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マルクスのテクストをじっさいに読み解き、そこからさまざまな思想史的なつながりを丹念に解きほぐしている本です。とりあげられているテクストは、「ユダヤ人問題によせて」「ヘーゲル法哲学批判序説」『経済学・哲学草稿』『ルイ・ボナパルトのブリュメール十八日』『資本論』です。さらに「補講」として、「アーレントは、マルクスをどう読んだのか?」というタイトルの講義が収録されています。
「はじめに」で著者は、「吉本隆明にしろ、廣松渉にしろ、柄谷行人にしろ、戦後の日本の論壇の一時代を画した思想家には、何らかのマルクス論があった。仲正さんも、一人前の思想家になるには、独自のマルクス論が必要ですね」といわれた経験を語り、「正直、鬱陶しかった」と述べています。そのうえで本書の内容について、「さほど体系的な読みにはならなかったが、マルクス主義者が無視しがちな細かい点についていろいろ深彫りして考えることができたのではないかと思う」と、やや控えめな語りかたをしています。とはいえ、現代的なマルクスの再解釈のいとぐちになるようなポイントが随所で指摘されており、そのうえで、そうした読みかたに全面的に肩入れせず、むしろ冷淡と思えるような調子で講義がつづけられていきます。
著者の他の「入門講義」シリーズと同様に、著者の講読のスタイルが再現されており、哲学のテクストを読むとはどのようなことなのかを実践的に学ぶことができます。