧。ヘレナと別れてからもマーサは日に数度ヘレナのことを想い、手紙のやり取りのみではあったがそれは何十年も変わらなかった。次に再開できたのは40年もあとのことでヘレナの年老いた姿に泣きそうになるも、若々しい瞳は記憶の中と何も変わっていないことに気づく。マーサのヘレナへの感情が強すぎて、もう最高でしたとしか言えない。
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・とんがりモミの木の郷
・シラサギ
・ミス・テンピーの通夜
・ベッツィーの失踪
・シンシーおばさん
・マーサの大事な人
作者のセアラ・オーン・ジュエット(1849ー1909)はアメリカ北東部ニューイングランドを代表する女性作家の一人だという。日本ではあまり知られていないが、故郷を舞台に、その自然やそこに暮らす人々の素朴な暮らしを丁寧に描いている。驚くような事件、出来事が起きるわけではないが、その時代の田舎での日常生活の中で、人々の心情に寄り添うように静かに語られている。
図書館で借りて読んだのだが、手元に置きたい一冊になった。