紙の本
バッハの「マタイ受難曲」の魅力と秘密を解明した貴重な一冊です!
2020/04/10 11:26
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、バッハの「マタイ受難曲」が秘める不思議な魅力を徹底的に解説した貴重な一冊です。「マタイ受難曲」は、荘厳な響きと、雄大な構想によって、西洋音楽の歴史において圧倒的な存在感を誇ってきたバッハの代表局としてよく知られています。同曲には、イエスの捕縛から十字架刑、そして復活までの物語が描かれ、罪や死、犠牲、そして救済をめぐる人間のドラマが語られています。したがって、多くの聞く人々に対して、音楽としての価値を超えて、存在そのものの深みに迫ってゆく力を感じさせてくれます。同書では、こうしたバッハの「マタイ受難曲」の魅力や秘密を、バッハの手書譜や所蔵されている神学書をはじめとした膨大な資料を読み解きながら、分かり易く解説してくれます。
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・礒山雅「マタイ受難曲」(ちくま学芸文庫)を読んでゐる。まだ第2部の途中なのだが、その11章の初めにかうあつた。「長大な受難曲を、バッハがただ平坦に作曲し続けていったとは思えない。《マタイ受難曲》にもおそらく、表現の重点が存在するはずである。バッハは、受難物語のどこに焦点を定めて、作曲の筆を進めたのであろうか。」(377頁)正直言つて、私にはかういふ発想はなかつた。ただ漫然と聴いてゐた。いや、聞いてと書くべきであらう。さういふことは考へずにただ聞いてゐた。内容は二の次、 バッハの音楽だけを聞いてゐた。この少し後に、例のバラバをと釈放者を指名する部分の音楽の、特に通奏低音の「たった三つの音符群にこめたバッハの迫真的な表現を、このように深く感じるとるファンもいるのである。」(392頁)とあるのと比べたら雲泥の差である。私にはそのやうな発想も聞き方もなかつた。 世のバッハ愛好家が私のやうな聞き方をしていゐるのかどうか。たぶん違ふと思ふ。ただ皆が皆、言はば襟を正すやうな聞き方をしてゐるとも思へない。その中間あたりで、曲に合はせてテキスト(歌詞カード)でも読みながら聞いてゐるのではないかと思つたりする。何しろキリスト教とは無縁の人間である。受難曲もミサ曲も鎮魂曲も皆同じやうなものと思つてゐる人間である。私はバッハを、とりわけ宗教曲を「深く感じとるファン」にはなれない。
・本書はマタイ受難曲の総合的な研究書であらう。アナリーゼらしきところはあるが引用譜は少ない。それも最小限である。音楽的な記述はそれほど多くない。 楽譜がないと説明できないとか理解してもらへないなどの部分には楽譜があるが、それ以外には、音楽的記述があつても楽譜のないところがほとんどである。例へばイエスの死の場面、「鳴り響く弔鐘」といふ最初の見出しがくる。「〈ああ、ゴルゴダ〉のレチタティーヴォは、われわれを、まったく新しい響きの世界へといざなう(譜例46) 。前合唱(ト長調)と鋭い対比をなす変イ長調、しっとりとした音色、チェロの奏するピッチカートの響きーーこのチェロのつまびきは、鐘の響きを模倣したものである。」(442頁)ここは譜例がある。「強拍がほとんど七の和音(不協和音)となっているため、この鐘の響きは曇り、くすんでいる。」(同前)といふのも、譜例から分かる。ただし、その響きをこのやうに認識できるかどうか。それでも、この短い楽譜があるだけで分かり易さが違ふ。ここは曲中の「表現の重点」であるからこその楽譜引用なのであらうが、それゆゑに内容的にも重要である。このあたりではその説明も詳しくなる。「覆う暗闇」の部分、ここでは 「昼の一二時」を問題にする。これが「旧約の表象を背景にふまえて」(449頁)からモーゼが出てきて、更に曲中の「三」の象徴に至る。その後の、イエス が私を見捨てたのかと叫ぶ場面ではやはり譜例つき、音楽的な説明も詳しいが、その内容となると更に詳しく、ルターやルター派神学への詳細な言及があり、更 に「なぜ対訳か」などともある。説明も引用も縦横無尽、音楽学だけではとても太刀打ちできない。本書カバーに「本国での演奏にまで影響を与えた」とある。 これほどの書である。これ一冊でマ��イのことは分かると言へさうである。私のやうな聞き方の者には思ふだに恐ろしい世界である。これくらゐ書けなければ学問とは言へないのかもしれない。それなればこそ、譜例の少ないのが残念である。本書を読んで、マタイ受難曲のスコアでも買つて1度くらゐはまともに、そしてまじめに聴きたいと思ふことであつた。そんな有益な、正に古典的名著であつた。
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なぜこの本を手に取ったのだろうか?
もはや覚えていない(笑)
バッハ門外漢の私が、まさか…
でも、面白かった✨
3日程度で一気読みしてしまったf(^^;
ただし、マタイ受難曲を効きたいかと言われると…正直まだわからない( ̄▽ ̄;)
でも、面白かった
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面白い。著者のマタイとバッハ愛が感じる。音楽の知識がないのでその部分(半分ぐらい)流し読み。後ろに載ってるcdとレコードの紹介が辛口。結局聞くならリヒターかも
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単行本の文庫化で、618ページもある大書。
本書の特徴はたった一言で言い表せる。
すなわち、「マタイ受難曲を深く理解したければ必読・必携の書である」ということである。
全曲の対訳から細部の考察まで、マタイ受難曲について知りたければ、とりあえずこの1冊があればOKという素晴らしい書である。
補章の「レコード/CDによる演奏の歴史」は、マタイ受難曲の音盤37枚+アルファの寸評になっており、CD選びや、収集、聴き比べをするときに参考になる。私もマタイ受難曲は約60種類の盤を所有しているが、順番に収集していく際に役に立った。