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ベルリン1945 はじめての春 上 みんなのレビュー
- クラウス・コルドン (著), 酒寄進一 (訳)
- 税込価格:1,320円(12pt)
- 出版社:岩波書店
- 発売日:2020/07/16
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文庫
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紙の本
ベルリン三部作の最終章~ゲープハルト一家の家族の分断、また、「希望」「未来」は?
2020/10/28 11:28
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投稿者:kapa - この投稿者のレビュー一覧を見る
ベルリン三部作の最終章。主人公は、第二部で逮捕されたハンスとユッタの娘エンネ。第一部のヘレは、第一世界大戦開戦までのドイツ帝国が世界強国目指そうとする時代、第二部のハンスは挫折した革命後のワイマール共和国の相対的な安定期、と「指導者国家」下の独裁時代前の間奏曲のような穏やかな時期を経験している。しかしエンネはヒトラー内閣成立の年に生まれたので、まるまるナチ体制で育ったことになる。人物設定上、二人の兄は、いろいろな考えを持つ人・思想に接する機会はあったが、エンネにとってはナチズムが全てであったという大きな違いがある。
エンネは分断された家族の秘密は知らないまま、祖父母を親として育てられる。しかし敗戦時の混乱で、次第に過去の秘密を知るようになっていく。また、これまで正しいと信じていたナチ世界観教育が誤ったものであること、また、悲惨な戦争の現実を目の当たりにしていく。四半世紀に及ぶゲープハルト家の歴史、そしてドイツの歴史という膨大な情報をエンネは一気に受け入れ、そして理解しなければならない、しかも敗戦前後の混乱の時期に。このような過酷な経験をし、しかも、この大河群像小説のライトモティーフ「希望」「未来」を見出さなければならないというのは、12歳の小娘エンネにとっては過酷である。
第一部は革命前夜の混乱したベルリン、第2部はナチス政権成立前の不穏なベルリン、という設定であったが、第三部は1945年2月からドイツ敗戦、米ソ占領の8月までの物語。情け容赦ない連合軍のベルリン大空襲と防空壕の光景で始まる(地下防空壕への階段の数が「十三」なのは、著者の意図であろうか)。上巻はベルリン大空襲と防空壕の悲惨な状況が中心であり、後半にはソ連赤軍のベルリン侵攻と陥落、ソ連占領の様子が描かれる。
防空壕の中の情景と避難解除時の戦時下生活が交互に描写される。登場人物リストを見ると、・・・おばさん、と女性が多い。男は大人も子供も全て東部戦線かベルリン首都防衛に駆り出されているので、男はいないのである。防空壕の中で、また、集合住宅の住居の中で、第三帝国の政治・経済・社会が皮肉をこめて平気で口にだして批判される(帝国石鹸配給券)。地下防空壕に受け入れた東部地域難民のソ連軍の話など、著者はナチス体制の総括は、この極限的な状況にふさわしいと考えているようだ。ここでは、「希望」と「未来」は早く戦争が終わってほしい、という一点に集約されている。著者は丹念に生存者・経験者に話を聞いたのだろう、とにかく防空壕内部・空襲警報解除後の街の荒廃と被害の描写はリアルである。また、ソ連軍兵士による婦女暴行の話はエンネにはあまりにも酷な現実である。
エンネの知らなかった分断した家族について少しずつ知っていく。第二部終わりに逮捕された父ヘレは強制収容所にいるが生死はわからない、母ユッタは(病気で)死んだ、そしてハンスおじさんも死んだ・・・。マルタは、空襲で焼け出され助けを求めてゲープハルト家に来るが、拒絶され、祖父母に絶縁されたおばの存在を知る。
一方「希望」「未来」としては、ナチ体制にからめとられ兵士となったムルケルことハインツおじさんは生きていることがわかるが、脱走兵として戻ってきたのである。また、ハンスの恋人ミーツェは抵抗組織U-ボートのメンバーとしてハンスの遺志を継いで抵抗運動をしている。本書カバーは防空壕の中の光景であるが、おさげの少女がエンネであろう。金髪の彼女はいわゆる「アーリア人」。一方大好きなミーツェおばさんは2分の一ユダヤ人。学校で習ったことと折り合いを付けられず、混乱するエンネ。これも悲劇である。
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