紙の本
見直されてしかるべき政治家
2022/11/27 12:00
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投稿者:巴里倫敦塔 - この投稿者のレビュー一覧を見る
第67代 内閣総理大臣だった福田赳夫の評伝。在任期間が1976年から2年と短いこともあって印象が薄かったが、本書を読み自らの不明を恥じるばかりである。本書は福田の経歴や政治信条、人柄を余すことなく伝える。淡々とした文章は明瞭かつ読みやすい。700ページの大著だが分量はさほど気にならない。高度経済成長とオイルショック、金権選挙、日本列島改造論といった時代を振り返る機会を与えてくれる書である。
福田は時代の状況をうまく切り取り、的確に表現した政治家である。造語・警句の名手として知られる。例えばオイルショック時の「狂乱物価」、高度成長期の風潮を戒めた「昭和元禄」、日米を軸に各国との平和を模索する「全方位平和外交」などが有名である。このほか、ダッカ日航機ハイジャック事件での「人命は地球より重い」、総裁選で大平正芳に破れたときの「天の声にも変な声もたまにはある」なども印象に残る。
真骨頂が経済運営にあったことが本書を読むとよく分かる。蔵相時代に総需要抑制政策を指揮して、オイルショックによる物価上昇に歯止めをかけた。何よりも、理念や思想が明確で政策運営に良識と矜持があり、一本筋が通っていたことは特筆に値する。
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本人が残した膨大な未公開記録「福田メモ」をはじめとした実証的根拠に基づく福田赳夫元首相の本格的評伝。
田中角栄や大平正芳と比べ影が薄く、十分に評価もされてこなかったと思われる福田赳夫であるが、戦後の要所要所の経済・財政運営で優れた手腕を発揮し、外交でも「全方位平和外交」を掲げた国際協調主義者であったということが理解でき、福田こそまさに保守本流の傑出した政治家(ステーツマン)であり政策家であったと認識した。また、勝手なイメージで福田も田中角栄とともに昭和の金権政治や派閥全盛政治の一翼を担った存在だと思っていたが、それは誤解であり、福田は一貫して反金権政治・反派閥政治を掲げていたことを知った。本書の福田への評価はちょっと高すぎるような気はしたが、総じて、福田は、大局的な視野とバランス感覚が抜群な政治家であったと感じた。
福田が戦前に汪兆銘政権の財政顧問をしていたというエピソードなど、全然知らなかった歴史的事実を知ることができたのも知的に面白かった。
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私にとっては記憶の新しい福田という人が、何と高橋是清、井上準之助ら蔵相から直接に教えた人物としてその財政を受け継いだ人だった!1905年生まれで超天才ともいうべきこの人の若い日の優秀な姿もさることながら、戦前の大蔵省において課長も務めており、英国・上海にも駐在していたこと。そして平和主義者・反派閥主義者としての一貫した姿勢であったことも新鮮。そして衆議院初出馬のときは日本社会党から勧誘があり、当然後も無所属だった時点で社会党から誘われたとは、驚きそのもの!この著者が福田贔屓であり過ぎるのかも知れないが、角福戦争以降のこの人の恬淡とした姿には好感を感じたこともあり、頷けるところは多い。田中、大平、そして反対方面の三木には厳しい評価を感じる。永井昭和史を経済の視点から見ることができて非常に充実した読書の喜びを堪能した。同じ大蔵省OBであった池田勇人との確執には凄さを感じ、その中から佐藤栄作の信頼を勝ち得ていくあたりの歩みが最も刺激的だった!
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角栄本が山ほど出てるのにこちらはさっぱりな福田赳夫。不人気が故にある程度質が保証されるのかもしれないが。
多くの読者は角福戦争を期待して読むのかもしれないが、内容は福田財政がどのようにして培われ、開花していったかがメイン。特に昭和40年の構造不況はオリンピック景気といざなぎ景気の谷間としてあまり語られない為、福田が「アンチ池田式所得倍増」の観点からどう最小限に被害を食い止めたかが描かれていて面白い。
生涯を通して均衡を保つことに腐心し、大局的な視点から物事を見据えた真のエリートの物語は読み応え抜群。
ただ政争面はやはり話が作りにくいのか、小説吉田学校の増補のような形に落ち着いてしまっているのが残念。福田家から預かった福田メモを一次資料に大きく割いている面がある以上どうしてもしょうがないが、政争面での福田赳夫に不都合に働く話は一切排除されていると言っていい。「大福密約は一次資料が存在しないからそんなものはない!いいな!」という論理立てはいくらなんでも乱暴すぎて笑ってしまった。一次資料が存在したらそもそも密約では無いのでは…?角福戦争(特に1978総裁選〜二階堂擁立構想)の部分だけ著しくレベルが落ちてるのは少し残念
政争の敗者ではなく、政策の勝者としての福田を知りたいのであれば是非お勧めしたい一冊。