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【日本人にとって信仰とは何か。著者渾身の大作】日本人初のイコン画家・山下りん。明治時代にロシアへ渡り、信仰と芸術の狭間で揺れながら激動の日露近代史を生き抜いた女性の生涯。
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幕末に現茨城県笠間市(当時の笠間藩)の下士の娘として生まれ、日本初のイコン画家となって、昭和まで生き抜いた山下りんさんの話。あの時代に、結婚せずに画家として独り立ちをしたいと考え、浮世絵師や蘭画家に弟子入りし、日本初の美術学校の1期生となり、正教徒となって日本初のロシア留学を果たした女性がいたとは…。才能も熱意もあり、幸運もあったとはいえ、人生を切り拓いていく彼女があまりに勇敢で強くて、圧倒された。頑固で不器用なところもあり、決して要領よく生きているわけではないところも、リアルな人間臭さを感じられて、良かった。これまで全く知らなかった方だけど、いやぁ、すごい人がいたものだ。
読み終わった後で、ネットで検索して、りんの描いたイコンを何作か見た。芸術と信仰の間で苦しんだりんのイコンは慎ましやかで清潔な雰囲気で、美しいなと思った。いつか本物を生で見てみたいと思う。
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明治5年「絵師になります」そう言い残して故郷を離れたりん。のちに日本初のイコン画家(聖像画家)となる彼女の人生。芸術表現とイコンの狭間でもがき葛藤しながらも、絵を描くという信念だけは曲げず生き抜くさまは、強さと無鉄砲さのギリギリの綱渡りのようで胸が苦しくなる。東北言葉をあやつる師、ニコライ司教の優しさ。「しゃあんめぇ」と穏やかに笑いりんを支えてくれた兄。若かりし日には、その若さと無知ゆえ衝突ばかり繰り返したロシアでの日々。出会った師たち。
明治という時代の移り変わり、ロシアとの関わりなども巧みに描かれていて、読む手が止まらなかった。
白光の彼方にいるりんや、時代をともに生きた人々を想って余韻が溢れるような作品です。
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著者渾身の傑作長編。朝井作品は本当にハズレがない。日本初のイコン画家・山下りんの生涯を描く。「明治の世にて、私も開化いたしたく候」立志を胸に絵筆ひとつを武器に、絵を学びたい一心で、明治の世に羽ばたき、ロシアでの苦学の後、芸術と信仰の天秤でもがきながら、辿り着いた署名の無い信仰の対象としてのイコンを精魂込めて製作し倒す圧巻の生涯を、流麗でありながら力強い筆致で描いた大作。圧倒されます。タイトルも装丁も秀逸。笠間でイコンの作品が観れるそうで行って鑑賞したくなった。
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感動の一冊だった!江戸時代末期から明治大正昭和を駆け抜け前半は凄まじい塗炭の苦しみと言葉もわからないロシアへの絵師となる為の修行、誤解と絵師としての理想の狭間で苦しみ、それは凄まじいものだったろう。最終章は歌うが如くの文体は流石です。昭和13年生まれの小生にはその直前迄の歴史をなぞる作品だった。感動、感動の一冊をありがとう。
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りんと一緒に怒涛の人生を生き抜いたような気持ちになり、読了後に半端ない疲労感(いい意味での)がある本でした。
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明治から昭和と激動の時代を生きた日本人初のイコン画家山下りんの生涯を通じ、その当時の日露関係、脱亜入欧の気運を美術の視点から描く。
朝井まかて著だし、実在の人物 ― しかも女性 ―、ちょっとマンネリ感も否めないが、当方、ロシア関係であれば、それなりに実感も伴って読めるので、比較的サクサクと読み進めることができた。
ただし、直木賞作品『恋歌』(中島歌子の半生を綴ったもの)のような構成の妙が面白いわけではなく、井原西鶴の人生をその娘の視点から描いた『阿蘭陀西鶴』の意外性もなく、淡々と生涯を時系列に追ったという点では、葛飾応為(と北斎)の生涯を描いた『眩』的ではあるが、山下りんが、応為や北斎ほどの傑作を残していないためか、なんとなく物語のカタルシスにも乏しい作品となっている。
そういえば、森鴎外の末子を描いた『類』も、類自身の生涯というより、類の生きた時代が描かれていたという印象で、その点では、本作も、山下りんが生きた時代、当時の日露関係を描いた作品で、そう思えばそれなりに面白い。
なにしろ、山下りん自身が、「逃げの山下」「見切り屋おりん」と二つ名をたまわるくらい、落ち着かない性分で、主人公として憧れる存在ではないのだ。昔の ― っていつのことだ・笑 — 歴史小説の登場人物は、己の野望、夢を叶えるため勇躍、躍起して時代を生き抜く姿が描かれるものだったが、もう近年は、どちらかというと市井の、いち市民に近い立場の人間に脚光をあて、様々な挫折や、思い通りにいかない人生を描く、妙にリアリティのあるものが増えてきた気がするが、どうなんだろう。
ともあれ、りんは、ひらりひらりと身をひるがえし、羨望の的となりそうな、サンクトペテルブルグ留学も、5年の予定を2年とちょっとで切り上げて、志半ばに帰国してきたりする。もちろん、それには訳があって、りんの我執と、ロシヤ正教会の思いが一致しなかったということもあるが、あぁ、また尻をまくるかー!と忸怩たる思いがしないでもない。
これも、逃げることが悪ではないという、昨今の空気が反映されているかと穿った見方もしたりするところ。
とはいえ、聖像画の考え方の違いは、後ほどきちんと回収されて、なるほどなと膝を打つことになるので、そこは読んでのお愉しみ。
ともかく、りんが生きた明治から昭和初期までは、御一新の文明開化から、西欧の先進国に追いつけ追い越せの時代で、日清戦争から日露戦争、それこそ、“坂の上の雲”に憧れ、猪突猛進をする国内の機運が描かれることが多い。そんな時代に、真摯にロシヤ正教を日本に広めようとするニコライ主教たちと関り、東京復活大聖堂 ― いわゆるニコライ堂 ― の建立や、滋賀県で発生した大津事件がどう東京のロシア関係者に影響を及ぼしたかなど、思いもよらない視点で描かれている点が面白い。
そして、山下りんが、志半ばでロシヤ留学を切り上げては来るが、その体験、ロシア人との想い出が、けっして暗いものではなく、最晩年を迎えるりんの心にも、一種の郷愁 ― тоска ― をもたらすものとして描かれているのが良い。
作品としては、期待を上回ることは���かったが、ロシアものとしては、そこそこ読み応えがあったのは良かったかな。
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明治から昭和にかけて日本のロシア正教会でイコン絵師として活躍した山下リンの伝記小説です。
絵画に対して一途なリンの一念は下級武士だった兄を動かし、理解ある師匠にも巡り合います。しかし、特に宗教心も無く絵を描きたい一心で正教に帰依し、日本女性初のロシア留学として向かったペテロブルグの修道院では、自らが望むルネサンス調の絵画では無く、暗く沈んだ稚拙ともいえるギリシャ正教のイコンの複写ばかりさせられ、周りの修道女たちと衝突を繰り返します。5年の予定が精神的なストレスから体に変調をきたし2年で帰国。その後も悩みながら日本の聖堂でイコンの絵師として働きます。
若い頃の一念は包容力を持つ周りに支えられ稚気と捉えられますが、留学中の余りの一途さ頑なさは、周りから強い非難を受け四面楚歌に陥り、帰国後は一部を除き心を閉ざしたような生き方でした。それは晩年まで続きますが、どこか飄々とした味に変わって行きます。そんなリンの生き様を明治の士族の没落や、印刷技術(リトグラフ)の発展、日露戦争などの時代背景を交えながら描いていく、最近の朝井さんらしい、骨太でしっかりした読み応えのある物語です。
リンは一生独身を通すのですが、若い頃からの女性の一生を描きながら恋愛の一かけらも出て来ないというのも珍しいですね。
それにしてもまかてさん、2018年以降は『悪玉伝』江戸時代の辰巳屋乗っ取り騒動と言う一大疑獄事件の主人公・吉兵衛の物語、『落花狼藉』吉原の創設者の妻・花仍の一代記、『グッドバイ』幕末の長崎で茶輸出で財を成した女性・大浦慶の物語、『輪舞曲』大正期の伝説の女優・伊澤蘭奢の一生、『類』鴎外の“不肖の子”類の生涯、そして本作。江戸から少しずつ現代に近づきながら、時代の隅で活躍した人物を題材にした一代記が続いていますね。今後もこの方向なのでしょうか。個人的には『残り者』の様なエンタメ時代劇や『ちゃんちゃら』の様な人情時代小説、そしてファンタジーの『雲上雲下』といった作品も大好きなのですが。。。
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気に入らないと、恩義受けながら後ろ足で砂掛けるように逃げ出してばかりの、ワガママで愚かな主人公にイラッと。幕末から昭和までの日本と世界史。国に翻弄される個人。「宣教師、持っている宝、他を憐れむ心だけなのす」「教会にも世の中にも厳然たる階級、身分がある。信仰心の篤い高潔な者も使用人に対しては冷酷極まりない権力者に」「聖像画は窓。観るものであり、観られるもの。信仰から離れて美麗求めてはダメ」シロとクロが一夜で反転する激動の世。山下リンの生き様、読み応えあった。大賞候補かなぁ。
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朝井まかてさんの本はいつも実際の絵を調べながら楽しむ。宗教画はあまり興味がなかったので知らない主人公だったが一気読み。
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明治時代、西洋画を学びにロシアへと行った画家、山下りんの生涯について。芸術の話と宗教の話が並行して進んでいく。
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こんな人が居たんだなぁ。世の中がどんどん変わっていく中で前だけを見て自分のしたいと思うことをして生ききってる。清々しい読後感で良い読書でした。
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様々な価値観が崩壊してゆく激動の明治。
結婚も子を成す事も望まず、ただひたすら絵師として生きて行く事のみを望む女・山下りんの物語。
道を極める事への盲目的な執着は、往々にして恩を仇で返す事へと繋がり、世話になった多くの人々に苦い思いをさせるが、彼らの深く大きな心に見守られ、己の信じる道を貫いて行くりん。
教会の力を借り、艱難辛苦を乗り越え単身ロシアへ渡るも、言葉の壁や不器用で直情的な性格が多くの諍いを生み、やがて病を得て帰国を余儀なくされる。
帰国後も、教会との離縁、そして復縁…
ロシアの革命、日露間の戦争と、過酷な運命に翻弄されながらも、ついに日本人唯一の聖像画師となる。
晩年の、故郷・笠間に帰ってからの日々になぜか涙が溢れた。
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絵が好きで好きでたまらない者の情熱とエネルギーをまざまざと感じる。
明治、大正、昭和を生きた日本初の女性イコン画家、山下りんのサクセスストーリー。頂点に立つものはこれくらい強くないとならないですね。もともと絵の才能はあったから…としてもこの努力と苦労は強靭な精神力を有します。そして、りんさんを支える師匠や上司、同僚、家族が善人で温かい。
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イコンの画家、山下リンの自伝的フィクション。彼女の絵に対する執着、描かずにいられない熱情。そして宗教画への葛藤と祈りへの目覚め。どの出来事もグイグイと引っ張られながら自己を貫く姿に圧倒された。
この物語はもちろん山下リンが主役だが、大主教ニコライ師の生き方人柄も主役以上の存在感で心に残る。