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本書は911のテロを契機に執筆されたのであるが、旅客機がビルに突っ込んでいくというのは「ありえないこと」である。一方で歴史に興味があれば太平洋戦争で敵艦に体当たりをした特攻隊を思い出すかもしれない。しかし、戦争だから、戦闘機だから、という勝手な前提条件を付けてしまい、また、今は戦争をしておらず、まして旅客機がビルに体当たり攻撃をする、ということをわざわざ想像することもない。だから「ありえないこと」が起きてしまうのである。
リスクの可能性を厳密に検討することで、「あえないこと」は「ありえるのか」を考察し、その結果、「ありえないことは起きない、ということはありえない」すなわち「起きる」と結論を出している。つまり「今」起きていないだけである。さらに、想像できることはいずれ起きるであろうことも示唆している。したがって、あり得ないことが起きてしまうのである。また、一度起きてしまえば、これまでありえないといわれていたことも日常になってしまうのである。
ありえないことが起きる原因を技術の発展と見ているひとは多い。技術が進化し始めると人の手を離れ勝手に発展していってしまう。一度世に出た技術は開発者の手を離れ進化する。それゆえ想定外の出来事が起きてしまうという。そうであるならば、技術者はその技術がどう使われるかを考えて研究をしなければならない、という意見があるが、この意見は当てはまらないとしている。そもそも、どのように使われるのかをあらかじめ知ることができるのであれば、想定外は起きない。確かに、可能な限り想定はするべきであろうが、全てを想定することができない以上、想定外の事態を回避することは不可能なのである。
さらに踏み込んで、予言についても考察している。これから起きる事を予め知っておくことで予防や防止することができるのであるが、はたして予言は有効なのか?あるいは予言は当たるのか?ということである。結論を言ってしまえば「予言は外れる」ものである。つまり、予言が防止効果をもたらしてしまうのである。したがって起きなかった、つまり予言が外れたという批判はしてはいけないのである。
想定外の出来事が起こったとき、どのように対処するべきか?ではなく、なぜ想定外の出来事が起きてしまうのかという、根本原因の探求を行っている。そのため、実用書というよりは社会学、あるいは哲学のような内容となっている。そのため読み進めるのが難しいが、リスク回避を考えるなら一度読んでおいた方がよいだろう。