紙の本
素敵な出会い
2021/09/08 18:17
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投稿者:ひな - この投稿者のレビュー一覧を見る
本屋さんで偶然手に取ったのがきかっけでした。装丁にグッと心を掴まれ、思わず買ってしまいました。一言で言うと素敵な出会いという感じです。中国文学は今まで読んだことがなかったのですが、この本は中国とかどうとかそういうことより、もっともっと普遍的なものが立ち上ってきて、本当に愛おしい読書感を体験しました。
また政治に触れるとも触れないとも微妙な枠組みがはっきりとあって、全く迷子にならず楽しめるという感じでした。翻訳物は役者さんによって随分イメージが変わるものですが、こんなにこの小説が魅力的に感じられたのはこの本を訳された方はのおかげということもあると思います。
三体ブームを横目で見つつ、SFも中国物も手をつけていなかったのですが、自分的にこの方面もどんどん読みたいと思わせてくれました。まずはハオさんの他作品を読んでみます。
紙の本
ビターな自伝体小説
2021/03/01 20:33
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投稿者:コピーマスター - この投稿者のレビュー一覧を見る
『折りたたみ北京』は二度読んだ。ハヤカワのケン・リュウのアンソロジーと、白水社の短編集とで。この『1984年』は(ほとんど)SF小説ではない自伝体小説と知ったうえで手に取ったものだが、個人的にはこちらの方が好きかもしれない。すごくざっくりいうと「自分探しもの」だ。(全く関係ないが、アンドレイ・タルコフスキーの映画『惑星ソラリス』を思い出した。)私が中国文学を好むのはその独特のリアリティのとらえ方なのであるが、この小説のディテールの造形もなかなかで感心する。この独特なリアリティはいったい何だろうとよく考えたところ、回想のように過去を描いているときも、現在の結末を踏まえた描写になっていないことに思い当たった。たとえば1984年のシーンで登場人物らは1984年を自分がまさに生きている現在としてあくまで一寸先は闇なものとしてふるまう。現実ではごく当たり前の話なのだが、じっさいに小説として見せつけられるとピカソのキュビズム作品を見たような独特のリアリティを感じるのである。
ところでハオ景芳の作品にはエリートの憂鬱ともいえるものが通奏低音のように流れていて何とも重い。この「生きづらさ」は日本のそれとはちょっと趣が異なる。作者自身もたいそうなエリートな筈であるが、そこは広大な版図と人口の大国である。エリートの数も膨大で数多くのエリート達を残酷に丸飲みしていく。これは北京の街中を歩けば感じずにはいられない人海中での自己埋没感そのものである。(大自然の中のちっぽけな自分とはまた違う体験である。)改革開放後から現在に続く「カネ」の危うさ、「自由」の危うさ、そして文革の傷痕、暗示される六四の出来事が織り成す独特の雰囲気。きわめてパーソナルな心象風景でありながら今の中国の政治情勢においてギリギリのところを攻めている部分もある。(最後にひとこと。全く関係ないが、本書の装画の平野実穂も1984年生まれであるという)
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父パートと自分パートを行ったり来たりしながら、中国のここ数十年の歴史を個人を紡ぐ物語なのかなと思いきや。その歴史の片隅で生きる家族の物語なのかなと重いきや。主人公は、やりたいことがわからないとかウダウダ言ってて広義の自分探し物なのかな、面倒臭いなーなどと、まんまと思わされ。しかし、そう自伝小説ではなく、自伝「体」小説なんだった。ラストでまた私はたたまれてしまった。こう来たか。
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私が一番詳しい中国の時代の話でほぼ同じ年代の人なので逐一情景が目に浮かぶ。少しの表現で当時の匂いまで感じられる。今まで読んだ中国の小説の中ではかなり良かったけれど、うーん...絶賛されるほどではなかったかな...
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「1984年」に生まれ、生きづらさを感じながら現代を生きる主人公。
共産党体制下で数々の苦難に会う父。
ビッグブラザーはいなくとも、体制や空気、日々の生活が我々を縛る中で、人は各々の自由を求め抗っていく。
“They are watching you”
ああ息苦しい。
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深い!
自伝的小説のリアリティがこの深みを生むのだろうか。その代わり、心のヒダまで表現するような文章の波とたわむれることになるので、流し読みはできません。どっぷりと浸かるしかない。
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郝景芳(ハオ・ジンファン)という、1984年生まれの著者は、訳者あとがきによれば清華大学で天体物理学を学んだあと、大学院で経済を専攻し、博士号まで取ったとなっています。そしていまは、作家活動の他、貧困家庭の子どもたちへの教育プロジェクトも運営しているとなっていますが、この本を読んでいると、思想・哲學もかなり読み込んでいるのではないかと思わせるところが多々あります。
私は、この著者の本は初めて接しましたが、どうもSF作家として令名が高いようです。しかし、この本は著者あとがきにもあるとおり「自伝体小説」で、SF臭はありません。
国共内戦から始まって大躍進、文化大革命、開放経済から現代を、三代にわたる家族を、時空を自由に移動しながら描いたものです。
激動の時代は、登場人物が翻弄されている姿が描かれながらも、なぜか読んでいると極めて静的な世界でのように感じられます。
それが一転するのは、主人公の内面の葛藤を描いたあアリで、このもがき苦しむ姿の激しさは、翻訳の良さもあるのでしょうが、驚嘆すべき筆致です。
この重たさを前に、それなりに読むのが早いと自負している私も、予想外に時間をかけてじっくり読んでしまいました。決して読みにくというのではありません、じっくり読まさせる力を持った小説です。
この、例えようもない才能を感じさせる小説を読んでしまうと、ちょっと、他の著作にも手を伸ばしたくなりました。
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1984年。ジョージ・オーウェルの「1984年」、中国の1984年は都市、港が解放され、銀行と企業の改革が行われた。その分岐点と言うべく年に軽雲は生まれた。そして父の沈智は妻と娘の元を出奔した。父の時代の話と軽雲の現在の時代の話が入れ替わりながら綴られる。地方に下放されて苦労し、結婚してからでも、少しでも良い生活をと努力する父と母。新たな時代で自分の進む道を探しあぐねている娘。二つの時代を生きる父と娘。不思議な雰囲気の小説だが、面白かった。
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父の章で深圳に向かう列車の風景がよかった。
生活感や、ここではないどこかに向かう高揚感の背後にどこか漂う後ろめたさ
その後ろめたさはずっと後で明かされてそういうことかさだったのかと
その一方で1984年に中国に生まれること、の生きづらさが僕らのそれに似ていることも驚かされるんだけど、外から眺めている(ある程度は状況を客観的にわかっている気にもなっている)側の人間としては、前の向き方が、現実と折り合いをつけるためのある種の諦めのようにも思える
sf的展開を勝手に期待してしまったせいか、もっとダイナミックに現実に対する換骨奪胎な展開でもいいのになー、てのはある。
しなやかさとか強さでもあるんだろうけど、その戦略を取れるのも、ある意味で限られたものだけなんだろうな、と。中国国内の内なる他者にとってはたぶんそれすら無理、というか。
なんでもかんでも政治と結び付けたくはないけど、昨今の中国界隈の人権問題関連のニュースが頭をよぎってしまうし、1984を伏線にする以上、その読みからは逃れられないわけでちょっともやもや
と言いながらも、一気読みしてしまうくらいに面白かったです
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「折りたたみ北京」?景芳が描く〈中国×1984年〉。この年、父は出奔し、私は生まれた。激動の中国を背景に二人の運命が交錯する
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「折りたたみ北京」を以前に読んで素晴らしかったので、本書を手に取りましたが良い意味で内容は裏切られました。これはSFの殻を被っていますが、各人物の心理描写と細部まで作り込まれ匂いがしそうな情景描写に圧倒されました。特にメンタルで病んでその後復活したような経験をお持ちの方なら、多く首肯されるのではないでしょうか。90年代に仕事で半年強中国に住んでいましたので、その時の記憶と重ね合わせて、ことごとく「そうだよなぁ」と心で頷きました。私にとっては最高レベルでココロに刺さった作品となりました。この本に出会えて良かったです。
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二〇〇六年、春。大学卒業を目前に進路を見失っていた軽雲は、父・沈智の暮らすプラハに来ていた。二つの時代の中国社会に翻弄され、父と娘は、人生の分岐をさまよい続ける―(e-honより)
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表紙と装丁に惹かれて本屋さんで偶然手に取ったのだけれど、とんでもなく素晴らしい小説に出会えました。一日一章ずつ、ゆっくり味わって読みましたが、じんわりくるというか、奥行きがあるというか、重層性があるというか、そういう感じが自然に滲んでるお話で、もう虜です。こんなにloveと思ってしまえる文芸書は今年初めて。しかも偶然見つけるという出会い。
中国文学を読むのは多分初めてでしたが(高校の時の漢文以来?)、今後、アンテナ広げて色々読んでみたくなりました。
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「折りたたみ北京」が面白かったので、その作者の自伝「的」小説と思って読んでみた。
ある家族3世代の人生を通して、近代の中国のリアルな庶民の生活の様子や考えなどがわかって、たいへん興味深かった。
私は1970年代後半の生まれなので1984年生まれの作者の方が若いのに、両親の世代でも文革や改革開放などを経験している。両親の世代というとつい最近に感じてしまうので、つい最近までこんなに大変な時代だったのだということが改めて実感されて、びっくりしてしまった。そして、世代によってこれほど体験が異なっていたら、世代間で価値観や感覚を共有するのは難しいだろうなと思った。
以前、日本のテレビ番組で、日本に出稼ぎにきている中国人の男の人を追ったドキュメンタリーを見た。自分はつつましい生活をして病院に行くお金も節約して、稼いだお金のほとんどすべてを中国の妻と娘に送っていた。帰国する費用も節約しているので、10年以上妻や娘にも会っていないと言っていた。彼の望みはただ一つ、娘が自分や妻よりも良い人生を送ること。自分の人生を犠牲にしても、次の世代がより良い人生を送ることを願う人がいるなんて思いもよらなかったので、大きな衝撃だった。この本を読んでいて、なんとなく、そのドキュメンタリーの中国人男性のことを思い出した。
作者の小さいころにはすでに海賊版で日本や香港、台湾の音楽や漫画(ドラえもんやベルばらなど)が出回っていて庶民も楽しんでいた等、1980年代のリアルな中国の日常が垣間見えたのも興味深かった。2000年代の大学生の生活なども、思ったよりも私たちと違わないという発見があって面白かった。
…という風に読み進めていったら、最後に「え?」という仕掛けがあって、さすがSF作家だなと思ったし、私などにはとても追いつけないような頭の良い人だと思った。
これは、自伝「的」じゃなくて、自伝「体」小説なんだそうだ。
こんなこと書いちゃって当局に目をつけられたりしないんだろうかと心配してしまうような箇所もあったので、あくまで自伝風の小説ということにしておいた方がよいのかなと穿った解釈までしてしまったが…
文庫になったら買って、また読んでみたい。
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文学ラジオ空飛び猫たち第37回紹介本。 郝景芳は1984年生まれの中国を代表するSF作家。「折りたたみ北京」で知られています。今作は自伝体小説。ジョージ・オーウェルの「1984」へのオマージュでありながらほぼ純文学です。中国の歴史に翻弄される父と、2000年代に生きる娘の長い道のりの物語。自由とは何か?を考えされられます。 ラジオはこちらから→https://anchor.fm/lajv6cf1ikg/episodes/37-1984-ev4dud