投稿元:
レビューを見る
20年以上前から追いかけている辺見庸さんの新刊。
安保法制(いわゆる「戦争法」)から、新型コロナウイルスのパンデミックまで、7年間の論考をまとめたのが本書です。
結論からいうと「辺見さんも老いたな」という印象を持ちました。
政権批判の舌鋒は、もっと鋭かった気がします。
その代わり、諦念が前面にせり出してきた感があります。
「気がつけば、五体満足な友人などもうだれもいない。みんな、重かれ軽かれ、どこかしら病んでいる。たとえ本人がまだ病に伏していないまでも、両親ふたりとも、またはそのどちらか、子ども、義父か義母、兄弟姉妹、甥か姪……が、心身のいずれかをわずらっている。」
リアルで痛切な感懐に、胸が締め付けられます。
辺見さんといえば、共同通信記者出身で、その後、芥川賞を受賞するという輝かしい経歴を持っています。
その鋭い「嗅覚」には、いつも脱帽します。
その代表的な例ともいえるのが、「東日本大震災」を予言した次の文章です。
掲載された媒体は、2011年3月中旬発行の「朝日ジャーナル」ですが、原稿締め切りは2月末前後でした。
「憲法9条は改定されるだろう。キミガヨはいつまでもうたわれるだろう。貧しい者はよりひどく貧しく、富める者はよりいっそうゆたかになるだろう。すさまじい大地震がくるだろう。それをビジネスチャンスとねらっている者らはすでにいる。……階級矛盾はどんどん拡大するのに、階級闘争は爆発的力をもたないだろう。……テクノロジーはまだまだ発展し、言語と思想はどんどん幼稚になっていくであろう。ひじょうに大きな原発事故があるだろう。……戦時下でも、核爆発があっても、ワールドカップ・サッカーとオリンピックはつづけられ、もりあがるだろう」
震災や原発事故だけではない。
それ以外のことも、全て的中しているではありませんか。
あらためてその眼力の鋭さに敬服する思いです。
人間とはなんであり、果たして、なんであるべきなのか?
それが本書の一番の問いです。
老境に達した辺見さんは、自らに切っ先を向けつつ、執拗に自問します。
ありきたりな答えを出すほど、辺見さんは野暮ではありません。
コロナ禍の今、あらためて一人ひとりの胸に問うていい問いのような気がします。
投稿元:
レビューを見る
初読。図書館。辺見さんが今なお書き続けていることが最後の砦のような気持ちになるが、それに頼っている自分が情けなく思え、流されていく自分が恥ずかしくなる。
投稿元:
レビューを見る
こんな時代だからこそ
その著書が出るたびに
読んでおきたい作家
のお一人が
辺見庸さんです
辺見庸さんを読むたびに
ーこの国はどこに向かおうとしているのだろう
を 激しく自問自答させられてしまいます
そして
今 自分が立っている拠り所を
しみじみ 考え
今 自分が できることを
改めて しっかり 確認させて
もらっているようです
この一冊を手に取った人と
語り合いたい一冊です
投稿元:
レビューを見る
歳で情熱失ったせいか、哲学や思想めいた言葉は頭に刻まれることなく素通りしてしまう。辺見作品すべて読んでいたが…久しぶりの辺見サン、お金や老いを語るようになっているとは。「白い闇とは実相をわざと見ようとしないわれわれの現状そのもの」「間違いなくやってくるのは危機の日常化、社会の全体主義化」「コロナに乗じた同調圧力と相互監視。行動と内面の統制が一段とつよまりつつある」「感じまいとすることで、自己防衛してるのだ」賢しげに自己嫌悪交えながら、深い洞察で社会と世間を両断。まだまだ、いけそう。