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お酒としてジンの語るときに、まず出てくるのがイギリスの画家・William Hogarthが1751年に発表した「Beer Street and Gin Lane(ビール通りとジン横丁)」という一枚の絵画だそう。
左側にはビールを楽しむ有産階級の宴の様子、右側には日々に暮らしの苦しさをジンでまぎらわす頽廃的な貧困層の生活が風刺画としてあらわされている。
ジンはオランダで生まれたセイヨウネズの実・ジュニパーベリーを基本のボタニカルとする薬用酒・ジェネヴァがイギリスに渡り、「Gin」と略されたのが名前の由来だが、こうした「社会風紀を乱す庶民の安酒」というイメージが長らくついてまわった。
その後、数度にわたる「Gin Act(ジン・アクト)」と呼ばれる蒸留所の免許制度と課税強化を経て、低品質なアルコールを提供する事業者も淘汰され、これを摂取することによる健康被害もめっきり少なくなり、いまでいう「London Dry Gin」ブランドが確立されていった歴史がある。
そこから、いわゆる2010年以降の世界的なクラフトジンブームに至るまでには、さらに長い時間を要した。
ただ野放図に規制緩和すれば、劣悪な品質のものが出回って市民の健康リスクは増えるし、取り締まりを強化しても産業として収縮していってしまう。何事もバランスが大切。
以前に鮫島吉廣さんの書いた「焼酎の履歴書(2020, イカロス出版)」を読んだ時も、時の明治政府において酒税は相当に大きな財源として重用されていたというし、いつの時代も酒には一定の需要があり、その取り締まりと課税によって社会風紀のバランスをとりながら、財源として活用された歴史(もちろん戦争や植民地政策にも)がみえる。
調べてみると国税庁のWebサイトにも同様の記載がある(「明治32年(1899)に酒税は、地租を抜いて初めて国税の税収第1位となり、以後地租とともに国税の中心となりました」とある)。
もちろん現在の日本では、アルコールはTPOをわきまえて飲むべき飲料ということで各種法律も整備され、若者のアルコール離れも進んでいるというから、酒税の徴収額も漸減しているはずではあるが。
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酒税が国を支えた時代|租税史料特別展示|税務大学校|国税庁
https://www.nta.go.jp/.../tokubetsu/h22shiryoukan/01.htm
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一般的に醸造酒は自然な/有機的な酒、蒸留酒は工業的な酒というイメージがあるが、蒸留酒もベースアルコールは穀物か果実を使っていて、特にジンは蒸留工程でさまざまな植物で香りづけするから、より直接的にボタニカルを感じる農産加工品である。
個人的には、書中で紹介されているホップをメインボタニカルにしたニュージーランドのジン「Hidden World Gin IPA(https://hiddenworldgin.com/)」が気になった。Citra、Simcoe、Columbusの三種を使っていて、良くも悪くもジンとしてはクセ強な部類に入るそう。
中山間地から地域のボタニカルに根差した農産加工品を作る、という目標のもとホップ栽培から入ったが、なんとなく進んでいくと道も広がっていきそう。