紙の本
宇喜田直家一代記後編
2022/04/30 17:02
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:nekodanshaku - この投稿者のレビュー一覧を見る
宇喜田直家の一代記後編。巨大な武門・織田家と毛利家に挟まれ、両家を天秤にかけつつ思い描く夢と現実の状況の狭間を足掻きつづけた。弱者には弱者の戦略があり、己の死さえ、、宇喜多家の存続のため用いようとするしたたかさは、幼少期の生育環境の為であったのか。「歴史は、常に生き残った勝者の都合により捏造され、喧伝されていく。滅んだ系譜、敗者はその歴史の中で沈黙するだけである。」歴史がどれほど悪しざまにいようが、近しい者が事実を正しく認識していればいいのであろう。
投稿元:
レビューを見る
宇喜多直家は斎藤道三・松永久秀と並ぶ戦国時代三大梟雄と言われているが、小早川秀秋の焚書もあり、結局天下をとった徳川官軍の歴史で以後脚色され続けているので、実像はわからないというのが正解。確からしい史実の行間を膨らませて想像力豊かに人物像を描くのが小説家の仕事。これは垣根版宇喜多直家本。木下版宇喜多直家本「宇喜多の捨て嫁」と米澤穂信「黒牢城」を続けて読むと面白いと思う。
光秀・信長ときて、直家ですか。垣根涼介氏も今や立派な歴史小説家、といっても歴史上の人物を主人公にその時代を舞台設定にしているだけで、描きたいことやものは以前とあまりかわっていない。この直家の解釈はあまりにも好意的だと思ったが、この時代に凡人とは違うスマートな思考回路をもった戦国武将のサバイバル術は、読んでいてとても面白い。合戦描写が少ないのも「捨て嫁」と同じく好印象。歴史小説としてではなく、今から550年前を舞台にしたハードボイルド大河ドラマとして読めば間違いなく傑作。
投稿元:
レビューを見る
この小説で宇喜多直家の名前を知った。
その人物評は、謀殺を繰り返す悪人であると。
しかし、この小説で描かれる宇喜多直家は、裏切りを繰り返す武士の世に対し、武士こそが世を混乱の原因であると考え、自らは武士ではなく商人でありたいと願っていた。
「人は、その血に応じて生きていくしか仕方なきものだ。
自分というものを、一生持ち越して過ごしていくものだ」
武家の血からは逃れられない。
ならば、できることをするを全うするのみ。
備前を治めたのち、直家の理想で築城したのが石山城、今の岡山であうr。
そこは、商家を城下町に含んだ、武と商の都市だった。
西に毛利、東に織田と挟まれた戦乱の世で、一度は没落した宇喜多家が再び一国の主となるまでを描く。
世の流れに乗って、大きいものにつくために裏切りを繰り返す。
しかし、それは家の保身のため。
常に保険をかけておき、先の先を読むことで一度の失敗で破滅に追い込まれない強かさが必要だ。
世の流れを読む。
世界の変化が急なときにこそ、先手先手が必要だ。
投稿元:
レビューを見る
上下巻の時代物は読めるか自信がなかったが、そこは作者の力も加勢して読了
親の非力で宇喜多家を潰され、商人の阿部禅定に育てられ、自ら槍についても習い後に家を再興した直家
後々織田につくか毛利につくか、悩みどころ満載の中黒田官兵衛やら小西行長など関わり人生を全うした生き方
これもあっぱれかな
投稿元:
レビューを見る
仕物(暗殺)を得意にした卑怯な謀略家というイメージの宇喜多直家の物語下巻。
こちらでは勢力を拡大しつつある織田信長に付くのかどうかの葛藤、長年の付き合いがある黒田満隆・官兵衛親子を通じての秀吉からの取り込み工作、毛利家・三村家・浦上一族・尼子一族などの一大勢力と渡り合い領地と石高を増やしていく様子などが描かれていく。
上巻のレビューでも触れたが、木下昌輝さんの「宇喜多の捨て嫁」とは家族関係も描かれ方が違う。
最初の妻やその間に生まれた娘たちとは距離があり最後まで和解することはなかった。だが後添いであるお福と彼女の連れ子、そしてお福との間に生まれた嫡男(後の秀家)とは睦まじい。睦まじ過ぎて上巻同様、お福と直家との性描写たっぷりだ。
上巻では最初の妻の父・中山信正を暗殺したことについて、仕えていた浦上家の命による仕方のないものとして描かれた。下巻では他の暗殺についてどう描くのかと注目していたが、暗殺ではなく戦の中で滅ぼす形になっている。そして嫁がせた二人の娘たちはかねてからの直家との不仲により実家に戻ることを良しとせず自害している。
そんな親子関係を見て哀しむ後妻のお福の図も描かれる。
いきなりラストシーンに飛ぶが、お福の『歴史は、常に生き残った勝者の都合によって捏造され、喧伝される。滅んだ系譜ー敗者は、その歴史の中で沈黙するのみである』という言葉が作家さんの訴えたいことなのだろう。
この作品で描かれる直家は臆病者で戦を苦手とする。『猜疑心が強く、常に人の裏を窺うような男』であるが故に『せめて宇喜多家直属の家臣たちだけは互いを信じ、一枚岩でいてくれるように(中略)方向づけてきた』。
『権謀策数を弄し、汚れ役と他家からの悪評を背負う役目は、武門の棟梁たるこのおれ一人で充分なのだ』という覚悟を持っている。
また幼いころに阿部善定という豪商の庇護のもと育ったことにより、領地を治めるのに武力ではなく経済的に豊かな町にすることを考えたり、戦も武士の人数や力ではなく銭勘定や損得勘定を元にした駆け引きを考えているところは興味深い。
そしてそういう武士としては新しい考え方は、皮肉にも直家が嫌う信長に似ている。
終盤は「宇喜多の捨て嫁」でも出てきた『尻はす』なる業病と闘いながら宇喜多家の勢力を保ちつつ嫡男・八郎へ渡そうとする姿が描かれる。そのためなら自分の病すら明かし、その情報も利用しようとする徹底した姿勢がある。
直家が病で世を去った同じ年に信長が本能寺の変で自害するのも奇妙な縁だ。
そしてさらに直家の息子・秀家は関ヶ原で破れたものの、関ヶ原で戦った武将たちの誰よりも長生きしたというのも興味深い。
新たな宇喜多直家像を読めて楽しかった。
投稿元:
レビューを見る
光秀、信長の生涯をその行動原理から解き明かした著者が稀代の梟雄といわれる宇喜多直家を解題する。
策略、謀略を重ねたという直家だが、その行動原理に加え、生い立ち、立ち位置、時代背景から、極めて合理的かつ信義に篤くに行動する人物と描く。
現代人にとっても非常に共感できる人格となっている。
投稿元:
レビューを見る
『光秀の定理』『信長の原理』を読んでいたので同時時代の背景が重なり、面白さが広がった。また
男女の営みの深さに感慨無量。人の一生に置けるあり様生き様が涅槃なのかな。
投稿元:
レビューを見る
享年54歳、策士、梟雄と言われた直家。善定、柿谷、紗代、九郎右衛門…多くの人にかかわり生かされ、戦国の時代を生き抜く。家内や部下は大事にしながら他国には手段を選ばす謀略を尽くした直家だが、最後は、利害の伴わない愛した妻に看取られて涅槃に旅だつ。幸せな人生だったろう。人に生かされ世間に動かされる…、この人を主人公に選んだのはそれを描きたかったのだろう。
投稿元:
レビューを見る
宇喜多直家の生涯を描いた『涅槃』の下巻。お福さんが正室になった頃から、黒田満隆との再会、城下町の建設、善定の死、浦上家の滅亡、黒田家を通して秀吉の配下になり、直家の死、まで。その後の本能寺の変があったり、諸々の歴史的な流れあって、宇喜多家は関ケ原の戦いで滅ぶのだけど、それはあっさり説明だけで。
宇喜多直家という、商人になりたかった武将の人生が、たっぷり詰まっていて面白かった。善定の死の間際の言葉が印象的だった。結局、商人も武士も本当の意味では何も持ってない。今生では生き抜くために働き続けるしかない。涅槃というタイトルの意味が、よくわかるエピソードで好き。
これ、大河ドラマとかで、映像で見てみたいなぁ。
投稿元:
レビューを見る
戦国武将の宇喜多直家を扱った作品。名前を知っているだけで、よく知らない武将を取り扱った作品が刊行されているが、どれも好意的に取り上げており、この作品も同傾向。それでも、史実を丹念に広いあげながら、作者なりの人物像に仕上げており、説得力、深みのある作品に仕上がっている。宇喜多直家の生涯を描いているので仕方がないが、彼亡き後の宇喜多家について、もう少し踏み込んで頂けたら良かったと思う。
投稿元:
レビューを見る
戦国の梟雄宇喜多直家の生涯を知ることができてよかった。中国地方の戦国というものもだいぶわかったし。
ただ光秀や信長を主題にした小説とは違って、ハッとするような歴史の解釈的なものはそんなにない。商人のことやセックスの細かい描写かな、特徴的なのは。
投稿元:
レビューを見る
少し読み進めただけで、これは間違いない!と思わされた。他の方の評価はいまいちなようですが、私にとっては過去に読んだ歴史小説の中でもトップクラスの面白さだった。宇喜多直家、こんなに面白い武将がいたなんて。
投稿元:
レビューを見る
宇喜多直家の生涯の後半だ、戦国時代一国一城の主になり如何に国を守り領土を広げ、臣下を守り生き抜くか現代の会社経営にも通じるものがある。会社を興し今に至る当社辞める社員が殆どいないな、なんて思いながら読みました。
投稿元:
レビューを見る
上下巻合わせて、900ページ超えてたな。読み応えあった。上巻は、主に宇喜多家を再興するまでの話。下巻は再興後、維持・拡大していく話。派手さは全然なくて、、、痛快に感じることもあまりないんやけど、戦国時代のひとつのパーツとして読んで、面白かった。
投稿元:
レビューを見る
備前国(現在の岡山県)の宇喜多直家の物語。この時代は、大河ドラマ「麒麟がくる」や「官兵衛」で予備知識はあったが、宇喜多直家についてはほとんど知らなかった。