紙の本
ページをめくれば世界が変わる
2022/04/22 22:19
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:hachiroeto - この投稿者のレビュー一覧を見る
さまざまな図表が興味深い。個人的に気になったのは、どちらも映画がらみだが、『遊星からの物体X』で登場人物がエイリアンに乗っ取られるプロセスをダイアグラムにしたもの、ヒッチコックの『ロープ』の探偵役が室内を歩き回ったルートをつなげたものなど。
他にも錯視画からアート、独自の文字からCDのジャケットまで、とにかくデザインといえるものならなんでも取り上げられ、意外な仕方で結びつけられている。ページをめくるごとに読み手の「モノの見え方」が更新される、驚くべき一冊だ。
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文庫本にしては豪華な装丁である。小口に男と女の絵を仕組んでおり、それだけでも芸術感がする。デザインの道具箱の副題が示すように、さまざまなデザインのアイデアやのチーフが述べられており、その多くは理解不能だが、そのような方法もあるのかと変に納得させられる。
私達がなにに芸術性を感じるのか、どのような作品が人を感動させるのかについては本書を読みすすめると理解ができてくる気がした。
自分では絵を描く才能はないが、せめて芸術的な評価を理解し、それに参加できるようにしていきたいと考えた。
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著者が書名をつける際にあやかった
「眼の隠喩」多木浩二と併読しました。
この本はひたすら視線に注目しながら
資本主義の発展と都市での経験を題材にしています。
眼の冒険と共通するのは、
物語でも推理でもなく、複数の像を脈絡を飛び越して
思いもよらないかたちで接触させる図像的思考
ですかね。
言語化できない内容を文庫本の中に納めたこの二つのブックウェアに
改めて本との付き合い方の多様さや奥深さを感じます。
引用1:
われわれの眼と脳は、もともと「似ていること」にたいして敏感
だ。似ているものはまとめてしまったりなど、いわば抽象表現向き
である。なかでも円や正方形などのシンプルな形は、まとめるのに
ちょうどよい。ここでは「厳密さ」よりも「らしさ」が重視されて
いる。
引用2:
空中からの俯瞰と鉄道の速度による風景間の変貌は絵画表現に多
くの影響を与え、モンドリアンにつながっていく。印象派こそ「速
度」の影響を受けた第一世代だ。
引用3:
本書に列挙したさまざまな小話群も「似ている」を駆動輪として
選択している。見た眼はもちろん、考え方が似ているケースもある。
引用4:
真空はなにもない空間ではなく、満たされるための空間である。
日本の「間」という概念にはこの「真空」感がみなぎっている。
引用5:
「装飾」とは、「空間=何もないところ」になんらかの装飾をほ
どこすこと、印をつけることによって、その空間自体を所有しよう
とする試みであり、所有欲のひとつともいわれている。
引用6:
和綴じ本は水平に置くのが基本だが、洋書は背が堅く綴じられ、
束もあるためタテに置くことができる。洋本用本箱も登場し、タテ
に立てて並べることが可能になって、背文字で書名がわかるように
なった。書斎の風景も一変し、本を並べ眺めるという楽しみも生ま
れた。
引用7:
脳には眼という端末を駆使するエディトリアル機能がついている
ことになる。ここには目撃した事態が事実か否かということはさし
て問題ではなく、編集された画像の整合性のみが重要となる。
引用8:
脳のもうひとつの、そしてこれこそ天の配剤とでもいうのか、す
ばらしくもあり、うっとうしくもあるのは、この湯にまとめ上げら
れた画像から、意味を見つけ出そうとすることである。
引用9:
「似ている」ということの発見から始まる思考、それは遊びのよ
うであり、パズルのようでもあり、そしてときに批判的な思考でも
ある。
引用10:
物語でも推理でもなく、複数の像を脈絡を飛び越して思いもよら
ないかたちで接触させる思考、そう、図像的思考は、演繹や帰納と
は異なる仕方で、人類の認識をぐいぐい開いてきた。私たちの思考
の衰弱を衝く一冊だ。