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海街diaryを観た直後に読んだのだけど、なんだか近い空気を感じる。
夏。家族。ちょっと傾いた日のような、小さな喪失感。小さく死んでいく。
バタークリームケーキ。みんな忘れてしまう眼。蒸されている一匹の命のにほひ。幸福のおとりみたいな黄色いちょうちょ。苦しみという鯖。薔薇の煮汁。思い出のような紅い豆。まだ生まれないこころ。うれしいよ、という顔をした子鼠。未完の体。
ちょっとだけ泣きそうになる…
情景が浮かぶもの、言葉の組み合わせが面白いもの、経験した感情に重なってゆさぶられるもの。
夢と現実のあわい。
解説の、映像的にはややとらえにくいが身体的に伝わってくる感覚がとてもある、という文に納得する。
穂村弘との対談も最高で、ぼんやり感じていたことを言葉にしてもらったという快感や、ここで感じたこの気持ちはこういうことだったのか!というすとんとくる感じが心地よい。
短歌の面白さを味わう。
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第二歌集が出たのはもう18年前、『春原さんのリコーダー』から5年間491首を収めます。図書館にもほとんどなくて、読めなかったけれど文庫で復活しました。表現方法や文体が変わっても独特な感覚は変わらない。たくさんの歌を詠みました。印象的ないい歌がたくさんあります。私の一首『やわらかい腕さしのばす朝の海 帽子を脱いで父が笑った』うみはこちら
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後についている解説の冒頭に「歌は身体性をともないながら共有への欲求というようなものが内部へと探られてゆく印象がある」と評されているが、本当にそんな印象の
短歌集。読んでいると、情景というよりにおい、触感や音が頭の中に浮かび上がってくる。どことなくノスタルジックで、感情の名前が意識される前の、心にぶわっとくる瞬間を切り取るような…一句一句読むごとに、ここに詠まれたものを私は知っている、と懐かしく思わされる感じ。
どちらも好きな歌なんだけど、
波音がわたしの口にあふれ出す鳥が切り裂く空に会いたい
みたいなさわやかで柔らかい光を思わせる歌から、
好きだった世界をみんな連れてゆくあなたのカヌー燃えるみずうみ
みたいな赤黒い気持ちが喉につかえているような歌まで振れ幅がある。
ちょっとグロテスクな歌もあるけど、どれも自然に心に入ってくるのが不思議だ。それもやっぱり、においや音を先に伴ってくるような感覚があるから、受け入れられるのかも。
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ママンあれはぼくの鳥だねママンママンぼくの落とした砂じゃないよね
腕を植えて生き直せれば永遠の植物としてあなたを愛す
どうきゅうせいがひとりでお茶をのんでいた被爆したあなたかもしれない
永遠に忘れてしまう一日にレモン石鹸泡立てている
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視点、仮名遣い、世界観の柔軟さに驚いた。戦略性を感じたのだけれど、後書きで半々くらいだと知った。
こうやって現代短歌の新しい潮流が生まれて行ったの、納得できた気がする
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現代短歌の新しい潮流となった歌人・東直子の第二歌集。第一歌集『春原さんのリコーダー』から五年間の491首を収める。時にハッとさせられる表現力や心の奥を覗くような影を含んだ歌など、独自の感覚に充ちた一冊。花山周子の評論、穂村弘との特別対談により「ママンあれはぼくの島だね、ママンママンぼくの落とした砂じゃないよね」などの不思議な作品の謎に迫る。
以上、文庫うらすじより。
『青卵』というタイトルが印象的ですが、このタイトルの元になった歌は
○ただ一度かさね合わせた身体から青い卵がこぼれそうです
だと思います。
抽象的な歌が多く、やはりわからない歌も数多くありました。
○好きだった世界をみんな連れてゆくあなたのカヌー燃えるみずうみ
意味は全然わからないのですが、なんか凄いんじゃないかと思いました。
この歌集は私の理解の及ばない歌の方にたぶん大きな価値があると思いますが、比較的私にもわかりやすかった歌を以下に。
○手紙たくさん書くさびしさを愛と呼ぶつがいのナイフ水に沈めて
○質問に答えてくれるおだやかさ あなたの娘であればよかった
○パピーパピー仔犬のパピー無表情ぎりぎりの眼で愛を告げおり
○電話口でおっ、て言って前みたいにおっ、って言って言って言ってよ
○北国に目を覚ましたら器ごとあなたに渡す花と悲しみ
○ただ生きているだけでいい?こんなにも空があおくて水がしずかで
○焼きますか?とやさしく問われ頷いたような気もする秋の日曜
○こころはじゆう 冬が終わるということをはてしないほど考えてみる
○もし今のままでよいなら目を開けて しんじつ白い雪ふりつもる
○「ビスケット食べて下さい」よびとめてよびとめられて春の花々
○削られてゆく建物の中に棲み甘い紅茶を同時に飲んだ
○いちにちはこんなに深いはらはらと蝶がひかりを繕っている
○遠くから来る自転車をさがしてた 春の陽、瞳、まぶしい、どなた
○思い出のような紅い豆を煮る まだ生まれないこころのために
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短歌という概念を覆された衝撃。
今までの私の短歌履歴は分かりやすいものばかり。
例えば郵便番号があって住所があって、なんなら電話番号もあるくらい、ハッキリとした感情や色が明確に鮮明に映るものばかりを好き好んで手に取っていた。
けれど東さんの短歌は、白い靄がかかっているフィルムカメラのような、雲をつかむような気持ちよさのある短歌。
(それでもやはり私は、明確な景色をもつ短歌を下にチョイスしてしまうのだけれど。)
•靴下はさびしいかたち片方がなくなりそうなさびしいかたち
•青白いボールがひとつ少女らの指紋をあつめたままの静止
•すれ違うガラス越しにさよならを開くてのひらひらめくひかり
•記憶から消えてしまったものたちがそろりそろりと湯につかりゆく
こんな彼女が欲しい。2つのガラスからどんな世界が見えているのか聞いてみたい。