紙の本
「大災害時代の教養書」と謳われているが・・・
2020/09/28 21:41
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:つばめ - この投稿者のレビュー一覧を見る
著者は京都大学副学長や理事も歴任された人文地理学・歴史地理学を専門とする京都大学名誉教授である。本書のカバーには、著者ではなく多分出版社のコメントであろうが、<防災・減災の観点からも、(私たちは)日本人の土地とのつき合い方に学ぶ必要がある。歴史地理学者が、知られざるエピソードとともに紹介する、大災害時代の教養書。>と謳われている。本書は、日本の地形、特に平野の地形について、河川との関係を踏まえて扇状地・自然堤防帯・三角州平野などについて解説されたものであるが、冗長な解説や、一般に使われていない用語が用いられており理解しにくい箇所がある。その一例は次のとおりである。◆<洪水緩和の役割を、大規模な形で果たしたのが遊水地であった。自然の遊水地とは、しばしば著しく増水した河流が滞留する場所に出来た、いわば大きな水たまりである。・・・その際に、増大した水量がどうしても広い水面を形成し、滞留する場合があり、水面が出現する。これによって、結果的に水量の一時的な緩和の役割を果たし、河流の洪水被害を抑えることができた。>◆<人工造成の土地は圧密による縮小を避けがたい。>この場合、「縮小」は不適切、「地盤沈下」がふさわしいと思われる。◆<整地の際には基本的に、台地・丘陵の部分は削平され、谷の部分は埋積された。>とあるが、「削平」は「掘削」あるいは「切り取られ」、「埋積」は「埋め立てられた」が一般的な用語であると思われる。「削平」・「埋積」とも『広辞苑』にも出てこない。人文地理学固有の表現であろうか。
いずれにしても、失礼ながら凡人には「大災害時代の教養書」に本書が該当するとは理解しがたい。
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まあまあだった。
タイトルやサブタイトルから受ける印象と少し違って、地形の成因やひとびとの地形への働きかけ、あるいは地名についてのいろんな話が含まれている。やや散らかった印象の本。一章や終章の哲学的な話などは不要(本論の補強などにもなってないし)。
それに、地名の由来とかの話は余計かな。。
遊水地と後背湿地のことなど、河川との関係などの記述は多くてよかった。新幹線基地が氾濫想定地域にできるのは、氾濫するから住宅などはなく土地が空いていたというのは説得力がある(都市計画的な観点もあろうけれど)。
平安京のころ、東側の鴨川で堤防のかさ上げや保護をしていたというのも面白い(そんなころから河川工事がなされていたとは)。七世紀の狭山池以来のかさ上げ工事(ダム再生)の歴史のことも。
いったん決壊すると被害が大きいという点で、堤防により水害が大きくなる可能性、という指摘は妥当だが見出しの付け方はややオーバーにもおもえる(ほかにも都市化などの影響もあるだろうし)。
宇治川での切所や木曽三川での押堀など、堤防の決壊あとにできるというのはそうだし、それらの地域に多いとの指摘は妥当だろうが、連続堤でなく輪中でも成り立つだろうにともおもう。全体的に連続堤を好んでないような記述がかんじられる。
埋め立てや干拓の記述はやや冗長にかんじたが、八郎潟が、オランダの防潮堤技術が導入されたことや、工業化や減反により目的喪失があったとの指摘は興味深い。
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人がどう地形を改変してきたかと災害の痕跡と。ともかく読みでがある。もうちょっと地図があるとありがたいのだが、そこは、パソコンでででも地図を見ながら読みなさいというところだろうか。
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著者が富山生まれで京都大学に長年籍を置いていたからであろう、日本人といっても東日本より西日本が中心となり、また河川や湖沼に重きを置いた著作となっている。新書という限られた分量の中では仕方なしか。
寝屋川流域は1964年から1996年の33年間で最大1メートル以上沈下した、との事。太古は河内湾であった事は知ってはいたが、やはり水害には特に気を配らなければならない一体なのであろう。
西日本に馴染みがある人には読み易く感じるだろう。一方馴染みのない人には読みづらい所もあるか。
ジュンク堂書店近鉄あべのハルカス店にて購入。
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地理と歴史が親しい学問領域であるなどいろいろと勉強させていただいたが、結局河川氾濫原と後背湿地でだいたいカバーできちゃうような場所に日本人は住みたがるようです。
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一つ一つ実際の地域の事例を挙げて地形の形成を解説してくれていたが、個人的には物足りなかった。「地形やその形成の過程」と「人間がそれをどう利用して生活しているか、あるいは利用に失敗しているのか」を知りたかったのだが、各事例の記述が少し簡潔すぎた気がした。地理への理解がもう少しあれば楽しめたのだろうか?
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河川による地形の形成過程や、地形と人々の生活との関わりなどについて、事例を挙げながら解説しています。少し文章が堅い感じがしました。また、せっかくの興味深い事例も、図版の少なさとその文字の小ささ(特に地形図)ゆえに、よく理解できないところもありました。地形の形成過程をイラストで説明したり、歴史資料を豊富に引用したりすれば(私としては)もっと読みやすくなったのではないかと思いました。
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恥ずかしながら地理の知識は中学生以下で止まっており、輪中などの単語がそれなりに有名であることをこの本で知った。電子書籍では図版が見にくかったのが難点だったが、小字の移り変わりなど楽しく読めた。
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堤防を築き河川のコントロールを始めた結果、河床に砂利が堆積し天井川となり、堤防のかさ上げや砂利取りを続ければなければならない運命となった人類。旧約聖書の禁断の木の実のようだ。
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◯出だしでカントの自然学が出てきて、これは壮大な体系の理論が打ち出されるのか、テーマ的にも興味深いと思ったが、内容としては事例に則した紋切り型の解説という印象であった。
◯個々の章では、ブラタモリさながら古地図と現代の地図の比較、自然の状況が描かれており、とても面白い。後書きにもあるが、河川に関する部分が大半を占めている印象。
◯新書くらいのページ数だからか、若干の物足りなさを感じる。とても興味ある章も少なくないのでもっと深掘りしてほしいと感じる。
◯地図や写真が多いのは理解を促進できて大変好感であった。
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災害だけではなく、生活のなかで人がどのように地域の自然と過ごしてきたかを、歴史や地図、地名から語る。自分のポジションを考えるきっかけ。
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先日読んだ「地形で読む日本」の前の作品があったということで、順番を違えて手に取った一冊。
著者が提唱する歴史地理学の入門第一弾という位置付けです。
歴史地理学は「空間と時間の学問」。歴史学と地理学における空間と時間のギャップへの、架け橋の役割をも果たすもの、としています。現在、歴史と地理は別々に学習すべきものという印象がありますが、もともとは一緒に学ぶべきものでした。確かに、歴史と地理はお互いに影響し合うものです。個人的に興味がある分野でもあります。
そして著者は、「私たち日本人はどこで暮らしてくたのか」を知るためには、空間と時間を同時に視野にいれた、歴史地理学の視角こそ有用として、この視点での学びの重要性を強調します。
その背景には、頻発する豪雨などの災害への危惧があります。特に冒頭で大都市の川沿い高層マンション群を指摘します。防災対策として、歴史地理学の視点から、この地形が、もともとどのようにつくられ、どのような性格の土地なのかを知り、これまでどのようにその土地を利用し、どう改変したのかを確認するこは災害対策の前提であるとし、日本の人口が集積する平野部の成り立ちを中心に展開していきます。
内容が専門的ではありますが、近年の災害への対策として、どのような視点で考えるべきか、その根幹を問われる一冊でした。
▼本書は、私たち日本人がどこに暮らしてきたかについて、振り替えることを目的としている。暮らしてきた場所の地形が、どのような特性を持っていて、どのように変化してきたのかについての見方を紹介しようとするものである。
▼近年各地で発生している水害や地形災害は、単に気候温暖化とか、異常気象とかだけで説明できるものではない。水害や災害がどこで、どのように発生したかについて理解を進めるためにも、地形環境やその歴史的改変に注目しなければならない。
▼近代科学としての地理学と歴史学の分類は、カントが、「地理学は相互に隣接している事象の記述であり、空間と関連する」、また「歴史学は相互に継起する事象の記述であり、時間と関連がある」としたことに由来する。簡略に表現すれば、地理学を「空間的併存」の状況を記述する学問、歴史学を「時間的継起」の様相を記述する学問、と定義したのである。
▼すべての空間的事象は時間的(歴史的)存在であり、すべての歴史的事象は空間的存在であることになろう。空間を考えるために歴史過程への視覚を保ち、また歴史過程を考えるために空間への視覚を保つことなくしては、さまざまな事象の実態へは十分に接近し難いことになる。前者が地理学の側からの歴史地理学の視覚であり、校舎における歴史学からの視覚もまた、同様に歴史地理学と呼ばれる。
▼ハザードマップの原型とでも言うべきは土地条件図であるが、土地条件図が地形の基本的様相を表現しているのにたいして、ハザードマップは一定条件の本での災害予測、ないし危険度予測を表現しているという点の認識が重要であろう。
▼日本の平野の地形は、河川が下流域で土砂や泥土を堆積し、あるいは河川が上流域で山地。丘陵を侵食し、そのよう��過程を繰り返すことによってつくられてきた
▼現在確認することができる平野の台地や低地は、それら自体がつくられてきた長い歴史の結果である。言うならばこれらの地形そのものが、その土地を形成した歴史あるいは記憶を物語るものであろう。地理学には地形史ないし地形発達史という研究分野があり、このような過程を重視する視角である。
<目次>
第1章 歴史地理学は「空間と時間の学問」
第2章 河川がつくった平野の地形
第3章 堤防を築くと水害が起こる
第4章 海辺・湖辺・山裾は動く
第5章 崖の効用、縁辺の利点
第6章 人がつくった土地
第7章 地名は変わりゆく
第8章 なぜそれはそこにあるのかー立地と環境へのまなざし
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新書というより、きちんとした歴史地理学の教科書的な内容なので、とっつきやすくはない。読む側も、ちゃんと読まなくてはいけない感じ。だから、この内容を新書として出すのが間違っているように思う。また、せっかくの内容なのに、地図が見にくいのもいただけない。
ということで、出版社の姿勢に対しては☆2つなのだが、内容は勉強になったので☆3つにしました。
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『地形と日本人 私たちはどこに暮らしてきたか』(金田章裕)
地形学、歴史地理学との関わりがマニアック。好きな人、このテーマで調べ物やレポート書いている人にはハマる一冊。決して軽くは読めない本です。
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著者は歴史地理学の分野の専門家。
まず、その分野がどんなものか興味があって、本書を読むことにした。
空間の学問(地理学)と時間の学問(歴史学)をつなぐ分野であるとのこと。
時間地理学なる分野もあり、ビッグデータの利用が進めば、これも何か進展がありそうな気がするが、本書では深くは紹介されていなかった。
さて、筆者は「微地形」(プレート移動など大規模な地殻運動でできたものではない地形)についての業績で知られる人とのこと。
私の出身地近くの濃尾地方が取り上げられることも多く、土地感覚があるので、興味深く読んだ。
人間が堤防(連続堤)を作ることで、天井川を作り出し、さらに水害のリスクを高めてしまったという指摘が考えさせられる。
湖や海の岸、山裾が動くのを古い地図と重ねながら読み解いていくのも面白かった。
棚田の多くが昭和の食糧増産のために、耕作に適していない土地に無理に作ったものであるとのこと。
もっと古くからあるもの、人々の知恵の結晶のようなものというイメージで見ていたので、びっくりした。
ただ、この本は、以下の2点が残念だった。
・地図が小さい
→細かい文字や模様が読み取りづらく、筆者の指摘する事象が確認しづらい。
・専門用語の定義が少ない
→初出のところできちんと書いてほしい。