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この目の付け所にはやられた、読後の印象である。
誰もが名前は知っているが、その実態は良く分からない、サラ金=消費者金融の誕生前後から今日に至るまでの歴史を、貸す企業の側、借りるサラリーマンや主婦の側、更にその成長を育んだ社会的背景に踏み込んで考察かなされる。
本書で明らかにされるサラ金の発展時期とほぼ同時代を生きてきたので、TVから派手なCMがまたかというくらい流されていたり、駅前の一等地のビルにいくつもの会社の看板がかかっていたり、ティッシュ配りのティッシュを貰ったりした記憶が蘇ってきた。
ただ、正直、サラ金については、金利の高さや取立ての酷薄さが喧伝されていて、いかがわしい業態という偏見から近付くものではないという思いがあったし、債務者も気の毒だが借りた責任もあるだろうにといった気持ちが、これまでであった。
サラ金業界の栄枯盛衰を、まとまった形では初めて知ったが、貸倒れを防ぐために借り手の信用性を低コストで判断するための金融技術の創意と発展の過程、借りる側の家計とジェンダー問題、サラ金業界大手会社の資金調達の苦労と銀行等との関係、上限金利規制を巡る貸金業法改正に至るドラマ等々、興味深いテーマが満載である。
かつての大手サラ金企業は銀行の傘下に組み込まれているが、現在、サラ金からも借りられない人間に対してSNSを使って個人間での貸借を呼び掛ける闇金融の問題が出てきている。果たしてこれからどうなっていくのだろうか。
消費者金融を素材に日本社会を描き出した、お勧めの一冊である。
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サラ金の興亡を、ジェンダーの視点から描いたユニークな一冊。サラ金=ウシジマ君的な見方がすこし変わった。
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よくまとまっていたが、グレーゾーン金利の消滅に最高裁(むしろ、滝井裁判官というべきか)が果たした役割にも触れてほしかった。
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逸作。サラ金の誕生から栄枯盛衰を描きながら、家計に内在している金融システムを構造的に纏められた一冊。データを細かく用いることで、エビデンスも一定程度担保されており、感情労働の側面で描かれてきたかつての文献とは異なる価値のある書物に仕上がっている。
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良著。一般論としてどうしても批判的にならざるを得ない対象(サラ金もしくは高利貸し全般)を、可能な限り客観的に捉えようとしている。時系列で歴史的に語ってくれるので理解もしやすい。
サラ金がいつの間にか消費者金融と呼ばれるようになり、気がついたら大手銀行のいち部分になっているのは前から違和感があった。その裏側にいくつかのマクロ経済の変化があったのは知らなかった。
サラ金の与信判断プロセスの変遷には興味惹かれた。戦後の団地金融が持っていた、「団地に住んでいるという外形から、一定の与信枠を付与する」というアイディアには納得。マルイトの「勤め人信用貸し」は東証一部二部上場企業に務める社員は、その入社試験をクリアできるだけで優秀→与信審査不要というロジック。なるほど。
高度成長期のサラリーマンが給料を超えて、サラ金から資金調達までして遊んだのは、日本的人事考課制度(情意考課)が背景にあったと。いわゆるメンバーシップ型採用x空前の好景気が生み出した現象。
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今年のトップ3候補。
サラ金の歴史を、普通の人々の金融ニーズの変遷と、それに対応する、サラ金業界側の「金融技術」と「人」のせめぎ合い、そして、業界内の激しい競争を組合せ、立体的に捉えた労作。
グラミン銀行がノーベル賞を取ったように、日本のサラ金も、日本の高度成長、更に、その後の低成長時代を支えた仕組みとして、見直されてもいいところはある(サラ金地獄で責められるばかりじゃなくて)。
サラ金は、改正貸金業法で、息の根を止められてはしまったが、手軽に借りられるカネのニーズは変わらないので、また、新たなサービス業態が出てくるのだろう。いや、すでに、出てきているのだろう。
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この新書、やさしい語り口でスルスル読めてしまいます。いや、スルスル読めるのはメチャ面白いから。軽妙かつ深遠かつ広汎…この時点ではベストセラーですが、100年後も残る歴史的名著になるのでは、と思いました。100年後「サラ金」という業態が歴史の中にしか存在しくなっても、です。それは,100年後も存在するであろう金融と家計の関係を社会史、ジェンダー、家族の変遷、経済と政治の流れ、テクノロジー、行動経済学、マーケティング、アンダーグラウンドの問題、メディア、あらゆる領域から語ろうとしている本書のスタンスが、研究というものの面白さを体現しているからです。農業経済学を学ぶ学生だった著者がいかにして「サラ金の歴史」という本にたどり着くのか、という「おわりに」に書かれている研究者としてのアンセムは彼のこれからの研究をも期待させます。運命と機会と好奇心と、そして努力、なんか自分も勉強したくなる超ポジティブな気分になりました。
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一気読み。これは斬新だ。これまでの情緒的で扇動的な「サラ金」本とは一線を画し、ナイーブな「高利貸し」糾弾の枠を鮮やかに踏み越えた、リテール金融における消費者信用の冷静かつ綿密なクロニクル。僕は一応金融業界の端座に身を置く者だが、本書はそういうバックボーンがない人にこそぜひ読んで欲しいと思う。たとえば金融とは縁遠い主婦や学生などの層が読んでも、十分に知的興奮が得られるはずだ。
それはとりもなおさずこの本が消費者金融そのものを扱うのではなく、その興亡の背後事情を詳述することによって社会の構造を時系列的にかつリアルに描きだすことを主眼としている、ということに尽きる。一般にサラ金は、のっぴきならない状況に陥った個人への「最後の貸し手」であり、かつそのような事業者に提供される資金は最もホットなリスクマネーだと認識されているだろう。勿論そういった側面も否定し難いが、忘れてはならないのは本書で指摘されているように、消費者金融というのはその時々の社会構造で見出された最も堅牢な部分に対する安全な資金運用手段だった、という逆説だ。素人高利貸に始まり団地金融、高度成長期の情意考課、ポスト高度成長期の経済弱者の発生。こういった市場と社会の歪みを機敏に捉え、真先にアービトラージを取ろうとイノベートを試みたのがサラ金業者だったのだ(だからこそ外銀や邦銀がこぞって資金提供を申し出たのだ)。そしてこの社会構造は当然に人口動態や経済発展により時とともに変動する。銀行などのベーシックな社会インフラとは異なり、サラ金はこの変動の最も激烈な部分のみを受け持った金融サブセクターだったが故に、社会構造の変化にことさらに影響された。彼らは社会変動の増幅検出器、PCR試薬だったのだ。
グレーゾーン金利などの説明はもう少し丁寧にしたほうが一般向きなのではないかとは思ったが、そんなのは枝葉に過ぎない。僕の能書きなどよりも、まずは本書を手に取ることをお勧めする。こんなに手軽に、深い洞察に触れられる読書体験は稀有だと思う。
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サラ金の歴史を中立的に描かれていた。
サラ金の起源である「素人高利貸し」の解説に始まり、
近年問題になりつつある「給与ファクタリング」と呼ばれる闇金に近いものなどにも触れてあった。
有名なサラ金の創業者の生い立ちなども興味深かった。
今後サラ金がどうなっていくのか考えさせられた一冊だった。
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日本の戦前→戦後→高度経済成長→バブル崩壊→そして現在までを、経済史、とりわけ貸金に的を絞って紹介する。
一般的には悪名高いサラ金を批判するわけでもなく、擁護するわけでもなく、日本の社会状況と照らし合わせて淡々と綴っていく。
団地妻への融資がサラ金の原点で、その後、稼ぎ頭である夫側に顧客が移動したらしい。
銀行の後ろ盾なく、いかにしてサラ金業者がのし上がったのか。
そして、国内銀行から外国銀行への鞍替え。
この素早さと強かさは圧巻である。
貸金業は、肉体労働・知的労働ではなく感情労働らしい。
だから、金貸の漫画は面白いのである。
この本を読んでから、なにわ金融道、ミナミの帝王を読むとより楽しめるかも。
カイジに出てくる帝愛は武富士をモデルにしているのかもしれない。
貸金改正によって懸念されていた闇金被害は増えず、多重債務による自殺や犯罪が減ったというのは社会全体にとっては良かったと言える。
しかし、業者による貸金ではなく個人間による違法な貸金が横行しているというのは、皮肉である。
なぜ著者はあくまで中立の立場をとるのか不思議だったが、プロミス創業者に北海道で会ったとことがあるというエピローグを読んで納得。
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力作!
タイトルの「サラ金の歴史」を語るために、日本近代経済史、家族関係の変遷、金融業界、等々も含めた壮大な歴史を物語っていることに驚きながら、とても興味深く読みました。
筆者が「農学博士」ということにもびっくりしました。
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多重債務者の一人として、非常に面白い本でしたね。
なによりも、銀行より一歩、いや二歩先の金融工学を構築しながら、人間的な仕事だと感じる。
過去にはそれで命を落とした人が多かったが、国が締め付けを起こした結果、その時よりもタチが悪い金融サービス?が出来て、その被害者が出てるのはなんという皮肉か。
ちなみに、この本で面白かったのは、自動現金機や武富士の藤川忠政と武井の下りですね。
金融に興味ある方オススメです!
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ありそうでなかった本。学術的な要素とビジネス書の、雰囲気を併せ持った面白い本だと思う。
戦後のリテール金融史とも読めるし、個人消費の歴史とも読める。
オレオレ詐欺元年がヤミ金対策法が成立した03年。貸金のグレーゾーン金利の廃止に伴って、町金が特殊詐欺に転業し
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もはや歴史小説のような、サラ金業者の栄枯盛衰を描く本。戦後の貧民窟での個人高利貸しから、団地金融、そしてサラ金へとつながる消費者金融の歴史は、それぞれの時代で身を立てた経営者たちの足跡でもある。特に、債務者の小児麻痺の妻にショックをうけて「生活基盤の金は貸さない」としたプロミスや、激務の翌日に熱湯で顔を洗い金策に励んだ武富士のエピソードが強烈。
金融業者それぞれに歴史があり個性的な上に、プロレスを思わせる「消費者金融協会」「新消費者金融協会」の対立や、国内の金融業者が団結して外資を追い出す等、好景気の元での波乱万丈が描かれる。
その後、サラ金は元来のモットーを忘れ暴利になり、政府からの規制を受けて衰退して行くわけだけど、金融業者が活発だった時代は好景気だったし、また好景気の一員にサラ金業者の存在があったのだとわかる。サラリーマンが接待のために湯水のように金を使った時代は、世間全体が上昇志向に溢れ、彼らにはサラ金も快く金を貸していた。
暴利な金貸しはトラブルを招くのは間違いがないが、サラ金のイメージ低下もあってか、消費者の借金≒悪という風潮になってしまったのは、経済全体に機会損失と思われる。金を返す気もなく借りる側にも罰則を、みたいな気持ちになるのは、サラ金も偉いよ、って思ってしまう本書のせい。
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1910年ごろ、貧民街での個人間での金の貸し借りに端を発したサラ金の原型は、その後、団地入居者をターゲットにした団地金融、そしてサラリーマンを対象にしたサラ金へと発展していく。
サラ金は規制前の高金利とバブルに向かう景気向上に伴う資金需要を背景に、急速に拡大を見せ、バブル崩壊後も着実に成長を続けたことで、大手は一部上場、経団連に参加するほどに、その社会的地位を高めた。
その過程で、信用情報の業界間共有、自動貸付機の発明など、業界としてその技術を磨き高めていくことで、外資の参入を阻み、また駆逐していった歴史も持っている。
その後、行き過ぎた取り立てによる債務者の自殺問題が取り沙汰され、法定金利の改定、グレーゾーン金利の廃止、総量規制など、サラ金業者の息の根を止める法改正へとつながっていく。
批判的に描かれることの多いサラ金業界について、中立的に描かれた本作の意義及び価値は非常に高く、先入観を持たず、一読をおすすめしたい。