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2020/10/25 14:10
投稿元:
『博物館惑星』の3作目。
博物館苑惑星〈アフロディーテ〉は、創立50周年を記念するフェスティバルの準備に追われていた。
今日もわけありの美術品や、暗躍する贋作組織など、次々にトラブルが…
新人自警団員・兵藤健、〈アポロン〉の新人学芸員の尚美・ハシャムらの登場する連作短編。
難しいことは言いっこなし。
“今夜だけは、記憶させるのではなく、君に祈ろう。美しい場所の美しい魂の人を、どうか永遠に守りたまえと。”
すっかり丸くなった孝弘の言葉は、博物館苑惑星の存在意義そのもの。
音楽と美、命の奇跡、それらに包まれる歓びを、この星の上に生きるすべての人とともに分かちあえたら…
そんなことを想像して、胸がいっぱいになった。
2021/03/15 08:56
投稿元:
前作を受けて見事に着地。今作は前作より"人の物語"になっていて、雰囲気は1作目に近い。1作目に登場した懐かしい名前がチラチラと出てきたのも嬉しい。「笑顔のゆくえ(承前)」がよかったので、写真家やはぐれAIのことが最後できちんと語られたのも嬉しかった。学芸員や警備員らの直接接続と芸術を纏わる問題解決に視点がいっていたけど、作者がここまで"美"にこだわっていたのは正直意外だった。健の叔父丈次のことも最後のエピソードと対になる見事な構成。前作からの経験と健からの学習で〈ダイク〉は十分に人間の心を学んでいた。"歓喜の歌"自体も役割を持つ。
正直DBが人間の心を学んでHAL9000のようなことが起こらないかと心配したけど杞憂だった。
2021/04/20 18:03
投稿元:
ラグランジュポイントに浮かぶ、既知宇宙に存在する全ての美と博物を集めた博物館惑星。SF的であり、人の脳と直結されたAIが様々な形で活躍する作品だが、キーワードは「触れ合うこと/繋がること」だったように思う。それは身体も、心も、縁もだ。身体的接触を持てないAI、孤高に生きるアーティスト、触れ合うことは必須ではないが、幸せを感じる行為なのだと噛みしめる。
あと、歓喜の歌、いわゆる「ベートーヴェンの第九」って凄い。書名通り良い場面でその描写が入るが、文字で読んでも頭に旋律が流れ幸せな情景が浮かび、目頭を濡らした。
2022/10/03 18:11
投稿元:
おそらく長い物語が一旦ここで終わったのでしょう。ただ、残念ながら本作しか読んでいないので…。
機会を見つけて、第1作、第2作を読めば、また話は違ってくるのでしょうが…。
2024/03/12 01:32
投稿元:
(Ⅰ)個人的にはこのシリーズ、ストレスをまったく感じないので楽しめる要素しかない。宇宙空間に浮かぶ博物館惑星、SF成分、美というものの考察、人間というものの考察、喜怒哀楽。ずっと続編出続けてほしいけど、この盛り上がり方からするとさすがに最終回かなあ?(Ⅱ)引き続き、健が主人公。三か月ほど続くアフロディーテ五十周年記念フェスティバルのための準備期間が描かれる。(Ⅲ)ダイクの成長、このままいけば遠からずミスター・スポックのような相棒ができるかも。
■簡単なメモ
【一寸の虫にも】遺伝子操作されたタマムシ、ニジタマムシが逃走、昆虫が苦手な健はずっと腰が引けている。学芸員カミロのおっとりした態度に皆はイライラさせられていたが…。《我々には、傲慢というレッテルがもう張り付いている。》《人によって恣意的に創られた場所であるのなら、そこには自然界に存在する以上の幸福がなければならないと思う。》p.40。《たとえどんな出自であれ、存在するだけで魂が輝く、だ。》p.43
【にせもの】問題児マシューによる本物と二十四枚のモナ・リザを集めた展示会が準備されている。折しもアフロディーテが持っている壺と同じ壺が出できて贋作と思われたがもしかしたらアフロディーテ所有の方が贋作かもしれない疑いが出てきた。《見分けがつかないくらいなんだから、もうどっちも本物だったってことにすればいいんじゃないかなあ》と健は言って顰蹙を買う。《データベースを信じられなくなったら、私たち、寄る辺がなくなっちゃう》p.65。という尚美の嘆きはデータベースに直接接続している学芸員たちの問題点やなあとこのシリーズ読み始めたときから思ってます。
【笑顔の写真】高気圧台風ガール、ティティが「笑顔の写真家」と呼ばれる銀塩写真家、ジョルジュ・ペタンをアフロディーテの開設五十周年記念イベントの公式記録員にしたいと企画したが彼はなんらかの鬱屈で以前のような写真が撮れなくなっていた。一方、彼の傑作に写っていた画廊が執拗な嫌がらせをしてくる…写ってはいけない何かが写っていた?
【笑顔のゆくえ(承前)】ジョルジュ・ペタンの続き。写真というものの曖昧さ。リアルを切り取っているはずなのに(そう皆に思われているのに)じつは写真家の意思が強く出ているものであり、そのことが写真家自身を打ちのめす。一方、画廊の方の問題に美和子&ガイア参入、事態が動き始める。《見えすぎているから判らなくなっていたんだ。》p.143。はぐれAI「C2」=「セシル」。
【遥かな花】プラントハンター、ケネト・ルンドクヴィストと製薬会社アベニウスのトップ、ヨーラン・アベニウス間の軋轢。ダイク《健。人はどうして過去に囚われるのでしょうか。すんでしまったことだとして精算したほうが、現状に有利に働くと知っていても。》p.179。《正確には、あらゆるところに美学は潜んでいる。》p.182。
【歓喜の歌】フェスティバル開幕前日、尚美は大忙しでイライラしていた。健は美術品闇ルート捜査の大詰めを迎えていた。
■アフロディーテについての簡単な単語集
【アート・スタイラー】あまり評判のよろしくない画廊の主。
【アーネ���ト】木工担当。
【アテナ/知恵と技術の女神】絵画・工芸部門。〈エウプロシュネー/喜び〉というデータベースを持つ。
【アフロディーテ】既知宇宙一の博物館苑。ラグランジュ3にある。小惑星帯から拉致されてきたほぼオーストラリアと同面積を持つ岩石をテラフォーミングしている。大気は「MB方式(マイクロ・ブラックホール方式)」で繋ぎ止められている。
【アベニウス】スウェーデンの製薬会社。孝弘発案のキプロス島公開のスポンサーになってくれた。もちろん製薬研究の役に立ちそうなので。トップはヨーラン・アベニウス。
【アポロン/総合管轄部署】田村孝弘が所属する総合管轄部署。メンバーは美術・社会常識・雑学なんでもござれ。〈ムネーモシュネー/記憶の女神〉というデータベースを持つ。各種もめごとを日々持ち込まれる調停役だが地位だけは高い。本来は超カテゴリ的な案件を扱う部署だと思われる。県警に対する警視庁のようなものか。金色の目立つカートで荷を運ぶ。
【アラン・ルルー】サックス記念病院脳神経科医師。
【アレクセイ・トラスク】〈デメテル〉の非接続型学芸員。児童を対象にした博物館ツアーに否定的。
【イシードロ・ミラージェス】ニジタマムシを養殖していた。無自覚に違法な品種改良を行っていた。
【イダルゴ】小惑星。植物の種子のようなものと彩色タイルの破片のようなものが見つかってしまい、〈アフロディーテ〉が解析することになったせいで世界を巻き込んだ大騒ぎの中心になってしまった。
【イダルゴの蓮】イダルゴから見つかった種子はどうやら蓮タイプの植物のようだ。
【エイブラハム・コリンズ】〈アフロディーテ〉最高責任者。愛称「エイブ」だが学芸員たちからは「案山子」とか呼ばれている。たぶん何も考えていないように思えるからだろう。いつも田代孝弘に無理難題を命じてくる上司。金銭欲と名誉欲が強い俗物。なぜトップを維持できているのだろう? それなりに有能なのか? 田代の妻ミワコは元々エイブの第一秘書だった。
【エルゴスフィア】マイクロ・ブラックホールがエネルギーを取り出す領域。〈アフロディーテ〉はそのエネルギーでまかなわれているが余剰分を売っているらしい。
【おさな子への調べ】無名の作曲家コーイェン・リーの描いたなんの計算もされていないタイプの、要するにデタラメに色を塗っただけの、美的価値があるとは思えない抽象画。絵画療法の結果だった。が、なぜか脳神経科の患者たちが群がってきて皆が落ち着くという効果を持つ。辛辣な批評で嫌われていたブリジッド・ハイアラスが「世界最高の傑作だ」とすら絶賛した。なんでも「天上の調べ」を感じ「この絵さえあれば世の中のどんなものも惜しくない」そうだ。田村孝弘のミッションはこの絵画が着ているかもしれない透明な衣服を見いだすこと。もし見つけることができたら究極美、美の核心が見えてくるかも。しかし孝弘は当初ただのグチャグチャなゴミだと考えた。
【小田倉】広告代理店社員。関西弁。襲名予定の十五代目鳳舎霓生の兄、霓伯(げいはく)との間にはなんらかのわだかまりがある。どうやら跡継ぎの座を奪われた兄が弟を憎んでいると思っているようだ。
【ガーディアン・ゴッド/守護神】国際警察機構���データベース。
【カール・オッフェンバッハ】〈アテナ〉の科学分析室室長。田村孝弘のことを「おちびさん」と呼ぶ。孝弘の方はカールのことを「のっぽくん」と呼ぶ。ちなみに孝弘は東洋人としては背が高い方だがカールは身長二メートル以上ある。
【ガイア】情動記録に特化した汎地球的システム。美和子が育てている。今はまだ幼児程度の情動。
【案山子】→エイブラハム・コリンズ
【カミロ・クロポトフ】デメテルの学芸員だと思われる。主に昆虫が専門。常に曖昧で煮えきらない態度が緊急時には他者をイライラさせる。
【カミロ・モンテシノス】恐竜学者。人類学者のルイーズの夫。〈デメテル〉が協力を仰いで招聘している。妻とともに「無名」の人形の名前を探している。
【カリテス】〈アフロディーテ〉のデータベースシステムと思われる。
【木下五郎】国際警察機構美術班所属。上品で初老の男紳士。
【キプロス島】アフロディーテの海洋上の孤島に作られている島。人間の都合で生み出されたが放たれてはいけない生物たちが余生を送る。
【九十七鍵の黒天使】ピアノ。本名は「ベーゼンドルファー・インペリアルグランド」。部署間の綱引きでいまだ梱包も解かれていない。最初に出てきたままなかなか主人公にならない。オーナーは世界的ピアニストのナスターシャ・ジノビエフ。キルケ柿落し公演で演奏される予定。
【キルケ】〈デメテル〉に建設中の円形海上ホール。海洋学者たちが苦労して育て上げてきた「テュレーノス・ビーチ」を陳腐な客寄せスポットに貶めると学芸員たちからは不評。
【空隙】ラインハルト《空隙を空隙として満ち足りて自覚できるのは、幸せなことですね》p.277。田村孝弘《彫刻の中には、彫刻そのものの存在を主張するのではなく、周囲の空間、つまり虚を表わすために制作されたものがあるのだそうです。無いことを知るにはまず在らねばならない。在ることを知るには虚無の淵を覗かねばならない。そういうことだと思います。これこそが神の高みの視点ですね。》p.278
【クローディア・メルカトラス】〈アテナ〉の科学分析室の学芸員。陶磁器専門。
【ケイト】〈デメテル〉学芸員。
【ケネト・ルンドクヴィスト】プラントハンター。キプロス島に侵入した時点で逮捕された。アベニウス会長のヨーラン・アベニウスに恨みがあるらしい。父親のフレデリク・ルンドクヴィスト絡みのようだ。
【健】→兵藤健
【コールド・アイソスタティック・プレス/CIP】セラミックや金属などの粉体を水圧を使って成型する技術。全方向から均等に圧力をかけられるので精密な加工ができたが手間がかかるので今はあまり使われていない。彫刻家ラリーサ・ゴズベックはこの技術で人魚像を作成する。
【コルネル】演出家。
【サイモ・ダウニー】ロブの助手。
【サニー・R・オベイ】ナイジェリア生まれのリキッド・アーチスト(液体を使ってなにやら表現するらしい)。《うまく説明できないからこそ、芸術なんだ。》p.147。本職は精神療法士。
【サリー】セイラ・バンクハースト。資料室詰めのベテラン学芸員。美和子の知人。「直接接続」はしていない。人嫌いで有名らしい。
【シーター・サダウィ】インド生まれのダンサ��。神秘的な奉納舞で名を馳せたがすでに三十路。次の〈アフロディーテ〉でのイベントが引退公演になるかもしれない。口癖は「バカにしてるわ」。《彼女にとって観客は傍観者にしかすぎない。》p.126。《自分がステップを捧げているのは、自分の中の満足の神へ、だ。》p.130
【質問】《とっつきにくい相手にはまず質問をしてみる、というのが孝弘の信条だった。》p.96。ああ、ぼくもそうしてます。
【私情】《あなたの私情は、殺すんじゃなくて、モンテシノス夫妻の私情に歩み寄らなきゃいけないのよ。》p.50
【情動記録データ】最新のデータベースインターフェイスでは個人の情動(感動など)まで記録できる。それはどうやらドラッグとしても使えるようだ。
【ジョルジュ・ペタン】「笑顔の写真家」と呼ばれる銀塩写真家。「コンセプトを持ちたくない」というコンセプト。傑作と言われる写真に写っていた画廊から嫌がらせを受けている。尚美によると最近いい作品ができていない。《笑みのてっぺんが撮れてないっていうのかな。》第三巻p.103。当人の笑顔にも翳りというか悲しみを感じられる。
【スコット・エングエモ】VWAのボス。「黒い雪だるま」の異名を持つ。
【セイラ・バンクハースト】→サリー
【セシル】はぐれAIのひとつ。「C2」と呼ばれていた。ひたすら「触れ合い」について考えていた。アバターは白いワンピースに麦わら帽子のそばかす少女。
【ターニャ・スラニー】デメテルの学芸員。ギャップがトレードマーク。
【ダイク】→ディケ
【タイムマシン・バイオテック/加速型進化分子工学】生物の成長を加速する技術。
【孝弘】→田村孝弘
【滝村フサエ】日本の服飾及び生活工芸品を担当する学芸員。
【掌/たなごころ】〈アポロン〉庁舎ロビーに置かれている、仰向けた掌を目の前で宙に伸べている女性の像。ビジネスを除けてそこに美を乗せようという戒めのようなものらしい。
【タニア・マニング】バイオ・クロック盗作裁判の一方の側、マニング家の者。ロザリンドは彼女の大叔母。
【田村孝弘】語り手。〈アポロン〉に属する学芸員。権限「A」を持つ。
【タラブジャビーン・ハスバートル】兵藤健のVWAでの先輩。
【知識】《現実感の喪失とは知識の欠損のことなんだ》p.270
【直接接続】学芸員たちは脳から直接データベースにアクセスでき、あいまいなイメージだけでもデータを検索可能。《僕らは脳に機械を繋げた分析屋だけれど……》p.38。進化を続けるシステムとインターフェイスのバージョンアップには取り残されている接続者の存在もある。最新バージョンのインターフェイスでは個人の情動まで記録できるが旧世代はそこまで(他者の感動まで)考慮に入れるのには問題があるのではなかろうかとも思っている。
【ディケ】ガーディアン・ゴッド(守護神)の縮小版みたいな新データベース。兵藤健が接続している。尚美は警備員なんかが新システムと直接接続しているのが面白くない。本来は女性の声だが、健は好みで男性名のダイクと呼び、声も男性に設定している。
【ティティ】ネネの姪。常に積極的過ぎ、騒ぎを巻き起こす。
【データベース】アテナ(絵画・工芸部門)にはエウプロシュネー(喜び)、ミューズ(音楽・舞台・文芸部門)にはアグライア(輝き)、デメテル(動・植物部門)にはタレイア(開花)があり、それらカリテス(三美神)の調停役アポロン(総合管轄部署)にはムネーモシュネー(記憶の女神)がある。
【デメテル/農業の女神】動・植物の部署。〈タレイア/開花〉というデータベースを持つ。〈アフロディーテ〉の約七十三パーセントの面積を抱える。シーター《植物の一番いい時季だけがパッチワークしてあるのね――人工的に》第一巻p.131
【テュレーノス・ビーチ】〈デメテル〉に作られた人工的な海。隠れた名所だがそれ以上に〈アフロディーテ〉に酸素と水を供給しているという価値が高い。自浄能力が弱く維持には多大な苦労が必要。
【トーマス・ワン】〈アテナ〉の学芸員。人形も手がける。
【トム・ヤーデルード】ヨーラン・アベニウスの秘書かボディガードか。ハンサムな青年。ジェンダーフリー。
【鳥】デメテルが管轄するマシン。広大な森林地帯をパトロールするのが役目。
【鈍感】《ある時期、私たちは二人とも、鈍感になってしまった自分を悲しんだのです。》p.65
【尚美・シャハム】学芸員。兵藤健とはコンビを組むことが多いがなんとなくライバル心を燃やしている。なぜか田村を尊敬している。
【ナスターシャ・ジノビエフ】世界的名ピアニスト。七十二歳。「九十七鍵の黒天使」のオーナー。気難しいようだ。
【ニコ・エステバン】十歳前後の少年。海に沈んでいる人魚像に会いにきた。
【ニジタマムシ】タマムシを遺伝子操作して作り出した。目的は装飾用。
【ネネ・サンダース】〈アテナ〉のベテラン学芸員。孝弘とは仲がいい。中年の黒人女性。いつも男物のオール・イン・ワンを着ている。動きはきびきびしており黒豹を思わせる。
【バイオ・クロック】二十年ほど前に流行った、いわばミニチュアの自然を封じ込めたカプセル内の植物の状態により時間を知る時計。急増する宇宙居住者たちが愛でた。アダム・ラクロとロザリンド・マニングの雑談から生まれたそうだが、両者の(遺族の)間で盗作裁判が行われた。ラクロ社のバイオ・クロック「エターニティ」はバイオ・ハザード指定になっている。
【はぐれAI】依存するメインマシンを持たずあちこち寄生しながらデータを集めていく自律型AI。自主的に悪事をなす。
【橋詰瑛】襲名予定の十五代目鳳舎霓生の兄。霓伯(げいはく)という名で笛を吹くが弟の方が巧いらしい。今はマネジメント業に徹している。見世物的な企画には賛同できず小田倉との仲はかんばしくないようだ。
【韓月玉/はん・うぉるおく】〈デメテル〉学芸員。
【ハンドメイド派】《なるべく機械や工具に頼らず直接自分の手から美を産み出すことを目指すグループ》p.226。《指先は魂と直結しており、手から直接産み出された唯一無比の実体こそが本物である、本物のみが力強い産声で美を表明できるのだ》p.230
【美】オベイ《マサンバは学芸員らしいことも教えてくれたよ。美を享けるのは五感からだけじゃないんだってな。学芸員としての経験を積んで培った、肌触りみたいなもの、勘みたいなものが、一番大事なんだそうだ。でないと、分析機器とデータベースだけでえ美術のすべてが判ってしまうことになる。》p.171。美は惜しみなく万人に与えられるという考え方と、希求する者だけに与えられるという考え方があり、学芸員たちは後者を信じている。そして、《ひとつは、芸術が人に力を与えるとするもの。人は美によって癒やされ、美によって力づけられる。芸術こそが人を生かしているのだ。》《もうひとつは、人が芸術に力を与えているとするもの。具現化する美は、その作り手の裸の魂の表れに他ならない。究極の美というものがあるのなら、それが放つ眩い光とは人間の真実そのものではあるまいか。》p.245
【ヒト・コンピュータ直接接続】→直接接続
【兵藤健】VWAの職員。ディケと直接接続している。虫が苦手。
【兵藤丈次/ひょうどう・じょうじ】健の叔父。怪しい人物。健の物語は叔父との対決に進むのだろうと思われる。
【柊野彦一/ひらぎの・ひこいち】陶芸家。各地から通販で土を取り寄せポータブル高温炉で焼く「都会焼」を創設した陶芸家。彼の贋作にかかわる騒ぎがアフロディーテで起った。
【ピラミッド解析】〈ムネーモシュネー〉を利用した、田村孝弘独自の解析方法。一度拡散しておいて次に絞り込んでいく。
【部門】アテナ(絵画・工芸部門)、ミューズ(音楽・舞台・文芸部門)、デメテル(動・植物部門)と、それらカリテス(三美神)の調停役アポロン(総合管轄部署)がある。
【VWA】権限を持った自警団。兵藤健やタラブジャビーン・ハスバートルが所属している。制服は常に青くうっすら光っている。
【ヘルベルト・木村】〈ミューズ〉の学芸員。たぶついた頬。
【鳳舎霓亀/ほうしゃげいき】十四代目鳳舎霓生が身体を痛め隠居名である三代目霓亀を名乗ることになった。
【鳳舎霓生/ほうしゃげいしょう】邦楽の笛方の家元を今度襲名する予定の十六歳の少年。田代孝弘がリサイタルのプロデューサーをすることになった。「回雪/かいせつ」という名のホログラフ入り着物に対して家元が「勁雪/けいせつ」という名の笛を吹くと雪のホログラフが出る予定なのだが、なぜかうまくいかない。《霓伯は確かにすごいけど、あの乾いた音はフルートみたいだ。その点、霓生は技巧はともかく音だけはちゃんと竹の音がする》p.110
【マイク・レイモンド】サックス記念病院の患者。見ないうちから「おさな子への調べ」を取り追いかけてきた。
【マイクロ・ブラックホール】〈アフロディーテ〉は中心にマイクロ・ブラックホールを封じていて、それによってエネルギーや重力を得ている。
【マサンバ・オジャカンガス】〈アフロディーテ〉元職員で直接接続者だった。地球在住だが〈アフロディーテ〉訪問時に昏倒した。七十四歳。
【マシュー・キンバリー】〈アポロン〉の新人学芸員。データ至上主義で実物を見ないタイプ。というより、いわゆる審美眼という学芸員にもっとも重要なものが欠けている。自分の直接接続インターフェイスのバージョンが新しいのだけが自慢。いずれ自分のインターフェイスが旧式になったときどうなるのだろう? 研修のために他部署を回っている間に五十件以上の苦情が寄せられてきた。功名心が強くスタンドプレー好き。
【マヌエラ・デ・ラ・バルカ】〈ミューズ〉の調律師。
【ミハイル・ファーニナル】〈キルケ〉の支配人に内定している。
【ミューズ/詩と音楽の神々】音楽・舞台・文芸部門。〈アグライア/輝き〉というデータベースを持つ。
【美和子】田村孝弘の新婚の妻。元はエイブの第一秘書だった。なかなか登場してくれないが《中背で、おかっぱで。》と孝弘が語っている。無邪気ではしゃぎ好き。後に直接接続の学芸員となる。そのインターフェイスは10.00。「00」はテストケースのナンバー。権限はユリウスに次ぐ「AA」。
【虫】VWAが使う羽虫型のマシン。
【ムネーモシュネー/記憶の女神】直接接続型対応データベース・コンピュータ。〈カリテス〉システムの上位に位置する。
【ユリウス・マンシッカ】直接接続システムを実用化したプロジェクトの基幹となる人物のひとり。自分自身は非接続者。《この壮年の男に目を向けられると、孝弘は決まって、視線ではなく威圧的な「フィンランディア」の演奏を浴びせかけられているような気がする。》p.290
【ラインハルト・ビシュコフ】マシューが招聘した図形学者。地上の図形科学データベース〈マーク〉との直接接続者。広範な知識を有しているが強いて専門を挙げれば数理学。が、なぜかマシュー同様迷惑な存在となり果てている。外見はずんぐりもっさりしているが穏やかな雰囲気の男。
【ラリーサ・ゴズベック】人魚の像ばかり作る彫刻家。〈デメテル〉が彼女に発注した像は一〇三八点ある。ゆっくり海に溶けていく特殊な鉄で作られていた。制作中の事故により身体の多くの部分が人工物になっており、特に顔面神経の再現は難しく、ほんとど表情を変えられなくなったのであまり人と会わない。
【リンダ・マクロード】ラリーサ・ゴズベックのスポンサーとなった医療機関メディ・C・コーポレーションから派遣された。
【ルイーザ・モンテシノス】ベテランの人類学者。恐竜学者のカミロの妻。
【ロールコール/点呼】最大の人物データベースとされる。
【ロブ・ロンサール】〈デメテル〉学芸員。専門は植物。シーターの大ファンで接待役をおおせつかるが自分の好きなシーターに戻ってきてもらうために遠慮なくものを言う。
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