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マクロ経済学を直感的にザックリ理解するための本。
マクロ経済学の諸理論を具体的にイメージしやすいように類似として物理学の法則に置き換えたり、事例として世界史の出来事で紹介してくれるのが心地よい。
ということで、マクロ経済学をこれから学ぶ人、途中で挫折した人向けの本と言える。特に物理と世界史を受験科目として勉強してきた人ならさらに理解の助けになると思う。
ただし、最終章「資本主義の将来はどこへ向かうのか」のくだりは難しかった。ポスト資本主義(あるいは資本主義の大問題「縮退」への処方箋)を説明しているが、囲碁で解説を試みたのが良くなかったと思う。囲碁をなまじ知ってるのが良くなかったかもしれないけど内容が入って来なかった。囲碁のアナロジーが正しいなら、人工知能が相手なら敵わないし(人工知能が地球環境からの全体最適を図ると最適解は人類を映画マトリクスのように容器に入れて夢を見させておくのが良い)、それに経済は「完全競争市場」でないように「完全情報ゲーム」ではないからそもそも例えとしてふさわしくない。
ちなみにミクロ経済学をこれから学ぶ人には、坂井豊貴さんの「ミクロ経済学入門の入門」がオススメ。
https://booklog.jp/users/kuwataka/archives/1/400431657X
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自分は学がなく頭もあまり良くないので、よくは理解できなかった。それでもスゴいことが書いてあるという感じはあって、興味深く読ませてもらった。
貨幣とか、金本位制などについてその歴史から本質を捉えて未来について語っている気がした。そこから必然的に出来する「縮退とコラプサー化」を扱いまだ産まれていない対抗策の見通しを示す。
どうやら本書は経済に疎い理系の読者を想定している模様。文系の社会発達モデルって、対立する概念の間を揺れ動きながら、螺旋的により高度化していくようなイメージがある。
対して理系のそれでは、「この先にこんな技術がありそう」という方向に一足飛びにジャンプしていく感じ。
個人的には、この本こそ21世紀の資本論と呼ぶに相応しいと思った。
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評判通り面白い。説明の仕方が独特だが分かりやすく、喩えも秀逸。タイトルで言う直感的方法ってのは嘘ではなかった。また、最終章で資本主義経済の行く末をテーマにしているが、意外性のある展開で、読み終わると逆に他の章の印象が薄れてしまった。不可逆的な縮退に陥るコラプサーという考えは初見だったが、ちょっと曖昧な定義が多くて歴史上の国々にも普遍的に当てはめるのはどうかと思ってしまった… 長期的な理想が短期的な利益を律することができるかってのは、まんま倫理観に直結してくるかと思うが、実際はどうあれ国連憲章やSDGsなどの周知を見れば歴史的にもここまで広く道徳が共有されてる時代は無いのでは… 映画やネットなどのメディアも大きな力を秘めているかと感じた。大企業が市場を寡占化していくのが縮退で、生態系の多様性が失われることもそうだとして、そこの共通点も薄く感じた。理系集団の武士が明治維新など、数々の国難を乗り越えさせたってのは、何の話かよく分からなかった。なかなか個性の強い考え方が散見されるが個人的には好き。
ブロックチェーンやビットコインの話は不勉強でほとんど知識がなく、非常に参考になった。改竄防止の方法として大規模なものと小規模なものがあるイメージ。ビットコインについてはマイナーなる、ブロックを作ってコインを報酬として得る人物・組織がいるとは・・ネットの世界に金(ゴールド)を作る発想は、結局は金本位制と同様の、必要な時に飛躍的な供給ができずに行き詰まるという弱点があるとの解説。
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感想はあとで
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戦争のパラダイムシフトのキーファクター=鉄道
経済においては銀行がお金という資金を融通するいわば鉄道
宗教は資本主義ブレーキ装置
金利の禁止
寄付(キリスト教)、喜捨(イスラム教)の教え
→貧富の差が巧妙につかない仕組み
プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神
ピューリタンの予定説が資本主義促進のエネルギー
「天国に行ける自分は現世で報われるから稼げるはずだ」
資本主義が必要な理由:
・軍事力の基盤
・人々が夢を持つ
・他の資本主義から身を守る
→資本主義の代わりを訴えるならこれに対する答えが必要
徳川政権の珍しさ
米が金銀に優先される
商業を抑え込んで農業の地位を押し上げる
なぜ農業は工業 商業より儲からない?
→所得が倍になっても食費は倍にならない
→工業、商はスケールしやすい
一次産業の中でも石油だけ別。
商工業のスケールに対応できる製品であるから。
ケインズ経済学vs古典は経済学
ニューディール政策による景気回復の本当の理由は第二次世界大戦
古典派→ケインズ経済学(大きな政府→新古典派(小さな政府)
ケインズの弱点は国家の赤字、インフレ
基軸通貨:
米国が米国民のためだけに刷ったお金を国際取引で使われることがでファクトスタンダード化した状態にすぎない.
米国ドルの権威=軍事力
純金の権威=物理的希少性
→「これは価値がある」というメッセージを人為的に作るか,不変的事実として作るか.
この貨幣は今日も使えるから明日も使える
→慣性的共同幻想
ブロックチェーン、ビットコインの説明が超優しい
短期的願望・長期的願望
人間を死に至らしめるのは苦難ではなく絶望
愛国心、地域主義→価値判断の拠り所 宗教、神、崇拝
縮退を防ぐ、短期的願望を抑える文化や慣習はそれ自身が資源。
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近著「世界史の構造的理解」の底本という位置付けで再読した。本書のポイントは次のとおり。
①暴走中の資本主義の駆動原理は次の3つ。
軍事力維持(英国)
未来に夢を与える(米国)
他国の資本主義から身を守る(日本)
これらを全て満たす新たな思想が必要。
②縮退(退化)過程で富が引き出されている。
回復不可能になる前に対応が必要。
鍵は哲学・物理学等と融合した真の経済学。
少なくとも新自由主義では話にならない。
読み返してみて改めて名著だと思ったが、第6章で貨幣の増殖を「また貸し」を前提に語っている部分は明らかに間違い。これほどの論考ができる著者がなぜこのような説明をしたのか興味がある。
単なる無知とは思えないのだが。
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❶資本主義はなぜ止まれないのか
①資本主義は常に成長をしなければいけない、何なら成長は加速させなければいけない、ということを宿命づけられてる。なぜ、そんなことになるのか。鍵は『金利』にある。
②ここ30年くらいの平均経済成長率は3%程だが、これは24年で2倍になるというとんでもないスピードである。同じペースで仮に100年続くと16倍。
例えば、石油が使われ始めたのが1850年代からだが、統計によると、1865年に1日7000バレルの石油使用量は1945年時に710万バレルに、そして現在9700万バレルの利用まで増えている。ここから経済が拡大するにつれ、同じペースでエネルギー使用が増やせるかといえば難しいだろう。
石油使用を抑えた経済成長をするには、今の使い捨て経済を止めないといけないが果たしてそれが出来るだろうか?
③経済と軍事は極めて密接である。現在でも経済力で勝つ国が軍事でも覇権を握る構図である。特に、鉄道が出来てからは兵站が劇的に変わってしまったため、人、モノ、カネの総力戦の時代になってしまった。日米戦争でも分かる様に経済力に勝るものが戦争に勝つ時代に入ってしまった。『戦争=カネ』である。
④経済世界の鉄道網というべきものが金融機関である。儲かるマーケットがあれば、そこに大規模に迅速に資金を供給して資本の投入量で勝負を決める。
⑤中世ではカトリックにせよ、イスラムにせよ利息、というより貯蓄そのものを望ましいものだと考えていなかったと思われる。カトリックは教会に寄進させ、イスラムは貧しい者に施しをさせるように仕向けた。
⑥貯蓄というものは皆がやると貧しくなる。誰かが持ってる以上に使ってこそ、パイが増えるのだ。
⑦現在の日本は個人消費と政府支出でおおよそ8割。住宅投資3%と設備投資14%、公共投資5 %が変動要因として景気を動かしている。
米国は民間最終消費1555兆円(68%)、政府最終支出322兆円(14%)、民間設備投資307兆円(13.4 %)、住宅投資85兆円(3.7%)、公的固定資本形成78.5兆円(3.4%)、純輸出-67.4兆円(-2.9%)である。
中国は日米と比べて歪。1次産業7.3%、2次産業39.4 %、3次産業51.3%となっている。
具体的には、農林水産8%、製造26 %、建設7.2%、商業・飲食・宿泊11%、運輸・倉庫・通信7.8%、不動産7%となっている。中国は他国と比べて固定資産投資がドライバーとなっており、ここが崩れると成長率が低下しやすい。
一般的な国では、この『製造のための製造』の2割が景気変動要因のキーなのである。
⑧資本主義というものは本質的にカンフル剤の連続投与によって維持されているようなものだ。
所得=消費+投資(貯蓄)と考えるのであれば貧血でジリ貧になるか超高圧状態になるかのいずれかである。この投資と貯蓄が一致しないと経済は一気にバランスを崩す。
⑨西洋の資本主義に影響を与えた人物としてマックスウェーバーがいる。彼は、金儲けに正当性を与えたことが大きい。金儲けは卑しいものというものが宗教的に強かった中で、利潤追求を是としたこの転換は非常に大きい。
また、合理的に生産するために複式簿記が導入され、資本蓄積も進んだ。現代の資本蓄積の礎となった。
❷農業経済はなぜ敗退するのか
①農業経済の泣き所は大きく伸びない需要と、伸ばせる供給量というギャップである。供給過剰に陥りやすく、値崩れしやすい。
商工業は需給が大きくゴムの伸縮みたいに動く。そして、歴史的に過剰生産と新たな需要を起こすイノベーションによって成り立ってきた。
②歴史的には石炭文明→石油文明→半導体文明といっところか。今の半導体文明の難しいところは技術の陳腐化が異常に早いことである。
❸デフレとインフレのメカニズム
①インフレというものは次々に飛び火していく性質を持っている。1ヶ所で値上げが起これば、それがサプライチェーンに沿って値上げが連鎖され、賃金まで波及すれば、そのサイクルは繰り返し起こることも珍しくない。これを学問的に、失業率とインフレ率の関係で見たものが『フィリップス曲線』というやつである。
②インフレのメカニズムを整理すると主に3つである。
ⅰ)紙幣の増刷
これは第一次世界大戦後のドイツが典型
ⅱ)供給不足
これは、コロナ禍のモノの供給不足がわかりやすい。
ⅲ)好景気に伴う供給のボトルネック発生から波及するもの
これが好景気のインフレの典型。現在のインフレはⅱとⅲの複合型ともいえる。
③インフレで得をするのは誰か。『機動性の高い』人が得をして『動きの鈍い』人は損をする。わかりやすくいうと『金を借りる側』は得をして『金を貸す側』は損をする。
④インフレになった時の対処法としては、金利を上げ、金の需要を遮ることで、金の流れにブレーキをかける。
⑤デフレはインフレより恐ろしい。モノの値段が下がっていくデフレ下では買い控えが起きやすくなる。企業も売上が減るので賃金を上げられず、賃金が上がらないのでさらに買い控えが起きるという悪循環に陥るのがデフレである。
❹貿易はなぜ拡大するのか
①貿易のメカニズムは『価格差』である。
②自由貿易の怖いところは一者総取りであり、産業競争力でトップの者が利益を攫っていく。歴史的にこのような例は沢山ある。
③貿易で繁栄した国といえばオランダがあげられる。17世紀後半に英蘭戦争で英国に負けるまでオランダは世界の覇権国にいたが、オランダの稼ぎは東インド会社ではなくバルト海の穀物貿易がメインであった。当時の欧州は人口増加に穀物の供給が追いついていなかった。また、穀倉地帯だったウクライナのあたりがオスマン帝国の勢力圏にあったため、オランダが支配していたバルト海のルートからの穀物供給が使われた。
④米国の南北戦争の戦争の要因として、工業経済であった北部は英国と比べて競争力が低かったので、保護貿易的な政策を採りたかったのに対し、農業経済であった南部は原料輸出がメインであったため、自由貿易的な政策を採りたかったのがぶつかったことが要因。結果は北部が勝つことによって南部がいわばモノカルチャー国のような立場に変わったことで劇的な発展を遂げることになった。同じようなことは、鄧小平時代からの中国にもいえる。農村から安い労働力を大量に動員して発展した。
⑤戦後の1980年代、日本は工業国として世界で最も高い競争力を誇っていたが、戦争で負けた経験からか、保護主義的な政策にこだわった。一方で、米国は逆にナンバーワンから転げ落ちたにも関わらず、自由貿易を掲げ、日本の貿易黒字を数値目標として管理するという客観的には保護主義的政策を採った。
⑥19世紀から20世紀にかけて自由貿易が浸透していったが、その一方で格差の拡大も大きくなった。南北問題である。これを壊しにいっているのがインターネットの存在だ。情報の格差がなくなったこと、経済の形が情報経済になるにつれて、南側諸国にも勝ち目が出てきている。
⑦仕事を南側諸国に奪われた北側諸国の人間が増えるにつれて、貧困も北側諸国に戻ってくる。これが政治のポピュリズム化を促してしまっているところがある。トランプ政権の政策を考えるとわかりやすい。米国の製造業はコスト面などで競争力を無くしているため、大きな部分を中国等に持って行かれた。トランプ政権はブルーカラーの票取りのために保護主義的政策をとり選挙に勝った。
❺ケインズ経済学とは何だったのか
①ケインズ経済学を理解するにあたって重要なのが『乗数理論』であり、政府の財政出動が投入規模の何倍にもなって経済に影響を与えることを級数を使って説いた理論である。
②有効需要の不足を考えるにあたっては2つ考える。1つは使う意志があってもカネがない、もう1つはカネはあっても使う意志がない、である。日本は貯蓄率の高さから考えても後者が強いのかもしれない。
③不況になると、すぐに『財政出動』という言葉が出てくるが、これはまさしくケインズ経済学が浸透しているということを意味する。
④社会全体で富の重心が低所得者側にあると、貯蓄をする余裕がないので消費性向が高くなり、有効需要は減りにくい。一方で富の重心が高所得者層にあると、貯蓄が多くなり、消費性向は低くなりがちである。
⑤経済が縮小均衡に陥りそうな時、ケインズ経済学(突き詰めて財政出動)は常に有効かといえばそうではない。当然、副作用もあり、それは財政赤字とインフレの温床になりやすいということである。
⑥財政赤字は富裕層に増税すれば良いという議論になるが、これをやるとうまくいかない。経済全体が縮小均衡に陥っているときは富裕層がイノベーターとしての消費主導になることも多いからである。
日本が多額の財政出動をしたにもかかわらず、縮小均衡から抜け出せなかったのは、財政出動というアクセルを踏む一方で富裕層や中間層の可処分所得を削ったことも大きい。
財政出動=国債発行であり、これは一種の通貨膨張でありインフレを招く要因となる。
⑦ケインズ経済学の1番のリスクであるインフレは1970年代に爆発した。遠因として、1960年代の公民権運動(キング牧師が有名)を躱すため、少しでも失業者がいればすぐに財政出動をしたのと、ベトナム戦争の財政赤字が大きいだろう。また、ブレトンウッズ体制も1971年に破綻。1973年までスミソニアン協定で頑張ったが変動相場制に移行。ドルの信任が破壊されている状態で1973年のオイルショックが起きてインフレが止まらなくなった。
⑧ケインズ経済学が敬��されていく中で急激に支持を得たのが自由放任主義を唱えるミルトンフリードマン率いるシカゴ学派のマネタリスト達である。
自然失業率仮説(経済社会においては健全な状態でも一定の失業者がいる)を唱え、過度な救済に疑義を唱えた。
⑨1980年代のレーガン政権には本格的にケインズ経済学が駆逐され、『小さな政府』を主張するマネタリスト達が席巻した。これはリーマンショックまで続くことになる。
⑩歴史的に、投資家層、消費者層(労働者層)、企業家層(生産者層)は組み合わせを替えて2対1の対立を繰り返している。19世紀の資本主義の時代は企業家層と投資家層が同じようなものであり、労働者層と対立をした。企業家層が支持したのは自由放任主義を唱えるアダムスミスから進化した古典派経済学であった。
労働者層に手を差し伸べたのがマルクスであり、ここに、資本主義対社会主義という我々がよく知る対立が生まれた。
ケインズ経済学は、企業家層と労働者層が手を組んで、投資家層に対抗した。大恐慌時代に象徴される大失業時代に要求された組み合わせであった。
1980年代からの新自由主義は、投資家層と消費者層が手を組んで、生産者層に対抗をする。投資家は世界で最も有利な場所に投資をし、消費者は世界で最も安いところでモノを買うことにより、国内の生産者層を駆逐していった。
11)余談ではあるが、今の中国は投資家層を力で圧殺して、生産者層と労働者層を強制的にくっつけている状況でないか。
❻貨幣はなぜ増殖するのか
①貨幣の『自己増殖』という観点から見ると、貴金属から紙切れに変化したときが最も大きい質的変化となった。貴金属のような人間の手で勝手に増やせないものから、その気になればいくらでも増やせるものへの変化、ここをまず押さえたい。
②中央銀行が発券した現代の紙幣はイングランド銀行が発祥と言われているが我々の想像とは違う形で出来た。つまり、国家権力の信用において流通させたという性質ではない。当時は名誉革命時で、カトリックとプロテスタントの争いも絶えず、治安が悪い時代であり、市民は金や貴金属を金細工に預けていた。その預かり証を中央銀行がまとめる形で紙幣が発行されたのだ。
③貨幣は放っておくと級数的な広がりで増えていく。その中心的役割を担っているのが銀行である。銀行が預金者からの預金を又貸しで回転させるため、市中で観測されるお金の量が増えていくのである。これをセーブするために、中央銀行は準備預金という形で強制的に積ませる仕組みを導入している。
④世の中の人間が誰も借金をせずに手元にあるお金しか使わない人たちだけで構成されている場合、その世界では経済の拡大はあり得ない。
誰かが今ある資金以上のお金を使って、そのお金が実際に市中に回ることにより、拡大という概念が生まれるのだ。
⑤金本位制の1番のメリットはインフレを抑えるということである。金の裏付けなく紙幣の発行ができないため、財政難に陥った政府当局が輪転機を勝手に回してインフレになることを防ぐ効果がある。蛇足だが、中央銀行が政府と独立しているのは政治的理由で金融政策をさせないためである。
⑥一方でデメリットもあり、経済が拡大する時は紙幣がうまく回らず経済活動を阻害してしまうのだ。
❼ドルはなぜ国際経済に君臨したのか
①ブレトンウッズ後の米ドルは金の裏付けのある通貨であった。それがニクソンショック後は『世界最強の軍事力』を背景とした通貨に変わった。前ページの話で言えば、イギリス型の金の裏付けがある形ではなく、モンゴル型の軍事力を背景とした裏付けになる。
②米ドルを世界通貨として使っている現状には大きなジレンマがある。それは、各国に十分な量の米ドルを供給するために、米国が貿易赤字を垂れ流さないといけないということである。
③第二次世界大戦後の歴史を見ていくと、1950年代までは米国が貿易黒字であったこともあり、ドル不足であった。これは日本の当時の経済情勢を見ても一目瞭然であった。これが1960年代に入ると、米国が世界にふんだんにドルをばら撒き、今度はばら撒き過ぎてドルの信用不安が出てくる。これが、一気に表面化したのがニクソンショックであり、そこからドル安が止まらなくなった。(そして、高インフレの時代に突入した)
④そもそも米ドルの供給量は、米国の国内の経済情勢によって決められるべきものである。これを国際貿易に必要な量はいくらかという基準によってドル供給を行おうとするから無理が出てしまうことになる。
⑤現代社会において、人類は貨幣の量に対して『ある場合には絶対増やせないが、別の局面では自由に増やせる』という二律背反の要求をしている。現在、この要求に最も応えられているのが米ドルであり、日本円も仮想通貨もその要求には応えられていない。
⑥米ドルが基軸通貨で居続けられた一番の背景はやはり軍事力である。ロジックはモンゴル帝国のロジックと同じである。
⑦金本位制を採用する理由は、2国間で価格差が発生した場合にはアダムスミス的な神の手で修正されるというロジックが根底にあった。
⑧このロジックには落とし穴がある。例えば、貿易赤字になり国内価格が下落、輸出で稼ごうという際、海外から原料を輸入しようという場合、そもそも外貨がなければ何もできない。国内もデフレになってしまうので、経済運営が難しくなる。
❽仮想通貨とブロックチェーン
①仮想通貨の仕組みで最も押さえておきたいポイントは『すぐには増やせないが、ゆっくりなら増やすことができる』という、これはまさに金が持っている性質である。
②ビットコインやその他の仮想通貨がドルなどの法定通貨に取り変わる確率は低いだろう。ただし、ブロックチェーンの技術は法定通貨の補助、例えば地域通貨や企業のポイントなどの形で、うまく使われる展開を想定している。
③ブロックチェーンの直感的な理解としては、ハッシュ関数のハッシュ値が次々書き込まれ、改竄できないように並べた仕組みである。
④ビットコインの場合、10分に1個のブロックが作られており、改竄は難しい。
⑤ビットコインはデジタルゴールドを目指して設計された。リブラはドルもの交換を保証した商品券の拡大版として設計された。ステーブルコインみたいなものである。構造的には、ビットコインは不特定多数に管���させる超大型機タイプ、リブラはフェイスブックが中心となり団体レベルで管理可能な中小型機タイプと分類することが可能だろう。
❾資本主義の将来はどこへ向かうのか?
①1970年代には経済成長と石油使用料がパラレルに動いていたため、化石燃料の枯渇が強く懸念されていたが、現在、そのような懸念は起きていない。これは経済成長の形態が大きく変わったからだと考える。そして、それを考えるにあたって『縮退』という概念を考えたい。
②縮退は『寡占』と言い換えることも出来るだろう。あらゆる業界は札束での殴り合いで上位数社に集約していく。現在の経済は、この寡占に至るまでの過程で誕生した巨大企業がその他の利益を奪う形で富を形成してるように感じる。
③たまにスマホやEVのようなゼロから巨大市場が誕生することもある。ただし、莫大な富が生まれるのはそれが量産されて大衆化と陳腐化が始まりかけた頃である。(今のEVがまさにそのような感じ)そして、これが社会の縮退(競争の激化)と組み合わさった時、巨万の富が生まれる。
④多様化を進めようとすればするほど一強による画一化を招く。政治では、それを回避するシステムが2大政党制であり、例えば天体においても二体問題が安定的でそれ以上になると、軌道の計算が全くできなくなってしまう。
⑤1970年代と経済成長が大きく変わっていないのであれば、以前のような石油消費に依存する量的拡大から何が変わったか、カギを握るのは『金融市場の拡大』であろう。
⑥本来ならば世界のマネーは実体経済にくまなく行き渡るようにすべきものだが、非常に狭い金融市場の中で投機のために回るようになっている。
⑦なぜ、短期の欲望が長期の理想を駆逐するような状態に陥ってしまったのか。資本主義世界、特に米国では『大勢の短期的欲望を集めていけば、それは長期的欲望(全体)に一致する』と思っているフシがある。
物理学の考えで言えば、二体問題であれば、部分の要素を集めていけば全体の動きが分かるが、三体問題以上になると、部分を集めても全体の動きは分からない。
⑧共和制ローマから帝政への移行にかけての出来事は現在我々が抱えている課題に示唆を与える。
共和制の時代、社会は基本的には自作農中心の自由農民で成り立っており、戦時には自由農民が戦力の中心となった。共和制の末期になると、ローマの属領が増えて、そこから安い農作物がローマに流入し、自作農は没落。自作農が手放した土地を金持ちが手に入れ、さらに格差拡大という流れに。同時に、自作農中心の戦力も、雇用、もしくは金持ちの私兵で構成され、歯止めが効かない状態に陥った。
この行き着く先が帝政への移行であった。つまり、カエサルへの権力集中であった。
あるデータによれば、ローマの人口120万人のうち約半数が生活保護者であり、奴隷を除くと自活していたのは1割しかいなかったというデータがある。
⑨われわれの経済は力学として捉えると、その根本原理は『欲望を満足させて、利益を極大化させようとするただ1つの力で動いている』ということである。
⑩われわれが物質的に恵まれているにも関わらず、幸せを感じられない理��は『想像力』を奪われているからであろう。欲望は次から次へと叶えられ、望むものがなくなった結果、幸福を感じることができなくなった。
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経済について、色んな表現を使いながら解説してくれるので、理解が早く、インフレや貿易なども、そういうことか!の連続だった。
改めて、資本主義という世界を覆い尽くす主義の、止まらない経済成長という恐ろしさ、縮退、私たちはどこに向かうのかを考えさせられた。
経済とは、政治、社会、宗教、法律、文化、哲学の全ての根幹にあるものということが分かった、なおさら経済学の捉え方をもっと洗練させていかなくてはならない。
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経済史を俯瞰しながら、マクロ経済学の基本的なタームが説明されているのが特徴的。
なぜそんな体裁なのかといえば、最終章で、著者が提示する「縮退」という概念を深堀りするためだったとわかる。
学説を並べただけの入門書ではなく、全体がストーリーとして頭の中に入るようになっている、とても素敵に工夫された概説書。
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評判どおりとてもわかりやすかった。経済学というより経済的側面からみた社会の成り立ちみたいな話なので、残念ながら資格試験の勉強には使えなさそう。
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経済学専攻でない人向けに書いた本。
第1章が秀逸。イメージがわかりやすい。
但し最終章はよくわからなかった。
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マクロ経済学を直感的に、かつ丁寧に解説した本です。
なかなか読み応えのある分量で、かつ書かれている内容も平易ではないです。(たぶん私に経済学のセンスがないのだと思います)
しかし直観的でわかりやすい例えを多く使っているからか、そんな私でも読みづらいといったことはなく、確実に内容を反芻しながら読むことで理解することができました。この本は本棚にしまっておき、必要なときに取り出して内容を確認するといった使い方で運用したいと思います。
今までは経済的なニュースや読み物に対して、わからないからと無意識に避けていた傾向がありましたが、これからは臆することなく読める気がしています。確実にこの分野に関するハードルを下げてくれたと思います。オススメです!
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経済学の門外漢ですが、説明がわかりやすく理解しやすかったです。ただしかなり込み入った話でこんがらがりやすいので、何度も読み返したいと思います。最後の章で初めて出てくる著者の考えも面白く、とても楽しめました。
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ゆる言語学ラジオで絶賛されていたこちら。最近読んだ「東大生が日本を100人の島に例えたら…」で、経済オンチを自認したので即ポチした。
「東大生が日本を…」を読んだ時も思ったんだけど、余剰の富を蓄積したり、売買や物流を便利にするための手段として機能していたお金が、経済の拡大とともに目的化していく構造が、この本を読んでいてもよくわかる。
一章ごとにそれこそハッとする学びがあり、とてもわかりやすい身近な物理で経済の流れ、構造を例えてくれるので、本当に直観的に理解が進んだ。
それにしてもはしがきからこの点のわかりやすさについて、自らめちゃくちゃハードル上げるなぁ…と、思ってたけど、
著者のまとめとしての考えである9章以外は経済オンチ、物理オンチの私でもそのハードルを難なくクリアできる高解像な内容だったのが凄い。
前評判どおり、ブロックチェーンについてもアレルギーなくするする読めて(わかったとは言ってない)新しい知見も難なく得られたので、前評判の絶賛を信じて本当に良かった。
9章はわたしにとっては他の章に比べるとかなり抽象度が上がったな、という印象で、縮退の話は面白かったけれど正直ピンとこないところもあった。
読みながら「暇と退屈の倫理学」に通じるのかなと思ったり、何度か行き来して読み返すとより理解が深まりそう。
それにしても頭のいい人の文章は凄いなぁ…。
そのうち「物理数学の直観的方法」にも挑戦してみようかな。
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経済学と聞くだけでとっつきにくい印象を受けるが、うまく噛み砕いて具体例もつかって説明してくれているのでわりと抵抗なく(多少詰まる事もありましたが)スルッと入ってきます。とってもありがたいです。
……この本を読む事で確実に経済学に対する苦手意識は減りました。
何回でも読み返したい一冊です。
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とにかく話が上手というか、メタファー使って引き込むのが上手い。
当然直観的理解に全振りのため、正確性少し不安を感じる部分もあるが、その枝葉を捨ててもなお得るもののほうが大きいのではないか。
気になったのは、伝統的社会は縮退に対応できているのではなく、縮退にたまたま対応できていた社会が残っていただけなのではないかということと、これまでの伝統社会と現代社会というスケールとOSが全く異なるシロモノを同じ土壌で見比べるのが適切なのか?ということ