伊兼源太郎さんの「新境地」たる新作
2022/01/03 08:18
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:higassi - この投稿者のレビュー一覧を見る
伊兼源太郎さんの「新境地」たる新作。じいちゃんの「絶体絶命の時、辛い時、苦しいとき、泣きたい時。そんな時こそ歯を食い縛って冗談を飛ばして笑い合えば、道は拓ける。どんな時でもユーモアは我々の味方なのさ」の言葉通り、全体が明るいトーンなのが良いですね。
投稿元:
レビューを見る
弁護士事務所で働く諒佑のところに、ある男が訪ねてきた。その男・犬養はヤクザで、会長の息子・誠を探して欲しいと依頼してくる。諒佑と犬養は、子供の頃からの知り合いで、誠とも仲良くしていた。誠は一週間前から行方不明で、3日後に臨時集会が行われるため、会長から探して欲しいと言われたため、犬養はここにやってきた。
なぜ誠は姿を消したのか?甦ってくる子供時代の記憶。あの頃に起きた忌まわしい事件と現在の状況が複雑に絡み合っていく。
伊兼さんというと、警察モノを描く小説が印象的なのですが、今回はそういった描写はほぼなく、新たね分野に挑戦している印象がありました。
そのテーマは「弊害」。戸籍がないことの弊害やヤクザであることの弊害など複雑な境遇ながらも、懸命に生きる四人の子供達の姿に大人として考えなければいけない社会問題が多く詰まっていました。
そういった意味では、新聞記者の経験を駆使して、色んな情報を散りばめているなと思いました。
題名の「アン」ですが、これは「UN」。つまり「〜ではない」といった「無・不」の意味です。
「大人」に負けず、「アン」として生きる子供達の逞しさや力強さが、とても伝わりました。
一応、誠の行方不明や子供時代に起きた殺人事件といったミステリーはありますが、基本的にはヒューマンドラマという印象でした。
ある事情から、普通に暮らせない、いわゆる「アンダーグランド」の状況から、いかにして子供たちは今を生きぬいていくのかが多く描かれています。
子供から大人へ。弊害があっても、生きていけますが、その道は過酷であったに違いありません。
そう考えると、「普通」に生きていることがいかに恵まれているのか。読んでいて身につまされる思いでした。
他にも、行方不明の背景にあるモノと昔の殺人事件が一つに繋がっていくので、ミステリーとしても楽しめました。
過去と現在が複雑に絡み合っていき、最後は悲しい結末を迎える部分もありましたが、今後、良い人生を送ってほしいなと思いました。
大人達の身勝手な欲望が、後に子供達に影響を与えることをより一層考えてほしいなとも思いました。
投稿元:
レビューを見る
まさに伊兼作品の新境地。序盤はこれが本当に伊兼作品かと訝しんだほど。主役の少年少女たち4人の生育・生活状況については少し荒唐無稽さも漂い、どんな展開になるか興味津々で読み進めたが、そこは流石伊兼作品。無国籍問題や戦中混乱期の埋蔵財をうまく溶け込ませて、人間の生き様を清々しいタッチで描く。完成度という意味ではまだまだだが、作品の幅が広がり、今後の作品も楽しみになった。、
投稿元:
レビューを見る
困っているアナグマさんを見かけたら、優しくしてあげようと、おもわず笑み溢れる。伊兼さんらしいが、終盤の怒涛の謎解きは要らないかも。読者の想像力に任せて。「アン」が「アイデンティティ」とは想像できなかった身ではあるが…思考停止しないで無戸籍者、国籍問題考えないと。「自分の意思とは無関係に、いきなりルートの外に放り出される人間もいる」のだから。
投稿元:
レビューを見る
戸籍のない兄妹。学校に行かなくてもじぃちゃんからいろんなことを教わった。仲間もできた。悲しいこともたくさんあったけど幸せを祈る。
投稿元:
レビューを見る
要素が盛沢山且つ、華の有るキャラクターも目白押しで、これだけのボリュームが有りながらもうちょっと長くてもいいような気がする位の内容でした。
大人の都合で戸籍が無く苦労している双子、不法滞在の子供として強制送還を恐れる姉弟、やくざの組長の息子として学校でのけ者にされる少年。
社会からつまはじきにされた子供たちが、片寄合って何とか生きて行こうとするいじらしい姿にまず胸打たれます。
双子の母がほがらかに5人の子供と過ごす姿にほんわかさせられたり、山に暮らす孤独な老人に助けられ生きて行くテクニックを叩きこまれる所もグッときます。
その後は・・・・。
風呂敷はでかいですが、個人的にはしっかり畳んだと感じるし、切なさとハラハラとワクワクをしっかりくれた本だったと思います。
第一章のホンワカした出会いと交流に心温められ、その後からの展開は目が離せず一気に読んでしまった。久しぶりに引き込まれるキャラ小説を読んだという感じ。
投稿元:
レビューを見る
43大人が読める少年冒険物語でしたね。票にならない問題を地道に解決しようと取り組む人をしっかり探して清き一票を。タイトルはもう一捻りありかな。
投稿元:
レビューを見る
僕らの大切な日を前に誠が失踪した。
あの夏あの場所で僕らは出会った。
無国籍、不法滞在で学校にいけない僕らと親がヤクザで学校に居場所のないあいつ。
社会的にいないものとされている彼は。でも彼らは確かにそこにいる。
必死にもがく少年少女たちの物語。
ヒューマンドラマそしてミステリー。
投稿元:
レビューを見る
無戸籍や不法滞在など、日本で存在証明を持たない子供たち。未来は普通に待っているわけではなく、普通に生活するということそのものが試練である。考えさせられる重い内容。中盤から少し間延びしてしまった感はあるけれど面白かった。アン・アイデンティティ、「アン」ってそういうことか....悲しいな。
投稿元:
レビューを見る
「あるけど、ない。ないけど、ある」、その裏に存在する悲しい意味は…。
無戸籍、不法滞在、ヤクザの息子…、
さまざまな重荷を背負った子どもたち。
重すぎて心が沈んでいきそうなテーマがてんこ盛りのクセして、
暗さや、やるせなさをそれほど感じないでいられるのは、なぜなんだろう。
子どもたちの絆、明るさが、テーマの重さを救っているのか。
人は、親や環境を選んで生まれてくることはできない。
今は、親ガチャとか、言うんだそうだけど。
無戸籍の諒祐と美子は、それでも、
母親の明るさ、そして全身全霊をもって注がれた愛、
その中で二人は、たくましく育つ。
そして、不法滞在のタイ人の姉弟、マヨンチットとククリンや、
ヤクザの息子、誠との出会い。
境遇は五人とも「不幸」なのだが、それを感じさせないほど、
生き生きと生きている。
そして、もう一つの大切な、「じいちゃん」との出会い。
この「じいちゃん」が大きな傘のようになって、
子どもたちを護っていく。
人って、誰に出会うかが大切で、
その誰かとの出会いがとぎれず、支えとなるなら、
どんなに幸せなことだろうか。
「じいちゃん」が何者かに殺され、そうして月日は流れ…。
子どもたちは、若者となり、
誠が失踪する…。
「アン」の意味が、つらい。