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原著は2020年10月刊行。翻訳は『鉤十字の夜』の日吉信貴。訳者解説によれば、デリーロはしばしば予言的な小説を書くとのことだが、何者かによるサイバー攻撃がもたらした社会の機能停止状態を描いた本作は、確かにコロナ禍で切り離された人々のありようを想起させる。
しかし、コロナ禍では移動と対面のコミュニケーションが制約されたが、インターネット空間がその代替物として機能した。デリーロが本作で描いた世界のほうがもっと深刻である。もし、世界中を網の目のように結び付けているサイバーネットワークが、すべて機能を停止したら? 電子的な情報のやり取りがすべて不可能になってしまったら? 本書のトビラには、「第三次世界大戦がいかなる兵器による戦いになるかは分かりませんが、第四次世界大戦は棍棒と石での戦いということになるでしょう」というアインシュタインの言葉が引かれていた。インターネットのインフラ化によって、ひとはすでに多くのことをできなくなってしまった。「スマート社会」は、じつは原始社会と踵を接してしまっているのかも知れない。