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表紙のドローイングはフィリップ・ワイズベッカー。装丁は新潮社装丁室の二宮由希子さん。
読むのが楽しみ。
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どこにでもいる(?)ような人々が描かれている。スケッチのような書きぶりで、とても観察眼が細やかだ。
そのようなスケッチで終始するものと、そこに突然裂け目が生じて、といった2系統に分かれるかな。更に言えば先のスケッチには、広島ものが多く含まれ、さらにその中には広島カープとそのファンものがある。
特にこの作品集にはカープ三部作とも言える短編3本があり、それぞれ違ったテイストで、広島カープを中心とする広島のありようが感じられる。
わたしにとって広島というのは西の果てで遠いところという印象。いわば、転勤した夫についてきた「異郷」の主人公と同じくらいの知識で、彼女の不安な気持ちがよく分かった。しかも彼女には人間関係のトラウマがあり、それが繰り返される恐怖に怯える。これはある意味心理ホラーだ。でも地元の人達にさてみれば当たり前の日常だから説明さえもされないんだろうなあ。ケンミンショーとかでやればいいのに(笑)。「継承」の、広島市民球場の話もいい。主人公の母の頑なさはよくある迷信どころの話ではなかった件、「点点」の最後もよかった。野球というと男の物語になりがちだけれど、これは確実に女の物語になっている。大事なことは書かれない。覚えているから。
日常の裂け目系の作品が注目されるのかな、という気がするけど、こういうスケッチの筆致にこの作家の真髄がある気がした。克明に何気ない生活の手順が記される。子供持つ母親がいかに忙しく、いくつもの作業を並行して進めているか。
同じような設定でいくつもの違う作品を生み出す手腕が見られるのも短編集ならでは。なので、段々と連作のような、先の作品に交じるような感触もあり、そういう勘違いもまた面白い。地方都市の小さな子を持つ(もしくは持たない)専業(兼業)主婦、非正規雇用、高学歴女性。
主人公は20代後半から30代の女性がほとんどなのだけれど、一番心理的にキタのは「園の花」かなあ。この人となり(園児だけれど)や人との接し方が「わたしか!」というほどそっくりで悶絶し、恥ずかしくて死にたくなった(褒めてます)。
文庫化されるのを知り、ずっと次に読むリストに挙げ傍らに置いていた単行本を引っ張り出した次第。あちこちシミができてしまっているけど、ちゃんと読めてよかった。
収録作
「小島」
「ヒヨドリ」
「ねこねこ」
「けば」
「土手の実」
「おおかみいぬ」
「園の花」
「卵男」
「小猿」
「かたわら」
「異郷」
「継承」
「点点」
「はるのめ」
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小島 小山田浩子著 細部の描写 「世界」が変わる
2021/6/19付日本経済新聞 朝刊
私たちが「世界」として認識している日常は、実は小島にすぎないのではないか。だとすれば、それは何に取り囲まれているのか。小山田浩子の最新小説集『小島』には、そんな問いが詰まっている。
前作『庭』でも、家族という集団をさまざまな角度から見つめるというこの作家の特質は見事に発揮されていた。そして本作では、それが人間という「群れ」の観察の次元にまで達している。
被災地でのボランティアから子供の通う保育園、さらには韓国の市場まで、それぞれ異なる設定を貫いているのは、語り手の五感を通してじっくりと描写される日常の細部の緊迫感である。
語り手の現在の生活だけでなく、ふと蘇(よみがえ)る子供時代の記憶や、鮮やかな夢まで、生きるとは意味も定かでない膨大な細部とともにある営みでもある。そして、本書に登場する語り手たちはしばしば、そうした細部をふるいにかけて有用なもののみを選別することができない。それがゆえに、ハトの羽毛の光沢やコスモス畑などが、拡大鏡が倍率を次第に上げていくような描写を通して、異様な姿をさらけ出してくる。
そうして細部に迫っていく描写が生み出す緊張感と、それをときおり緩める卓抜な比喩の先に、ふと理解しがたい光景が刻み込まれるのも、この作品群の大きな魅力である。それは時として不思議な開放感を、時として異様な非現実の感覚を生んでいる。
同様に、語り手の周囲を飛び交う声も、丁寧さを超えて執拗なまでに拾い上げられている。そこから見えてくるのは、家庭や職場など、場を共有している人間たちの「群れ」の様子である。人とは言葉が作る群れなのだ。男女間での不平等などの社会生活の歪(ゆが)みを抱えつつ、今日も無数の群れが動いている。
これらの特徴が、広島東洋カープという主題と絡み合って変奏される終盤の3編からは、人の群れが外部からの影響でどう揺らぐのか、現実と虚構との境目はどこにあるのかといった問いが、登場人物に密着しつつもどこかドライな視点から描かれていく。
そのユーモア感覚を味わいつつ、本書の最後の一文にたどり着いたとき、「世界」は別のなにかに変わっている。
《評》翻訳家 藤井 光
(新潮社・2090円)
おやまだ・ひろこ 83年広島県生まれ。著書に『工場』(織田作之助賞)、『穴』(表題作で芥川賞)、『庭』。
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新聞の書評で広島のことが書かれた短編集と紹介されていて、広島に興味があり読んだ。被災地のボランティアの短編から始まる14個の短編集。
紙面にびっしり文字が並んでいるが、読みやすく日常の様々な場面が目に映るように描かれている。
広島のカープ愛が半端じゃない連作短編が1番面白かった。
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短編14作
キッチンの隅に落ちてる生米、かぴかぴになった牛乳の置いた跡、すりガラスの拭き残し
日常の、ちょっとまあ、またあとで、なんて濁してるとこ、見えそうで見ぬふりしてる隙間の暗闇にフューチャー
滔々とまくし立てられてると追い詰められたみたいに逃げ場を失い、縦読みなのに目がウロウロしながらも、エヘヘと思いながらも読んでる
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日常生活の延長線上にある、ストーリーのあるような、ないような14篇の作品集。随所に生き物が出てくる。いずれの作品も、段落がほとんど分けられておらず、(そんなに深くはない)内面世界が垂れ流されているような感じで、正直読みづらかったが、独特の味わいがあった。「ヒヨドリ」、「ねこねこ」、「けば」、「かたわら」が特に印象深かった。
広島カープを取り上げた3つの短編は他の作品と比べてコミカルな感じで読みやすかった。特に「異郷」は、すれ違いのコミュニケーションがよく描けていた。
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何か怖くて重い。
登場人物たちの感覚を手にいれてしまったら
この先、穏やかな心持ちでは一生暮らしていけないような気がする。
怖いよ~。
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どの話においても主人公目線で語られる形になっており、その描写はやけに細かくてそれが主人公の観察者的立場を強くしている。そこにさらに主人公の心情も挟まれてくる事で、主人公とその対象(伴侶や子供や同僚など)との微妙な距離感、煩わしい様々な関係に倦んでいるような気分が感じられ、その居心地の悪い感触・不穏な雰囲気が病みつきになってしまう。
今回の単行本では、以前の作品よりも色々なバリエーションの話が収録されていたように思った。どの話も読んでいて本当に楽しかった。著者の単行本は今のところすべて図書館で借りて読んでいるが、装丁も格好良いし全てハードカバーで買って揃えたい。以下は自分のための備忘として印象に残ったポイント。
・「ねこねこ」の、野鳥が大量発生している夫実家における義母や娘との不協和音の高まり
・「けば」の会社の飲み会で動物の死骸を見た事をいじられた塩でお清めさせられる最悪な雰囲気
・「おおかみいぬ」の心温まる不思議な(何か童謡めいた?)白いダウンと赤いコートの女性同士の会話と主人公の微妙な心情
・「園の花」の直球のホラー的雰囲気
・「子猿」の夫の妻に対する冷たい心情(冷たすぎると思いつつも、たまーにこれに似た気分にもなるなという感じ)
・カープ三部作は、この本の中で異色に感じた。目次の中でもこの3つはやや離れて記載されている。これらの牧歌的雰囲気は筆者の広島と広島カープに対する愛なんだろうなと思った。三作全部面白かったが「継承」は読んでいて笑ってしまう事もあった。プロ野球については全然興味ないが、以前読んだ保坂和志の小説にでてきた野球のシーンもそうだったが、小説に野球が出てくると心温まる率が高いのかな。
・「はるのめ」の最終頁の最後に滑り込まれるようにギリギリで差し込まれた文章。感動的。
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地の文と会話が全部連なってる、なんなら想いも連なってる。独特なリズム感と時間や場所の遷移。カープ三部作。ちょっとだけ不穏な感じ。かなり好きだ。
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小山田さん久々の新刊。雰囲気が好きで今までの作品も読んできたが確かに少し視点が違ってる。でもこれはこれで新鮮でもあるし、それに根底に流れるムードっていうか雰囲気は同じだ。ちょっとゾクッとしたりゲッとなったりするところも好きだ。
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表題作 「小島」を読んだ。広島の災害後ボランティアに参加した女性の一日の体験。バスツアーのように同行した人たちと一日働いた。あまり感心しないやり取りなどが聞こえてくる。ボランティアは爽やかな経験ではないようだ。ボランティア対象の被災者である女性が心に傷を負ったらしいと想像される。
「かたわら」を半分読んで挫折。小島も辛気臭い話だったが、これも主人公の女性はネガティブ情報しか受信しないのか、しかもダラダラと累積していきどこまで続くのかとウンザリした。
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日常を描く、不思議なような不思議でないような短編集。幼い子を子育て中の話が多く、勝手に共感する。植物や虫がふんだんに出てくるのも特徴。広島カープと広島県人の話は、ここまではまれて羨ましい。