電子書籍
質が高い作品
2020/11/25 13:15
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Masaru_F - この投稿者のレビュー一覧を見る
読み応えがありますね。特に後半部分の追い込み。現代日本社会の持つ根深い病巣を刑事もの、犯罪小説に組み込んでいる点が秀逸。犯人がもう少ししっかりしていればもっと作品に深みが出たかも。
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相場さんの本は、この世の中で蠢いている事を分かりやすく炙り出す。読むことで、もやにかかった事柄が見えてくる。はっきりと提示された現実にどう対して行くのか読者が問われるよう感じる。
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秋田県能代市の老人施設に入居していた藤井詩子(85歳)の遺体が近隣の水路で発見され、容疑者として施設で働くベトナム人女性アインが浮上する。彼女は技能実習生として来日、神戸の縫製工場で働きながら僅かな収入を母国の家族に送っていたが、劣悪な労働条件に耐えかね、列島を転々としたのち、能代の施設にたどり着いた。彼女は、末期のすい臓ガンを患っていた詩子に頼まれ自殺を幇助したと自供した。だが、警視庁継続捜査班の田川信一は、死体の手が奇妙な形で硬直していたことに疑いの目を向ける。捜査線上にあがったのは、ネット通販で世界を席巻する流通業の覇者サバンナという企業だった。
聞き込みメモと長年の勘を使って地道ながら功績をあげてきた田川と、ベトナム大使館でアインと知り合っていたキャリア警視・樫山順子が事件の真相を暴いていく。
その過程で著者が伝えようとしたのが、中小企業や外国人労働者の人権を脅かすような歪んだ格差社会の実態だ。
高圧的なプラットフォーマーに販売協力金の名目で金を搾取されたり、異様な値下げを強要される中小企業、そのために安い賃金で過酷な労働をさせられる外国人実習生。著者は、彼ら下層階級(アンダークラス)と位置付けられる人々の立場と飽くなき利益の追求に走る巨大IT企業の非情さを対比的に描くことで、日本の行く末を憂え、警鐘を鳴らしている。
成長が急激すぎたため、ベトナム国内でも経済格差が大きく開いた、長期のデフレとネット社会の革新が日本人の生活を二分した、神戸には海側が貧困、山側が金持ちというような概念があった、便利さと引き換えに消費者の個人情報やデータが世界企業に吸い上げられる、日本でも、プラットフォーマー寡占化抑止の議論が始まっている・・・ひとつひとつ、噛み締めながら考えさせられる要素がふんだんに盛り込まれている。よく取材された社会派小説だと感じた。
頑なに否認する複数の容疑者を別々の部屋に入れ、先に自白すれば、罪を軽くしてやると告げる「囚人のジレンマ」という取り調べ方法を応用して田川が真犯人を追い詰める場面も印象的で、警察小説としても一級品に仕上がっている。
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田川信一シリーズ3作目。
前作がとても面白かったのですが、
残念ながら今回は期待外れ。
テーマはすごくよくて興味がある内容だったけど
展開がスッキリこなかった。
次回に期待します。
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うーん……。
同シリーズ前2作が面白くて最新の今作まで一気読みしたのだが、この作品だけは妙に相容れない。
元々ちょっと説教臭い作品ではあるものの、今巻は特にそこが目立つというか。
バランスを取ろうとしている節はある。しかし、結局主人公の側の「正義」が過剰に持ち上げられ、敵役となった「悪」側が、舞台装置的に分かりやすい小悪党的な悪者に落ち着いてしまうのが、どうも展開として消化不良。
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「震える牛」「ガラパゴス」の田川を主人公にしたシリーズ第3弾。
毎回、様々な社会問題をテーマに作品を描いている作者だが、今回は外国人技能実習生の闇労働問題に切り込む。
秋田で起きた老人施設入居者の自殺と見られる事件。自殺を幇助したとして、ベトナム人のアインが逮捕されるが、彼女を探していた警察庁キャリアの樫山が田川と一緒に事件に関わったことで、事件が自殺ではなく、殺人事件として動いていく。
孤独を通した被害者の素顔を知る為に、秋田、神戸、東京と駆け回る田川と樫山に捜査として与えられた時間は、送検までの10日間のみ。果たして、二人は事実にたどり着くのか?
一方、世界を席巻する流通業界の覇者であるサバンナの闇の部分を描き、秋田の老女の死とどう繋がっていくのか、最後まで手に汗を握る展開で、久しぶりに読み応えのある内容だった。
間が空き過ぎていて、全く田川の印象がないが、前2作を読んでなくても、問題なく読める。
でも、読み終わった後に「日本人のほとんどが下層」と言う印象が強く残り、今のままの生き方で本当にいいのか、何だかんだと、まだまだ日本は終身雇用に頼って生きている人間の方が勝ち組なのではないか…など、いろいろ考えさせられる内容だった。
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普通の警察小説として読んでも十分楽しめるのに、そこに社会問題を織り交ぜてリアリティを出す技巧が見事。次はどのテーマに切り込んでくるのか次が待ち遠しい。
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田川シリーズ3作目
社会情勢を背景とした事件展開がすごく的を得ているようで、相変わらず面白い。
ただ、田川の「古き良き昭和が善」みたいな雰囲気が好きになれない。
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秋田県能代市で老人施設入居者の85歳・藤川詩子が車椅子ごと水路に転落して亡くなった。末期の膵臓癌に侵されていた詩子から殺してくれるよう頼まれたというヘルパー見習いのベトナム人女性・アインによる自殺幇助事件として処理されようとしていたが、ひょんなことから捜査に加わった警視庁捜査一課継続捜査班の田川信一は被害者の「手」に疑いを持つ・・・
「震える牛」「ガラパゴス」に続く、刑事・田川信一シリーズの第3弾は、またしても今の世の中を鋭く抉る骨太の社会派ミステリ。
上層と下層(アンダークラス)しかない格差社会、利用する者と使われる者に二極化する社会の仕組み、過酷な労働環境、ネット通販隆盛の時代の歪み、そのシワ寄せを被る下層のものたち・・・切り口はどこまでも鋭い。
読むごとに、今と未来の日本への希望が失われていく。長引くデフレによる低コストと低賃金の連鎖、労働を搾取され使い捨てられる下層の者たち、疲弊した経済システム。「日本はもうとっくに日が沈んだ国、貧乏人ばかりの国だよ」アインの言葉が胸にささる。
購買傾向、趣味趣向、はては経済状況などの個人情報を丸裸にされながらネット通販に浮かれる私たち。ある程度わかっていながらも恐ろしくなる。
一握りの金持ちに利用され消費される大多数に、自分も組み込まれている恐怖。いつからこんなことになってしまったんだろうと、ため息しか出ない。
重苦しく辛いけど、読むのを止められない相場さんの筆力に、今回も最後まで一気読みでした。
「食肉業界」「自動車業界」「ネット通販業界」ときたこのシリーズ、次回はどんな闇を暴き出してくれるのか本当に楽しみです。
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「震える牛」の田川刑事シリーズ第3弾。
社会派ミステリーとして重厚なシリーズなんですが、p127の「マサちゃんが告げた老舗百貨店」とp235「令和、平成の前」というところが気になって、どっぷりつかれなかったのが残念です。
p127の件はマサちゃんが告げたシーンがないので唐突すぎる感じがしました。
p235については、1999年2月から3月の物語での登場人物の発言で、令和発表する前なので違和感があります。
ということですが、ネット通販会社の問題、外国人技能実習生労働問題を取り上げていて、日本の闇の深さに愕然としました。
そういえば以前のシリーズで取り上げられた偽装問題は手を変え品を変え頻発しているし、派遣労働者問題は新型ウィルス世情の下でより深刻化しているようにおもえます。
せっかく、著者が警鐘を鳴らしても世の中が良くなる傾向に無いのが哀しいです。
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秋田で車椅子から転落した老女が死ぬ。ベトナムから来た介護士が自殺幇助の疑いで逮捕され、認めた。世界一のネット通販会社サバンナの山本は貪欲に新たなビジネスを開拓しようとしてる。外国からの技能実習生に対する搾取、ハラスメント。この三つの関連は・・・
ぐいぐいと読めた。サバンナはAmazonにしか思えず、ある程度実態は近いのかと想像する。松本清張社会派ミステリーの後継者ナンバーワンだ。(中学から高校の頃読んだ清張で私は出来ている)
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巨大企業の勢力争い。貧困問題。地道な警察の捜査。普通に暮らしていると気づけない社会の裏側を覗くことが出来る作品。仮名で使われている企業も、実在の企業を連想出来るのが良い。
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「何でそうなるの?」という部分はあるが、相場さん相変わらずホントよく取材している。ディテールがしっかりしてるから、グイグイ引き込まれる。日本の現状と未来考えさせられる。
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コロナ禍の中で職を失い新たにアンダークラスとなってなってしまった人達がいる。
自助だけでは容易にはアンダークラスから抜け出せない。
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外国人技能実習生が介護施設の老人の自殺幇助をした事件。しかしその被害者の「手」から疑念を感じた刑事が捜査を続けるうち、徐々に明らかになる事件の真相と現代日本の陥っている恐るべき危機。登場する企業の名前も元ネタがわかってしまうだけに、これってフィクションなんだよねえ……? と何とも言えない気にさせられてしまう社会派ミステリ。
出稼ぎに来る外国人にとって日本は裕福な国、という思い込みはすでに過去のことなのでしょうか。そして日本人たちにとっても。デフレと格差社会、その中で搾取され続ける「アンダークラス」の悲哀。これってけっして他人事ではないのだけれど、あまり実感がないですよね。それはあくまでも自分が「中層」に位置していると思えるからなのだけれど、その中層すら危ういって……。
事件の真相、そして犯人を落とせるのかどうかという終盤戦。刑事たちの取ったある意味卑劣な作戦と、それにもめげないあの人の強かさがとんでもないなあ。そんな中でも絶望ばかりでなく、希望も抱かされるような部分があったのにはほっとしました。きっとまだすべてを悲観することはないはず。それでも世間に流されるだけではなく、自分で考えることもしないとね。