紙の本
季節感のある作品が良かった。
2020/03/08 21:09
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Koukun - この投稿者のレビュー一覧を見る
多くの作品があったが、その中で吃間のあるいくつかの作品が印象に残った。
「雨の鈴」の梅雨
「江の島心中」の夏
「天神坂」の晩秋
「風天孔参り」の初冬
小野不由美は十二国志のイメージが強かったが、「雨の鈴」のような清冽な作品も書くのだなと認識を新たにした。
投稿元:
レビューを見る
第3巻、完結編。
全3巻というのが惜しいアンソロジーだった。あと2〜3冊出してくれても一向に構わないのだがw
大濱普美子と藤野可織が収録されていたのが嬉しかった。
投稿元:
レビューを見る
怪談実話のブーム。
編者がその渦(真っ最)中の人だからその色が濃くなるのは必然なのだが。
面白いのはピックアップされたその系列の作品群が、意外やジャンルに甘んじることなくジャンル自体を脱構築しようとする……内側から破ろうとする力(内破)に満ちていることだ。
たとえば京極夏彦「成人」舞城王太郎「深夜百太郎」黒史郎「海にまつわるもの」澤村伊智「鬼のうみたりければ」。
しかし個人的に好きなのは、もっと「まっとうな作り物」(という言い方がどうか知らんが)の高原英理「グレー・グレー」大濱普美子「盂蘭盆会」恒川光太郎「風天孔参り」藤野可織「アイデンティティ」諏訪哲史「修那羅(しょなら)」あたり。
特に文体の力。端正であったりねちゃっとしていたりからっと乾いていたり。
私小説のしがらみから純文学を飛躍させるには、文体、あるいは幻想小説というスタイル、が必要なのか。歴史的には。
このへん、スタイリストを自称する澁澤龍彦や中井英夫に考えを聞いてみたいところだが。
また数年前ならジェントル・ゴースト・ストーリーに属するだけで涙腺がゆるんでいた自分が、そうではなくなった、という個人史にもいずれ光を当てて内省していきたい。
いずれにせよ東雅夫さんの労作に今回もまたお世話になった。
■京極夏彦「成人」 ※複数の文章が引用されるうちに、怪談実話ものの脱構築が行われ、最終的には本編自体が作者自身の怪談実話である、という高等テクニック。
■高原英理「グレー・グレー」★ ※作中でその単語は出ないが、ゾンビもの。ゾンビ化した恋人が腐らないよう心を配る男性の語り。あらすじに起こすと単純だが、文体の機微。そして抒情。津原泰水に匹敵する文章力だ。
■大濱普美子「盂蘭盆会」★ ※これは恐い。部屋にでんと腰を据えて、姉夫婦と姪の死を見送り、死後をも見ている、視点人物の怖さ。物言わぬ女の怖さ。あらすじに起こしてみるとそうでもないが、文章の細部に、冷静な加虐心といったものが宿っていて、文章そのものが冷え冷えと恐い。
■木内昇「こおろぎ橋」(※「こおろぎ」は「虫」偏に「車」) ※視点人物が実は……という王道。
■有栖川有栖「天神坂」 ※これはずいぶんと調子のいい話(男性にとって)で、とりたててフェミニストならずとも鼻白んでしまう。
■高橋克彦「さるの湯」 ※東日本大震災を経て。これもまたしかし、話のための話という程度にとどまる。
■恒川光太郎「風天孔参り」★ ※ある人物が「人間は、弱いね」と呟くのだが、その一文に至る積み重ねが凄まじい。樹海=自殺志願という公式を、少しずらした視点で見(続け)る、傑作。
■小野不由美「雨の鈴」 ※話のために作った設定、という感は否めない。が、「恐ろしいものなのに、やはり悲しげに見えるのはなぜだろう」という一文はよい。
■藤野可織「アイデンティティ」★ ※ひとつのオブジェから奇想を紡ぐ。まさに最高の現代作家!
■小島水青「江の島心中」 ※好みとしてはいまひとつかな。それにしても子持ち石というのは、いいな。
■舞城王太郎「深夜百太郎(十四太郎、十六太郎、三十六太郎)」★ ※【三十六太郎 横内さん】の畳みかけるような抒情よ!これぞ舞城の持つモノローグの魔力。「ごめんだけど、本当に嬉しい」には怖さと愛おしさが宿って。
■諏訪哲史「修那羅(しょなら)」★ ※古めかしい言葉遣いだが、県道、プロデューサー、メールなどで現代だと示されている。流浪と性。
■宇佐美まこと「みどりの吐息」 ※サンカ的な話かと思いきや、ファンタジックへ。それにしても、伝聞に伝聞を重ねる形式は、怪談実話を経たジャンルの特性なのだろうか。
■黒史郎「海にまつわるもの」 ※怪談実話をスルーしてきた身としての感想。これでもかというほど実話的怪談が収集・披露される。ここに至っては収集後いかにコンセプチュアルに開陳するか、という手腕が評価の対象になるのだろうか。テーマと、断片の関連性に、その空隙こそにうすら怖さを感じるという、けっこう高等な遊戯。あるいは平成の徒花、しぶとく残り文化になるのかもしれない。
■澤村伊智「鬼のうみたりければ」 ※新聞記事→ファナティックかつユーモラスな語り→新聞記事、という見本のような短編。
■東雅夫 編者解説 ※やはり3・11。現実世界を凌駕しかけた恐怖を物語の中に追い込むこと。
投稿元:
レビューを見る
全3巻なので、楽しみにして読んだ。いわゆる実話系怪談が入っていたのもこの巻だけだったように思う。恒川光太郎が好きだったので「風天孔参り」が入っていて嬉しかった(個人的には風の古道がベストではあるが)。特に好きなのは最後の2話「海にまつわるもの」「鬼のうみたりければ」怖いと思いながらもページを繰る手が止まらない体験は初めてだった。やっぱり恐怖は好奇心をくすぐるものだと思う。
投稿元:
レビューを見る
最終巻は平成20年(2008年)から平成30年(2018年)までに発表された15編が収録。
読んだことがあるのは『成年』(京極夏彦)。数ある中からこれを選ぶか、という感じ。
『鬼のうみたりければ』(澤村伊智)は、比嘉姉妹シリーズの1編でしょうか。双子、取り換えっ子とか、好きな要素が詰まっています。
一番好きだと感じたのは『雨の鈴』(小野不由美)です。
喪服の女は明らかに災いをもたらす存在だけど、因果関係や理由がわからない。対処方法はあるにはあるけど、相当強引なことをしなければならないし、自分に害が及ばないようになっても、消えるわけではなく、存在を感じ続ける。とまぁ、ちょうど良い匙加減の怖さだと思います。
このシリーズ3作を通して、いろいろな怖い話、不思議な話を読むことができ、読書の幅も広がりそうです。
投稿元:
レビューを見る
本来、生者であるべき語り手や登場人物が実は…という類型が前半までにいくつか続き、編者の遊び心かな、などと思いを馳せはしたが、正直そこまで盛り上がらず。
が、中盤以降で勢いが俄然増していき、傑作集の名にふさわしい名短編の連続に嘆息し、残りページが減っていく様に寂しさを覚えていった。
「風の古道」をほんのり彷彿とさせる恒川光太郎氏の「風天孔参り」、一見ふざけ過ぎのようでありつつ文学性をも備えた藤野可織氏の「アイデンティティ」、こっちの才能も凄いのかと脱帽させられた舞城王太郎氏の「深夜百太郎」、山奥を舞台とし民俗ホラーの雰囲気たっぷりの諏訪哲史氏の「修那羅」に宇佐美まこと氏の「みどりの吐息」(こちらは展開が相当強引ではあるけれども笑)、そしてまさしく平成30年間の掉尾を飾るにふさわしい澤村伊智氏の「鬼のうみたりければ」…、東雅夫氏、渾身の選と言っていいだろう。
投稿元:
レビューを見る
自分の好みに合うと感じているアンソロジスト選、平成後半となると読んだ記憶がまだ新しくて、面白みが欠けちゃうな
投稿元:
レビューを見る
面白かった。
震災にまつわるものや人情系が多かったようにおもう。
すでに読んだことがあるのもあったけど特に好きだったのは、
『成人』
『蛼橋』
『さるの湯』
『深夜百太郎』
『海にまつわるもの』
『鬼のうみたりければ』
投稿元:
レビューを見る
平成怪奇小説傑作選第3巻。平成20~30年の作品を収録。最終巻です。
既読は有栖川有栖「天神坂」小野不由美「雨の鈴」だけでした。2の方が既読作品が多かったな。「天神坂」がシリーズものの一環だとは知らなかった。濱地健三郎の短編集も読んでみたい。(こうして読みたいリストが増えてゆく……)
今回は、怪奇よりも幻想的な作品が多かった印象です。雨とか海とか、水にまつわる話が多かったような?
初読のものでは、木内昇「こおろぎ橋」小島水青「江ノ島心中」がお気に入りです。
宇佐美まこと「みどりの吐息」も好き。Coccoの「幸わせの小道」という曲を思い出しました。
舞城王太郎「深夜百太郎」作者の名前は知ってたけど、初めて読みました。うわああああとかバアアアッとかギイイイイイとか、ラノベっぽい?ので、収録作品の中で異色な感じがしました。ラノベも平成小説史には欠かせない要素ですね。Twitterに投稿されたものというのもまた異色。「横内さん」が怖かった。
怪奇小説と共に平成30年を振り返ることができる、良いアンソロでした。
投稿元:
レビューを見る
ホラーアンソロジー。再読の作品も多いけれど、どれをとってもたしかに傑作。怖いばかりではなく、切なかったり、少し温かな雰囲気を感じさせられるものもあります。
小野不由美「雨の鈴」が一番好きな話。何度読んでも恐ろしくて仕方がないのだけれど、この物語の主人公と同じく、どうしようもない悲しさ切なさもおぼえてしまいます。どういう由来のあるものだったのか、いろいろ考えたくなってしまいますし。
藤野可織「アイデンティティ」はなんだか愉快な一作。「猿です」「鮭です」でもう笑いがこみ上げました。実際にあるあれがどれだけアイデンティティに揺らいで悩んでいたのかだなんて、思いもよりません(笑)。シュールでコミカルな読み心地がたまらない一作です。
舞城王太郎「深夜百太郎」がこれぞホラー、という感じなのだけれど。これ、本の存在もチェックから漏れていたので。買って読まなければ、という気になりました。
投稿元:
レビューを見る
【収録作品】「成人」 京極 夏彦/「グレー・グレー」 高原 英理/「盂蘭盆会」 大濱 普美子/「 【コオロギ】橋」 木内 昇/「天神坂」 有栖川 有栖/「さるの湯」 高橋 克彦/「風天孔参り」 恒川 光太郎/「雨の鈴」 小野 不由美/「アイデンティティ」 藤野 可織/「江の島心中」 小島 水青/「深夜百太郎-十四太郎、十六太郎、三十六太郎-」 舞城 王太郎/「修那羅」 諏訪 哲史/「みどりの吐息」 宇佐美 まこと/「海にまつわるもの」 黒 史郎/「鬼のうみたりければ」 澤村 伊智
投稿元:
レビューを見る
平成三十年の間に発表されたホラー小説を、東雅夫氏が精選収録したアンソロジーの全三巻。第三巻の今巻は平成二十年の京極夏彦「成人」から平成三十年の澤村伊智「鬼のうみたりければ」までの十五作。
京極夏彦「成人」小野不由美「雨の鈴」は、読んだことがある作品。それでも、背筋に走るゾクゾクは変わらず。いいものは、何時でも何度でも物語へと入り込ませてくれる。恐怖がじわじわと侵食してくるのが、ジャパニーズホラーだと思っているのだが、かつて読んだ記憶があっても、初読のように感じることができたのは、深みにはまってゆくことが認知できているからだろう。
高原英里「グレー・グレー」。なぜか死人がゾンビ化してしまうようになってしまった世界を過ごす恋人たち。終末を迎えつつある世界と、恋人二人の関係。
非日常へと変化してしまった日常の中で、異常であると理解しながら、かつての日常を、それに少しでも近づけるように過ごそうとする恋人が、脆さの中の綺麗さを感じさせるか。破滅へと進むことを拒絶するでなく、少しでもその瞬間を遠ざけようとする。逃避とも感じるのだけども、それが綺麗だった。
大濱普美子「盂蘭盆会」。人が抱える精神の多面性が恐ろしく思う。
最後の場面は拍子抜けしたのだが、それはホラーということで復讐や慚愧の場面で終わるのか、と予想していたから。心の中に何を抱えていても、どんな形のものを抱えていても、一日一日を繰り返してゆくだけ。見てはいけないものを見た、という恐怖はあるが、それ以上にこれは誰にでもあり得る心象風景なのだ、という感覚が恐ろしい。
澤村伊智「鬼のうみたりければ」。怪異に侵食されて崩壊してゆく日常。この状況、現象は異常な事態だと感じていながらも、そこに対応し順応して、縋ってしまいなくてはならないものになってしまっていったのが、恐怖を感じる。
物語の語り手が平常を保とうとしているが、既に崩壊していたと気づいた時が、一番の山場。聞き手の人物と、読み手の自分との感情が共振するあの場面はいかん。
心に残った作品の感想を思いつくままに。
投稿元:
レビューを見る
このシリーズはひとまず全部読了。既読のはなしもあったが、何れもなかなか読みごたえがある。実話でも有りそうな気がしてくる。幽霊よりも怖いのはそれを作り出してしまう人の心と脳ミソか。
投稿元:
レビューを見る
素晴らしいホラーアンソロジー。ホラージャンルの入門にうってつけ。3巻だけ長いこと積んでしまっていたのがもったいなかった。読むべし読むべし。