投稿元:
レビューを見る
連続と断絶、様々な断絶を含みつつも世の中は連続的に存在する。いや、断絶は連続の中に存在するからこそ断絶なのであって単独で存在した場合、それは一つの事実であって断絶にはなり得ないのか。
断絶にも様々な形がある。政治的な事や重過ぎる愛、人質。戦争や台風による強制的な断絶、自ら望んだ断絶、さらには理解できないものへの拒絶。
この物語で語られるのは、様々な断絶とそれを乗り越える力。そもそも完全な断絶なんてありえないという気付きから決意を持って自分で未来に向かって歩き出すヒコーキに乗った未名子の姿が清々しい。
舞台の沖縄はまさに断絶と連続の歴史を象徴する存在。テーマから舞台を選んだというよりも、沖縄からテーマを切り出したのだろうと思われるくらいに物語の内容に寄り添い、程よい演出となっている。
全体的に静かで派手さはないが、純文学らしい深みを感じるいい作品でした。
投稿元:
レビューを見る
こよくもこんな仕事思いつくなぁ、という感想。作家としてのアンテナがあるからこそ、人が思いつかないような作品が書けるのでしょうね。主人公が記録(沖縄私的資料館)に関わるボランティアと世界のどこかと繋がるクイズが対照的です。図らずもコロナ禍でのリモート会議時代にマッチしています。そして馬。
投稿元:
レビューを見る
現実とファンタジーが自然と入り混じる不思議な世界を垣間見ました。
個人的に、沖縄を舞台にした物語はどこか夢の中というか、神話的で靄がかっているというか、私の好きな意味で現実離れしている設定がしっくりくる気がします。
ちょうど「うんたまぎるー」を見たこともあって、余計そう感じたのかもしれない。
アート作品(それも映像)を見ている気持ちになりました。そのもの自体、力強さや美しさも備えていながら、背景には祈りや痛みや暴力がある。
沖縄の歴史は途切れていて、いまある建物なども人々の記憶をもとに「再現」されたもの、という趣旨のことが書いてあり、衝撃を受ける。
投稿元:
レビューを見る
「首里の馬」 高山羽根子(著)
2020 7/25 発行 (株)新潮社
2020 8/7 読了
ふわふわした夢の中のような情景は
沖縄の歴史と結びついた瞬間に現実の世界に入って行く。
人間の主義主張のなんと愚かな事だろう。
全ては時間の狭間の一瞬の出来事で
その意味は知った時にそれぞれがすれば良い。
クイズの答えは
その内、気付ければ良いなぁ。
第163回 芥川賞受賞作
投稿元:
レビューを見る
順さんの私的「沖縄及島嶼資料館」と未名子
資料をスマホで撮りファイリング
「孤独な業務従事者への定期的な通信による精神的ケアと知性の共有」
クイズ問題をPCの向こうの相手に出し、正解を答える オペレータの仕事
閉塞な空間
庭に現れた宮古馬 ヒコーキと名付けた 沖縄の歴史
順さんの死 資料館の破壊 ヒコーキに乗って
投稿元:
レビューを見る
静かな本でした。
高山さんの本は初めて読んだのですが、他の本も手に取ってみたいと思いました。
資料館の整理を手伝う主人公の、世界の果てに生きる人たちにクイズを出題するという仕事、台風の夜に庭に迷い込んでくる宮古馬、、、
設定としてはぶっ飛んでいるけれど、読みやすかったです。
ちょうど8月なのも相まって、歴史とか資料とか戦争とかについて考えさせられました。
最後のクイズの答えが気になります。
投稿元:
レビューを見る
第163回芥川賞受賞作。沖縄を舞台に、なんだかよくわからない仕事をしている未名子が、迷い馬を拾うという話。沖縄が日本でありながら日本ではなかった時代、未名子がネットでつながる世界のどこかで孤独な仕事をしている外国人たち、そしているはずのない場所にいた馬……。もしかしたら、“自分がいるべき場所”がテーマなんだろうか? 最初から最後まで内容に入っていけず、上滑りしているような感覚だった。もしかしたらぼくは、沖縄との相性が悪いのかもしれない。
投稿元:
レビューを見る
第163回芥川賞受賞作。
読みやすい文体なので苦労はなく一気読みできました。
タイトルからも分かるように舞台は沖縄です。
個人の歴史資料館の整理の手伝いと孤立している外人との日本語のクイズでコミュニケーションをとる仕事とを並行している主人公の物語です。
物語が大きく動くのは台風の日に宮古馬が自宅に現れたところからで、琉球競馬やかつての名馬で本作の馬にも名にもなるヒコーキについては勉強になりました。
もちろん、この馬は何かの象徴なのだろうと思って読み進めましたが、孤独にとらわれていた主人公をその呪縛から解き放つためのアイテムと捉えました。
クイズの出題相手が宇宙空間や南極の深海や戦争危険地帯のシェルターにいるのも何かの象徴かと思いましたが、主人公が資料館のデータを託すことから近未来の人類の危機的状況を揶揄するものであるとともに希望の灯でもあると思いました。
投稿元:
レビューを見る
同時期に受賞した「破局」とは打って変わって、とても静かな作品。一度でも沖縄に行ったことがある人なら、あの時の照りつける暑さ、砂埃、平屋等々沖縄の情景を思い出せるのではないでしょうか。
投稿元:
レビューを見る
芥川賞その2
沖縄の古びた郷土資料館の整理を手伝っている未名子は、宇宙や海底や戦地にいる人へオンライン通話でクイズを出題する仕事をしていた。
そして、双子の台風が接近した晩、幻の宮古馬が未名子の家の庭に迷いこんでくる。
さざなみのように広がっていく、
なんとも幻想的で不思議な世界観だ。
静かな小説だが、落ち着いて読ませてはくれない。
途切れた物語が多すぎた沖縄。
少しでも資料として残そうとする未名子。
でも、戦争がなく、大災害がなければ、その資料も役立つことなく消え去ってしまうだろう。
その方がすばらしいことと、宮古馬の上で揺られながら未名子が思うラストは、ほんわかと温かく素敵だ。
投稿元:
レビューを見る
いまひとつ、かな。淡々とした物語は嫌いではないけれど、文章があまり得意な感じではなかった。何が伝えたいのか、一度で分からず何度か後戻りしてようやく意味が分かったりする。単純にこの作者の文章構成が苦手。
投稿元:
レビューを見る
一個人が集めた沖縄首里の記録。集めた人が高齢で記録も場所も無くなろうとしている。
この資料の整理を手伝っている未名子の物語。彼女の本業がまた興味をひくし、一役買うのが想像を超えていて面白い。
今、何をやっても倒れない政権、荒んでいく日本に諦めを感じながら、一個人の存在意義や知識を得る事、書物を読む事の必然性を、宇宙にいるヴェンダに教えられる。
知っている情報や史実と乖離した、そこに生きた人達の声が、焦土と化した首里から物語となって発せられたのは、とても興味深かったし、なるほどなぁと唸った。
投稿元:
レビューを見る
未名子は確かに孤独だ。身よりもないし、何かあった時に気軽に相談できる友人や恋人もいない。
最後には、特殊な環境にいる自分と同じく孤独な人々にクイズを出すという変わった職をやめ、中学校から続けていた資料館の手伝いもすることができなくなる。
この先どうするのだろうと不安になるところだけど、未名子には生きる力がある。コミュニケーションの欠如を自分で認めているけれど、力がないのではなく、学校という場所になじめなかっただけだと思う。この作中の数多くない登場人物に存在感や確かな影響を与えている。テープデッキを盗んだり、ヒコーキを奪還したり馬に乗ったり大胆な行動にもでる。記録がこの先日の目をみるのかそうでないのか、それは分からないけれど、未名子は確実に自分の生を全うできるのじゃないかなとそう思った。
投稿元:
レビューを見る
決して大きな事が起きたわけではない。
けどヒロインにとっては、そして関わりを持っていた人たちには少しだけいつもと違うことがおきた。
きっとまだこの本の魅力を自分は理解できてない気がする
投稿元:
レビューを見る
第163回芥川賞受賞作。今年の芥川賞もお取り寄せしているので、届く前に積読から抜き出して一気に読了。
はい。芥川賞ですね。読後感と言い、分量と言い。
首里という舞台。資料館、クイズの問読者、宮古馬。「宝島」のように沖縄問題に切り込んだ話なのかと思ったら、SFでしたね。クイズの解答者達はどうなるんだろうとか、未名子とヒコーキはこの後どうやって暮らしていくんだろうとか疑問に思ったけど、野暮なのでやめときます。
アメリカ横断ウルトラクイズもこう書かれてしまうのかと、時の流れを感じた。