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藤井聡太の存在を抜きにして、現在の将棋を語ることはできない。谷川浩司九段が藤井聡太四冠の魅力について語った書です。「藤井聡太論 将棋の未来」、2021.5発行。1935年の実力名人戦開始以来、80数年間にタイトルを獲得した棋士は50人に満たない。タイトル獲得は棋士の夢。平成の羽生、令和の藤井。羽生の手が震えた時、藤井聡太の前後の身体の動きが止まった時、対戦相手は観念しなけければならないw。羽生との違いはライバルの有無。藤井将棋の魅力は、圧倒的な強さに加え、将棋自体が面白く、華と新鮮味に溢れていること。
2016年10月に14歳2ヶ月でプロ棋士に。いきなり29連勝。デビュー以来、想像を絶する勝率。ただ、今の棋士はたとえ八冠を制覇してもそれより強いAIがいる。謙虚にならざるをえない。藤井四冠は、人間とAIの関係を、対決から共存という言葉で語っている。
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谷川浩司が藤井聡太を語った一冊。
「天才は天才を知る」というが、まさに自分との比較で中学生棋士しかわかりえぬ世界について書いている。
また、他の棋士の分析も秀逸で、非常に面白かった。
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たとえタイトルを全て取ったとしても、その上にAIがいる。この状況下にいるトップ棋士とは何か?と谷川は自問する。個性か、芸術か?藤井くんはAIとは共存と答えています。対局者研究に重きを置かない彼のスタイルは、対戦相手と戦っているのか、将棋と戦っているのかということを表しています。名人戦開始以来80数年、8つのタイトルの一つでも制したものの数は50人に満たないなか、藤井くんの勝率は8割4分前後。タイトル戦は6割勝てれば制することができる。藤井くんには7割に落ちてもらわないと他の棋士の出番がなくなると谷川は言います。これからが楽しみなスーパースターです。そんな彼にとってもAIは生まれてから登場したもの。これから登場するAIネイティブはどんな将棋を見せてくれるのでしょう。そういえば、谷川さんも藤井くんも好きだというメイクテンなるゲーム。初めて知りました。
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最年少名人の称号を持つ谷川浩司が、若き天才、藤井聡太の将棋を解明する本。
天才だけが知る、若き天才の秘密とは。
という触れ込みなのだが…。
実際の所は、谷川さん自身の体験談が大半を締めている。
藤井将棋については、あまり突っ込んだ話をしてくれない。
これでは「藤井聡太論」というタイトルにしては、内容が薄いと言わざるを得ないだろう。
また藤井聡太の解析に関しても、彼のインタビューの発言を引用してるだけなことが多い。
よって今読む本としては、目新しい内容はほぼ出てこない。
もっとこう、プロ同士でしか分かり得ないような、直感・天才性のような話を期待していたのだが…。
正直期待はずれだった。
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十七世名人 谷川浩司氏が、藤井聡太棋士の活躍など最近の将棋について語った本。プロ棋士は対局中、どんなことを考えているとか、普段どのようなことをしているのかなど、知らなかったことが多く、またデータもたくさん示されており、参考となった。将棋の奥深さを知った。
「藤井さんと私には、いくつかの共通点がある。まず中学生でプロ棋士になった。(中学生棋士は史上5人)。ともに詰将棋を愛好し、創作もする。鉄道好きということも付け加えておこう」p6
「(藤井棋士の高い完成度)私はこれまで多くのトップ棋士の四段時代に対局してきたが、いくら強い棋士でも、17歳、18歳のころまでの棋力は「突出して強いところもあるが、まだまだ完成途上」が常識だった(藤井にはこれといった弱点が見当たらない)」p14
「持ち時間が少なく、向き合っている時間が2時間、3時間の短い対局では相手に関して得られる情報は限られる。持ち時間が1時間以内の「早指し戦」だと指し手がやや粗雑になって、持ち味がフルには発揮できない」p16
「(藤井聡太)あれだけ長考が続いたら、せめて休憩の間は一息入れて頭を休めたいと思うのが自然だと思うが、ずっと盤の前で沈思黙考している。もちろん、若さもあるだろう。それにしてもケタ外れの「頭の体力」である」p17
「(藤井聡太)「一番集中できている時は、集中しているという実感すらないような状態になり、1分が長く感じる」」p25
「奨励会時代の持ち時間は90分。このため四段に昇段し、プロ棋士になった当初は長時間の対局における時間の使い方で苦労する場合が多い」p27
「(角)「斜め四方」に進む角は、まず盤上で動けるマス目と動けないマス目、半分ずつに分かれる。最初に8八、2二にいる双方の角が1つ隣のマス目に動くことはない。その筋で角が動いている間は、棋士はとくに違和感を覚えない。ところが、角を交換した後、最初と違う筋に角を打つことになると、事情が変わってくる。初心者は斜めに動く角がどの場所を通り、どこに行き着くかという角筋をけっこう間違えるが、プロの棋士も本来ならその駒がいないほうの筋に1枚いるだけで。急に理屈を超えた直感が働きにくくなるのだ」p30
「(藤井聡太)2021年3月末までの通算成績は213勝40敗、勝率8割4分2厘である。もちろん、2017~2020年度まで勝率ランキングは連続1位である。4勝1敗(勝率8割)は、言ってみれば成績のいい人がかなり長期間続けることのできる勝敗ペースである。しかし、5勝1敗(勝率8割3分3厘)、6勝1敗(勝率8割5分7厘)の成績を取り続けるという芸当は、単に能力のある棋士の好調によるだけでなく、それだけの地力が備わっていなければ絶対になし得ない」p36
「8割4分前後の勝率を4年間も続けている藤井さんの世界は、残念ながら私の想像を超えている。その年度の勝率第1位は、通常ならば四段、五段の棋士が獲得する。一次予選で4連勝や5連勝して、勝ち数を稼いで勝率を上げるのだ。しかし、勝ち数を重ねるに従って対戦相手も強くなっていき、自然に勝率は下がっていく」p38
「(これからの競技は現役期間が短くなっていく)これからの棋士は、十代、二十代はストイックに将棋���けに打ち込めたとしても、三十代以降、同じように続けられないのではないか」p60
「負けず嫌い、負けん気の強さは、将棋を長く続けていくうえでも絶対的に必要なものである。スポーツや芸能などさまざまな分野の最前線で活躍する人たちも、いずれ劣らぬ負けず嫌いのはずである」p76
「奨励会からプロ棋士になるのは、毎年わずか4人」p81
「平均的な棋士の対局数は年間30局ほどである。私の経験で言うと、週1局で年間50局前後だと、対局の疲れはとれるし、普段の勉強や次の対戦に向けた研究もできてうまく回っていく。それ以上となるとハードになる」p84
「中学生棋士で名人獲得経験者のうち、A級までストレートに昇級したのは、加藤先生だけだ。私はC2を2期、羽生さんはC2、B2をそれぞれ2期、渡辺さんはC2、C1、B1をそれぞれ3期ずつ経験している」p95
「(運を大事にせよ)「谷川、おまえは運がいい。それをありがたいと思え。運がいいのは当たり前だと思うようになったら、その運は逃げてしまう」ずっと心にとどめている言葉だ」p114
「藤井さんはプロ棋士になる前から、まず詰将棋の世界で名前を轟かせていた。詰将棋を解くスピードと正確性を競う「詰将棋解答選手権」では、並み居るプロ棋士とアマ競合を制して、小学校6年生の時から5連覇している。詰将棋創作の面でも十代とは思えない芸術性の高い作品もいくつか発表している」p125
「奨励会に入ることができても、そのうち棋士になれるのはわずか2割ほどだ」p138
「藤井さんは小学2年の時から創作を始め、「将棋世界」にも作品を投稿していた。9歳の時に投稿した作品は掲載されただけではなく、新人に与える賞として私の名前を冠した「谷川賞」を受賞した」p144
「居飛車穴熊の藤井玉は9九にいて、8九に桂、8八に銀がいる。相手は8六に桂がいて、持ち駒は角と歩。玉の頭に「△9八歩」と打たれた瞬間、詰む局面だが、打ち歩詰めになるため相手は打てない。残りの角も前に進めない駒なので、打っても仕方がない。藤井さんは、この局面になる十手ぐらい前からこの形に誘導して、自分の玉は大丈夫と読み切って勝ちを制した。角と桂と歩以外の駒が1枚でもあれば、すぐに詰んでしまう形に自ら誘導するので、よほど自分の読み筋に自信がなければ指せない。詰将棋に精通した者でなければ浮かばない妙技だったため、印象に残っている」p153
「子どものときに好きな世界や得意なことを見つけると、それだけ自分の世界が広がり、成長につながる」p155
「藤井さんの強さは、最善手を求める探求心と集中力、詰将棋で培った終盤力とひらめき、局面の急所を捉える力、何事にも動じない平常心と勝負術など、極めてアナログ的なものだ。将棋ソフトを使い始めたのはプロデビューする直前であり、彼の本質的な強さとAIは関係がないと言っていい」p172
「(年配者)読みを進めていく中で、若い頃のようにとことんまで突き詰めずに「これぐらいだろう」と打ち切ってしまうことが多くなる。要するに忍耐力、持久力が落ちてくるのだ」p191
「1950年代から70年代までは、対戦相手の情報もあまりなく、定跡もさほど洗練されていなかったため、中終盤のねじり合いで勝負がついていた。棋士のレベルにも差があり、優勢になれば、その後そのまま押��切れることが多かった。いまは有利になっても、簡単に勝てなくなった。劣勢になっても、その後に最善を尽くせば、さほど簡単には負けない。リスクを冒さずに勝てる時代ではないということだ。これは以前とはずいぶん違う点である」p191
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【感想】
「天才という言葉を使わないで藤井君について説明するのは難しい」(渡辺明)
紛れもない天才である渡辺明がこう評した藤井は、2022年現在、竜王・王位・叡王・王将・棋聖の五冠、通算勝率0.83、レーティングは2位の豊島を150ポイント近く放しての1位である。まさに「現代最強の棋士」で異論はないだろう。
本書は、20歳にして将棋界の頂点に君臨する藤井聡太の強さについて書かれた本である。著者は谷川浩司十七世名人であり、書かれた時期は王位戦で木村を破って棋聖・王位の二冠を獲得した頃だ。
谷川さん自身、通算タイトル獲得数は27期(歴代5位)であり、将棋の歴史に名を残すトッププロだ。そうした天才が語る「天才・藤井聡太論」なんて面白くないわけがない。谷川さん自身の洞察力と言語化能力がこれまたずば抜けており、40年以上棋界を見続けてきたトップランナーからしか聞けない話が随所に散りばめられた一冊になっている。
藤井聡太の強さの秘密はいくつかあるが、そのうちの一つが「とにかく将棋にストイック」ということだ。
現永瀬王座もそうだが、とにかく将棋が好きで好きでたまらなく、誰よりも長く駒に触れていたい、という気持ちを持っている。持ち時間を残しておくべき中盤の場面でも、惜しむことなく時間を投入して、最善の一手を読み切ろうとする。「一手一手を納得するまで考え抜く」という将棋へのひたむきな心を、誰よりも持っているのが藤井聡太だ。
このあたりは大谷翔平とも似ているかもしれない。彼も野球のことを一年中考え続けている「野球脳」の持ち主だ。上手くなろうとして努力し続けるというよりも、好きだから自然と手が伸び、上手くなっていく。他者と自分を比べることなく純粋な「強さ」を追い求める姿勢が、彼らの勢いを後押ししていると言えるだろう。
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藤井聡太がニュースで取り上げられる際には、一緒に「AI」について語られることも多い。
私は当然、藤井聡太という異端児が棋界に現れたのは、「AI」が登場し始めたことに関係があると思っていたが、どうやらプロ棋士たちの了見は違うらしい。渡辺明は、「彼の強みとAIは、ほぼ関係ないでしょう」と言っているし、藤井のスタンスも、AIを使いはするもののそこまで傾倒していないということが、彼のコメントからうかがえる。
共闘する相手の一つに「AI」という選択肢が増えたことで、これからはどんどん新陳代謝が進んでいくのかもしれない。強くなるためにはライバルの存在が不可欠であるが、今は人間の棋士に加えて「AI」というライバル(または先生)がいる。その存在は将棋の研究に大きな飛躍を生み出すし、またAI道場で高め合った人間たちの中でもさらなる切磋琢磨が生まれる。
そう思うと、今は藤井聡太一強の時代だが、これから「ポスト藤井世代」が台頭し藤井の座を脅かし始める可能性も、十分に考えられる。すでに藤井より若い伊藤匠が躍動していることを考えると、もしかしたらあと5年もしたら藤井に次ぐ凄い棋士が現れるかも、と期待してしまう。まだまだ、将棋界は明るいニュースが続きそうだ。
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【まとめ】
1 藤井聡太の武器
いくら強い棋士でも、17、8歳までの頃はまだまだ完成途上なのが常識であるが、藤井はすでに弱点がない。それはメンタル面や作法といった将棋の技術面以外も例外ではない。
藤井「将棋に対する思いはずっと変わらないです。ずっと好きで自然にやってきた感じです。将棋を指したくないとか、駒に触れたくないとか思ったことは一度もないです」
藤井は大の将棋好きなのだ。一つの手を徹底的に掘り下げ読み切ろうとする姿勢からも、それが伺える。
藤井の最大の武器は「局面の急所を捉える力」だ。言葉を換えて表現すれば、「直観の精度が高い」ということである。理詰めで駒を動かした結果ではなく、ある種の第六感、勘のようなものによって最大の勝負どころや盤面におけるポイントをつかむ。とくに初見の局面で急所や本質を見抜く能力に秀で、閃きの豊富さにもつながる。大局観に通じる、棋士なら誰もがうらやむべき才能である。
羽生「指していて、局面を形から認識する能力がすぐれていると感じる。読みの力はもちろんだが、 『この手はいい』とか 『考えなくてもいい』といった、そういうパターンを形から認識する力が非常に高い」
渡辺明は棋聖戦の感想を次のように語る。
「いままでもタイトル戦で負けたことはありますけど、今回の棋聖戦のような負け方をしたことはありません。自分がまったく気づいていない想定外のことが起きまくっているんです」
渡辺は藤井将棋について「谷川さんと羽生さんの両方を持っているような感じを受けた」と語っていた。第一局が終盤のスピード勝負で、藤井の指し手が突然ギアを変えて一直線の寄せに持ち込んだ。それが「光速の寄せ」と呼ばれた谷川の勝ち方を連想させるものだった。第二局は優劣がはっきりしない中盤が続く中で勝敗を分ける妙手を放たれた。その一着が羽生の指し回しをイメージさせたのだろう。
第一局のような勝ち方をする棋士はいる。第二局のような勝ち方をする棋士もいる。けれども、両方を持ち合わせていることが、渡辺としては心底驚きだった。彼の表現を借りれば「大谷翔平選手が投打のどちらでも上位の成績を収めてしまっているようなもの」だ。
藤井に勝つ現実的な手段としては、藤井があまり得意としない、あるいはさほど研究していない戦法を採用して形勢でリードするか、残り時間でリードするかして終盤を戦い抜くしかないだろう。
2 変化する現代将棋
平成の時代は、ある戦法や局面を極めたいと志す棋士が対局や研究会という場において、対局者同士、あるいは共同作業で少しずつ研究を進めていった。
インターネットを介して対戦や研究会ができるようになってきたのは、2000年代に入ってからだろう。さらにタイトル戦や公式戦をリアルタイムで中継するようになり、その結果、事前研究が大きな比重を占めるようになった。平成の終わりから令和に入って、研究にAIを取り入れるようになってから、その傾向に拍車がかかっている。
若手棋士に聞くと、棋聖戦第三局のような対局はもう珍しくないという。終盤まで想定しておかなければ、最新の流行形には踏み込めないのだそうだ。今後、とくに対藤井戦に関しては、渡辺の言う「弱者の戦い方 」、つまりAIを活用した徹底的な事前研究が求められることになるだろう。
棋士は「勝負師」と「研究者」と「芸術家」の三つの顔を持つべきだ、というのが筆者(谷川)の年来の持論である。普段は将棋の真理を追究し、対局の準備も綿密に行う研究者の顔。対局の序中盤は、将棋の無限の可能性を追い、新しい世界を築く芸術家の顔になる。そして終盤は、勝利を求める勝負師に徹する。この三つの顔を自然に切り替えられるのが理想の棋士像である。現在のトップ棋士は、事前の研究を他の棋士以上に十全に進めて対局に臨むことが求められる。その意味では、三つの顔のうち「研究者」の側面が強くなり、「芸術家」の顔は後景に退いている。それはすなわち、対局時にそれぞれが持つ個性をなかなか発揮できなくなっているということをも意味する。
3 藤井聡太を支えるメンタル
藤井は自身へのインタビューの中で、繰り返し「目標は記録ではなく、自分が強くなること」と述べている。
藤井「最近はあまり結果というところには、目標は置いていなくて。やはりより自分が強くなれれば、その分いい結果も出るかなと思いますし。やはり強くなることで、いままでと違った考え方であったり、局面の捉え方ができるようになれば、成長なのかなというふうに思っております」「自分の中でもまだまだ強くなる余地というのが、たくさんあると思うので。そういったところを伸ばしていきたいなと思ってます。やはりどんな局面であっても、自分でしっかり考えて、最善手、好手に近づくことができるというのが、一つの理想なのかなとは思います」
通常、タイトルを取ると環境が様々に変わり、しばらくは成績を落とすというのが定説だった。しかし、藤井は棋聖戦と王将戦という2つのタイトルをこなす過密スケジュールの中でも勝ち星を重ね、棋聖を取った後も失冠していない。四段昇段直後から常に注目を集めながら対局を続けてきた藤井は、まだ四年半のキャリアながら、他の棋士における十年以上の経験を積んでいるように見える。
4 面白い将棋
藤井将棋の魅力は圧倒的な強さだけではない。その将棋について先輩棋士は口々に「非常に面白い」「ワクワクする」「興奮する」などと表現する。
中原誠十六世名人は、藤井将棋について「まず将棋自体が面白い。(略)全体的に新鮮味がある、という印象です。谷川さんや羽生さんが出てきたときも同じでしたが、プロが観ても将棋が面白いんです」と述べている。
対して筆者もこのように答えた。「将棋に華があります。びっくりするような捨て駒ですとか、才能を感じさせる一手が出てきます。もちろんそういう作りの将棋を指しているということはあるんでしょうが、魅せる将棋を指すということは素晴らしいと思います」
藤井将棋が面白いのは、一つには藤井が詰将棋の世界でも傑出した才能を示している点と関係がある。
詰将棋の中には必ず予想外の一手、将棋における常識や価値観を超える一手が織り込まれている。そのこと自体は長所と短所があり、必ずしもいいことばかりではない。実際の対局ではそれほど派手な手がいつも転がっているわけではなく、自然な手、平凡な手を積み重ねて勝てれば、それに越したことはない。駒がぶつからずに睨み合って、局面の均衡が保たれているのは当たり前のことだ。
しかしプロの棋士や将棋ファンが見て面白い将棋、魅力に富む将棋は、大きな駒の交換があったり、大駒が派手に飛び交ったりと、動きが大ぶりでありながら、なおかつ局面のバランスが取れている対局である。そういう意味で、藤井将棋はプロが見ても、どんな手が飛び出すかわからない魅力にあふれている。しかし派手と言っても闇雲に繰り出す手ではなく、いまの局面を正確に理論立てたうえで、さまざまな条件をクリアして初めて成立する手でもある。
また、詰将棋で培った終盤力と粘りによって、敗勢であっても相手に楽をさせない。そうしたギリギリの戦いに持ち込む力が、見ている者を楽しませるのだ。
5 AIとの共存
藤井は棋聖獲得後の会見で、「これからはAIとは対決ではなく共存の関係になる」と語っている。
AIと人間の最善手の選び方は根本的に異なる。私たち棋士は局面局面をつなぐ対局の流れ、対局者の構想を読みながら指し手を進めていく。一つの局面をそれまでの展開と、今後分岐していく展開の流れの中に捉え、その膨大な選択肢の中から最善と思われる指し手を直観と読みと大局観によって選ぶ。これに対してAIは、それまでの流れや構想は一切考慮せず、現在の局面に対して計算する範囲を確定して、その範囲の中で最善手を探る。
2017年当時の藤井はAIに対して次のように言及している。
「三段時代から比べて強くなった要因としてはコンピュータを活用した結果、前半のミスが減ったのが大きいと思います。以前はかなり局面の捉え方が漠然としていたのですが、コンピュータを活用することで場面の見え方が多少明瞭になってきたのかなと思います」
当初は違和感を覚えたようだが、AI導入によってミスが減り、序中盤とりわけ序盤の提え方が明瞭になり、正確な形勢判断ができるようになった、と自己評価を下している。さらに指し手の自由度を高め、将棋の新たな可能性を切り開くもの、と積極的にAIを位置づけている。
メディアは藤井の強さを将棋ソフトの活用と関連付けて報じているが、多くの棋士が、見立てを明確に否定している。
渡辺は、「将棋は、結局のところ最終盤の力が大きい。いくらAIがすごいといっても、いくら研究を深めても、最後は終盤力がモノを言いますから。彼の強みとAIは、ほぼ関係ないでしょう。結局のところ、中盤や終盤の力で勝っているわけですから」と話し、さらに、「むしろAIが関係しているのは、私が勝った(棋聖戦)第三局です。ああいった全部の変化を網羅していく将棋は、AIを使わないと無理ですから」とも語っている。
結局のところ、AIがどれだけ進化しても、手の意味を自ら考え、自分で結論を出さなければ全く意味がない。
藤井「評価値が+500点だとしたら、なぜそれが500点なのか、どういう要素から500ということを導き出しているのかということを考えています。数字自体はそこまで重要ではないと思うんですけど、そういうところを自分なりに考えるのは大事かなと思っています」「ソフトが示す手というのは有力な場合が多いですけど、それが別に唯一��というわけではまったくないので。その辺、当然自分の考えを交ぜながらというのが、一番いいのかなと思ってます」
棋士の強さは、どれだけ定跡やAIの示す手順を知っているかではなく、初見の局面を迎えた時に最善手を指せるかどうかで決まる。プロの中にも既知の局面には強いが、未知の局面になった途端、弱くなる棋士もいる。しかし現在、十指に入るトップ棋士は、当然知識や情報もあれば、初見の局面を自力で切り開いていく力もある。自分一人の力で考え、最善手にたどり着けるかどうか。AIが強くなり、AIの力を借りるようになっても、棋士の地力の有無が勝負を分けることに変わりはない。
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常人では想像もつかない努力を重ね、結果を残している人を安易に「天才」と呼ぶのは抵抗がある。
しかし、藤井聡太五冠に関して「天才」という言葉を使わずにその強さを語るのは一流棋士であっても難しいようだ。謙虚な藤井さんが自分の強さについて語ってくれるはずもないので「天才が天才を語る」という狙いの本書は面白く読めた。
数十年前、棋士という職業に憧れた時期があったが、当時の位置付けは「知的な勝負師」であった。今の棋士は「頭脳アスリート」だと思う。
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藤井聡太六冠について2021年に述べた本。二十歳で名人位に就いた著者ならではの経験なども披露される。藤井聡太六冠に「運を大切にせよ」と伝えたという記述などが興味深かった。
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藤井聡太強いよねー。
まだ2冠の時の、谷川浩司先生の著。
決してAIだけで強くなったんでは無いんだよね。
圧倒的な終盤力。詰将棋の作成で磨かれたんかなあ。
谷川浩司、羽生善治、藤井聡太が同世代だったらどうなっていたんかなあ。
早いこと今の小中学生くらいのとんでもない棋士が出ることを期待しています。
続編の「藤井聡太はどこまで強くなるのか」も読んでみます。
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AI より人間かと思わせてくれる藤井聡太八冠。
谷川浩司、羽生善治、藤井聡太
将棋の時代背景と何故今藤井聡太なのか?
そんな感じで手に取ってみました。