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『9 一年一組一番と二組一番は、長雨の夏に渡り廊下のそばの植え込みできのこを発見し、卒業して二年後に再会したあと、十年経って、二十年経って、まだ会えていない話』
「黄色い本」のような目次。だからといって高野文子の描く「実ッつぁん」のように目次をクリップで留めずともよい。その言葉の連なりはそれ自体で小さな物語を紡ぎ出しているとはいえ、示された頁の先に展開する物語を語り尽くしている訳ではないし、そもそも要約され得るような物語は存在しない。ここにあるのは、帯にもある通り、柴崎友香の「新境地」。
東欧の奇譚集の翻訳のようでもあり、漱石の夢十夜のようでもあり。あるいは今昔物語のように淡々として、かつ、おどろおどろしい物語のようでもある。あるいはそれを無国籍化した物語と言ってもいいのかも知れない。アイオワ大学国際創作プログラムへの参加が作家の創作の思考の奥行きを深めたのか。参加後に発表された幾つかの作品と比べても本作は作家の新しい想像力が発揮された作品のように思う。
短い文章の連なり。話の流れからの唐突な逸脱。特定され得ない場所、そして時間。どの登場人物も主人公ではなく、かと言って誰もが脇役という訳でもない。方丈記の言葉を持ち出すまでもなく、一人の生はひと時のことでありながらそれが互いに関わり合って織りなす物語は絶えず、いつも同じように流れてゆく。だからこそ、その人の物語が妙に身近な人の声のように聞こえ、いつかどこかで聞いた話のように響く。
短い物語の中に幾つもの更に短い物語が数珠つなぎのように織り込まれ、一つひとつはエピローグもなく霧散していくようであるが、例えば夢十夜の第一夜のように、伏線めいた符牒が全て一つに還元されてくるようでもあって、その時に「百年はもう来ていたんだな」と気づかされる、そんな感覚を覚えるようでもある。案外と「百年と一日」というのは漱石へのオマージュなのかも知れない。
『「こわいな」と四階の子供は言った。「こわいじゃなくて、きれいっていうんだ」と、隣のアパートの同級生は言った。空は暗いのに、足もとはぼんやりと青白く光る街、まだいくらでもそこに落ちてくる雪を見つめながら、その二つは同じ意味じゃないのかと、四階の子供は思った』―『雪が積もらない町にある日大雪が降り続き、家を抜け出した子供は公園で黒い犬を見かけ、その直後に同級生から名前を呼ばれた』
それでもやはりこの作家らしい言葉の連なりはある。だが敢えて、その色を出すまいと、新しい文体に挑んでいる印象を強く受ける。新しい柴崎友香との出会い。
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どんな話なの?と聞かれると「えーっと、33の短編が入っていて、タイトルがそれぞれにめちゃくちゃながくて、でなんていうか、ふわふわしてるんだけど言葉が的確で、それで、えっと何気ない話とかちょっと不思議な話とか、えっと…なんていうかこれはほかの人には書けないよな、っていう…」と全然答えにならない答えで説明するしかなくなるような、そんなお話たちの集まり。
どの話が一番好きか、と読んだ人に聞きたくなる。そして多分、聞いた人それぞれに違う話をあげるような気がする。ちなみに私はジャズ喫茶の河内音頭が好きだ。
でも、好きな話とは別の話に本当は惹かれていたりする。好きとか嫌いとかじゃなくて。私の話もこの続きにあるよな、と思うような。
長い長いタイトルと短い本文。そこに風景の見える世界を凝縮させるって、すごい。
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たまたま会社や自宅を整理していて、50年も前の書類が出土してはびっくり!な時期にこの本を読んだのも何かの偶然か。
時間も場所もするする移動しながら紡がれる物語。
物忘れは激しいのに、過去のことならいくらでも語り続けられる88歳の義父も、この物語の中に住んでいそうな感じ。
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33編からなる短編作品集。学校、島、映画館、喫茶店、地下街の噴水広場、空港、ラーメン屋、銭湯・・・様々な場所を舞台に、市井の人たちの暮らしぶりや時の移ろいが招く変化の様子を淡々と描く。
起伏ある展開や、入り組んだ仕掛けを楽しむ本ではなく、ありふれた人びとの日常とその移り変わり、じわっと漂ってくる時代感をゆったりと味わうのが、この本にふさわしい読み方かもしれない。
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残念ながら、良さが少しも理解出来なかった。特につながりのないショートストーリーの連続。淡々と進む。最後まで読んだが、苦痛しかなかった。
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学校、島、家、映画館、喫茶店、地下街の噴水広場、空港…… さまざまな場所で、人と人は人生のひとコマを共有し、別れ、別々の時間を生きる。 大根のない町で大根を育て大根の物語を考える人、屋上にある部屋ばかり探して住む男、 周囲の開発がつづいても残り続ける「未来軒」というラーメン屋、 大型フェリーの発着がなくなり打ち捨てられた後リゾートホテルが建った埠頭で宇宙へ行く新型航空機を眺める人々…… この星にあった、だれも知らない、だれかの物語33篇。作家生活20周年の新境地物語集。
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まず注目するのは目次である。ここだけで、すでに物語感満載で、ほとんどどんな物語なのか見当がつく。そして本編。見当をつけたとおりだったり、ちょっと予想を裏切られたりしながらも、そこでは人々が暮らし、出会い、別れ、再開したり、噂を耳にしたりしながら、時間が経過していく。ひとつずつは短い物語なのだが、その場所の歴史が濃密に詰まっているような充実感を味わえる。厳密にいえば違うのだが、ある意味定点観測のような、変わらなさと、変化の激しさのどちらもが、見事に両立している印象でもある。ただの記録のようでもあり、風景の写生のようでもあり、奥深い告白のようでもある。とても興味深い一冊である。
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33の短編集。短編のタイトルが長いので本文を読まなくてもある程度内容を理解できました。どれも淡々と無機質な感じがし、他人の日々の思い出の一コマを聞かせて貰っている感覚になりました。また、こういった短編を読んだ事が無いので新しい感覚にもなりました。感情の起伏がなくフラットな気持ちで読了しました。
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もともと大好きな作家さんだけれど、これはまたすごく良かった。人生とは、物語を紡ぐことだ、ということをかいてくれている。市井の人々が、どうにか生き抜く日々に想像力を掻き立てられながら(これがなんせ楽し)ページを次々とめくった。猛烈に心打たれ、淋しくも温かい気持ちになりながら、淋しくも温かい涙が流れた話がいくつかあった。
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ショートショートと言ってもいいぐらいの短編集.
最初に案内看板のような内容紹介ダイジェストのようなものがありとてもユニーク.
土地建物風景そして人の変遷や記憶が淡々と語られ,不思議とそれが物語のような味わいになって面白い.
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何の変哲もなく何の変哲もある日常
静かで淡々と、確実に
ただそこにある(あった)百年も一日も。
時間の感覚がとても良かった作品
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Twitterで話題になっていたので読了。
これは面白い。
高山羽根子、新井素子や川上弘美あたりの短編が好きな人には刺さると思います。
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人間と時間の不思議がここにある。作家生活20周年の新境地。この星のどこかにあった、誰も知らない33の物語。人生と時間を描く新感覚物語集。(e-honより)
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何か起きたようで起きてないような、どこか繋がっているようで繋がっていないような不思議さをもつ短編集。この世界にはそれぞれの時代、それぞれの風景、それぞれの人の心のうちが無数にあり、物語が紡がれているんだなと思う。その断片を集まってそれで百年と一日か。心に何かしらのひっかかりが残る物語たち。
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読み始めてすぐに
「ああ、そういう系ね」と思った。
江國香織の「去年の雪」を
読んだ時には
とても驚いたのだけれど、
そのあとだったので
すんなりと受け入れられた。
こういうの流行っているの??
「去年の雪」の方は
終わりのない騒音を
延々と聞いているような、
ちょっと目を離すと
どこまで読んだのか
わからなくなってしまいそうで
なかなか息がつけず、
「苦しくてうるさくてつらい」
という感想を抱いた。
対してこちらの本は
まるで様々な模様の
小さくてキラキラしたビー玉を
箱の中から一つずつ取り出して、
ぼんやりと眺めているような、
不思議な心地好さがあった。
この違いは何だろう??
一話が割とまとまっていて、
短いながらも情景をくっきりと
思い浮かべることができ、
この著者特有のユーモアセンス?
のようなものがハマったのかもしれない。
とにかくキテレツで面白い。
なんだなんだ?と思っているうちに
あれよあれよと終わってしまう。
テンポが良い。
余韻と余白がすごい。
私は好きだった。
もっと読んでいたかった。
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不思議な余韻を残す本だったなぁ。
目次からしてもう短編小説。あるいは短歌。
目線は時、か星かもしれない。
そしてとても文章の綺麗な人だった。