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つばめさんのレビュー一覧

投稿者:つばめ

308 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本

廃仏毀釈の実態とそれが発生した要因がよくわかる

12人中、12人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

著者は寺院の副住職でありジャーナリストである。明治維新により神社と寺院を分離する政策「廃仏毀釈」についての著作である。明治政府は、神社と寺院を分離することを目的として、寺院を破壊しようと意図したわけではない。しかしながら、寺院の破壊は全国至る所で行われた。その暴挙と破壊に至った背景が詳述されており、想像を絶する暴挙では以下のような事例が紹介されている。京都四条大橋は寺院から供出された金属で建設された。解体された寺院の木材は、学校建設の資材に使われた。奈良興福寺の五重塔は、現在の金額で10万円程度で売却された。興福寺境内の鹿は、すき焼きとして食された。貴重な文化財である仏像が薪として燃やされた。哲学者の梅原猛は、廃仏毀釈がなければ、国宝の数は現在の3倍にはなっていたであろうと指摘している。
なぜ、こうした暴挙が起きたか、著者は以下の四つの要因を挙げている。権力者への忖度。富国策のための寺院利用。熱しやすく冷めやすい日本人の民族性。僧侶の堕落。この、要因の詳細は、本書を読んでのお楽しみとするが、忖度や日本人の民族性など現在に通じる内容であり、廃仏毀釈に留まらず、様々なことを考えさせてくれる意味ある一冊であると思う。

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紙の本

利にさとい経済学者の肖像

9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

本書は、経済学者・国会議員・企業経営者として20年にわたり活躍(?)している竹中平蔵の評伝である。日本経済新聞に4年在籍後フリーランスのジャーナリストとして活動している著者の筆致はあくまで冷静に竹中に迫っている。通常、評伝を読み終わると、世の中にかくも立派な人物がいるものかと感動することが多いが、この評伝はその対極にある。著者が強い嫌悪感を示している竹中の主義主張については、各人様々な考え方があり差し置くとしても、利にさとく猛烈な野心、時として法の網をかいくぐることもいとわない経済学者には、一抹の爽やかさも感じられない。利にさとい一例(あくまで一例)として、次の事例がある。◆90年代前半、アメリカと日本を股にかけて生活していた4年間、住民税を払っていなかった。地方自治体は、1月1日時点で住民登録している住民から住民税を徴収する。したがって、1月1日時点で住民登録していなければ、住民税は支払わなくて住む。竹中はこれに目をつけ、住民登録を抹消しては再登録する操作を繰り返し、住民税の支払いから合法的に逃れていた。この節税の方法を『週刊朝日』誌上における女性小説家との対談で臆面もなく披露している。◆産業競争力会議には、慶應大学教授として参加、労働市場の規制緩和を主張、これは非正規雇用者の急増につながる政策である。一方で竹中はちゃっかりと、この非正規雇用者の急増が業容の拡大につながる人材派遣業パソナグループの会長に収まっていた。現時点でも会長職にある。
菅内閣が9月16日に発足、首相は早速18日に竹中と朝食をともにして面会している。かくも胡散臭き(?)経済学者がいつまでも重用されるのはなぜか。もっとまともな経済学者が日本にいないわけはないと思うのだが・・・。

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紙の本

2022年は日本共産党創設00周年

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

本書は、おなじみの元NHK記者と元外務省職員による対談により構成され、第二次世界大戦後の1945年から1960年までの日本の左翼運動の歴史を日本社会党と共産党の動向を柱にして論じられた内容である。「コロナ禍で格差や貧困といった社会矛盾の深刻化により左翼運動は世界的に見れば明らかに復活の兆しがある。その波は遅かれ早かれ日本にも必ずやってくる。だからこそ、今のうちに日本の左翼の歴史を振り返り、過去の功罪を再検討してみよう。」というのが、本書執筆の動機らしい。単に時系列で事象を列記するだけでなく、様々なエピソードや著者の感想が盛り込まれ、堅苦しい内容であるが、それを感じさせないのは、両対談者の識見・経験がなせる技か。エピソード・感想の一例は次のとおりである。◆戦前の思想犯への弾圧で逮捕・投獄された人々で、敗戦で釈放されるまで転向しなかったのは、向坂逸郎や宮本賢治などごくわずか。当局の側は、これらの一つ筋を通す人に対しては面倒臭い野郎だなと思いつつもそれなりに敬意を払っていた。このあたりの雰囲気は現在の官僚も一緒。官僚たちは、いわゆる御用学者のことを役に立つ連中だとは思っていても、全く尊敬していない。◆戦後に公職追放が解かれて政治活動を再開した岸信介は、社会党入党を希望して実際に申請もしたが断られた。◆戦後の社会党は高水準の知識人が結集、党としてのトータルな知力も非常に高かった。1974年に刊行された『日本社会党の三十年』は理論的完成度が際立って高い本である。これほどの本を作るのは今の社民党には不可能であろう。
今後、60年以降を対象とした対談が続編として刊行されるようだ、期待したい。

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紙の本

現実を直視せよ

7人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

著者は大手新聞社の論説委員である。多くの知見に基づき、人口減少によりこれからの日本で起きることを具体的数値を交えて解説した著作である。明るくない未来の予測を読むことは愉快ではないが、一読をおすすめする。具体的予測の例をあげると、2020年に女性の2人に1人が50歳以上、2024年に3人に1人が65歳以上、2025年に東京都もついに人口減少、リニア新幹線の開業が予定されている2027年、献血可能世代の減少による輸血血液の不足、2033年に全国の住宅の3戸に1戸が空き家になる等々。労働生産性を上げれば人口減少社会に対応できるとの説もある(例えば 人口と日本経済 中公新書)が、著者は労働生産性の向上策を否定するものではないが、それのみで人口減少社会を乗り越えることは不可能であるとしている。出生数の減少も人口の減少も避けられないとすれば、それを前提として、社会を作り替え、拡大路線でやってきた従来の成功体験と訣別し、戦略的に縮むことが必要であるとしている。具体的には、非居住エリアを明確化したコンパクトな街づくり、国際分業の徹底により得意分野だけに限られた人材を集中投入するなど10項目を提言している。

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紙の本

なぜ殺人を正当化する思想に変化したのか?

4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

本書は、おなじみの元NHK記者と元外務省職員による対談により構成され、1960年から1972年までの日本の学生運動と過激派の動向を柱にして論じられた内容である。本書執筆の目的について、<人間を最終的に殺し合いに駆り立てる思想にしても、その始まりにおいては殺人とは無縁の、むしろこの世の中を良くしたいと真剣に考えた人たちが生み出したものではあるわけで、だからこそそれが、どういう回路を通ることで殺人を正当化する思想に変わってしまうのかを示したいのです。>と、著者の一人が述べている。学生運動の章で印象に残った例を挙げると、次のとおりである。◆1969年の東大安田講堂事件で逮捕された学生は、ほとんどが他大学の学生であった。これにより人生を棒に振ってしまった学生も多かった一方、東大生はほんの数人を残して直前に逃走。◆東大紛争と同時期に日大紛争も勃発。20億円の使途不明金がこの紛争の引き金であり、取り締まる警察も当初は学生に同情的であったらしい。蛇足ながら、日大は最近も附属病院の建替え工事を巡る背任事件に端を発した一連の不祥事が世間を賑わしている。政治家の不祥事には舌鋒鋭く追及している日大法学部教授は、学内の不祥事には黙して語らず・・・。◆当時の学生運動のリーダーたちの知的水準は今考えると驚くほど高かった。
閉ざされた空間、人間関係の中で同じ理論集団が議論していれば、より過激な意見が優位に立つ。これが、殺人を正当化する回路であると結論づけている。

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紙の本

紙の本名古屋鉄道の貨物輸送

2021/11/10 22:08

Sl,DL,ELによるバラエティーに富む貨物輸送

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

3名の著者による共著であるが、そのうちの2名が名古屋鉄道(名鉄)OBである。名鉄における1912~1984年の貨物輸送について、写真・構内配線図・地図による解説が充実している。単に貨物輸送の歴史に留まらず名鉄の路線形成過程を理解する上でも恰好の一冊であると思う。特に興味深い内容を列挙すると以下のとおりである。◆沿線の企業への専用線・側線が40箇所以上、敷設延長は0.1kmから4km、中にはウナギ輸送用の側線も存在。◆企業への専用線以外に、戦中には海軍・陸軍の飛行場建設に伴う土砂輸送用のトロッコ線路や木曽川のダム建設における資材輸送用の専用線。◆戦時中堀田駅と西枇杷島駅から各地へ肥料となる糞尿輸送。◆昭和30年代、大物車(シキ)による変圧器や大型プレス機械などの特大貨物輸送。◆神宮前にあった日本車両の工場から輸出用SLのシキによる東名古屋港までの輸送。◆電車が貨車を牽引する混合列車。
この種の出版物にはめずらしく、元JR貨物社長・会長である伊藤直彦氏による巻頭言がある。伊藤氏は本書の著者の一人と高校の同級生であり、『鉄道貨物 再生、そして躍進』(日本経済新聞出版社)の著者でもある。また、本書に多くの写真を提供している白井昭氏と米国人とのツーショットが掲載されているが、この米国人J・ウォーリー・ヒギンズ氏は、『秘蔵カラー写真で味わう60年前の東京・日本』(光文社新書)の著者である。偶然にも2人は岐阜市郊外の撮影で遭遇し、それ以来60年以上親交があるとのこと。貨物輸送本来の話題からはそれるが、鉄道関係の人間模様の一端を垣間見るのも一興である。ただし、本書の解説で<1959年に豊田市駅と改称され、その翌年に高架化工事のため貨物営業を廃止した。>とあるが、高架化工事ではなく、駅ビル建設のためである。

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紙の本

走り続けなければ世界の変化から取り残される

5人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

平成の30年を経済の面から振り返った著作である。著者は著名な経済学者であり、データ分析に基づく緻密な考察を行う著作が多いが、本書はデータ分析に留まらず、著者自身の個人的思い出も盛り込まれ、読みやすさに配慮された内容となっている。ただ単に平成を回顧するだけでなく、なぜ、平成が日本にとって失敗の時代であったのか、その原因を明らかにすることに主眼が置かれている。日本は、努力したけれども取り残されたのではなく、世界で大きな変化が生じていることに気がつかなかったために取り残された。変化が激しい世界では、同じ場所に留まるためにも走り続けなければならない。走らなかった日本は同じ場所にすら留まれなかった。金融緩和や円安で景気回復すればという考えでは、日本に未来はない。と著者は指摘する。日本が将来に向かってすべきことは、製造業における垂直統合から水平分業への転換、人材面での開国、産業構造を情報分野中心に切り替え等々・・・。著者の既往の著作で、たびたび指摘されている内容であるが、イタリアや米国の大学で客員教授も務め、冷静かつ客観的に日本をみた厳しい警告は、一読に値すると思われる。

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紙の本

地球はもう温暖化していない科学と政治の大転換へ

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

地球温暖化について話し合う国連のCOP21が開催されCO2による地球温暖化が新聞等で大きく取り上げられている。本書は、気候変動の原因はCO2だけでなく太陽活動が重要な役割を果たしており、今後50~100年にわたってCO2による温暖化と太陽活動の変化による寒冷化が打ち消しあい気温はほぼ横ばいか寒冷化する可能性が大きいと結論付けている。著者はCO2削減のみを問題にするのではなく、資源の浪費を防ぐエネルギー政策を追求すべきと主張している。CO2排出量のみに着目すると経済性に劣っていたり全体としてみると逆にエネルギーを浪費する選択をしかねないと危惧している。マスコミの論調はCO2排出量削減一辺倒であるが、異論にも目を向ける意味で貴重な一冊と考える。

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紙の本

証言日本国有鉄道05

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

蒸気機関車の代名詞ともなっているD51は、D50より空転しやすかった。新幹線電車0系の後継車両100系は0系より空転しやすかった。SL3重連では、各機関車に乗務する機関士相互の意思疎通がうまくいかないと、連結器が切れてしまうことがあった。各駅に物品を配る配給列車では、遠距離運用の場合、夜間、駅で停車することになる。職員は物品の管理を行うため配給列車で宿泊。暖房もなく冬季の山間地では多量の布団を持ち込んだ話など現場職員のみが知りうる興味つきない話題が満載。半世紀前の鉄道を知る恰好の1冊である。

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紙の本

紙の本「将軍」の日本史

2023/05/17 17:30

ぬるい日本は世襲大好き

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

本書は理論編と具体編で構成されている。理論編では、さまざまな事例を通して、将軍とは何か、どのような人物がどのようにして選ばれるのか、将軍は何を行うのかについて、著者の考察が記されている。具体編では、鎌倉幕府から江戸幕府までの代表的な将軍についての概説があり、歴史の流れを俯瞰することができる。将軍の決め方について、著者は「天皇の任命」「神の承認」「家臣の合意」といったさまざまな根拠づけを検討し、最終的に「家臣の合意」が重要であり、家臣の合意を得るためには、世襲が拠り所になると結論づけている。世襲が可能であったのは、日本がぬるい社会であったと指摘、幕末に開国を迫られると、世襲システムでは立ち行かなくなる。明治の元勲の世代から再び、世襲が復活、ぬるい社会に戻ったのが日本である。ぬるい環境でなくなった現在の日本にも至る所で、世襲が見られることに、著者は強い危惧を抱いている。一般人にとっては、具体編が読みやすいが、理論編で、著名な歴史学者の思考回路の一端を垣間見ることができ、歴史を別の角度から学べる一冊であると思う。

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紙の本

紙の本2040年の日本

2023/02/14 11:35

明るくない日本の未来を直視

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

本書はダイヤモンド・オンライン、東洋経済オンライン、現代ビジネスなどに公表された内容を基に大幅に加筆したものである。経済成長の必要性、未来の世界での日本の地位、医療・介護需要の増大、医療・介護技術の進歩、メタバースと無人企業、エネルギー問題、量子コンピュータの未来など多岐にわたる話題が展開されている。著者は、未来を考える意義について、次のような趣旨を記している。「予測できない重大な事態が起きることもあるが、未来を考えることには意味がある。変化が生じた時、できるだけ早くそれをキャッチし、それが従来想定していたシナリオにどのように影響を与えるか考えるべきである。こうしたことを行うために基本となるシナリオを持っていることが必要である。本書が基本シナリオとしての役割を果たせることを目的としている」。その内容の一部を紹介する。◆日本政府のさまざまな長期見通しは、非現実的に高い成長率を見込むことによって、問題の深刻さを隠蔽している。◆著者のかねてからの主張であるが、出生率を高めることは、日本の重要な課題であるが、それによって、社会保障問題や労働力不足問題が緩和されると期待してはならない。出生率を高めると、近い将来においては労働力とならない0~14歳人口が増えるため、問題はむしろ悪化する。当面の課題を解決するためには、出生率引き上げより、高齢者や女性の労働力率引き上げが重要である。◆OECDデータによると、中国の2060年のGDPは日本の約10倍となる。中国では少子高齢化によって、労働力不足が顕在化するが、それでもこのように成長すると予測されている。◆中国の脅威が高まっていることから防衛費をGDPの2%に引き上げる議論が起こっているが、GDPの差がこれだけ広まると、防衛費増額がどの程度の効果があるか、冷静に判断すべきである。全世界的な規模での対中安全保障を更に推進することが必要である。
決して明るくない近未来の日本について、考えさせられる一冊である。ほぼ同時期に出版された『未来の年表 業界大変化』(講談社現代新書)と併読をお勧めする。

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紙の本

賃金を決めるのは企業の稼ぐ力

3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

本書は、これらの既往の著作物と一部重複する内容も含むが、日本人の賃金だけでなくウクライナに侵攻しているロシア軍の想像を絶する低賃金の実態など当然ながら新しい情報や前著作を深掘りした内容もある。著者の問題意識は、「日本の賃金が上がらなくなってしまったのは、日本社会の仕組みに問題がある。」、「仕組みを合理的なものにするためにまず必要なのは、賃金がどのようなメカニズムで決まるかについての正しい理解である。」にある。本書では、この問題意識、賃金決定のメカニズムの解説を経て、日本人の賃金を上げる方策について著者の見解が明示されている。その見解の一部を紹介する。◆賃金を上げるためには、就業者一人あたりの付加価値(生産性)を引き上げる必要がある。そのためには、企業が新しい技術を開発し、新しいビジネスモデルを見出す必要がある。◆「分配なくして成長なし」でなく「成長なくして分配なし」。◆日本社会の構造を新しいものに改革するためには、古い体制から利益を受けている既得権を打破することが必要である。◆労働市場の流動化を進め、変化に対して柔軟に対応できる社会制度を作ることが必要である。このために、年功序列賃金や退職金制度の見直しが求められる。◆政府の役割は、補助を与えることではない。補助金漬けになった産業は必ず衰退する。政府が行うべきは、既得権益の打破など基礎的条件の整備。
著者の主張に対しての、「金銭的価値を重視しすぎている」、「人間の価値は、賃金や報酬で決まるものではない」という批判に対する著者の「あとがき」での反論は特に印象に残った。<人間の幸福が給与や賃金だけで決まるのでないことは、間違いない。しかし私は、このような議論や意見が、賃金や給与に関する論争に安易に持ち出されることに対しては、強い抵抗感を覚える。それは、時として怒りといってもよい感情だ。なぜなら、そうした意見が出されるのは、社会を改善したいからではなく、大向こうの喝采を得たいとしか思えない場合が多いからだ。人々の拍手を狙って出される意見は、事態を改善することに、何の役割も果たさない。われわれが抱えている本当の問題から目をそらせるだけのことだ。>

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紙の本

紙の本日本史を疑え

2022/06/12 22:03

古代から江戸時代まで一刀両断?

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

著者は多くの一般人向け歴史書を執筆している歴史学者である。本書は、「定説」も「最新学説」も一から見直そうという趣旨で、古代から江戸時代までの日本史における様々な事柄について、著者の考え方を披歴したものである。その多くは著者の既刊書に記された内容であるが、史料を鵜呑みにせず、「なぜ」を追求する著者の日本史に対する姿勢が本書でも遺憾なく発揮されており、日本史の面白さに引き込まれる。その一部を紹介する。◆著者の既刊書でたびたび論じられてきた鎌倉幕府の成立年については、単なる年号の問題ではなく、鎌倉幕府とはいかなる政権かという本質論に関わる問題であると強調している。歴史学者の呉座勇一著『頼朝と義時』(講談社現代新書)では、幕府は段階的に成立したものであり、特定の時点を成立年と認定することに大きな意味はないと切り捨てている。◆織田信長は過大評価されているとの「最新学説」に著者は懐疑的である。戦国大名の居城は固定されていたが、信長は居城を次々と変えた。戦国大名は国を面で捉えていたが、信長は道あるいは流通網といった線を重視、これは貨幣経済の発想である。こうした信長の動きは、他の戦国大名とは一線を画す存在であり、天下統一を推し進め、歴史を決定的に動かしたという定説を著者は支持している。

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紙の本

日本人よ目を覚ませ

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

本書はダイヤモンド・オンライン、東洋経済オンライン、現代ビジネスに公表された内容を基にしている。<日本はいま、先進国の地位を失う瀬戸際に立たされている。さまざまな経済指標がそれを示している。・・・1990年代の中頃以降、日本の成長がストップし、日本はさまざまな国に抜かれた。これを食い止めなければ、約50年間続いた日本の先進国時代は終わってしまう。>という書き出しで始まる本書の内容は、決して読んでいて気分の良いものではないが、日本の現状を直視し、この衰退から逃れるために何が必要かを考えさせられる一冊である。以下に、本書の内容の一部を紹介する。◆台湾、韓国の1人あたりのGDPは、日本とほとんど同じレベルになった。成長率が高いので今後日本を抜くことはほぼ確実。◆日本は賃金が低くても物価が安いから問題なしとの考えもあるが、これは間違いである。国際的な人材確保などで大きな問題が発生する。◆20年以上の期間、円安政策がとられてきた結果、古い産業が温存され、日本経済の衰退がもたらされた。◆ソニー、日立、富士通、三菱電機、東芝、NEC、パナソニックの時価総額の合計は、韓国のサムスンの約7割。これら日本の総合電機メーカーにトヨタの時価総額を加えても、台湾のTSMCに及ばない。◆パナソニックの社長が、「わが打倒サムスンの秘策」(『文藝春秋』2010年7月号)という記事で、日本の製造業が振るわない原因として5点、その中の一つが円高、もう一つは法人税
を挙げた。現在、為替レートは円安、法人税率も下がったが、現在のパナソニックの時価総額は、サムスンの17分の1。著者は10年前の記事に違和感を覚え、いつかはこの記事がこうした著作で活用できると、手ぐすね引いていた(?)のではなかろうか。◆日本の衰退は、古い仕組みが残っており、これが激変する世界経済の動きに対応することを妨げている。とりわけ問題なのは、政府が衰退部門を補助することによって、古い仕組みの継続に寄与していることにある。政府の役割は成長をリードすることではない。政府の役割は、成長を妨げる既得権益と戦うことだ。
5月のバイデン大統領の訪韓はサムスン電子に始まり、現代自動車で終わった。大統領は今回の訪日で日本企業を訪れることはなかった。これも本書が指摘している、日本の現状を端的に示している一例ではなかろうか。

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紙の本

コロナ禍が積年の宿題をあぶり出した

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

本書は、日本の人口減少に警鐘を鳴らし続けてきた『未来の年表』シリーズの第4弾の位置づけとなる。本書は第3弾までと趣向を異にして、人口減少に関する16項目について最初に三択問題があり、この問題の解を想定しながら読者自身が問題意識をもって読み進めることができるように工夫されている。コロナ禍が少子高齢化と人口減少という我が国最大の国難を加速させた。その中でも最も本質的危機として著者は、「社会の老化」をあげている。「社会の老化」とは、「すべての年代の人々の思考を守勢に追い込み、無難な道を選ばせていく。挑戦する気力を吸い取ってしまう邪気」と著者は定義づけしている。「社会の老化」を跳ね返すには若者の突破力に委ねるしかない。このために著者は、国政選挙に「若者枠」の新設、中学卒業時から大学への「飛び入学」、「30代以下のみが住む都市」の建設、英才教育の実施など5つの大胆な施策を提言している。
コロナ禍でみられる「社会の老化」として、著者が問題視している一例をあげる。◆感染防止策さえ徹底すれば十分実現できた事業やイベントが「感染拡大の懸念」や「いまどき、こんなことをやってよいのか」といった意見に押され、相次いで中止や延期となった。その理由の多くは、世間体を気にかけるような同調圧力であった。そこには科学的知見に基づく合理的判断は感じられない。◆コロナ禍がさほどでもない地方で、過剰な警戒心により「県外客お断り」の貼り紙を掲げる飲食店、これもまた科学的根拠なし。こうした地域の閉鎖性により、地方はますます疲弊する。
全く同感、著者の大胆な提言、すべてを今すぐ行うことは、無理としても少なくとも「飛び入学」や「英才教育」は速やかに導入して、若き英知で日本を再生させてもらいたいものだ。

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